【凍結中】その一握の気の迷いが、邪なものを生んだ(旧版)   作:矢柄

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「おかしいな…。シェラさんからの手紙がこない」

 

 

戦役が終わり、ロレントの街の復興も始まった。各地のインフラも回復し始め、外国からの手紙もちゃんと届くようになった。

 

私の日常はそれなりに形になって、ユン先生の指導による剣の修行とZCFでの研究という二束わらじも上手く回っていた。

 

そんな七耀歴1194年。最近、シェラザードさんからの手紙が途絶えていた。

 

私のペンフレンドは3人ほどだ。

 

一人はモルガン将軍。色々あって、頻繁に手紙のやり取りを行うようになった。最初は父を軍に戻るよう説得してくれという内容が多かったが、今は軍事技術など真面目な話から、家族の話まで色々な内容の手紙を送りあっている。

 

もう一人はクローゼ。可愛らしいリベール王国の純正のお姫様。綺麗な便箋に綺麗な文字。お城での出来事などを書いてよこしてくれる。

 

私の方も日常でのことを書いて送り、お勧めの本などを紹介しあっている。お城に行くときなどはいつも会いに行っていて、遊んだり、礼儀作法などを習ったりしている。

 

そして、一番古いペンパルがシェラザードさん。旅芸人一座の踊り子として色々な国や地域を旅していて、その時に体験したことなどを書いて送ってくれる。

 

最初は文字も書けなかったらしいが、ルシオラさんに習って、今はちゃんとした手紙を送ってくれている。だけど一年戦役が終わってから、彼女からの手紙は途絶えていた。

 

 

「エステル、どうかしたの?」

 

「いえ、シェラさんからの手紙が来ないなって」

 

「シェラさんって、旅芸人の一座の人だよね」

 

「はい。私が4歳の時に知り合って、それいらいずっと手紙のやり取りをしているんです。戦争中に止まっていた手紙は来ましたが、それ以降は音沙汰がありません」

 

 

エリッサが座っている私の後ろから手をまわして抱き付いてくる。そして顔を私の顔の横にもってきて、手紙を覗き込んできた。

 

エリッサは最近、正式に我が家の養女になった。今でもべったりと私のそばを離れなくて、この前ティオが驚いていた。

 

今いるのはかつて私の家があった場所、今は私の新しい家が完成しようとしている場所だ。新しいブライト家の家は一部だけ完成し、こうして私たちはたまにロレントに戻ってくる。

 

大きな屋敷で、元の家の10倍は広くなった。まだ半分も工事が終わっていない。研究施設が中々完成しないのだ。

 

父はもう少し質素な家の方が良かったらしいが、報奨金はとてもじゃないが使い切れなくて、こんな形でしか消費できないと説いた。

 

それに、お金を使うことはお金を持っているものの義務なのである。天下の回り物であるお金は動かなければ意味がないのだ。

 

それに、あの思い出深い家を作り直すのには抵抗があったのだ。母がいたあの家を建て直せば、きっと私は泣いてしまうから。

 

思い出の品は写真が数枚。それ以外すべて焼けたのだから、もう母のいないあの家を再建したところで、ただの良く出来た抜け殻にしかならない。

 

 

「そうなんだ。心配だね」

 

「はい、何もなければいいんですけど」

 

「そういえば、お茶が入ったよ。あんまり無茶しちゃだめなんだから」

 

「そうですね」

 

「博士号も貰ったのに、今度は何作ってるの?」

 

「超伝導フライホイールです」

 

「何それ?」

 

 

高温超電導物質Bi2Sr2Ca2Cu3O10(BSCCO:転移温度110K)。液体窒素の温度で超電導物質に転移するこの物質を使って、新型の導力蓄積システムを作っているのだ。

 

導力器による超低温の形成などが容易であることから実現可能な装置で、この装置を用いれば莫大な導力を運動エネルギーとして蓄積することが可能だ。

 

軸受に摩擦のないフライホイールであるため、エネルギーの自然減衰はほとんどなく、必要な時に、必要な量の、必要な圧の導力を出力することが可能になる。

 

ここから得られる莫大な出力を背景にすれば導力機関のパワーを飛躍的に高めることが出来るだろう。

 

高温超伝導物質についてもさらなる研究が行われている。現在は既存の通常の元素を使用したものであるが、七耀石を添加することで予想外の結果が生まれる可能性がある。

 

このあたりは他の研究者に任せているが、この世界の物理なら常温超伝導も不可能ではないかもしれない。

 

 

「こっちは?」

 

「金属水素貯留タンクの設計図ですね」

 

 

液体ロケットの燃料である液体水素の研究で生み出された副産物が金属水素だ。『空』の属性による重力制御の超圧縮によって実現したもので、新しい燃料として注目している。

 

金属酸素と金属水素を用いればロケットの大きさを大幅に小さくできるし、なにより私はこれをジェットエンジンの燃料にできないかと思案している。

 

 

「それって飛行機に関係あるの?」

 

「ありますよ。超伝導フライホイールが予定の能力を発揮できれば、エンジンの出力を飛躍的に高めることが出来ます」

 

 

超伝導フライホイールに蓄積できるエネルギー量は事実上無限大だ。故に、それを利用すればターボプロップエンジンのような高出力のエンジンを動かすことができるようになる。

 

亜音速域のプロペラ機を製造することも不可能ではなくなるのだ。残念ながら現在のエンジンでは4000馬力前後が限界だろう。

 

 

 

 

「エステル博士、準備が整いました」

 

「はい、お願いします。グスタフさん、行きましょうか」

 

「おうっ、エステル坊、計器の方は正常だ」

 

 

今日は王立空軍のために設計した新しい軍用機の試験飛行を見学に来ている。戦闘爆撃機トネール、それがこの機体の名前だ。

 

F4Uコルセアをモデルとしたこの機体は大きく、重く、頑丈で、そして速い。逆ガル翼のそれは急降下爆撃機アベイユによく似ており、この機体もそれに似た役割を期待されている。

 

エンジン出力2200馬力、最大速度7200 CE/h。ペイロード1.5トリム。全長11.5アージュ、全幅12.5アージュ、全高4.9アージュ。

 

武装は3.7リジュ重機関砲×1と重機関銃×2。爆装は13リジュロケット弾×8、もしくは0.5トリム爆弾×2 + 0.05トリム爆弾×6。

 

圧倒的な速度性能と攻撃力をもって敵を粉砕する役割を与えられたこの機体は、しかし数年後には時代遅れになる予定でもあった。

 

まあ、それは私の研究が上手くいけばの話で、もしかしたら20年後も現役でいるかもしれない。

 

コンクリートとアスファルトで舗装された滑走路を、その鈍重そうな機体は動き出す。大きなプロペラを回転させて、ものすごい音と風を送り出して、藍色の翼は黒色の人造大地をゆっくりと走り出した。

 

そうして200アージュを超える滑走の果てに、藍色に塗装された幾分寸胴な試作機は空へと舞い上がる。

 

 

「ん、飛んだね」

 

「やりましたな、博士」

 

「まだです。急降下などの機動を確認しないと」

 

「速度でたぞ。時速7060セルジュだ!」

 

「フォコンよりも速いのか!?」

 

 

喝采があがる。確かに速度性能は段違いで、現在のあらゆる飛行機のそれを大きく引き離していた。機体も丈夫なので急降下時の速度は遷音速に達する。

 

しかし鈍重な運動性能は格闘戦にはあまり向かない。強力なエンジンの馬力で無理やり速度を得ているもので、後進翼もいまだ採用していない。

 

試作機は雲の上から一気に急降下する。まるで空を泳いでいるかのよう。鳥よりも早く、力強い。

 

急降下の速度は予定通り遷音速域に達した。マグネシウム合金に七耀石を添加することで非常に軽くて燃えにくく、酸化にも耐性のある丈夫な素材を実用化した成果だ。

 

まあ、例によってこの合金はラッセル親子の開発勝負の果てに完成したものだ。アイデア自体は私が出して、ZCFの素材開発部門に提案したものが、いつの間にか親子喧嘩の舞台になっていた。

 

まあ、かなり質の良い軽量合金が出来たのは良い事なのだろう。

 

 

「速いですな、流石は博士の設計だ」

 

「いえ、予定よりも少し出てないです。もっと速度出せませんか?」

 

 

その後、トネールは所定の機動を行い、地上標的に対する爆撃の演習などを行った。少しばかり問題が生じたものの、軍人たちにとってはおおむね満足できる結果だったらしい。

 

水平速度については予定に達しなかったことが不満だったが、パイロットが無事に飛行を終えたことの方が重要だ。

 

 

「ご苦労様です博士。しかし、戦闘機タイプの方は設計なさらないのですか?」

 

「全て私が設計しては後続が生まれません。それに、今この機体に敵う兵器がこの大陸に存在しますか?」

 

「ははは、なるほど。確かにその通りですな」

 

「それよりもミサイルや誘導爆弾あたりを開発した方が実りがありそうですけどね」

 

「試作テレビジョン誘導爆弾は素晴らしい結果を残したとか」

 

 

高射砲や対空ミサイルが発展するであろう将来を見越し、精密誘導爆弾や空対地ミサイル、巡航ミサイルなどの開発は急がれていた。

 

その中でも、最も簡単に実用化が可能なテレビによる誘導爆弾、AGM-62ウォールアイをモデルとした基本的な設計を行ったのだ。

 

大部分は他の研究者に押し付けたが、それなりの性能の誘導爆弾を完成することが出来たようだ。

 

 

「7割近い命中率が出せたのは幸いでした。それで話は変わりますが、航空機について、エレボニア帝国はどの程度まで作っていますか?」

 

「まったく飛ばせていないようですな。ラインフォルトの連中も軍にせっつかれて顔を青くしているようで」

 

「カルバード共和国は?」

 

「我が国に航空機の購入を打診しているようです」

 

「リバースエンジニアリング狙いですか」

 

「戦役では高みの見物、そして漁夫の利狙い。さらには技術までも盗もうとは浅ましい連中ですな」

 

「あまり共和国を悪しく言うものではないですよ。彼らは我が国の商品を買って、我が国に資源を供給していただく重要な商売相手なのですから」

 

「なるほど。博士の提唱なされた五か年計画ですな」

 

 

軍は傲慢になりつつあった。エレボニア帝国に圧勝した記憶が新しく、そしてどの国も我が国を助けなかったという曲解した認識が彼らを右傾化させているのだ。

 

あまり褒められた傾向ではないが、彼らは彼らなりに厳しい訓練に励んでおり、軍の錬度はむしろ高まりつつあった。

 

そして、軍における私の人気は高かった。父である英雄カシウスこそ軍を離れたものの、私がいればリベール王国は負けない。そして私がいれば、国が危機に陥った時カシウス大佐も軍に戻るだろう。

 

そういった信仰に近い支持が若い将校を中心に私に集まりつつあると聞いている。個人信仰は弊害が大きくて不安だが、同時に物事を動かすには便利ではある。

 

 

「それで、いかがなさるおつもりで?」

 

「エレボニア帝国が航空機を実用化するのは時間の問題でしょう。パワーバランスを考えれば共和国への多少の技術流出は目を瞑るべきかもしれません。まあどうせなら、飛行機産業の全てを握ってやるのもいいかもしれませんね。エグレットの生産も始まりますし、ミランぐらいは売却しても構わないのではないでしょうか」

 

 

大型旅客機エグレットはDC-6をモデルとした4発の旅客機、そしてミランは双発のDC-3に相当する旅客機だった。

 

ミランは双発の1500馬力のエンジンを積んで、乗客を20人~30人を運ぶ。時速4000セルジュ程度の巡航速度しかもたないが、価格が安くて反重力発生装置によるSTOL性能を持ち、扱いやすい機体だ。

 

エグレットは2200馬力のエンジンを4つ積んだ最高時速6500セルジュ・巡航速度5500 CE/hの速度を持つ高速かつ大型の機体だ。

 

座席数50~100席であり、輸送能力も定期飛行船に迫る数字となっている。まあ、その分座席は狭く居住性が良くないが、その分は7倍を超える巡航速度でカバーする。

 

 

「博士、リシャール少佐との約束の時間です」

 

「ああ、そうでしたね。では、後の事は頼みます」

 

「了解しました。総員敬礼!」

 

 

軍人たちの敬礼に見送られて、私は軍用飛行艇に乗り込む。ここのところは私の安全を考慮して長い距離の移動の際には飛行艇が用意されることが多い。

 

私も偉くなったものだなと思いつつ、そういえば私7歳にもなっていないよねと気が付く。飛行艇はそのままレイストン要塞へと向かう。

 

再び敬礼で迎えられて、リシャール少佐と会うため応接室に案内される。リシャール少佐は父の直属の部下だったらしく、父やモルガン将軍がお墨付きを与えるほどに有能だ。

 

今は私が立ち上げを提案した王国軍情報部(RAI)の設立に奔走している。その関係で何度か意見を求められるといった仲だ。

 

金色の髪をオールバックにした、生真面目そうな青年。しかし、視野は狭くなく、思考も柔軟だ。問題解決能力も高く、何よりも強い意志で物事を実行する能力がある。

 

しかしながら思い込みが激しい部分があるかもしれない。加えて父に心酔している部分があり、父が軍を辞する際には必死にそれを止めようと説得したらしい。

 

また、剣士としても優れていて、父から直接指導を受けたらしい。八葉一刀流の五の型<残月>の使い手で、神速の居合を得意としている。

 

後の先を狙うタイプの剣士で、まだまだ私では及ばない。軍には同レベルの使い手がもう一人いるらしく、中々に世界は広い。

 

 

「お待ちしていました、エステル博士」

 

「ごきげんよう、リシャール少佐」

 

 

女の子らしく、スカートのすそを軽く摘まんで持ち上げて、優雅に見えるようにお辞儀をする。このやり方はクローゼに教わった。

 

彼女のそれは本当に優雅で可愛らしかったが、私はちゃんとできているだろうか。まあ、要努力ということで。

 

 

「博士は相変わらず愛らしい」

 

「お上手ですね、少佐。では、本題に入りましょう」

 

「どうぞ、お座りください」

 

 

ソファに座る。そうして少佐は書類を広げた。私はまだ軍の階級を持っていて、色々な功績が積み重なって、今は目の前の人物よりも階級が高かったりする。

 

まあ、将軍にはなりたくないが。書類には情報部の人員のリストやプロフィール、さらには軍上層部の汚職に関する情報まである。

 

 

「もうたるみ始めているのですか」

 

「彼らの腐敗は戦前からのようですね」

 

「まあ、見せしめを行うのも良いでしょう。それよりも中央工房の防諜については慎重に」

 

「分かっています、我が国にとって技術漏えいは致命的ですから。以前に博士より受け取った産業スパイの手法とそれに対する防衛についても研究させています」

 

「そうですか。あまり堅苦しくしないように。優秀な研究者には自由な環境の元で研究させるべきですから」

 

 

産業スパイに対する備えは重要だけれども、研究者の自由を縛るのは本末転倒だ。特にZCFの研究者や技術者は変人が多いので、むしろ野放しにしていた方が良い成果を出してくることが多い。

 

 

「しかし、相当数のスパイを摘発しています。共和国は数が多いですが、帝国はむしろ洗練されているように思えます」

 

「帝国軍情報局は手強いようですね」

 

「はい、軍情報部の設立が遅れていればどうなっていたか…。あとは出来うる限り人材の教育に力を入れています。諸外国における孤児院の設立も開始しました。足はついていません」

 

「国内では?」

 

「いくつかの孤児院をピックアップして融資と人材の派遣を行っています。今回の戦災で親を亡くした子供は少なくないようですから」

 

 

ストリートチルドレンが発生するなど言語道断だ。治安以前に彼ら彼女らは私やエリッサの別の可能性でもある。それに、人材を無駄に消失させるのは人口が少ないリベール王国ではあり得ない。

 

 

「王国の国民は愛国心が強く誠実ですが、純朴な面があります」

 

「学校教育でも防諜について教育する予定でしたね。博士は視野が広い」

 

「予算があるからこそ出来ることです。帝国と引き分けていれば、ここまで大規模な事業は不可能でした」

 

 

お金がなければ何もできない。世知辛いが真理である。今頃帝国では予算のやりくりに頭を痛めているだろうが、そこまで気を遣うほど私の腕は長くはない。

 

 

「移民についてはノーザンブリアを優先しているようですね。やはり、共和国のマフィアを恐れておいでで?」

 

「彼らを身中に入れたくはありませんから。それに、恩というのはそれなりに枷になるものです。しかし、ノーザンブリアだけでは労働力に不足を生じるかもしれません」

 

「移民局にも人員を配置する予定です。情報解析部門も相応のノウハウを獲得し始めました」

 

「現代の諜報はスパイだけの仕事ではありませんからね」

 

「物流、酒場での噂、マスコミの動向。あらゆる全ての情報を統合し、比較し、機密情報に迫る手法。なかなかに人海戦術になります」

 

「反面、リスクが少なく、しかも意外な情報すら手に入れられる可能性がある」

 

 

というか、国家の動向のほとんどは公開されている情報から類推することができる。それはどこに攻め込む気なのかとか、どの国と戦争をする気がないのかとか、そういった情報に至るまでだ。

 

 

「そういえば、噂では博士は人工衛星なるものを計画しているとか」

 

「掴んでいますか。流石は情報部ですね」

 

「実際の性能はどの程度でしょう?」

 

「そうですね。特定地域について上空数千セルジュから解像度数リジュの写真を1時間に一度撮影できる…、そういったものを目指しています」

 

「それは…、軍事の常識が変わってしまう」

 

 

Xの世界の米軍などは解像度にして1cmの衛星写真を撮影する技術をもっているらしい。まあ、そこまでは要求しないけれども。それに本音を言えば、

 

 

「本当は、月に人を送りたいだけなのですが」

 

「ふふ、夢のある話です」

 

「夢と希望が国民を動かすのです。国民が夢を見失えば、早晩その国は滅んでしまうでしょう」

 

「国が民に夢を見せると」

 

「自ら夢を叶えられる強い人間は良いのです。ですが、それが許されない人間の方が多い。それでも夢を見させてくれるなら、自分も、あるいは自分の子供がもしかしたらと思うかもしれません。人は変化しますから、強く変われると信じられるのなら救いがある」

 

 

 

 

 

 

少女が部屋から去っていく。英雄カシウス・ブライトの一人娘にして、彼女自身もまた間違いなく英雄と言っていいだろう。

 

ブライト親子が、彼女がいなければ、おそらく間違いなくリベール王国はエレボニア帝国の一部として併合されていただろう。情報部にいればその事を強く実感する。

 

そして、情報部として動けば動くほどに彼女の異常性、重要性、そしてこの国の未来が彼女の肩にかかっていることを実感させられる。

 

軍神カシウス・ブライトはもはや軍を離れてしまった。だが、彼女はまだこの国を見限ってはいない。彼女が提唱した五か年計画は恐るべき先見性を以てこの国を強化するだろう。

 

 

「ふっ、それに比べて軍のお偉方の醜態はなんだ」

 

「少佐、博士がお帰りになりました」

 

「警護は?」

 

「常に。厳選された精鋭を配置しています」

 

「よろしい。彼女に何かあっては国家の一大事だからな」

 

 

博士号。戦後に彼女の功績を無視できなくなった学閥が彼女に与えた肩書だ。

 

航空機や兵器に関わる工学、航空機の飛翔に関わる流体力学による物理学、新型爆薬などの開発による化学、導力に関わる新理論による導力学の4つの分野で彼女は博士号をとった。

 

これは最年少にして記録的な事だ。しかし、そんな肩書や飛行機開発などの表面的な事で彼女を評価しきることは出来ない。

 

『女神に祝福された娘』。そう、彼女はまさに女神に祝福された存在だ。おそらくはリベール王国と言う小さな枠では収まりきらないだろう、世界最高峰、人類史に名を刻む存在になるだろう。

 

恐るべきはその先見性だ。この身では五か年計画の全容を全て知ることは出来ないが、アゼリア湾に突き出す半島の末端にて、おそらくは世界を揺るがすだろう研究が彼女を主導に行われていることは掴んでいる。

 

大型ロケットを開発している、あるいは新型導力爆弾を製造しているぐらいしか私でも掴めていない。

 

だが、この二つが結びつく先にあるモノは予測できた。敵国の重要な戦略地点にロケットによって直接、強力な導力爆弾を叩き込む。

 

それが実現してしまえば戦争の在り方そのものが変わってしまう。航空機が戦争を根本から変えてしまったように、それは地政学すらも根本から破壊してしまうだろう。

 

そして、それを効率よく行うための産業基盤強化のための五か年計画。表向きは大規模な公共事業にしか見えず、軍拡とは異なり諸外国に直接的な脅威や警戒感を与えない。

 

外国のマスコミは侵略を受けたリベール王国が賠償金を使って軍のさらなる強化に走らなかったことに首を傾げていたほどだ。

 

だが、それこそが彼女の狙いでもある。彼女は工業力の強化こそが国力の増強、外交力の強化、戦争に勝つために必要であることを知っていた。

 

講和条約においてエレボニア帝国との戦略資源の取引枠に言及する条文を追加すべきと彼女が提言したのも、その先見性を垣間見ることが出来た。

 

さらには、軍情報部の設立を彼女が主張したことだ。情報の重要性を説き、もしも情報部が戦前に存在していればエレボニア帝国主戦派の愚かな計画すらも見通して国家戦略を立てることが出来たはずだと彼女は言う。

 

彼女は情報を解析し、操作し、間接的に外国に対して内政干渉を行うべきとまで主張する。そして彼女が論じる情報機関の概念は極めて未来的だった。

 

従来のスパイによる情報収集だけではなく、物流や酒場などでの噂話、メディアの報道を統合した画期的な情報収集手法の概念すら提示して見せたのだ。

 

それだけではなく、メディアの操作によるプロパガンダにすら言及している。自国の、そして時には国際世論すらも操作するという思想。

 

末恐ろしいことに彼女は50年後、100年後のリベール王国がいかになるべきか、そのヴィジョンを明確に持っているのだろう。

 

これほど世界を明確に俯瞰できる能力はカシウス・ブライトに匹敵するのではないかと思うほどに。彼女とカシウス・ブライトほどの視点を持てるのはこの国でどのくらいか。

 

卓越した外交手腕を持つアリシア女王陛下ですら、そこまでの未来を見通してはいないだろう。

 

 

「少佐は博士に心酔しているようですね」

 

「心酔か。ああ、そうかもしれないな。だが、彼女はまだまだ子供だ。純粋で危うい。我々がその辺りをフォローすべきだ。彼女に汚れ仕事などはさせてはならない。泥にまみれる仕事は我々がすべきだ。そうだろう?」

 

「確かに」

 

 

孤児を工作員として引き入れるといった暗部に近い発想も行うが、その姿勢はどこまでも純粋で、透明で、悪意が見えない。

 

彼女は会社設立などを行い資産家になろうとしているが、賄賂などの汚職や腐敗とはどこまでもかけ離れていた。根回しなどの工作は行っても、脅しや騙しなどとはどこまでも無縁だった。

 

そういった部分に腐った連中が取り入ろうと画策するのを私は何度も見ている。そして陰ながらそういった輩の排除を行っていた。

 

もちろん彼女もそういった輩については知識もあり、警戒はしているようだが、どうにも脇が甘い。おいおい知っていくことだろうが、それでも我々が守るべきだろうことは確かだ。

 

この国はユーディス殿下を失い政治状況が不透明になりつつある。そして軍神カシウスはもはやいない。堅実にして誠実なる老将モルガン将軍もまたいつまでも現役でいないだろう。

 

そして王国の未来を支えるエステル・ブライトは子供らしくあまり地位や権力には執着していない。いや、飛行機についてあれほど熱く執着する彼女だ。政治の世界に身を置くこともないだろう。

 

もし政治状況が変化して彼女を排斥する動きが生まれたらどうなるか。王国の上層部の人間ほど彼女を遠ざけようとする者が多い。

 

彼女の支持母体は女王とモルガン将軍、そして王国の下士官たちと民衆に集中している。民衆の多くも彼女の味方であるが、10にも満たない少女が政治に関わることに嫌悪を示すものは少なくない。

 

リベールの将来を考えるなら彼女を生かせる政治がなければならない。そういう意味においては情報部の地位を承ったのは天命かもしれない。

 

彼女を守り、彼女を補佐する人員を確保する。そして蒙昧で頑迷な老害を排除し、より効率的な政治を目指すべきだろう。そのためには―

 

 

「ふっ、行き過ぎた思考だったな」

 

 

軍において最高のキレ者と評価される男は肩をすくめて笑った。

 

 

 

 

王国各地で開発ラッシュと設備投資が行われ、多くの工場が設立されていく。私も携帯音楽プレーヤーや小型ラジオ、エアコンといったモノを開発し、信用できる人間を父や情報部から紹介してもらって会社を立ち上げている。

 

経営は人任せで、商品開発や発明などの研究しかしないのだが、私というネームバリューが銀行からの融資を簡単なものにしている。

 

ZCFと協力して開発した大衆車は不整地においても時速650セルジュでの走行が可能で、かなりの勾配を走破でき4人乗りで価格も安く、プレイヤードと名付けた。

 

その安価でありながらそこそこ高性能な大衆車というコンセプトはリベールだけでなく、多くの国に受け入れられ販路を伸ばした。

 

またオート三輪やバイクといったものも設計・開発され、リベール王国は一転して自動車王国へと変貌を遂げようとしていた。

 

高速道路『オトルト』の建設もZCF製の土木機械の大量投入により順調に推移し、自動車産業は王国の主要産業へと成長をとげようとしている。

 

ツァイス南岸のテティス海総合開発事業も開始されている。世界最大規模の港湾や巨大な製鉄所が建設され、そこから莫大な量の鋼鉄が吐き出されようとしていた。

 

石油・石炭化学コンビナートなども併設されつつあり、ツァイスは世界最大の工業地域へと生まれ変わろうとしている。

 

ロレントとボースの復興も急速に進んでいる。計画的な都市開発により美しく気品がありながら、機能性と拡張性の高い都市が完成しようとしていた。

 

北部山脈の鉱山開発、ダム開発も行われており、ボースの商業都市、ロレントの穀倉地帯が新しい姿になって復活するのも時間の問題だろう。

 

工業力や経済規模が大きくなればなるほど、リベール王国は強くなる。そして、私の考える飛行機も容易に生産できるようになる。

 

宇宙ロケットやジェット機といったものの開発には莫大な資金と工業力、技術力が必要だった。そして、多くの兵器を開発するのにも当然それらが必要不可欠だった。

 

飛行機という新兵器によって勝利を掴みとったリベールの国民にとって、工業力の増大が王国を強くするという公式を受け入れる事に抵抗は無かった。

 

働けば働くほど豊かになって、国も強くなる。そういった信仰がリベール王国を覆いつつあった。戦後復興は目に見えて分かる経済成長と共に熱気を帯び始めていた。

 

そんな時、彼女はたった一人で現れた。

 

 

「二の型《疾風》!」

 

「まだ足運びがなっておらん。重心が高すぎる」

 

 

ユン先生の指導は厳しい。仕事のせいで鍛錬の時間が限られるのがその大きな理由だと思ったが、ユン先生曰く、身体が出来ていない内なのでちょうど良いとのこと。

 

つまり、この厳しさはデフォルトらしい。父が士官学校時代にしぼられたとか言っていたが、その当時の状況はお察しください。

 

 

「エリッサもだいぶん様になってきましたね」

 

「そうかな?」

 

「ですよね、ユン先生」

 

「まあ、意欲は認めるがの」

 

「だって、エステル」

 

「ユン先生は厳しいですね」

 

 

エリッサの剣も相当上達している。ユン先生曰く、集中力がずば抜けているのだそうだ。将来的には一端の剣士になれるとおっしゃっているが、この人は案外素直ではないので直接そういうことをエリッサには言わない。

 

剣といえば、ユン先生にはリベール王国に孫娘がいるらしく、たまに会いに行って剣を教えているらしい。

 

 

「エステルお嬢様、失礼いたします」

 

「メイユイさん?」

 

「先ほど、軍より問い合わせがありましたがいかがなさいますか?」

 

 

大きくなった我が家は、広い庭園とロータリー、伝統的なリベール王国の様式を汲む屋敷になっていた。空から見ればL字型の屋敷は三階建てで、パステルカラーによって品よく彩色されている。

 

窓や縁には彫刻が施されていて、少し高級感があり過ぎるような気もする。離れには少し大きな建物があり、そこは地下もあるちょっとした研究室がある。

 

こうして我が家は大きくなってしまったので、私とエリッサでは手が回らなくなっていた。そしてお金はまだまだあり、何故かまだ増えようとしているので、メイドや執事を雇うこととなったのだ。

 

ちなみに執事のラファイエットさんはかつて親衛隊に所属していたらしく、軍から紹介された我が家の門番でもある。

 

同じく軍から斡旋された、先の戦争で破壊工作を担当していた第五列出身のメイドまでいて、何気にこの家は物騒だったりする。

 

さて、私を呼びに来たのはそんな超物騒なメイドにして、合法ロリの名を欲しい侭にする黒髪のメイドのメイユイさん(年齢不詳)。東方武術の使い手で私専属の護衛を兼ねているらしい。

 

最初はエリッサが一方的にメイユイさんに噛みついていたが、あれはいったい何だったのだろうか。エリッサの鍛錬が進むにつれ、どんどんとやりとりが過激化していったような…。

 

一生懸命なだめたら、私とメイユイさんのどっちが大切かと聞かれて、エリッサに決まっていると答えたら喜ばれた。わけがわからないよ。

 

 

「どんな問い合わせですか?」

 

「何やら、シェラザード・ハーヴェイと名乗る少女が国境警備隊に保護されたようでして」

 

「シェラさんが!?」

 

「はい。以前にエステルお嬢様がその名を口になさっていましたので」

 

「分かりました。ユン先生、すみませんが出かけさせていただきます」

 

「いいじゃろう。エリッサ、しばし集中講義じゃ」「え~」

 

「エリッサ、行ってきます」

 

「うん、早く帰ってきてね~」

 

「メイユイさん、行きましょうか」

 

「はい、エステルお嬢様」

 

 

そうして、メイユイさんの運転で導力車を使ってカルバード共和国との国境の検問であるヴォルフ砦へと向かう。

 

ZCFで開発されたVIP専用車であるグランシャリオは、大衆車のプレイヤードとは違い、防弾性能、大馬力、高級間のある車内空間と洗練されたデザインを持つ高級車ブランドとして販売されている。

 

まあ、設計などに関わったりしたので試作車両を無料で受け取ってしまったのだが、凝り性のZCFの技師たちの手で異様なほどに改造されており、市販のモノとは中身が別物だと言っていい。

 

舗装された道路ならば時速2000セルジュは出ると太鼓判を押されたが、どう反応すればいいのか分からなかった。青色に塗装された曲線を多用する車体は<記憶>にある高級車のデザインを流用したものだ。

 

王都グランセルを取り巻く長城アーネンベルクを迂回する新道へと入り、見事な古代の城壁を横目に森林地帯を抜けていく。まだ導力車は普及していないものの、道すがら大型トラックなどとすれ違う。

 

しばらく進むとリッター街道に沿う車道へと出て、開発が進むツァイスを経由し、トラット平原を抜けてヴォルフ砦へ。

 

鶏が放し飼いにされている非常にのどかな砦で、カルバード方面の国境の緊張の無さを思わせる。兵員の配置も少ないが、まあ、それでも入国検査はちゃんとやってくれているようだ。

 

 

「こんにちは、お勤めご苦労様です」

 

「これは博士、お待ちしておりました。こちらです」

 

 

衛兵に話を通すと、砦の中に案内される。そうして、奥の小部屋に彼女は座らされていた。疲れたような顔、汚れた肌と服。

 

しかし、その銀髪と褐色の肌、そして内包する艶やかな顔立ちはまさしく彼女、シェラザード・ハーヴェイその人だった。なぜ彼女が、一人でこんな場所にいるのか。

 

 

「シェラさん! いったいどうしたんですか!?」

 

「あ、エステル…。ごめんね、呼び出したりして」

 

「いいえ、それよりも、そこの人、すみませんが温めた濡れタオルと飲み物を用意してください」

 

「はっ」

 

 

兵士さんにそう言付けをする。すると、シェラさんは少し驚いた表情で、その後は少し自嘲する様な笑みを浮かべた。

 

 

「本当に、偉くなったのねエステル」

 

「恥ずかしながら。でも、そんなことよりシェラさんの事です。座長さんやルシオラさんは? ハーヴェイ一座の皆さんはどうしたんですか!?」

 

「座長が…死んじゃってね。それで、一座は解散しちゃったの。ルシオラ姉さん、お姉はやることがあるからってどこかへ行っちゃって…」

 

「そんな、座長さんがどうして…。とにかく、私の家に来ませんか? シェラさん、すごく疲れているように見えます」

 

 

兵士さんが濡れタオルを持ってきて、シェラさんに手渡す。シェラさんはだるそうにそれを受け取って、顔をぬぐった。

 

そして、急に泣き始めてしまった。兵士さんはオロオロしているが、メイユイさんに言って外に出て行ってもらう。私はシェラさんの手を握る。

 

 

「大丈夫ですから。私はシェラさんの味方です」

 

「エステル、私、また、一人になっちゃう…」

 

「大丈夫ですから、きっと、何とかなりますから。だから、少し休みましょう」

 

 

そうして手を握り続けて隣に座っていると、シェラさんは泣きやみ、そして疲れからか、それとも緊張の糸が切れたのか、いつの間にか私にもたれかかって眠ってしまう。

 

この人もたくさんの苦労をしたらしい。おそらくは出生も不幸なもので、そしてようやく落ち着けた場所から放り出されてしまったのだから仕方がないのかもしれない。

 

 

「エステルお嬢様、この方を家にお連れになられるのですか?」

 

「はい、問題がありますか?」

 

「身元が不確かです。お嬢様との縁を利用した工作員に仕立てられている可能性があります」

 

「…気の済むまで好きに調べてください。彼女については王国の入管にも記録が残っているはずです」

 

「分かりました。情報部に連絡させていただきます」

 

 

そうして、彼女を連れて私は家に戻ることにする。シェラさんは車の中でぐっすり寝ていて、起きた時には自分が導力車に乗っていることに驚いて目を白黒させていた。

 

 

「じゃあ、ロレントの街は本当に焼けてしまったのね」

 

「はい、私の家も無くなってしまいました。女王陛下からの報奨金で新しい家を建てましたが」

 

「そっか。聞いてるよ。エステルはこの国を守った英雄なんだって、カルバードでも話題になってた」

 

「そうですか。別にそんな肩書は欲しくなかったんですけどね」

 

「…レナさんのこと?」

 

「たくさんのヒトが不幸になりました」

 

「うん、そっか。本当に嫌だね、家族がいなくなるのは」

 

「そうですね」

 

 

そうして導力車は家のロータリーに入っていく。あまりにも様変わりした家に、シェラさんはまた驚いていた。

 

 

「すごいわね。まるで、貴族の屋敷みたい」

 

「お父さんと話し合って、どうするか迷ったんです。元の家を再建するか、それとも別の家を建てるか。お母さんはいなくなってしまったけれど、あの家には愛着がありましたから。でも、なんというか、悲しくなってしまいますので」

 

「そっか」

 

「ああ、それと、紹介しなきゃいけない人たちがいるんです」

 

 

こうして我が家に新しい同居人が増えることになる。それは少しの短い間だけれど、シェラさんとの付き合いはその後も長いものになった。

 

 

 

 

シェラさんが我が家に居候を始めてからおよそ一月が立とうとしていた。一時的にエリッサと微妙な距離を置いていたが、今はすごい仲良しだ。

 

そして、酷く痩せていた彼女の体も、今ではようやく女性らしい丸みを帯びてきて、肌や髪も健康そうな状態になってきた。そうして段々と笑顔を見せるようになってきている。

 

それでも時折不安そうな表情をする。聞けば何もしていない、何もできないことが不安なのだという。私はじっくりと考えていけばいいと言ったが、どうやら頻繁に父に色々と相談しているらしい。

 

まあ、年下の私には流石に相談できないから仕方がないだろう。そんなある日、彼女は私たちに衝撃的な宣言をした。

 

 

「私、遊撃士(ブレイサー)になるわ」

 

「え、シェラさん? 踊り子はやめるんですか?」

 

 

堂々と彼女は言い放つ。そこには強い意志があって、簡単にはブレそうにはなかった。それにどこか、必死さすら感じる雰囲気だった。

 

私は少しだけ気圧されながら問う。彼女は踊り子で、旅芸人として誇り高く踊っていたはずだ。それを捨ててしまうのだろうか。

 

 

「一座は解散してしまったわ。ルシオラ姉さんのことは待っているつもりだけれど、それでも私は自分の力で生きていく力が欲しいの。いつまでも、カシウスさんやあんたに世話になるわけにはいかないもの」

 

「私は気にしませんが」

 

「それでも、ダメなのよ。人に頼ってばかりいたら、何かあった時、また何もできなくなっちゃうでしょ。それに、エステルにもカシウスさんにもお礼をしたいもの」

 

「そうですか。ところで、どうして遊撃士(ブレイサー)なんです?」

 

「カシウスさんに相談したのよ。遊撃士の資格があればどこでも立派に生きていける。私は、生きる力が欲しいの」

 

「なるほど、そうですか」

 

 

きっと、何度も一人になってしまった経験を持つ彼女は生存本能として生き残れる道を探っているのだろう。

 

一人で生きられる。恥じることのない立派な人間として生きる。そうした彼女の強い意志を感じる。私はそれに賛同することにした。

 

一人というのは引っかかるけれど、立派に生きたいという彼女の意思は尊重されるべきだ。

 

 

「でも、時々は踊りを見せてくださいね。私、シェラさんの踊り好きですから」

 

「ん、うん。まあ、気が向いたらね」

 

「ああ、あと、自分で稼げるようになるからって、お酒を飲み過ぎないように」

 

「な、なんでそんな事言われなくちゃいけないのよ!?」

 

「あ、はい。以前、ルシオラさんからそういう話を聞きまして。お酒は百薬の長とも言われますが、呑み過ぎは良くないですよ」

 

「うーっ」

 

 

そうしてシェラさんは父に弟子入りすることになる。私は彼女の人生が実りあるものになるようにと、静かに女神さまに祈った。

 

 

 




なんだか元のプロットよりもエステルの重要人物度が高まって戸惑い気味。

第8話でした。

さて、これからどんな飛行機を出しましょうか。予定はある程度決まっているんですが、そこまでこだわってはいません。Tu-95ベアは必ず出しますがね。E-2ホークアイも出そうかと思います。

ジェット機に関しては第1世代を飛び越えて、第2~第3世代機から制作することになりそうです。原作までの時間から登場するのは第4世代機まででしょうか。

1980年代までに登場した航空機ということになりそうです。

SR-71に関してはスピードレコードを狙うなら作るかもしれませんが、コスパ最悪ですし、領空侵犯することを前提とした偵察機よりも人工衛星の方が外交的にも問題が少なそうです。

まあ、X-プレーン扱いで登場させるかもしれません。X-プレーンで前進翼とかエンテカナードとか全翼機とか可変翼機とかも出してみたいですね。

前世Xが研究していたという設定のパルスデトネーションエンジンとかも登場させてみようかしらん。



今回は七耀石の種類についてです。七耀石は7種類存在し、作中における7つの属性を司っています。その種類については下記の通り。

琥耀石(アンバール) 属性「地」色調は琥珀色
蒼耀石(サフィール) 属性「水」色調は青
紅耀石(カーネリア) 属性「火」色調は赤
翠耀石(エスメラス) 属性「風」色調は緑
金耀石(ゴルディア) 属性「空」色調は金色
黒耀石(オプシディア)属性「時」色調は黒
銀耀石(アルジェム) 属性「幻」色調は銀色
※ 黒耀石のオプシディアはネット上での推測です。

このように7種類に分かれるわけですが、属性同様に性質もまた異なるわけです。また、「空」「時」「幻」は上位三属性と呼ばれ、これらの力が働くのは余程特殊な状況といえることが原作では描写されます。

まあ、ゲームの属性である以上、厳密な考察は難しいのですが、簡単な考察を無理やり行ってみましょう。

「地」の属性における導力魔法は、岩の塊を投げつけたり、地震を起こしたり、相手を石化させたり、あるいは防御膜を張って守備力を上昇させたりします。

まさに「地」属性ですが、考察するなら分子・原子間の結合力の制御といったところでしょうか。

分子間における結合に無理な歪みを作り大規模な地震を起こすだとか、相手の身体の分子構造に干渉して石化させてしまうだとか、空気分子同士を結合させてバリアのようなものを張るだとか、あるいは鎧の金属結合や共有結合を強化して丈夫にするだとかいろいろ考えられます。

「水」に関しては少し考察しにくいです。導力魔法としては、高水圧の水をぶつける、低温を作り出して氷をぶつける、そして回復です。

回復とか。まあ、癒しの水の属性としてゲーム的にはすごく問題ないんですけどね。でも、傷の縫合とかどちらかといえば「地」に近いような…。

現象としては液体…流体、分子の運動の制御でしょうか。

マクスウェルの悪魔を想像させる能力ということで、動きの速い分子と遅い分子を選り分けることで、低温を生み出して水を凝集させたり、高水圧を生み出したり、極低温を生み出したりできそうです。

回復については、止血や内出血の治療などが考えられます。脳内にできた血腫の排除や、血流の制御などによって応急処置を行うといった感じで外傷を治療するみたいな。

体液を制御することで治療を行う的な。骨折の治療とかは分かりません。骨芽細胞でも運ぶんでしょうか? 細胞の活性化とか可能かもしれません。

「火」の属性における導力魔法としては、火の玉ぶつけたりだとか分かりやすいものが多いです。ですが、攻撃力を上昇させるなどの効果を持つ『フォルテ』が厄介な導力魔法と言えるでしょう。

火は生命の象徴とか形而上的な事言われても…。

火の属性はやはりエネルギーでしょう。分子にエネルギーを供給して爆発的に活性化させ、熱分子運動を高速化させる。だいたいはこんな感じだと思います。

エネルギーの供給は細胞に対しても行われ、ミトコンドリアとかミオシンが活性化、パワー増幅的な。

「風」もまた厄介な性質と言えるかもしれません。導力魔法としては突風を起こしたり、電撃を生み出したり。零の軌跡では催眠とか訳の分からない魔法が登場します。

風で催眠? そよ風で眠りに誘うのか? まったく、わけがわからないよ。

風の属性は流体制御に見えます。だけどそれじゃあ「水」と変わらない。まあ、似てる部分はありますが。この場合は簡単に気体やプラズマの流体制御と言えるでしょう。

あるいは『圧』の制御でしょうか? 空気圧や電圧の制御と言えるかもしれません。急激な圧力の差を生み出すことで突風や電撃を生み出すとか。催眠? さあ?

「空」の導力魔法は強力な重力を生み出して相手を圧縮するといったものが多いようです。光を用いて攻撃すると言った導力魔法も存在するようですね。バリアも存在するようです。

一番科学的で分かりやすい属性と言えるかもしれません。空間の歪みの制御。この一点に絞られるでしょう。

空間を歪ませて潮汐力を生み出す。あるいは重力レンズなどを利用して光を集めるといった事でしょうか。

粒子加速器を再現しての荷電粒子砲やレーザーなども再現できそうです。空間を歪ませるならバリアだって作れそうです。反重力発生機関もこの属性を利用したモノでしょうか。

「時」の導力魔法は加速・減速といった補助魔法が便利ですが、アンチセプトといった相手の魔法を封じるといった現象、次元の裂け目を作ったり、あるいは即死効果のある攻撃魔法。

どことなく、悪魔的な性質を漂わせる魔法が多かったりと最も謎が多い属性かもしれません。

時というからには原則的には時間の制御がこの属性の本質と言えるでしょう。

導力機構への超加速により回路をショートさせるというのも可能かもしれません。攻撃魔法は、細胞の急速な老化による壊死を促すといった応用が可能かもしれませんが、悪魔的な部分はいまいちです。

あるいは次元を超える性質を秘めているのかもしれません。碧の軌跡では悪魔召喚がなされており、もしかしたら別次元の悪魔的な存在を呼び出すのかもしれません。

このあたりはもしかしたら「空」の属性と表裏一体の性質なのかもしれません。空間と時間は不可分ですし、重力子は膜宇宙を越えて作用しますから。

「幻」の導力魔法は混乱を生み出したり、総合的な身体能力を上昇させたりといった導力魔法がメインになります。

また不良神父によれば識を司るとのことで、暗示などを解除するといった描写が原作に見られます。非常にわかりやすい属性だと思われます。

幻は認識に干渉する属性。神経系や知覚、精神や深層心理、あるいは上位三属性と言うからには形而上的に魂や観測に干渉すると言えるかもしれません。

原作では因果律への干渉が可能らしいですが、そのあたりも観測に関わるのかもしれません。シュレディンガーの箱の中の猫の生死を観測への干渉によって操作する、量子論の分野に発展しますね。

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