何処かの山奥にある大きな屋敷……その中にある大きな部屋で今、三人の人間が言い争っていた。
「だから!私はキチンと自分の役割をしていたと言っている!」
「いや、していなかった!していたのならば今回の件の被害者はもっと少なかったはずだ!」
「そうだとも!貴様がもう少し注意深く見ておればこのようなことは起きなかった!」
まるで、責任を押し付けているような会話を聞きながらこの言い争いに参加していない二人の人間は呆れたようにため息を吐いた。
「そもそも!こういうことは本来ならば『両儀』の者がすべきだ!ならば、これは両儀家の怠慢では無いのか!」
責任を押し付けられそうになっていた着物を着た50代ぐらいの男性は静かにこの状況を見ていた両儀家の当主……7歳ぐらいの着物を着た少女に向かって言った。
少女はそれを聞くと1度目を閉じてから呆れたように男性を冷ややかな目で見ながら言い返す。
「そうかしら?2ヶ月ほど前、私が当主になった時貴方は確か『こんな小娘なんかに仕事ができるか!この地区の仕事は私がする!』と言っていた記憶があるのだけれど」
「だがーーーー」
「それよりも、早くこのつまらない責任の押し付け合いを終わらせましょう」
その言葉に……この場にいる全ての人たちが固まった。
『つまらない責任の押し付け合いを終わらせる』先ほど、この少女はそう言った。ならば、どうやってこの押し付け合いを終わらせる気なのか。この状況を傍観していた女性は楽しそうに少女を見る。
「今回の件は確かに『浅上』に責任があるけれど、そもそもあの地区は私達『両儀』の担当。なら、私達『両儀』が責任を取るのが普通でしょ?」
「確かにそうだな」
先ほどまで責任を押し付けていた浅上の現当主が少女の言葉に賛同する。少女はそれを少しだけ冷ややかな目で見るとすぐに話しを再開する。
「だから、私達『両儀』は今回の事で如何なる処罰も受ける所存よ」
その言葉に今度こそこの場にいる者は絶句した。
『如何なる処罰も受ける』言葉で言うのは簡単だが、この場にいる日本神話勢力の人にとっては大きな意味を持つ。
如何なる処罰も受けるということは、上が『切腹しろ』と言えばそれをしなければならない。それに、『この場所』でそれを言うことの意味をこの場にいる者が理解していないはずがない。
「分かりました」
言い争っていた男性達の奥、全員を見ることができるその場所に座っていた女性の声が全員の耳に入ってきた。
「でっ、ですがーーーー」
「あら、これは、私達両儀家の責任よ?その当主である私が如何なる処罰も受けると言っているのだから外野は黙ってて」
その言葉に周りの人は唖然とした。
両儀家の当主は子供。だからこそ、先程の言葉の意味がよくわかっていないのでは無いのか?と思い助け舟を出そうとした『一之瀬』家当主は少女の目を見た瞬間、「私はこの言葉の意味を知っている。だから、言った」と言われたような気がした。
おそらく、それはこの場にいる者全員が感じたことだろう。だからこそ、この場にいる当主の人達は思った。
『この子供は異常だ』と。
「両儀家当主『両儀式』あなたには一週間の自宅謹慎と二週間後にある次期当主が集まる会合への出席を罰とします」
その言葉に少女……式の顔が歪んだ。
一週間の自宅謹慎はまだ良い。自分が思っていたよりも処罰が軽いし他人と無理に関わらなくて良い。
だが、二週間後にある会合への出席だけは想定外だった。
普段、そういった場へ行くことに式は意味を感じない。そんなことをしているくらいならば家で仕事をしていた方が100倍マシだと式は思っている。
「何か……言いたいことがありますか?」
「……いいえ」
例え、自分が死ぬほど嫌なものであっても罰ならば仕方がない。そう式は納得するが、果たして
「他に、何か話さないといけないことはありますか?無ければこのまま解散で」
そう言って女性がまるで最初からいなかったかのようにその場から消える。それを見た人達も席を立ち移動を始める。
だが、式だけはその場を動かずにただ
(起きてるかしら?)
(あぁ、起きてるよ)
(さっきの話は?)
(聞いてた)
(……勝手に決めたこと、怒ってる?)
(いや、別に良いよ。まぁ、オレ達が責任を取る事になった事だけは少しだけ納得してないけどな)
式は己の中にいるもう一人との話が終わったのを感じると立ち上がり家に帰ろうとこの部屋を出た。
「……ごめんなさい」
真っ暗な部屋で式は小さい声で謝罪の言葉を言う。
だが、その声はただ、暗い部屋の中へと消えていく。式もそれを知っていて……いや、知っているからこそ言葉にした。
先程の処罰についての謝罪ではない。ただ、自分がもう一人の自分にああいうことをさせてしまった事について謝罪する。
真っ暗な部屋に入ってきた月の光が、式の涙を照らした。
二週間が経ち、会合の日になった。
本来であれば当主になっている式は今回の会合に参加しなくても良かったが、この会合への参加を処罰として言い渡されている式はこの会合に参加しなければならない。
あの日以来、式はもう一人の自分と会話をしていない。元々自分の興味がある時以外は基本的に夢を見ているもう一人の自分だがそれでも二週間の間会話もしてこないのは式にとっては初めてのことで不安になる。
「緊張していますか?」
式がもう一人の自分のことを考えているといつの間にか式の後ろに立っていた女性ーーーーツクヨミが式に向かって言った。式は何も言わずに無言で着物の着付けを続けるとツクヨミは式が緊張をしていると思ったのか声をかける。
「そんなに緊張することはないですよ。今日は次期当主同士の顔合わせの会みたいなものですから」
優しく言われたその言葉に対して式は何も言わず、ただ無言でもう一人の自分の事だけを考える。
それに対してツクヨミはこうなることを予想していたのか苦笑しながら言う。
「まぁ、貴方は緊張なんてしないですか」
「決めつけないでくれる?私だって緊張することはあるわ」
「……本当に?」
今だに疑うような目で見てくるツクヨミを無視して式は部屋から出て会合が行われる部屋に移動した。
式が会合が行われている部屋に入ると同時に、空気が変わった。
両儀家のことを知る人達は式を見るやコソコソと話し始め、両儀家のことを知らない人は式の容姿に目を引かれた。
腰まで届く長い黒髪、腕は雪のように白く着物は白色を基調とした所々に華の刺繍が凝らされている。式を見ているものはその姿を見て人形のように綺麗だと思った。
「あれが……両儀家の当主……」
「いやはや、あんな女子が両儀家の当主とは……驚きですな」
「でも、両儀家ですからね。『綺麗な薔薇には棘がある』をそのまま表しているのかもしれないわ」
所々からそんな声が式の耳に届くが式は気にせず足を進め自分の席に座る。
「それでは、我々大人は隣の部屋で『ハナシ』でもしますか」
「えっ、えぇ、此処は若い子達だけで私達は私達の話をしましょうか」
それを見た大人達はまるで式から逃げるかのように隣の部屋に移動する。後に残ったのは四家の次期当主とその使用人だけになった。
式は逃げていく大人達を見て(またくだらない話をするのね)と呆れながらこの場に残った人達を見てーーーーすぐに関心がなくなったのか目を伏せる。
それを見た一人の少女が何とかこの空気を変えようと声を出す。
「あのさ……自己紹介しない?一応今日の会合は私達次期当主の顔合わせみたいなものだし、それに私自身みんなと仲良くしたいからね」
「仲良くする必要が……あるのかしら?」
少女が言った言葉に対して自分の意見を式が言った。すると、少女は式に言った。
「いや、特に無いけど……。私は出来るだけみんなと仲良くしたいかなぁ〜って」
「そう。でも私達は将来的には敵対するかもしれないのよ。それなのに仲良くする必要はあるの?」
その言葉に今度こそ少女は固まった。確かに此処にいる四家の次期当主と両儀家当主である式が敵対することは無い……とは言い切れないのが今の両儀家……いや、両儀家と四家の現状だ。
それを式は分かっているからこう言うことを言い、少女は
この時、式と少女は同じことを思った。
(あっ、(この娘とは仲良くなれない))
それは、この場にいる者も何と無く分かったのだろう。何とかして間を保とうとするがそんな周りの事など知る気もない式はこの部屋から立ち去って行く。
その様子を式と言い争っていた?少女は微妙な顔をして見送り他の人達も式に視線を向けるがなにもしない。
(良かったのか?式)
(えぇ、あんな発言をした彼女を私は好きになれないし他の人達もだいたい同じ。あそこにいても気分が悪くなるだけよ)
そう心の中にいるもう一人の自分と会話していると最後の式のことばをしばらくもう一人の自分が呟くと何かに気付いたのか嬉しそうな声を漏らした。
(どうしたの?)
(いや、だって式。自分が何を言ったのか気付いてるか?)
(可笑しなことを言ったかしら?)
式が不思議そうに言うともう一人の自分は式に笑いながら説明をした。
(だって、式、お前は今『彼女を好きにはなれない』と言った。それが可笑しいんだよ、だってお前は今まで『どうでもいい』とほとんどのことを言っていたのにお前は『好きにはなれない』と言った。まぁ、可笑しい発言とかはともかくオレは嬉しいよ。式が初めてオレ以外にそう言った感情を持ったのは……)
「黙って……
もう一人の自分……織が嬉しそうに説明をしていると式が凍えるような冷たい声で織に向けて言った。
その声に織は(怖い怖い)とふざけた声で言う。式はそれにため息を吐くと同時に後ろからタッタッタと足音が聞こえてきた。織はそれを聞くと同時に意識の奥に戻り、式は何事も無かったかのようにその音の主を見る。
「……良かった。まだいました」
「…………」
式を追いかけて来たのは式と同じ7歳くらいの少女だった。
式と同じくらいまで伸びた黒髪に式とは真逆の黒を基調とした着物。綺麗な黒い瞳はまだ何も知らないような目をしている。
「貴方は……誰かしら?」
「あっ、私は浅上葵って言います。その、今時間はありますか?」
「時間は空いているけど……大した用でないのなら此処で済ませて」
「……なら、単刀直入に聞きます。両儀式さん、貴女は転生者……ですよね?」
少女ーー葵が言った言葉は疑問形になっているもののそれは質問ではなく確認のための言葉。
式はその言葉に何の反応もせず、カマをかけられている可能性があるため一応惚けた答えを言う。
「……転生?ごめんなさい、貴女の言っていることがよく分からないわ」
「惚けないでください。貴女が転生者である事は分かっていますから」
その言葉に式は様々な可能性を瞬時に考え、その中からあり得ないものを消していき、最後に残ったのはたった一つ。
「……そう、厄介な
「…………」
式が言った言葉に葵は何も言わなかった。その沈黙は式の考えが当たっていることに他ならない。
「話はそれだけ?」
「……いいえ、両儀さん。貴女はこの世界でどう生きるつもりですか?」
「……どうとは?」
「……貴女はこの世界が何なのか知っていますか?」
「いいえ、そもそも私、前世で漫画やアニメといったものには関わりがなかったの」
「……そう、何ですか……。じゃあ、この世界でどう生きようとかってありますか?」
「……えぇ、あるわ。有るけど言わない」
「……それならそれで良いです。私の話はこれで終わりなので失礼します」
そう言って戻ろうと葵は背中を式に見せた。
その瞬間……葵はこれまでに感じたことのない悪寒を感じた。
後ろを向くなと本能も理性も葵に忠告する。『振り向くな、振り向けば死ぬぞ』と。気が付けば葵は足を産まれたての子鹿のようにカクカクと震わせ、恐怖を紛らわせるためか手を強く握りしめていた。
「面白い話を聞かせてもらったお礼に私からも忠告しておくわ。さっきみたいな事はこれらからは出来るだけ控えなさい。じゃないと貴女死ぬわよ?」
感情も何もない言葉。ただの言葉のはずなのに、式は葵から離れた位置にいるはずなのに、葵は『◼️』を感じ取っていた。
だが、それも長くは続かずギシッと床が軋む音が聞こえたのを境に何も感じなくなった。
「さようなら。長生きがしたかったら……私の忠告忘れないでね?」
その言葉に葵は何も反応せず、ただ式が去っていくのを黙って見送った。
『ハイスクールU×F 次回予告』
12歳になった式。
何事もない、普通とは言えない生活をただ過ごしていた式はある日ツクヨミに呼ばれる。
「今回は貴女たちに行ってもらいます」
四家の次期当主組と式が初めての共同依頼。
だがーー。
「このままじゃ、不味いね」
「さすがにこれは想定外です」
追い込まれてしまう次期当主組。
「……そうね、ハッキリ言って今の貴女達は足手まといでしかないわ」
「そんなこと……っ!」
次期当主組と式の対立。
次回『考えの違い』
※サブタイトルは変更する可能性がございます