【凍結中】その一握の気の迷いが、邪なものを生んだ(旧版)   作:矢柄

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今回はつなぎ回。


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「問題は、リベールはともかくエレボニア帝国に後れを取るということだよ将軍。特に今はクロスベル方面での緊張が高まっている。これも全てエレボニア帝国の野心によるものだ。分かるかね?」

 

「仰ることはもっともです大統領。しかし我が国もこの10年の間、遊んでいたわけではございません。こと、航空戦力においては帝国に対し常に優位を取っております」

 

「ふむ。なら、余計に彼らの機嫌を損ねるわけにはいかないな」

 

「そ、それは…」

 

 

この国の国防を司る男が口ごもり、暑くもないのに額に汗の粒を浮かばせた。いや、彼が悪いわけではないのは分かっているが。

 

私は葉巻の火を灰皿に押し付け、背もたれに体重を預ける。この国は巨大であるが、それゆえに病巣も多い。

 

そもそも組織などというものは10年もすれば腐敗が始まる。それは100年というまだ若い国家である我がカルバード共和国も同じことだ。

 

例の教団による事件はそれが最も顕著に表立って現れた例だろう。だが、目に見えるもの、目に見えないものも含めれば数えるのが億劫になるほどにそういったものはある。

 

癒着に収賄、横領に縁故採用。保身に長けたもののみが組織で生き残り、本当に必要な人材は芽を出す前に踏みにじられるか、抜き取られて腐らされるか。

 

組織を上手く渡りながらも有能な人材は確かに存在するが、老害や他者の足を引っ張るだけが得意な者たちの多いこと。

 

国境紛争、エレボニア帝国との覇権闘争。これに加え、今ではリベール王国というプレーヤーまで相手にしなければならない。

 

これだけの外交問題を抱えているにもかかわらず、民族問題と政治腐敗、マフィアが支配する闇社会といった国内問題は、癌と言っても過言ではないほどに我が国を蝕んでいた。

 

そういった多くの内患の一つが、空軍の実態だ。

 

カルバード共和国の航空機分野は完全にZCFに牛耳られている状態だ。特に心臓部となる部品の供給を完全にZCFに依存しており、単独での生産はできない有様。

 

それもバカ共が帝国の情報局の甘言に乗せられて暗殺騒動などを起こしたせいだ。アレのおかげでヴェルヌによるライセンス生産すら出来なくなったのだから。

 

これでは国防など初めからないにも等しい。このような状態で、どうやってリベール王国との健全な外交関係を構築するというのか。

 

悪いことに、こちら側には背伸びしても不可能な人工衛星を飛ばされている状況だ。あの国と事を構える気概のある軍人や議員など一人もいなくなっている。

 

いや、むしろ多くの議員がリベール王国の諜報機関に懐柔されてしまっている。このことは国民が知らないだけで、政治にかかわる多くの人間が知る公然の事実だ。

 

そして、それを防ぐためのシステムも不足している。

 

我が国独自の高度な情報分析機関を作るために動いてはいるが、今はまだ陸軍と外務省、内務省が別々に諜報活動を行っているに過ぎない現状だ。

 

それらは縦割り行政の弊害により、互いの情報の共有が出来ておらず、帝国情報局やリベール軍情報部に何度も苦杯を嘗めさせられている。

 

 

「我が国が人工衛星を打ち上げる日はいつのことになるやら」

 

「鋭意研究中であります。ですが、軌道投入に必要な出力を持つエンジン、そして航法制御のための導力演算器の開発に手間取っておりまして…」

 

 

閣僚の一人がそんな回答を述べる。それは全く出来ていないのと同じだろうとは表立っては言わないが。

 

そもそも我がカルバード共和国は技術面においてリベール王国とエレボニア帝国に及ばないことは周知の事実だ。

 

衛星を打ち上げるために研究中のロケットなどは、先日の実験において地上に落下し大爆発を起こした。

 

危うく一つの集落が消滅しかける惨事に、その原因究明のためにさらに研究開発に遅延が生じている。

 

民生部門のサービスの多様さについては勝っているとされるが、そんなもので経済や戦争で勝てるわけでもない。

 

自慢の工業力はすでにリベール王国がすぐ後ろまで迫っており、それが無ければ人口ぐらいしか両国に優位性を示せるものはない。

 

その人口に支えられた動員数と物量ですら、あの巨大戦艦の前では無力に思える。少なくとも歩兵で空飛ぶ巨艦を落とせるはずもない。

 

数がモノをいうというのは戦場の常識であるが、目に見える技術格差が生じた場合はそれを覆される事例もある。10年前のリベール王国がそれを証明した。

 

 

「それはそうと、《空の魔女》エステル・ブライト准将が我が国を訪問しているのだ。我が国の頭の固い学者先生たちにとっても良い機会ではないかね?」

 

「それは理解しております。今回は准将の講演を拝聴するため多くの学者や有識者が参加を申し込んでおりまして」

 

「選定に縁故採用や賄賂などは絡んでいないかね?」

 

「そ、その点につきましては万全を期しております」

 

 

なんとも《頼りになる》返答だ。今回の共和国最高学府における彼女の講演は入念な準備を整えて行われた。なにしろかつて暗殺騒ぎを起こした手前、次の失態は許されない。

 

航空機の開発者、そして帝国を完膚なきまでに叩きのめした立役者。しかも女性で見る目麗しいとくれば人気が出ないはずもない。

 

ちょっとした国家レベルの行事となった今回の講演であるが、これは多くの企業や政府・軍関係者にとっても重要なイベントとなっている。

 

彼女がリベール王国の意思決定において重要な役割を果たしていることは周知の事実だ。それに、ZCFにおける重要な地位を占めている。

 

そして航空機における現在基本となる戦術を考案したのも彼女だ。戦略爆撃や近接航空支援といったドクトリンは陸戦主体だった従来の戦争を一変させた。

 

機甲師団と近接航空支援の緻密な連携により、敵の戦線の脆弱な部分を突破し、敵主力を迂回して司令部や補給線を破壊、戦略的に重要な地点を脅かして敵主力を遊兵とする。

 

一年戦争においてリベール王国が行った電撃戦は、今や大陸諸国の軍隊のお手本として士官学校などで叩き込まれるドクトリンとなった。

 

その教義の基幹となった思想は彼女の発案であり、そしてそれを完全な形で構築したのが彼女の父親でもある天才カシウス・ブライトだった。

 

つまり、空軍と陸軍において彼女と彼女の父親は教書において最も重視される人物であり、故に彼女の王国軍内における声望はあまりにも大きい。

 

それは、彼女の一声でリベール王国の玉座に座る主すら変わるのではないかと言う者まで出てくるほどに。

 

そんな彼女とのコネクションは、企業人にとっても政治家、軍人にとっても垂涎の的のはずだ。

 

しかし、そういったコネクションも大事であるが、私としてはこの機会を技術面・思想面における発展に寄与させたいと考えていた。

 

 

「彼女は人間を見る目も長けると聞く。彼女の興味を引いた者をリストアップすべきだと考えるが?」

 

「そ、早急に準備させましょう」

 

「それと将軍、分かっていると思うが、まかり間違って彼女に傷一つでも付けるようなことがあれば大変なことになってしまう。私たちの進退にもかかわってくることだから慎重に頼むよ」

 

「はっ」

 

 

そうして閣議が終了し、スタッフが散っていく。私は再び葉巻に火をつけて煙を大きく肺に送り込んだ。

 

 

 

 

「…こういう溝をつければ良いのでは? そうすれば導力流の干渉が発生しますので」

 

「そ、そうかっ! なんでこんな簡単なことに気付かなかったんだ!?」

 

「ほう、盲点でしたな。それならば重量と容量を維持したまま十分な強度を保てる…。流石はエステル博士」

 

 

ただ今、私はカルバード共和国のとある大学の構内にていい歳のオジサンたちに囲まれていたりする。

 

女性もそれなりにいるのだけれど、やはりまだまだ学会は男社会といったところ。とはいえ、若い研究者も年老いた研究者も熱心で私としても刺激になる。

 

1202年早春、私はZCFの研究者たちと共に導力工学に関係する国際的な学会に出席していた。

 

本当はエリカさんやラッセル博士と一緒に来たかったんだけれども、危機管理というかリスク分散のために一緒することは出来なかった。

 

まあ、今回はお父さんが護衛についているので滅多なことなど起きようもないのだけれど。S級というのは伊達じゃないのである。

 

リベールを離れて多くの国々の研究者と話をするのは楽しい。とても刺激になるし、新しい視点や発想の源泉となる。ZCFに引きこもっていては中々得られえない経験だ。

 

 

「ん…? ということは、こういう風にすると…」

 

「!? お、おい! 何ぼさっとしてるんだ! 導力演算器を持ってこい!」

 

「ウソだろ…? とにかく実験で確かめてみないとっ」

 

 

初老の研究者が大学の演算器を持ってこいと怒鳴り、周囲の研究者たちが検証のためにノート上で計算を一心不乱に始める。

 

 

「博士、ここはこうすれば…」

 

「なるほど。それなら振動が抑えられますね。…っていうか貴方、ヴェルヌ社の人ですよね。これ、秘密にしなくて良いんですか?」

 

「いや、こんな機会滅多にないですから…。出し惜しみしても…ねぇ?」

 

 

何をあたりまえのことをといった感じで頷く面々。こうやって技術的な暴走は始まるのである。ストレンジラブ的な意味で。

 

そうして、何故かこの時この場所で自動車用の高効率エンジンが生み出されることになるのだが、それはまた別のお話。

 

なんだかんだで講演や学会が終わり、交流会という名のパーティーが開かれる。私はお父さんにエスコートされてドレスを身に纏って参加する。

 

薔薇をモチーフとした紅いドレスは、お父さんの強硬な意見により露出度控えめ。初期案は背中とか肩を大胆に見せるタイプだったのだけれど。

 

髪型はハーフアップで清楚な感じ。ヒールのある靴は履きなれなくて苦手。パーティーなどでは履くけれども、普段はスニーカーで通しているだけに、バランスの悪い靴は何とも。

 

 

「エステル、今日はずいぶんと甘えるなじゃないか」

 

「いえ、単純に虫除けに使ってるだけですが?」

 

「…父は悲しい」

 

「とか言いつつ、私に話しかけてくる男性に威圧を飛ばしてるのはどこの誰でしょう?」

 

 

華やかなパーティー。おいしい料理に高い酒。だが、元来パーティーの本質はコネクションを作るための戦場であり、ぶっちゃけ恋人探しの場所でもある。

 

ということで、さっきからナンパが絶えない。お父さんのダンディズムが無ければ男どもに包囲されて動けなくなってしまうほどに。

 

 

「正直、お父さんぐらいイイ男じゃないと靡かないっていうか」

 

「はっはっは。そうだろうそうだろう!」

 

「きゃー、お父さん世界一カッコイイ(棒読み)」

 

「そうだろうそうだろう!」

 

 

男は女の子がおだてると、たいてい乗り気になるので扱いやすい。特に娘が父親をおだてればイチコロ。この調子でナンパ野郎どもを駆逐してほしい。

 

あ、この肉うめぇ。ん、あのお姉さんおっぱい大きいな。

 

 

「やっぱり、共和国は大きいですね」

 

「人口が違うからな。5倍の人口と言うのは、単純に国力が5倍になるという意味ではないが」

 

「人的資源が豊富になりますからね。まあ、問題も幾何級数的に増えていくんですが」

 

 

才能の数が違うというのは、恐ろしいことでもある。分母が大きくなれば、それだけある分野における希少な才能が生じやすくなるのは当然のことだ。

 

とはいえ、人口の多さはそれだけ人間同士の問題を、軋轢を増大させていく。2人ならば1つの関係しかないが、3人になれば関係は3つに、4人になれば6つの関係が生まれる。

 

カルバード共和国がその本来のポテンシャルを十分に発揮できないのは、その辺りの複雑な問題が関わっているのだろう。

 

 

「明日にはノーザンブリアだったか」

 

「あと一日ぐらいは東方人街を見て回りたかったんですが」

 

 

今回の旅行はノーザンブリアなどのリベール王国の勢力圏に収まった土地を見て回る意味もある。

 

旧ノーザンブリア自治州を初めとして、紛争から脱却した大陸南部のいくつかの中小国家。流石にエレボニア帝国周辺にあったいくつかの自治州および自由都市は無理だけれど。

 

それが終われば、王国の5大都市を視察する予定が入っている。最近微妙に情報部の様子がおかしいので、自分の足で見て回る必要がある。

 

まあ、表向きは視察という名の、女王生誕祭までの長期休暇である。どちらにせよ、自分で制度を提案しながら有給をほとんど消化してなかったので、ちょうど良いのです。

 

遊撃士協会への依頼でお父さんを護衛につけてもらうので、道程における安全面はほぼ完璧。いや、この親父がいれば国家規模の陰謀も解決されちゃうんで。

 

 

「欲しいものは買えたんだろう?」

 

「ええ、まあ。お父さんは何か買ったんですか?」

 

「ふむ、酒をだな」

 

「ダウトです」

 

「冗談だ。ZCFのバイクでもと思っている」

 

「父親の特権ですか…」

 

 

ヨシュアがもうすぐ準遊撃士の資格を手に入れる。そのお祝いにとプレゼントを探していて、東方人街などを冷かしていたのだ。

 

その話がどこから漏れたのか知らないが、その後、共和国のいろいろな企業家や政治家から品物を贈られてきて大変なことになったのだけれど。

 

とはいえ、兄弟への贈り物なのだから、やたら高価なものはどうかと思い、身に着ける物で、長く使える物を探していたのだ。

 

しかし、お父さんは父親の特権という事で、お高いバイクなどをプレゼントするらしい。まあ、遊撃士として各地を移動するならバイクは欠かせないのだろう。

 

 

「今頃、ヨシュアは何してるんでしょうかねぇ」

 

「本でも読んでいるか、剣の手入れでもしてるんじゃないか?」

 

 

 

 

 

 

リベールはゼムリア大陸西側を流れる暖流の影響により、他の地域よりも幾分暖かいとはいえ、未だ2月下旬、吐く息はまだ白い。

 

キンと冷えた大気は澄み切っていて、夜空に瞬く星々の輝きは眩さを増している。ベランダに背中を預けた黒髪の少年は、どこか憂いを帯びた表情でハーモニカを奏でていた。

 

 

「(じ~~~)」

 

「……」

 

 

そんな少年、ヨシュア・ブライトを頬を赤らめながら一心に眺める女の子が一人。金色の髪の、小柄で可愛らしい彼女はエレンという。

 

エレン・A・ファルクはこの屋敷で住み込みで働くメイドだ。姉の方はエステルを護衛するためにカルバード共和国に出張している。

 

恋に胸を高鳴らせる少女の横顔は、擦れたお姉さんにはどこか眩しく見える。妹分の一人、エリッサよりも健全な感情の発露は、どこか見守ってあげたくなる。

 

私は水割りブランデーの入ったグラスの氷をカランと鳴らして、琥珀色の液体を飲み干すと、なんとなく少女の耳元に息を吹きかけた。他意はない。ただの衝動である。

 

 

「ひぅっ!?」

 

「あら、感じやすいのね」

 

 

エレンはビクリと体を痙攣させ、あげそうになった悲鳴を両手で口を抑えることで飲み込み、そして油の切れたブリキの玩具のようにギギギと音を立てるかのように振り向いた。

 

 

「シェラ…さん!?」

 

「正解」

 

「はうっ…、えっと、あの、その…」

 

「どこから見てたかって?」

 

「(コクコクコク)」

 

 

必死に首を上下させて頷くエレン。小柄で童顔な彼女はとても20歳には見えず、そのオドオドした態度からしてどう考えてもヨシュアよりも年下にしか見えない。

 

 

「そうね。貴女が妄想のあまり顔を隠したりしたり、ニヤニヤしてた時ぐらいかしら」

 

「~~っ!?」

 

「カワイイわね、この生き物」

 

 

オドオドとして大人しい彼女であるが、表情は百面相で可愛らしい。一目でわかるように、彼女は年下の男の子に恋をしている。

 

まあ、気持ちは分からないでもない。顔は端正で、ミステリアスな雰囲気。それでいて気が利いて、マメな所も加点対象だ。

 

しかし、本人はエステル命なので、この恋が実るかは限りなく未知数。エリッサは何かと焚き付けて応援しているみたいだが、あの子の場合は下心丸見えである。

 

 

「でも、ヨシュアはたぶん、貴女が見てるのに気づいてると思うけど?」

 

「っ!? っ!?」

 

 

挙動不審に焦りだし、ワタワタと頭を抱えて錯乱するエレン。あ、やっぱりカワイイ。ちょっと押し倒したくなってしまった。

 

まったく、エリッサの影響でも受けたのかしらと溜息をつく。女同士と言うのはちょっと不毛すぎはしないだろうか。

 

まあ、恋愛なんてすぐさま結婚に結び付くわけでもないし、一度や二度くらい道ならぬ恋に寄り道するというのも悪くはないと思うのだけれど。

 

まあ、確かにエステルは時々ドキッとさせてくるが。天然のジゴロである。彼女に熱を上げる少女たちの言葉によれば、魂がイケメンらしい。

 

あるいはナチュラル王子様気質。困っているときにさり気なく、格好良く手を差し伸べて、華麗に問題を解決してくれるらしい。そのうちに、刺されるんじゃないだろうか?

 

それはそれとして、エリッサのあれはどちらかと言うと依存か…と思い直し、再び視線を戻す。ちょっと占ってあげようかしら。

 

 

「ベランダは寒いでしょ? ちょっと占ってあげるわ」

 

「……えと、いいんですか?」

 

「いいのよ。そうね、ちょっとお酒に付き合ってもらえない?」

 

 

その一言が私たちではなく、少年にとっての地獄への入り口だった。

 

 

 

 

ハーモニカを布で拭って、懐にしまう。このハーモニカと《星の在り処》は僕にとっての絆の象徴。

 

彼女との賑やかな日常の中に埋没していくそれが、正しいことなのか悪いことなのかは分からないけれども、

 

少なくとも彼女の前でハーモニカを演奏する時間は僕にとっての宝物になっていた。彼女は僕のハーモニカが好きだと言ってくれる。それがたまらなく嬉しい。

 

 

「ん、シェラさん、まだ飲んでるのかな?」

 

 

ふと視線を移せば、かなりいい時間なのに導力灯の明るい光が漏れるラウンジ。ちょっと声をかけようかとキッチンに水を取りに向かう。

 

 

「おや、ヨシュア様。何か飲み物をご用意しましょうか?」

 

「いえ、シェラさんに水を持っていこうかと」

 

 

キッチンには執事のラファイエットさんいて、布で銀食器を磨いていた。3年前の大怪我も、さほどの後遺症もなかったようで、剣士としても現役でいけるらしい。

 

 

「ふむ、彼女には何度も深酒を止めるようにと言っているのですが」

 

「はは」

 

「水は私がお持ちしましょう」

 

「いえ。僕がやります。シェラさんとも話がしたいですし」

 

「おや、ではお任せしましょう」

 

 

そう言ってラファイエットさんがピッチャーに冷えた水を注ぎこみ、グラスを二つトレイに乗せて用意してくれる。

 

まあ、酔ったシェラさんと話すなんて真っ平なので、水を置いて注意したらすぐに退散する心づもりなのだけれど。

 

 

「それではお願いします」

 

「はい」

 

 

そうして僕は水を持ってラウンジへと向かう。ラウンジからはシェラさんの笑い声が聞こえてきて、ふと笑みが浮かんでしまった。

 

今は彼女はこの家にはいないけれども、それでも彼女の残り香が、影響が染みついている。それは暖かく僕を優しく包み込んで、僕の冷え切った心までも温かくしてくれるよう。

 

そうして僕はラウンジに足を踏み入れ、後悔した。

 

 

「あら~ん、ヨシュアきゅんじゃな~い。お姉さんと一緒に飲みましょぉ」

 

「……飲め」

 

「え?」

 

 

何故かメイドのエレンさんまでもが酔っていた。シェラさんもいつもより酔っている。二人とも目が座っている。だめだ、シェラさんは二人で飲むと際限がなくなって…、

 

ああっ―

 

 

 

 

「シェラザード様、朝でございます」

 

 

ブライト家の執事、ベルナール・ラファイエット(70)は今日も客である女性、シェラザード・ハーヴェイ女史を起こしにドアをノックする。

 

ブライト家の執事を行うことに不満などない。むしろ伝説ともいえる主人に仕えることは誇りに思うし、3年前にお嬢様を守り切れなかったことが悔やまれる。

 

シェラザード・ハーヴェイ女史も奔放であるが、優秀な遊撃士と聞いている。それにお嬢様のご友人であるし、酒癖の悪ささえなければ、実に魅力的な女性だろう。

 

なので、こうして世話をすることも不満はない。女性相手という事で気を遣う部分もあるが、そういった点はエレンに任せればいいだろう。

 

しかし、今日はエレンの姿が見えない。仕方がないので私自らがシェラザード様を起こしに行く。そういえば、今日はヨシュア様を見ていないな。

 

 

「失礼いたしますよ」

 

 

何度ノックしても返事がないので、仕方なくドアを開けることとする。すると、

 

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!!」

 

 

何故かシェラザード様の部屋からヨシュア様の声が。そして私は見てしまったのです。

 

 

「あ……」

 

「ふむ」

 

 

ヨシュア様がベッドにおられる。その両脇にシェラザード様とエレンがヨシュア様の腕を抱えて眠っていた。

 

 

「なるほど。両手に花と言うわけですな」

 

「ちょ、違うんです! これは…」

 

「安心ください。エステル様には秘密にいたしますので」

 

「あ、はい、ありがとうございます」

 

「ですが、カシウス様には…」

 

「誤解ですから!!」

 

 

両脇の美女たちは相変わらずヨシュア様の腕を抱え込み、どこか艶やかな寝言を口から漏らす。羨ましいことですな。若いとは良いことです。お盛んですな。

 

そうして私は必死に釈明するヨシュア様を置いてドアを閉めたのでございます。

 

 

 

 




ヨシュアはモテる。イケメンですから。もっと女装すればいいのに。

039話でした。

次回から原作突入です。やったー。原作はいるまでに39話費やすとか、わけがわからないよ。

FC編はだいたい原作に近い感じで進みます。とはいえ、エステルは軍関係者の偉い人なので、事件へのかかわり方が違ってくるでしょうが。

今後は不定期更新になります。少なくとも次の金曜日には更新できないと思います。閃の軌跡Ⅱが発売するまでには1、2回更新したいとは思ってます。

しかし、FCプレイしなおしたんですが、ヨシュアの命中率の低さに衝撃を受けました。特に肝心な時の双連撃の悲劇的なスカり率。

なんであんなに攻撃が当たらないの? お前、結社の暗殺者じゃねーの? 漆黒の牙(笑い)じゃねーの? そんな風に思った方は今すぐに挙手。

でも、絶影は便利。何気に必中とか高品質ですね。

クラフトといえば、クローゼのケンプファーが最高に便利。っていうか、もうジークだけでいいよ。必要なのはジークなんで。





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