【凍結中】その一握の気の迷いが、邪なものを生んだ(旧版)   作:矢柄

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お待たせしました。034話です。副題は「アントワーヌ事件」。


034

 

 

『やあ、ラジオの前の皆、こんばんは。今夜はのっけからスペシャルなニュースをお伝えするよ!』

 

『へぇ、どんなニュースなの?』

 

『これは友達のお姉さんの旦那さんの妹さんのクラスメイトのお母さんが話していたのを又聞きした話なんだけれどね』

 

『それって他人っていうんじゃ…』

 

『なんと! ZCFが今年の女王生誕祭に合わせて打ち上げるロケットに、アントワーヌちゃんが乗るんだってさ!』

 

『それはすごい事ね。でも、ちょっといいかしら?』

 

『何だいハニー?』

 

『そのアントワーヌちゃんが何者なのか、私にもリスナーの皆さんにも分からないんだけど』

 

『猫ちゃんさ!』

 

『アンタは今、たくさんのリスナーに大変な誤解を与えかけたよ』

 

 

 

 

 

「アントワーヌちゃんを殺さないで!!」「アントワーヌちゃんを助けろ!」「動物虐待反対!!」

 

 

ZCF中央工房の前に横断幕を手にした老若男女が声を張り上げて練り歩く。横断幕には小麦色の猫をデフォルメしたキャラクターと共に、彼らの主張の文言が書かれている。

 

一応このデモ行進は市長に届け出がなされた正式なもので、都市防衛部隊が交通整理をしながらデモを見守っているが止めはしない。私はそれを窓から見下ろし、思わずため息をついて呟いた。

 

 

「どうしてこうなった」

 

「新聞もラジオも毎日この話題よ」

 

「誰がアントワーヌを乗せるなんて言いだしたのか…」

 

「私もアントワーヌを乗せるなんて反対よ」

 

「いやいやいやエリカさん、そんな話、私も聞いてないから」

 

「ちなみに、私がアントワーヌを毒ガスが噴き出る仕掛けがついた箱の中に入れる実験をしているってのもデマだから」

 

「あ、そんな噂あったんですか?」

 

「あるのよ。まったく、ゴシップってのも困りものだわ」

 

 

七耀歴1200年、ZCFとリベール王国軍は第58回女王生誕祭に合わせて一つのプロジェクト、生物を宇宙空間に打ち上げ、無事に帰還させるという計画を発表した。

 

これは宇宙空間において動物が生存可能な空間を構築できること、宇宙空間において生命活動が持続しえる事、そして何らかの作業を行うことが出来ることを実証する科学実験である。

 

これにともないZCFでは宇宙船に載せる生き物の公募が行われた。微生物、植物、魚類、動物をサイズを指定した上で選定が行われる。

 

植物については無重力化での発芽・成長の観察、微生物は増殖や発酵などの活動が可能かなどが観察される。

 

またこの中で高等動物については、給餌の際にボタンを押させたりといった何らかの作業を行わせることで、宇宙空間において動物が正常に作業可能であるかを検証する。

 

だが、ここで一つの問題が生じた。様々な要素が絡み合った結果として今のような事態となったのだが、その引き金を引いたのは一つのラジオ番組だったらしい。

 

どこから湧いた話なのか、宇宙船に載せる動物に、猫のアントワーヌの名前が挙がったのである。もちろん事実無根なのである。

 

しかしながら、この情報はいくつかの不幸な偶然により真実味を帯びて王国中に広まった。そしてあろうことか、王国全土を巻き込む大事件へと発展したのだ。

 

 

「最初は誰かの冗談だったはずなんですけど」

 

「あー、たしかグスタフ整備長が、お前乗ってみるか? なんて冗談半分でアントワーヌに話しかけたのが始まりだったらしいわね」

 

「それが、どうしてラジオ番組まで話がいったんでしょうね?」

 

 

ラジオ番組でこのことが取り上げられ、事は予想以上に大きな話へと発展した。命の保証がない宇宙飛行に一匹の猫が選ばれようとしている。名前はアントワーヌちゃん。猫である。

 

いつの間にか中央工房に住み着き、今ではいかなる研究室にも顔パスで堂々と出入りすることが出来るという猫ちゃんで、いわゆるアイドルとかマスコットキャラ扱いされている。

 

そんな話が一夜にして王国中に広まり、それだけでなく共和国や帝国、果てはアルテリア法国にまで広がった。宇宙ロケットに乗せると言う大きな話もまた人々を惹きつけたのだろう。

 

初日は応援の声が大半を占めた。猫の誇りだとか、まあ色々な談話が新聞で交わされた。が、数日後事態は思わぬ方向へ。愛猫家の団体が新聞紙上でZCFを非難したのである。

 

そしてそれは最終的に女王陛下への嘆願にまで行きつき、議会においてすら話題に上ってしまう事態となった。ZCFはアントワーヌを乗せる事はないと声明を出したが、事態の収拾は図れなかった。

 

 

「早急に本命を決めなければならなかったとはいえ…、何故、ヒツジンなのか?」

 

「多数決で決まったんだからしかたないじゃない?」

 

 

エリカさんが肩をすくめるように答える。ヒツジンである。この世界で初めて、少なくともゼムリア文明崩壊後の世界において初めて宇宙に飛び出す高等生命が、ヒツジン。

 

 

「確か、露天風呂を覗いた下手人として遊撃士協会に捕獲された個体でしたね」

 

「女の子のブロマイドに敏感に反応するみたいだから、実験には丁度いいんじゃない?」

 

「そんな実験は嫌です!」

 

 

何が悲しくてそんなしょうもないエピソードを宇宙開発史の1ページに刻まなければならないのか。もっとこう、真面目なエピソードを期待したい。

 

まあ、他の候補としてペングーというのも推薦されたのだが、何故お前らはそんなに魔獣を乗せたがるのか。犬猫猿でもいいじゃないか。わけがわからないよ。

 

 

「魔獣なら死んでも誰も心を痛めないもの」

 

「命の重さはそれぞれ違うんですね、わかります」

 

「違うわ。命の価値は相対的なのよ。私にとってティータの命は世界で一番大切だけれど、他人にとっては見知らぬ小娘の命だもの」

 

「なるほど」

 

 

見知らぬ遠方の悲劇は同情を買ったとしても人を動かすには至らない。その手の問題に際して多くの人は理性的に対処するだろう。

 

近しい者の悲劇は万人を動かす。その手の問題は当人たちには何よりも大きな問題になり、多くの人は理性的に対処せず、感情的な反応を返すだろう。

 

人間はこの手の立ち位置に関わるギャップによって諍いを起こし、問題への対処について致命的な間違いを起こす。

 

理性的で合理的な判断が大失態を引き起こし、感情のままに動いた者もまた致命的な間違いを引き起こす。そういうことは、ままある。

 

 

「でもティータの可愛さは絶対正義(アブソリュート・ジャスティス)。これは究極真理(アルティメット・トゥルース)よ」

 

「言ってることが前後で矛盾してません?」

 

「わ・か・っ・た・わ・ね?」

 

「イ、イエス、マムっ」

 

 

長いものに巻かれるのは、世の中を上手く渡っていくための最適解なのです。寄らば大樹の陰。鶏口となるも牛後となるなかれとか、自分に自信が無いととてもとても。

 

 

「でも、ティオちゃんもすごく可愛いけど」

 

「早速浮気ですか。お持ち帰りしちゃだめですからね」

 

「うふふふふふ」

 

「おい、その笑いは何ですか? もう手遅れなんですか!?」

 

「私は! 既に! ティオちゃんと一緒にお風呂に入ったぞ!」

 

「くっ、手遅れだったか…。ちゃんと注意するように言っていたのに。知らない人についていくな、特に鼻息の荒い金髪の女のヒトには絶対にって」

 

 

きっと嫌がる彼女を風呂場に連れ込んでお湯攻めにし、十分にお湯に漬けこんだ後、髪の毛にラウレス硫酸ナトリウムを含む薬品をぶちまけてこれでもかと髪の毛を汚染した後、お湯をぶちまけたりしたのだろう。

 

さらに塩化ベンザルコニウムを含む薬品を追い打ちとして髪に塗りたくり、頭をお湯で攻めると、同じくラウレス硫酸ナトリウムを含む別の薬品で身体を汚染したりしたのだろう。

 

その後お湯攻め、お湯への浸漬処理という残虐きわまる虐待の後、布でゴシゴシした後、乾燥した熱風を吐き出す機械で苛めたに違いないのだ。

 

なんという残虐行為。羨ましい。

 

 

「それはともかく、興味深い実験ではあるのよね」

 

「まあ、確かに」

 

 

Xの世界では宇宙空間での基本的に生命活動に問題は無かったとはいえ、骨芽細胞の働きや循環系にいくつかの支障が生じる事が知られていた。

 

宇宙開発においてはその辺りについても検証を行う必要があるし、この世界特有の弊害が存在しないとは限らない。

 

例えば太陽活動に伴う波長の極めて短い高エネルギー導力波は強力な電離作用を有していて、直接浴びればラジカルの発生やDNAの損傷をもたらすことが知られている。

 

これらの導力波は大半が地上に到達する前に大気層の作用で無害化されるものの、数百キロ上空の衛星軌道においてはその防護作用の恩恵に与る事ができなくなる。

 

 

「重力制御とかが実用化できている分、解決できない問題は無いと思いますがね」

 

「最悪、地上と同じ環境を再現すればいいんだものね」

 

「そういえば、そろそろ始まるんじゃないですか?」

 

「そうね」

 

 

今日はロケットに乗せる生物をヒツジンに決定したことを公式発表する日だ。ZCFの広報が記者を集めて、選定に関する経過などを資料と共に発表するはずである。

 

 

「ラジオ放送中継までされるのよね」

 

「大したニュースでもないんですがね」

 

 

エリカさんとそんな話をしていると、バタバタと周囲が騒がしくなっているのに気が付く。何だろうと思っていると、職員の一人が一枚の紙を持って走って来た。

 

 

「エリカ博士っ、エステル博士!! 大変です!」

 

「どうしたの?」

 

「じ、実は記者発表のために配った資料にこんな文章が…」

 

「ん?」

 

 

記者発表のためにマスコミ関係者に配られたA4のプリント紙。選定された生物や、それに関わる意義などが書かれているはずの場所に、次のような文章が書かれていた。

 

 

『傲慢なる知識の亡者は民草の声を聴かず、故に私は贄なる愛らしき獣を救い上げる。

 

されどもし、この愛らしき獣を我が手で救わんと欲する勇士がいるならば、

 

自らの手で真実を閉ざす門を開け放つが良い。

 

第一の門番は機械仕掛けの都に、空を忘れた輝ける鳥の王に挑め。

 

怪盗B』

 

 

「怪盗B…これは…」

 

「それで、これがどうしたの? ちゃんと誤魔化せたんでしょう?」

 

「いえ、それが…、記者の一人がアントワーヌちゃんが行方不明になっていることを事前に聞きかじっていたらしく…」

 

「行方不明? そんな話は聞いてないわ」

 

「その、実は朝からアントワーヌちゃんを見た人が一人もいなくって、ティータちゃんとティオちゃんが中央工房を探し回っていたんです」

 

「ティ、ティータが?」

 

 

さらに悪い事に既にラジオを通じてこの怪文書、そしてアントワーヌが行方不明であることが報道されてしまったらしい。

 

 

「くふっ…」

 

「エ、エステルちゃん?」

 

 

笑みがこぼれる。

 

 

「ふふ、あはは。なるほど、やられました。たとえ今、ロケットに乗せる生物をヒツジンだと発表しても、アントワーヌが怪盗Bによって救われたという話になり、ZCFの威信は地に堕ちてしまう。やってくれます」

 

 

まあ、猫一匹で傾くZCFではないし計画自体に変更はない。多少の醜聞なんて有人飛行を成功させれば帳消しになる。

 

それよりもアントワーヌが帰ってこない可能性の方が、個人的には気がかりではある。彼女にはよくミルクをあげたりして可愛がっていたから。

 

 

「そ、それは…困ったわね」

 

「ええ、大した怪盗です」

 

 

ならば、ここではこう言うべきだろう。

 

 

「おのれ怪盗Bっ! いったい何者なんだ!!」

 

「あー、エステルちゃん。もしかして楽しんでる?」

 

「怪盗Bの正体と動機。わたし、気になります!!」

 

 

職員さんとエリカさんが「うわぁ、面倒くさい事になった」というような引き気味の表情になっているが、私の好奇心のオーバードライブは誰にも止められないのである。

 

怪盗。すばらしい。なんというロマンあふれる単語だろう。私は名探偵ではないが、ルパンⅢ世とかそういうの大好物なので、大ハッスルである。

 

そんな風に燃えていると、続いて再びパタパタとこちらに駆け寄る足音が。振り向くと2人の少女、ティータとティオが速足で近づいて来た。

 

エリカさんの顔がパアっと笑顔に綻ぶ。親バカである。

 

 

「あらあら、ティータ。どうしたの?」

 

「お母さん、えっと、実はこんなカードが…」

 

「おうふ…」

 

 

内容はマスコミに配られた文書と同じ内容のメッセージが書かれたカード。私はそのカードに飛びついた。OH、これこそ犯行予告。パトスが熱くなる。

 

 

「あはっ…、ティータ、これはどこで?」

 

「え、えっと、工房の前のお花屋さんに渡されて…」

 

「花売りの女性は猫を探す人が現れたら、これを渡すようにと言われたそうです」

 

 

ティオが聞いたところによれば、花屋の女性は見知らぬ男性から花束を買われ、そのついでにゲームの一種だと言われてこのカードが入った封筒を手渡されたという。

 

 

「どこを探せばいいのか分からなくて…」

 

「いいのよティータ。今から遊撃士の人達に捜索を依頼するところだから」

 

「で、でもっ! 私たちが先に見つけないと大変なことになるかもって、ティオちゃんがっ」

 

「その通りですよエリカさん。サイエンティストたる者、もっとアクティヴに謎に立ち向かわなければなりません!!」

 

 

エリカさんが残念なモノを見るような目で私を見つめ、ティータが苦笑いをしながらティオに「お姉ちゃんは時々あんなふうになるんですよ」とヒソヒソと耳打ちする。

 

 

「とはいえ、私達だけで動くのも何なので、エリカさん、マードック工房長はもう手配しているかもしれませんが、遊撃士協会への連絡を工房長に掛け合ってください」

 

「仕方がないわね。でも、無茶してはダメよ。貴女、今は色々と複雑な立場にいるんだし」

 

「情報部から付けてもらったメイドさん兼護衛がいますので。それにこの子たちも一緒なので、無茶はしませんよ」

 

 

ええ、捜査にはライバルがいる方が格好いいのである。そうして私はティータとティオを連れ、メイドのメイユイさんとシニさんと合流し、市中へと繰り出す。

 

怪盗Bによる大胆不敵な令嬢(猫)誘拐事件。後に《アントワーヌ事件》として語られるこの事件は、リベール王国を震撼させる大事件へと発展する。

 

 

 

 

「空を忘れた輝ける鳥の王…ですか。つまり、飛べない鳥を指すのでしょうか?」

 

「ニワトリさんとかかな?」

 

「飛べない鳥というのもいくつかありますが、このツァイスではある特定の種を指すことが多いですね」

 

「あっ」「なるほど」

 

 

導力自動車の後部座席、私とティータ、ティオはカードの内容から推理を始める。

 

まあ、遊撃士が動いているので、そこまで危ない橋を渡らなくてもいい。これは自己満足のためというか、そういうのに近い。

 

ティータとティオは私の露骨なヒントに合点がいったようだ。

 

 

「そっかー」

 

「なるほど」

 

 

飛べない鳥というのは魔獣を含めてもそれほどの数は無く、その中でリベールに住むモノとなればさらに数は絞られる。そしてツァイスともなれば一種類だけだ。

 

 

「そして輝ける鳥の王となれば答えは一つです」

 

「うんっ」

 

「というわけで、シニさん。ツァイス王立水族館へ向かってください」

 

「分かりました、エステル様」

 

 

ティータとティオは歳が近く、また同じく理系少女で頭が良いという共通点があるからか、出会ってから間もなくして仲良くなった。

 

ティータとしても話が合う同い年の同性の友達というのは貴重だったようで、ティオにしても邪気が無く聡いティータは一緒にいて負担にならなかったのだろう。

 

今ではほとんど一緒に行動しており、ハード面に強いティータとソフト面での強さを見せるティオは何かしら導力器を弄って改造したりして遊んでいる。

 

屋内だけじゃなく外で遊べ若人よと言いたくなるところだが、機械を作るために重い工具や材料を運んでいるからか、運動不足にはなっていないようだ。

 

さて、車は一路東へ。すっかりと都市に飲み込まれた旧トラット平原を南に、大規模なエンターテインメント施設やホテル、博物館などが集中するサウストラット地区へと向かう。

 

ツァイス王立水族館。サウストラット地区に建設された世界最大の水族館。ZCFの分館であり、水棲生物の研究拠点にもなっている。

 

見どころはアクリルガラスで作られた巨大水槽で、巨大な水棲魔獣や鮫などの大迫力の展示を見る事が出来る。子供連れの家族客やカップルたちにも大人気の観光スポットだ。

 

それだけあってか、今日が日曜日だからか、水族館の前には長蛇の列が出来ていた。これでは待つだけでも何十分もかかりそうだ。

 

 

「うわぁ、すごいヒトだね」

 

「人気だとは聞いていましたが…」

 

「すっごく大きな水槽があるんだよティオちゃん」

 

「とはいえ、今回はゆっくり見て回ることは出来ませんが」

 

「それは残念です」

 

「こんど一緒に見に行こうよティオちゃん」

 

「いいですねティータ」

 

 

積極的で情が深いティータに対して、消極的だが冷静なティオは結構バランスの取れたコンビなのかもしれない。

 

始めて会った時のティオは骨が透けて見えるほどに痩せ細っていたが、再びリベールにやって来た時にはだいぶん体重が戻っていた。それでも華奢なのは変わらない。

 

再び会った時のティオは、身体の健康面では改善していたものの、精神面ではかなり無茶をしていたようだった。

 

今でも表情が読みにくく感情の起伏が薄い彼女だが、最初の頃はまるで人形のようだったという。まあ、今でもそうだというヒトは多い。

 

私と話す時には僅かな感情の起伏が読み取れて、私の話には興味を持ってくれていたようだが、他人に対してはかなりドライな対応をしていた。

 

それでも、私の周りの人間に対しては徐々に心を開いてくれたようで、今ではヨシュアやエリッサ、エリカさんやダンさん、ティータなどは彼女の表情の変化とか、感情を読み取る事が出来るようになった。

 

彼らが言うには、ティオの表情が豊かになったのだと言うが、まあ彼らが言うのならそうのなのだろう。

 

というか、エリッサにロリコンの誹りを受けたのだが何故だろう。解せぬ。

 

私はただティータとティオを両手に抱き寄せて至福の時間を過ごしていただけなのに。(分かってくれるのはエリカさんだけである。)

 

ティオかわいいよティオ。ティータは天使。

 

 

「エステルお嬢様」

 

 

受付と話をしに行ったメイユイさんが戻って来た。これで行列に並ばずに水族館に入る事が出来る。これすなわち権力の力である。

 

 

「どうでした?」

 

「水族館側は大丈夫だと。しかし、先客がいるようでして」

 

「先客?」

 

「はい。リベール通信社の記者を先に入れたらしく…」

 

「なるほど、出遅れましたか。となると、あそこに停まっている車は…」

 

「リベール通信社の導力無線通信中継車ですね」

 

「相変わらずのフットワークですか。まあいいでしょう」

 

 

水族館の脇に駐車されているバンを横目に、私たちは水族館の職員に案内される形で職員通路を歩いていく。

 

様々な水槽を見下ろす形で通路は続き、ティータとティオはそれらを珍しそうに目を向ける。水槽を正面から見る事はあれど、裏から見る事は滅多にない。

 

そうして目的の水槽に辿りついた。

 

 

「……いましたね」

 

「相変わらず可愛いねー」

 

「おお、あのプニプニ感…。これは…革命的?」

 

 

王立水族館には様々な生き物が展示されており、特に10アージュを超える巨大水棲魔獣やイルカショーなどは目玉である。

 

だが、それらを抑えて子供たちの人気を独占する生き物がいる。すなわち、

 

 

「クエックエッ!」「クアックアッ!!」

 

 

洞窟湖に住むハイテンションなアイツら。ペングーである。どうしてこんなうるさいだけの変な魔獣が好かれるのか。まったく、わけがわからないよ。

 

 

「一日に5回行われる水棲戦隊ペングーオーショーが人気だそうですよ」

 

「シニさん、知ってるんですか?」

 

「ふふ、見たいですか?」

 

「いいえ結構です」

 

 

何だか嫌な予感しかしないので、ここはスルー一択である。なんとなく、連中の背後でカラフルな爆発による演出が脳裏に浮かんだが、そんな馬鹿げた有りえない想像は振り払う。

 

ペングー、すなわちペンギンによく似た水鳥の一種であり、ただし似ているのは姿形だけだ。魔獣であるため人を襲う危険な生き物である。最大の特徴はモヒカン状のトサカだ。

 

よってペングーが戯れる水槽は見学客が通る通路に対してぶ厚い特別性の強化ガラスで仕切られており、客に危害を与えないように工夫が凝らされている。

 

内部はカルデア隧道にある洞窟をイメージした装飾がなされており、アーツを阻害する場によって暴れないようにしているらしい。

 

しかしながら、この水族館でも一二を争う人気者らしく、特にペングーの幼鳥は人懐っこく見学客に近寄ってくるので女の子に人気が高い。まあ、確かにこれはとても可愛い。

 

成鳥は動きがどうも奇抜で好きではないが、子供に人気がある。独特の動きが子供たちには面白く見えるのだろう。

 

生態としては、様々な色の羽根を持つ個体が併存し、それぞれは亜種として交配可能であるらしい。羽の色によって性格が異なり、これにより主に5種類の亜種に分類できる。

 

青色の羽根を持つ種はアオペングーで、水系の魔法(アーツ)を使うことができる。黄色い羽根を持つキペングーは強烈な臭気を放つガスを出してくる。

 

ペンキで塗ったみたいな緑色の羽根を持つミドリペングーは魚をすごい勢いで投げつけてきて、アルビノ種のシロペングーは急所を狙う危険な攻撃を仕掛けてくる。

 

ちなみに桃色の羽根が特徴であるモモペングーは突然歌い出したり、人間相手に求愛してくる。わけがわからないよ。

 

 

「さて、では本命の所に行きましょうか」

 

「はい」

 

 

ペングーは先の種の他に、大型種であるオウサマペングーが存在する。この種は他のペングーとコロニーを同じくし、群れのリーダーとなる事が多い。

 

しかし、このオウサマペングーよりも稀少で、魔獣としても強力かつ長寿な大型種が存在する。個体数は少ないものの、カルデア隧道の鍾乳洞にて運が良ければ出くわすことが出来る。

 

すなわち、

 

 

「うわぁ、ペンペンだぁ!」

 

「これはすごいですね」

 

 

一際巨大な身体、クジャクのように背に広がる飾り羽。幻の純血種、デヴァインペングー。かつては鍾乳洞の主であり、そして私が若かりしときに生け捕りにした個体である。

 

今はペンペンという名前を付けられ、子供から大人まで大人気の、この水族館の目玉。完全に人間に飼い馴らされ野性を失ったでっかいマスコットキャラクターである。

 

最近の子供ならば、特に女の子ならば間違いなくコイツのヌイグルミを親からプレゼントされる。国外でも人気で、たびたび取材がくるらしい。

 

 

「相変わらずの後光ですか。そして、あれが記者さんですね」

 

「拘束いたしますか?」

 

「無用です」

 

 

メイユイさんが物騒な発言をするが止める。

 

さて、後ろの飾り羽がどこぞの大物演歌歌手のような後光を発するペンペンであるが、その傍に記者と思われる男がいた。

 

ボサボサの深い緑色がかった髪で、シャツはよれよれ、サスペンダー付きのベルト、スラックスを履いた、少し頬のこけた目付きの悪い男である。

 

彼はカードと共にメモ帳を左手に、ペンをせわしなく動かしていた。私は彼に近づき声をかける事とする。

 

 

「こんにちは記者さん」

 

「あ、誰だ? 今忙しい…、って、アンタは…」

 

「ZCFのエステル・ブライトです。よろしくお願いいしますね」

 

「……どうして貴女のような方が来られるのです? エステル・ブライト准将殿」

 

 

いぶかしげな表情の目付きの悪い記者。どうやら私の事は知っているようで、軍人として訪れたと考えているらしい。有名になるのも考え物。

 

 

「警戒しないでください。別にとって食べようって訳ではありませんから。カードの内容は写し終えましたか? 見せていただけると有難いのですが」

 

「メモと写真の方は提出したくないのですが…」

 

「ええ、構いません。《主催者》もそれを望んではいないんでしょう? それと、敬語でなくてもいいですよ。貴方の方が年上なんですから」

 

「…へぇ、そこいらの軍人とは違う訳か」

 

「石頭な人達が多いですけど、彼らもしがらみがありますから。職務に忠実であろうとすれば、融通が利かなくなる事もあるのです」

 

「そう言う事にしておこうか。…リベール通信社の記者、ナイアル・バーンズだ。こんごともよろしく頼むぜ」

 

 

そういってナイアルさんは握手を求めてきて、私はそれを握り返した。

 

 

 





お久しぶりです。5カ月ぶりぐらいでしょうか。一応の再開です。原作に入ったぐらいですぐに止まりますが。迷惑おかけします。

今回は例のめんどうくさい奴の登場です。変態仮面です。空の軌跡のラストでクローゼのパンツかぶって愛を語ったあの男です。


しかし、閃の軌跡プレイしていて思ったんですが、どうなんでしょうね。あの導力バイクの件です。

空の軌跡でゴスペルを切断するときに、内燃エンジンは導力エンジンに比べてうるさいとかいう表現がありましたから、自分、導力エンジンは電磁モーターに近い性質のものと思ってました。

でも、あのバイク、めちゃくちゃ振動してやがります。どう考えてもあの音と排気系は内燃エンジンのそれです。まったく、どうなってんだこれ。

つーか、なんでマフラーついてんの? 導力エンジンって酸素いるの? 排気ガスっていうか、冷却系なの? いったいなんなの?

というわけで、導力エンジンのシステムとは何なのかを考察してみた。

その① 力場的なものでモーターのように回転エネルギーを生み出す。
その② 爆発エネルギーをシリンダー内で発生させて、ピストンにより往復エネルギーを生み出す。
その③ 強烈な噴流を生み出してタービンを回し、回転エネルギーを生み出す。
その④ リベールとエレボニアでは導力エンジンの方式が異なる。
その⑤ そんなことよりおうどんたべたい。

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