吸血鬼が教育する〜帝都教育係と正義の少女〜   作:カナタナ

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過去を語る

 目を覚ました。

 

 ……ここは、どこだ?

 とてもとても暗い場所にいる気がする。

 

 何故、俺はこんな場所に?

 

 その答えは、俺の近くにあった。

 

 

「だ、大丈夫?」

「ぜ〜んぜん大丈夫ですよ〜だ……ゲプッ」

 

 ……バカな、俺が一時間程寝ている間もこいつらは飲んでいたのか?

 今日は流石に飲みすぎだ。体に良くない。

 

「……ほんと、私たちは何も変わってない。ボンクラ野郎の集団ですよ」

「……そう言うな。それなら俺もかつてはボンクラ野郎だ」

 

 思い出すのは俺がかつて隊長と呼ばれていた時のことだ――。

 

 

 

「強化組改めて魚強組の隊長になったヴァルバトーゼだ。お前たちを選抜組と肩を並べて戦えるほどの優秀な戦士として育ててやろう!」

 

 まだ帝国の闇を知らなかった俺は、お金稼ぎの意味でもゴズキという男に雇われていた。

 

「実践までかなりの期間が用意されている。それまでにまずこの甲羅を身につけて俺の腰にある鈴を取れるようになれ」

「甲羅ってどんなものですか?」

「これだ」

 

 軽々と甲羅を取り出し、全員分支給する。

 それを見たせいか余裕だと思った最初の可哀想な奴が現れる。

 

「それぐらい余裕でやって……重っ!!?」

 

 当たり前だ。

 なんせそれ大型種一匹くらいの重さだからな。

 

「クロメは大袈裟すぎ。こんなの私なら……重い……!!」

「……あの、これじゃあ動けないですよね?」

 

 全員が甲羅を装備するが、かなり重そうだ。

 暗部にしてはまだまだ動きが遅い。

 目標は俺の全力ダッシュに付いてこれるレベルだ。

 

「そうか、まだお前たちにはこのレベルは付いてこれないか」

 

 そう煽ると一人の少女のスイッチが入る。

 

「上等だ!! 私は絶対にトップに立つんだから!」

 

 闘志を燃やし、大きな野心を秘めたその少女。

 彼女の名は――。

 

 

 

 

「……隊長がいた頃は何もかもが輝いていました。もし、隊長がずっと強化組にいればと今でも考えてしまいます」

「だが、俺にはそれが出来なかった。それが全てだ」

「で、でも私たちは隊長との約束を……」

 

 二人の気持ちが沈みかけているため、それを元気付けさせるために一品用意する。

 

「おやっさん、イワシをくれ」

「はいよ」

 

 言わなくても分かっていたかのように即座にイワシの塩焼きが用意される。

 

「……そういえば、今日は誕生日だったね」

「だからですね、何故かいつもより昔の話が出てくるのは」

 

 イワシの塩焼きで誕生日を祝うというのはおかしいかもしれないが、このイワシの塩焼きだからこそ意味がある。

 ……これは、ギンの大好物だった。

 

「……ウーミンもレムスもしっかりと生き残っただけ約束を果たしている」

「ですが! 私たちがもっとギンと同じ考え方だったならギンすら死ななかった可能性だって……」

「言うな。どれだけ悔やんでいても、奴は生き返らん」

 

 ギンだけではない。

 他にもこの国の為にと戦って死んでしまった奴等は沢山いる。

 ……そうやって戦う皆を嘲笑い、私利私欲のために利用する大臣は絶対に許せない。

 

「ふっ、辛気臭くなってしまったな。何か話を変えるか」

「……あ、そういえばあの甲羅修行は道場で使っていますか?」

 

 魚強組がまだ選抜組の足元にも及ばないとされていた頃に使っていた甲羅。

 あれを作った目的は上から最強の暗部チームを育成しろと言われて作成したもののため、俺が抜けた後は方針も変わると考えて使用はしていない。

 

「今は俺の部屋に保管している。国が生まれ変わった時に、他国からこの国を守るための優秀な軍が必要だからな」

 

 数が少ないという問題点はあるが、それは時間をかけて量産していけばいいだろう。

 

「ふふ、革命が成功した暁にはヴァルバトーゼ隊長の最初の部下が経営しているバーとして売り出せますね」

「……すっかりお金に執着するようになったな」

「ウーミンだけですよ。私はむかしのまんまですよ〜」

 

 確かに酒癖の悪さは以前のままだ。

 まともな話になって酔いが覚めたかと思っていたがそうでもないか。

 

「……すまない、今夜はこの辺で」

「あいよ、また来てくれ」

 

 ウーミンは自力で立てるとゆっくりと立ち上がり、レムスも自力でと言っていたが足が既に限界そうだったので仕方なく背負った。

 

 その後、レムスが無理矢理立とうとして吐いたのはまた別の話……、

 

 ……にすると思ったかバカ野郎。

 どうすんだよこれ。




次回予告

タツ「俺の名はタツミ、しがない田舎者だ!」

イエ「そして俺はイエヤスだ!」

サヨ「私はサヨよ!!」

タツ「……帝都で出世するために旅を続ける俺を待っていたのは」
イエ「タツミの体を狙うリーゼントの男と」
サヨ「スーパー美少女アイドルサヨだった!!」

タツ「え、選ばなくて…」
サヨ「選べない……兄貴かサヨのどちらかなんて俺には選べないッ!!!」
イエ「そんなタツミを救ったのは新鮮なあいつだった!!」

ヴァル「全てだ。貴方の全てをマイワシに捧げるのです」


タツ「じ、じか――」
サヨ「次回、いい旅悪夢気分第六十三回「ここが秘湯だイワシ風呂」」
イエ「お風呂で癒されその場でイワシを食べられる。一石二鳥だな!」

タツ「俺がなにかしたか!? なんでこんなことを!!」
イエ・サヨ「「お前、主人公。私(俺)たち一話モブ、オーケー?」」

タツ「サヨは単行本とかに出てるだろうが!!?」

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