悪魔の妖刀   作:背番号88

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15話

「泥門の中途入学枠は、一人分しかない虎の子の枠。数ヶ月、溝六先生の指導を受けたからと言って、おいそれと決められるものではない。そのヒル魔先輩の意見には俺も賛成だ」

 

 ――だから、これは試験だ。

 

 NFLチーム・アルマジロズの入団テスト。その一次選考の最終項目である試験者がディフェンス・オフェンスの二組に別れての対抗試合。

 ディフェンスのA()チームに組み分けされた長門君……進さんと同じ“勝ちたい”と思った最強プレイヤーのひとりは、オフェンスのB()チームの僕達に鋼のように冷たい目を向ける。

 

「もし、二人がかりで俺を抜けないようなら、泥門デビルバッツにはいらん」

 

 この前のエイリアンズのエースランナー・パンサー君が、一度も抜くことのできなかった“壁”。

 フィールドの空気をひとりで支配するかのような、その重圧。

 ひとりのアメフトのプロ選手を夢見た男の未来に漂う暗雲の如き存在感(オーラ)に、息を呑む。

 

「セナ、言っておくが、“アイシールド21”が敵として俺の前にいるのならば、手加減は期待するな。決して」

 

 

 ~~~

 

 

『……俺はトレーナーだ。勝ちてぇって奴を鍛ぇんのが仕事でな』

 

 酒奇溝六先生。

 栗田さんやヒル魔さん、そして、長門君にアメフトを教えた人。

 借金取りから逃げてアメリカに引っ越した。その借金額は、2000万円……競馬などのギャンブルでやってしまったらしい。

 

『強く、なりてぇか?』

 

 だけど、泥門はこの人の指導が必要だ。

 泥門高校の部活は2年生で終わってしまう。だから、次の秋大会が最後。40日でデビルバッツは最強のチームに仕上がらないと、史上最強が集う大会を勝ち抜けない。

 だから、ヒル魔さんたちは、そこにすべてを懸ける。

 

『俺と糞デブは夏休み中、アメリカで修行する。一緒に残る奴ぁ、その線またいでこっちに来い』

 

 帰りの日本行きの飛行機、その空港で、ヒル魔さんが皆にその一線を引いて示した。

 

『『死の行軍(デス・マーチ)』。無事やり遂げた奴は過去に一人もいねぇ!! ぶっ倒れた奴からその場に捨ててく。命の保証もねぇ。だから強制はしねぇ』

 

 『死の行軍(デス・マーチ)』。溝六先生は、その拷問じみたトレーニングで、選手生命が断たれた。

 今もその膝には再起不能の傷跡が残っている。

 

 でも、勝つには、地獄を見なければならない。今年の秋大会は史上最強が揃っているのだから。

 

『このまま飛行機に乗れば、あったけぇベッドとママの待つ家へ帰れる。

 死んでも強くなりてぇ奴だけ天国行きの航空券(チケット)を破って一緒に地獄へついてこい!!』

 

 誰の意思でもなく自分で決める。

 

『その線を超えたら『死の行軍』に後戻りはねぇぞ。地獄を40日生き抜くか、死ぬかだ!!』

 

 このまま平和に帰国するか、地獄でデビルバット号と心中するか。

 

『むむ無理しなくていいんだよ! 今あの飛行機に乗れば日本で楽しい夏休みに帰れるんだから』

 

 栗田さんは気遣うように言う。

 そう、夏休み中に地獄の想いをしなくてもいい。その必要はない。あの飛行機でもまもり姉ちゃんが皆を待っているだろう。

 日本に戻れば楽しいことがいっぱいある。花火大会やお祭りや、そう楽しいことがいっぱい――

 

 でも、このままじゃ勝てない。

 

「ふ」

 

 最前線で進さんと肩を並べているあの背中を抜くことは決してできないんだ。

 

「やはり、お前は来るか――村正」

 

「高校を出るまでに最強の『刀』に仕上げるという約束を勝手に、ノートだけ残して投げだしてくれましたからね。放置してくれたおよそ一年分を、この一月で果たしてもらいますよ、溝六先生」

 

 史上最強のひとり……“長門村正”という『妖刀(プレイヤー)』が生み出されたのは、赤々とした炉の如き熱意と、この刀匠ともいえる名伯楽に存分に打ち鍛えられたから出来上がった。

 そう、ただ恵まれた体格と才能だけで、真の強者のみが昇り詰めることのできる世界にいるのではない。

 

「お前さんはもう俺の手に負えるレベルからは逸脱しているんだがな」

 

「しかし、王城の進清十郎に敗れました。奴以外ではつけさせぬと誓った黒星……王城を倒すことで禊ぎたい」

 

「庄司のヤツの苦労がよくわかる。よし、わかった。村正はとことん研いでやる。折れるんじゃねぇぞ」

 

「折れません。全国大会決勝の舞台で、百一度目の試合にケリをつけるまでは」

 

 数多の史上最強が集おうとも、頂点はただひとつ。

 それを目指し、更なる苦難を望む。

 

「真っ先に線踏み越えた奴としてここはひとつ手本に『死の行軍』に()く前の自己紹介をしてやれ、村正」

 

「長門村正。背番号88。ポジションはタイトエンド兼ラインバッカー。西で待つ奴と試合うために。西海岸まで己の足で行く。それまで絶対に倒れるつもりはない」

 

 チケットを破りながら宣言して、長門君は、ヒル魔さんたちの隣に並ぶ。

 そのすぐに、またひとり出た。

 

「ほう、モン……キーだっけか?」

()()()! ジョー・()()()ナのモン太!!」

 

「まーだ信じてやがる」

「なるほど。単純で扱いやすい猿……と」

 

 出てきたのは、やっぱりモン太だ……

 

「雷門太郎。背番号80! ポジションはレシーバーっす!! 血液型B型! 一番好きな食べ物はバナナ! 好きな言葉は努力! 好きな人はまも……ゴホゴホ」

 

「もういいもう」

 

「一番好きなスポーツは――」

 

 一番、好きな、スポーツ……

 

 『絶対なるんだ。本庄選手みたいなキャッチの達人に!』とかつて言っていたモン太は、アメフト部に入って、誓った。

 『世界中の後衛にキャッチで競り勝ってやる!』って。

 

 

「今一番好きなスポーツは、アメリカンフットボールです!!」

 

 

 チケットを破り捨てて、そう言い切った。

 

 

 ~~~

 

 

 ……僕も一番好きなのは、勉強じゃ、なくなった。

 小さいころから受験勉強ばかりさせられていた。

 夏が来ても部屋まで聴こえる太鼓の音を耳にして、やっと夏休みだったんだって気づくくらい閉じこもっていた。

 知らない間に夏が来て……その遠い景色をずっと机から眺めてる……

 お祭りは僕にとって、一生縁遠いもののはずだと、思い込んでいた、けど――

 

 嫌だ。一度くらい。僕も一緒に踊りたい!!

 

 用意されたチケットを自分の手で千切って、自分の足で雪光学は線の先へ渡った。

 

 

「雪光学! 16番! ポジションはまだありません!!」

 

 

 ~~~

 

 

「………」

 

「チッ、カッコいいねェ」

 

「夏休み中スパルタは流石にな……」

 

「オーイ、行くぞ十文字」

 

 黒木、戸叶。

 何をするにも一緒だった。

 だが、それを引き留める文句をつい吐いてしまった。

 

「いいのかよ。俺らよりひ弱な奴が戦ってんだぞ。雪光……先輩や、アイシールド21、()()()()。――セナがな」

 

「!?」

 

 あのビーチフットでみた、セナの走り。瞭然だった。

 

「節穴じゃねーぞ。もう知ってる」

 

「ハ?」

「ハァアァ?」

 

 正体隠す理由には、もう興味はない。だけど、俺らにもアメフトをやる、アメフトで勝ちたい理由がある。

 

「周りにいつまでも言わせといていいのかよ。“使えねぇクズ”だって」

 

 警察にも、教師にも、親にも、揃いも揃って俺たち三人をクズ呼ばわりする。

 

「エイリアンズ戦で俺ら一瞬ブロックしたじゃねぇか」

 

 だけど、そんなのを払拭しちまうデカい歓声を耳にしちまった。

 十文字、黒木、戸叶、って、会場中から名前を声高に叫んでくれるあの体験。

 

「勝てば誰もが認める。そうだろアメフトは」

 

 それは、二人もわかってるはずだ。

 そして、

 

「ああ、俺達も一年間じっくり鍛えれば来年の秋は良い戦いができる。今年に選手生命賭ける義理はねェ。だけど、そこにいる、中学時代からずっと筋金入りのアメフトバカども、学校じゃ浮いていてもめげねぇ3人の夢っつうのを、なくそうとした、何にも知らねぇバカはどこのどいつだ」

 

「「っ」」

 

 『暴力事件起こして、アメフトの大会なんか出場停止しにしてやるよ』

 『アッタマいーー♪』

 

 俺達、俺達3人はこれを見捨ててはいけない。そのはずだ。なあ、黒木、戸叶!

 

「意味……ねーじゃねーかよ!」

「俺らアメフトに引きずり込んだ当の本人たちを見殺しにして――」

「俺らだけ勝ってどうすんだよ! なんで一緒に行かねーんだよ!!」

 

 ああ、そうだ!

 

「ったく、十文字に火ぃ点けられちまったけど、どーするよ戸叶」

「当分ジャンプ読めねぇのが痛ぇけどな。たまにはアメコミもいいか……」

 

 十文字一輝、黒木浩二、戸叶庄三、3人揃って天国行きのチケットを破り捨てて、地獄への一線を踏み越える。

 

 

「十文字一輝。51番。ポジションは(ライン)

「黒木浩二ィー。52番。以下同文」

「戸叶庄三。53番。同じく(ライン)

 

 

 ~~~

 

 

「こ……小結! 大吉!」

「うお、いつの間にか線渡ってやがる!」

 

 小結君も、モン太と同じくらいに早く長門君に続いて線を越えていた。

 そうだ。

 これでもう、デビルバッツに本気じゃない選手はいない。みんなで特訓して強くなるんだ。

 

 今度は、勝ちたいから――!!

 

 だから、小早川セナは、自らの意思でチケットを破り捨てる。

 

 

「小早川セナ。21番! ポジションはランニングバックです!」

 

 

 『死の行軍』の参加者は、泥門デビルバッツ全員。

 みんなで行くんだ、全国大会決勝(クリスマスボウル)に!

 

 

 ~~~

 

 

 と泥門デビルバッツは、地獄の合宿『死の行軍』を始めるわけだけど……

 

『兄さんがどこにいるのか教えて! 送られた葉書についてた写真にあなたが映ってたんだから!』

 

 合宿と並行してひとつの問題が浮上した。

 この溝六先生に問い質していた日本人の少女、瀧鈴音さん。彼女の行方不明となっていたお兄さん・瀧夏彦が、溝六先生に最近まで世話になっていたそうなのだ。

 でも、もういない。

 ビーチフットボールの強豪チームTOO TA TTOOに混じりながら、アメフトの特訓をしていたそうなのだが、ちょっと前に『NFLの選手になりに行く』と置手紙を残してどこかへ行ってしまった。

 

『うーむ……瀧のヤツは、プロ試験を受けに行っちまったからなぁ。きっとどこかのアメフトチームの入団テストがやってるところに……』

 

『でしたら、地理と時期的に考えておそらくサンアントニオ・アルマジロスですね』

 

 お兄さんがいると思われる場所に、長門君の知り合いの熊袋さんに調べてもらったら、ちょうど『死の行軍』で通る予定コースに近いところにあるそうなのだ。

 

 そして、なんと瀧夏彦は、実は泥門デビルバッツに入るかもしれない選手。

 溝六先生がアメフトを知らない(アメフトのプロ選手になろうとしてたけど、中学時代は指導者にも仲間にも巡り合わなかったらしい)彼に数ヶ月アメフトのコーチをしていて、ある程度選手として出来上がったら日本に帰して、泥門高校の中途入学枠に押し込むつもりだったのだという。

 

『まだアメフトの基礎しか叩き込んでねぇ瀧は、プロで通用するようなレベルじゃねぇが、面白い素質がある。それに素人でプロテストを受けようっつうバカだからな。ああいう怖いもの知らずは、鍛えりゃきっといい選手になる』

 

 との溝六先生のお墨付きもあって、“泥門にスカウトに行こう”という話になった。NFLの選手になりたいというお兄さんの意思は尊重したいとは思うけど、でもプロ入りは『村正のような逸材でもなければほぼ0%』と先生に断じられているし、それなら一緒に泥門デビルバッツのチームに入ってもらう。

 人数の少ない自分たちはひとりでも新戦力が入ってくれることを望んでいるのだから。

 

 そういうわけで進行ペースの速い長門君と僕が瀧…鈴音、さんを引っ張りながら寄り道して、その試験会場へ。別行動してもまもり姉ちゃんにはバレないように、主務としてタイトエンド候補を回収するというお題目で。

 

 

「やーー!! ちょっとこれ楽しーー! 水上スキーみたい!!」

 

 目前を行く二人乗り自転車を追いかけるように、小早川セナは走る。

 

 ブレーキをかけずに走るには結構な脚力がいるけど、石蹴りはもう長門君の指南でコツを掴んでる。

 だから、“力のある走り”とスケートを履いてる女子一人を引っ張っているんだけど……

 

「その、瀧さん」

「だから、苗字で呼ばないで!!」

 

 声をかけたら、さっきまで気持ちよさそうだった彼女から険しい訂正が飛んできた。

 

()()()兄さんと一緒にされたくないの!」

 

 そこまで、拒絶されるお兄さんはどんな人なんだろ……

 

「“さん”づけもゾワッとするからよして。同じ年くらいでしょ?」

 

 ベン牧場で自己紹介交わした時も言われたけど、女の子を名前で呼び捨てするのはどうにも呼びづらい。

 

「本当、兄さんは……母さんがどれだけ心配してると思ってんの!? 大体家のお金勝手にもってって……それで連絡寄越したらと思ったら葉書一枚とか、まったくもう……!」

 

 憤懣やるせないご様子にますます聞き辛くなってしまったけれど、唾を呑み込んでから口を開いた。

 

「でも、お兄さんにプロになってほしいんでしょ?」

 

 彼女を引っ張る背中に当たってた言葉(ぐち)が、止んだ。

 

「……当たり前でしょ。高校全部落ちちゃって、アメフトしたいのにできなくて、本当にバカだけど、NFL(プロ)はずっと兄さんの夢だったんだから!」

 

 石蹴りしながら走っているので振り向く余裕はあまりないけど、今浮かんでる表情はわざわざ目で見て確認してもなんとなくわかった。

 みんなに迷惑かけてとか文句ばかり口に出てるけど、本気で心配していて、そして、応援している彼女なら、きっとそう思っていると感じた。

 

「鈴音さん…じゃない――鈴音、何ができるかわからないけど、僕もお兄さんの夢、応援するよ!」

 

「……う、ウン」

 

 ……それから、しばらく姦しい彼女の声が聴こえなくなった。

 静かになったのが気になって、ちらりと振り向こうかと顔を動かした時、その傾いた頬を押すような言葉が飛ぶ。

 

「セナも結構力あるんだね! 兄さんよりも体格に恵まれてるムラマサと違って、見た目なんか文化部系だから、アメフトの選手には思えないのに」

 

「あはは……僕は全然長門君のようじゃないから……」

 

「でも、セナも本気でアメフトやってるんだね」

 

「うん。僕もあの背中に追いつきたい。そう思ってるよ」

 

 前を向く。

 道案内のように先を走る自転車、超重量に改造されていて自分の足の馬力ではとても漕げないし、そもそもハンドル無しでなんて普通の自転車でも運転できない。

 だから、僕は僕の武器で勝負する。長門君と同じ量以上を練習できないと、いつまでも目標に辿り着けない。

 

 

 ~~~

 

 

「――鈴音!! なぜここにいるんだいマイ(シスター)!!」

 

 サンアントニオ・アルマジロスの試験会場に到着して……アメリカでプロを目指すと蒸発していたお兄さんはあっさり見つかった。

 

「僕のプロ入りの瞬間を祝福しに来てくれたのかい?」

 

 やたらゴツい人たちが集まる中で、瀧夏彦はベンチに腰掛けて、何とも呑気にこちらに手を振って、鈴音へとジャケットをはだけながら決めポーズ……

 

「ノオオオオオマイ妹! 愛情表現が微妙に激しすぎやしないかいっていやもうホントスミマセン!」

 

 すぐにスケート靴を履いてる鈴音に背中を踏まれたけど。

 

 

「なるほど。あんたが瀧夏彦か」

 

 到着して手分けして探していた長門君と熊袋さんとも連絡を取って合流。

 

「本気でアメリカでプロになりに行くとはな……というか、今年の泥門は定員割れで全員合格だったはずなんだが」

 

「補欠合格の報せが来た頃には、バカ兄さんもうアメリカ行っちゃってたのよ」

 

 全員合格って、あの合格した時の喜びは一体……

 

「それで、兄さん。セナたち……泥門デビルバッツに中途入学枠で入れてもらえれば、アメフトができるんだから」

 

 さっさとここを出よう……とお兄さんの手を引こうとする鈴音だったけど、彼は動かなかった。

 

「――わかってないな鈴音! 僕は日本に収まりきらない男さ。今日この入団テストでプロになるんだ」

 

 すごい自信だ。

 中学までアメフトは独学で実戦も未経験なのに、プロに本気で受かろうとしている。でも、鈴音は呆れた声で、

 

「もうそんなバカ言ってないで、入れてもらいなよ。本当なら、セナたちだって兄さんの馬鹿に割いてる時間はないくらい大変なんだから」

 

「いや、速めの移動ペースで飛ばしてきたからな。この一次試験を受けるくらいなら合流するのは問題ないぞ。な、リコ」

 

「はい。試験も午前中で終わるプログラムのようですし」

 

 この別行動を監督してる長門君が熊袋さんと確認を取りながら、そう答えると、鈴音は席を立ってひとり離れてってしまう。

 

「そ。なら、このテストだけ受けてみたらいいよ。身の程を思い知るでしょ。そしたらセナたちの申し出がどれだけありがたいのがわかって聞き分けが良くなるでしょうから」

 

「あ、鈴音ちゃん。待ってください」

 

 それを追いかけて熊袋さんがいなくなったところで、

 

「君たちも日本からテスト受けに来たのかい?」

 

「いや、その僕は」

「謙遜はアメリカじゃ褒められないぞ! 確かに僕くらいのボディーでないと合格はきついだろうけど、チビでも寸胴でも、努力でカバーできるもんだぜっ! がんばろうよ!!」

 

 う~ん、本人悪気はないのはわかるんだけど、デリカシーないなぁ……

 そこで会場にアナウンスが入った。

 

『間もなく始まりますので受験生の方は会場へ移動してください』

 

 うおおおお! と胴間声が一斉に応じて、会場内にいたゴツい人たちが一斉に大移動。

 その人の波に巻き込まれてしまう。

 

「な、長門君このままじゃ僕たちも試験会場に……!?」

 

「ふむ。“テスト”にちょうどいいな、セナ、一次試験受けるぞ」

 

「ええええええ??」

 

 

 成り行きで受けることになったNFLのプロ一次試験。

 まずは、腕力を測るベンチプレス。

 

「ふんっ!」

 

 長門村正、330ポンド(150kg)!

 

「はあっ!」

 

 瀧夏彦、200ポンド(90kg)!

 

「ひぃぬらば!!」

 

 ちなみに小早川セナ(ぼく)は、100ポンド(45kg)。

 

 高校入学してからも成長している長門君。本場強豪チーム・エイリアンズを圧倒したその腕力は、試験会場を沸かして、試験官・受験生の目を剥かせた。

 

「……な、なかなかやるね」

 

 鈴音のお兄さんは、やや歯軋りして皆の注目を集める長門君を睨みつけていた。

 ベンチプレスの次は、40ヤード走。スピードを測るテスト。

 

『おおお~!! なんて速さだ!!』

 

 長門村正、4秒6。

 

「おお~スピードも結構速い!!」

「ぐぬぬ……」

 

 瀧夏彦、5秒0。

 

 すごい……『死の行軍』の最中で疲労しているだろうに、軽く流している感じでも以前よりも数値が上がっているし、今の走り方も前よりずっとキレが増しているようにも見える。

 これで『死の行軍』が終わったらまたさらにパワーもスピードも一段階成長しているに違いない。

 

(これが、“努力する天才”……そうだよ、長門君は止まってない。まだまだ上を目指しているんだから。きっと進さんも――)

 

「いぃいいぃ!!?」

 

 小早川セナ、計測不能(スタート直後でずっこけたため)。

 

 ……久しぶりの40ヤード走で今の全力タイムを測ろうとしたら、後ろの人に靴を踏まれてしまった。

 

 

『最終テストは組み分けしての試合となります。防具を貸し出しておりますので各自装着してください』

 

 午前中の一次試験の最後は対抗試合。

 実際に試合をして、選手のプレイを見る。

 

「アリエナイイイ!!」

 

 お兄さん……いや、瀧さんが絶叫していた。

 アルファベット順に試験をしていたから、Muramasa(ムラマサ)の後でNatsuhiko(ナツヒコ)とやって、おかげで前の長門君の印象が強すぎてあまり目立たなかったのである。試験官はちゃんと個人個人を見てるんだろうけど、それでも負けた感じはする。

 

「僕は何をやらせてもソツなくこなすのに……これじゃあ彼の引き立て役じゃないか!」

 

「その、瀧さんは柔らかいんですね」

 

 励ますつもりで言ってみたけど、実際に瀧さんはすごく体が柔らかかった

 バレエのように立ったまま真っ直ぐピンと片足を上げてみせる。

 

「アハーーハー! そう! この柔軟ボディーで僕は何でも柔軟にこなしちゃうってわけさ!」

 

 今度は、中国雑技団みたいに股下に上半身を潜らせて余裕綽々。

 何でもできる。ブロックもキャッチも。溝六先生もこの柔軟な肉体に、タイトエンドの適性を見たようである。

 

「『この最終テスト、対抗試合の勝敗が合否を分けるんだ。Bチーム皆で運命共同体。絶対勝とう!!』」

 

 泥門アメフト部の助っ人になってくれる石丸さん……似の元陸上部クォーターバック、ジミィ・シマール。

 司令塔の彼が中核となって、オフェンスのBチームはまとまっている。

 そして、対するディフェンスのAチームには……

 

「ちょうどいいシチュエーションだ。瀧夏彦、それにセナ。このプロ試験で、瀧夏彦の泥門デビルバッツ入りを決めるテストを行う」

 

「え……」

 

 

 ~~~

 

 

『アルマジロズ入団テスト一次選抜。対抗試合のスタートです!!』

 

 試合が開始する。

 Bチーム・クォータバックのジミィさんがスナップしたボールを、グニャっと柔らかな身体を巧く使って相手ブロックを躱して前に出た瀧さんへショートパス。

 それを抱え込んでキャッチ成功して――けど走ろうとする瀧さんの前には、Aチームの88番……長門君がいた。

 

「そっちはダメだ! 瀧さん!」

 

 ショートパスをキャッチして、ランで更にヤードを稼ぐ。

 だけど、その相手は危険。でも、避けるべき相手に真っ向から瀧さんは走る。

 

「なるほど……ビーチフットの連中と練習していたから、その柳のような体を使って柔軟に躱す術を身に着けていたのか」

 

「アハーハー! さっきのテストでは後れを取ったけど、実戦となれば僕の方が上さぁ――」

 

 身体を揺らしながら躱そうとする瀧さん。だけど、そんなフェイントに長門君は惑わされる気配はなく、交錯した時に、捉えたボールを瀧さんから捻じり奪った。

 『ストリッピング』。選手ではなく直接ボールを狙う、エイリアンズ戦でパンサー君にも使用した高等技術。

 

「だが、甘い」

 

「ま、待って!」

 

 ボールを奪った長門君はそのまま走る。瀧さんがそれを阻止しようとするけれど、その腕を手刀で叩き落としてしまう。

 倒れ伏す瀧さん。長門君はそれを置き去りにし疾走。

 

「『さっきから目立ちやがってこのジャパニーズ!』」

「『ゲケケいっちょラフプレイで沈めてやる!』」

 

 Bチームの44番と55番……さっき40ヤード走のスタートで僕の足を踏んづけた巨漢のアメリカ人2人が長門君に迫る。

 

「『BOMBER!!』」

 

 ラリアットタックルをかます44番。だけど、長門君はその長い腕をカウンター気味に体を入れて伸ばす『スティフアーム』で抑えていなし、続けて襲い掛かる55番を切れ味の増したラン。ステップを小刻みに、ノーブレーキで抜き去る――今、僕が習得しようとしている石蹴りランの集大成とも言える必殺の曲がり、『デビルバットゴースト』で抜き去った。

 

「『お化けが……出た……!!』」

 

 そして、独走した長門君は、ディフェンスチームだけれども、そのままタッチダウンを決めてしまった。

 

 

 ~~~

 

 

(88番の彼……受験生の中でも頭一つ二つ飛び抜けてる)

 

 オフェンスチームのゲームを組み立てる司令塔・ジミィは、唾を飲み込む。

 だけどそれでもこちらが一点も取れないとなれば、試験で合格なんてできない。

 

(それで、こっちの21番のちっこい彼。おそらく学生の記念受験だろう。88番に突っ込ませたら危険だ)

 

 ジャパニーズボーイのランニングバックに無理はさせられない。

 ランは捨てて、パス主体で勝つ。さっきは奪われたけど、パス自体は通ったのだ。なら、88番のラインバッカーを警戒し、外側から攻めればいい。

 

 ――え?

 

 試合開始。スナップされたボールを受け取ったジミィの前に迫る影。88番だ。

 その直前で壁役となった37番・瀧夏彦を『スイム』で押し躱すと一直線で投手を潰しに来る『ブリッツ』

 

(大丈夫、急いで投げればこの間合いなら――)

 

 そして、ジミィはいつもらったのかさえ気づけない、強烈なワンハンドタックルに倒された。

 

 

 ~~~

 

 

 このままじゃBチームが負ける。それに瀧さんも……!

 

 小早川セナは次の攻撃、自ら走り、ジミィの下へボールを貰いに行く。

 

 その爆速ダッシュに反応が遅れたジミィはボールを受け取る体勢を見て、反射的にこちらにボールを渡してくれた。

 

(……あれ? なんだこれ)

 

 ボールを持って走って見える世界。

 何もかもがスローモーションになっているようで、本気でこちらを潰そうとしているのか疑ってしまうくらい。

 それを次々と躱していくが、この遅滞した視界の中で、ただひとり、自分と同じ速さで動くプレイヤー――

 

(長門君……!)

 

 抜く。パンサー君にも通用したあの走りをぶつける。

 ブレーキせずに曲がり切る『デビルバットゴースト』を。

 

 

 ~~~

 

 

 ヘソは、体の重心。

 フェイントで動かすことができない、ランナーが本当に進む場所を示す。

 だから、ランナーを止める際にはそのヘソを追う。

 

(見えているぞ、セナ!)

 

 エイリアンズ戦で披露した時よりもさらに磨きがかかっているようで、曲がり幅が大きくなった。

 だが、その走りを“同世代最強ランナーを潰すために”自らも修得した長門村正は我が事のように熟知している。

 

 

 ~~~

 

 

(うぁ!? もう来た! この圧力……!!)

 

 長い腕を伸ばし、僕の身体を抑えに来る。

 もうここで曲がらないといけないのに、捕まってしまう。

 そう……体格が大きいってことは、ディフェンスのリーチも長いということだ。

 

(長門君は進さんよりも腕が長い、初手の制圧が超速で来るんだ!)

 

 一歩で歩幅を縮めてスピードを落とさない必殺の曲がり、『デビルバットゴースト』が、通用しない。

 

「そのランを指南していたのは誰だと思う」

 

 片手の圧力に屈して、倒された。

 グラウンドに横たえる……王城戦で、進さんに捕まった時と同じように。

 

「俺の二番煎じのままの走りでは通用しない。一人では俺を抜けんぞ、セナ」

 

 

 ~~~

 

 

「ブロック!! 僕ブロック大活躍!!」

 

 兄さんがセナを守ろうとブロックする。長い腕で間合いを潰してくるから、それを遮って、セナが曲がり切る僅かの間を稼ごうとする。

 けど、

 

(そんな兄さんごとセナを……!?)

 

 セナが走ろうとした地点に強引にブロックした兄さんを持っていき、道を遮ってしまう。兄さんの身体に邪魔されたセナはそのまま倒れてしまう。

 

「兄さんがこんなに相手にならないなんて……」

 

 器用貧乏だけれども、力があって足も速い兄さんが、まったく相手にならない。同じオールマイティでもモノが違い過ぎるのだ。

 

「セナから話に聞いてたけど、こんなにも無茶苦茶なの村正って……」

 

「はい、村正君は、本場の強豪チーム・エイリアンズをも圧倒した実力の持ち主です。王城ホワイトナイツの進清十郎選手と同じパーフェクトプレイヤーと呼んでも差し支えないでしょう」

 

 元々プロ入りなんか夢のまた夢だと思っていたけど、こんな選手がいたんじゃ兄さんは……

 

 

「『情けねぇ……それでも、Da! 伝説のチームの一員かよ!』

 

「え、あなたたちは……!?」

 

 ~~~

 

 

 どうしてもアメフトがしたかった。

 

 小学生のころからアメフトがしたくてしたくて、けどアメフトのある高校に全部不合格で、家を飛び出した。そして、アメリカで偶然出会ったアメフトのコーチに、アメフトを教わって、そこでできた仲間たちと一緒に練習した。

 ……でも、全員がビーチフットに本気なチームの輪の中にいつまでもいることはできなかった。

 

「惜しかった! 今の惜しかったよ瀧さん。抜けそうだった! まだ僕一人じゃ抜けないけど、瀧さんが協力してくれるなら……」

 

「アハーハー……セナ……くん……」

 

 ブロックに入るのを待ってから、一時停止したランナーは急加速して曲がる。それが、コーチから教わったこと。

 だけど、その肝心のブロックがまったく間に合わないどころか、強引に利用されてしまっている。

 

 

 そして、次のプレイも盾のボクごと、彼の槍の如きタックルは、セナ君を押し倒した。

 

 

「どうして……アリエナイ。プロテストに合格して、華麗にスターになるはずだったのに……。神様に愛されているはずのボクが……」

 

 まるで敵わない。パワーも、スピードも、そして試合経験でも、あらゆる点で負けている。

 

 

「『いつまで倒れてんだ! Da! B級選手!』

 

 

 試験会場にいきなり飛んできた野次は、聞き覚えのあるもの。まったく英語はちんぷんかんぷんだけど、なんとなくその響きだけで意志が通じるくらい密度の濃い数ヶ月を共に過ごしてきた。

 

「あの人たちは、テキサスのビーチフットの……」

 

 顔を上げる。見つけた。試験会場の観客席で、マイ妹・鈴音の近くに彼らはいた。

 

「サイモン……」

 

 テキサスのビーチフットの強豪チームTOO TA TTOO。サイモンたちチームメンバーが倒れて四つん這いから起き上がれないボクへ怒鳴るように、

 

「『Da! アメフトのプロになるってTOO TA TTOOを飛び出したんじゃねぇのか!』」

「『ここまで勝手に他人を振り回しておいて、そう簡単に諦めてんじゃねぇよ、タッキー!』」

「『Da! センセイの教えを忘れたのか! タッキーにはタッキーなりのやり方ってもんをよ!』

「『Da! ビーチフットプレイヤーの俺らにタックルやブロックの練習相手をさせたんだから、その成果をきっちり出しやがれ!』」

 

 TOO TA TTOO……ビーチフットなのに、アメフトの練習に付き合ってくれた。

 そして、認めてもらった時に彼らから仲間(チーム)の証だともらった刺青模様の入ったバンド……

 

「……そうか。そうだったんだ。アハーハー、やっとわかったよ。どっかで思いたかっただけなんだ。自分はきっと何か特別な人なんだって。でも、神様に愛された男なんかじゃなかった。ボクはただの人だ」

 

 センセイに言われてきたこと。才能はない、だけど、それなら格下なりの戦い方がある。

 

「『Da! 神様に見放されたからって、尻尾を巻いて逃げちまう奴は、Da! TOO TA TTOOの仲間(メンバー)と認めねぇ』」

 

「ああ、そうさ、サイモン。ボクは神様にだって打ち勝ってやるんだ!!」

 

 神様はついてないけど、仲間がついている。そう、本気でアメフトをやりたいボクを応援してくれた仲間が。

 刺青バンドで髪をまとめる。そう、ここで本気を出さなければいつ本気を出す!

 

 

 ~~~

 

 

(顔つきが変わった)

 

 このプロ試験会場にまでテキサスから足を運んだTOO TA TTOOの叱咤激励を受けた瀧夏彦の顔つきが変わる。この初めてになるであろうアメフトの実戦で浮かれていた表情が、真剣なものに。

 その意識も浮足立っていた状態から、現状をしかりと見据えた地に足が着いたものに。

 ここからが、本番か……

 

「アハーハー、ムッシュー長門! キミはボクの本気を引き出してしまった。罪な人だ」

 

 …………うん、外見雰囲気はキリッと引き締まったけど、なんか中身の方は変わってないような?

 

(いや、油断はしない)

 

 才能がなくても、肉体に恵まれなくても、それでも闘い方ひとつでトッププレイヤーに肉薄する先輩を知っているものとして、ここで手を抜くのは相手に無礼だと知る。

 

「SET! HUT!」

 

 プレイ開始。

 Bチームはまた瀧夏彦をリードブロッカーに付けたアイシールド21・セナのランプレイ。

 Aチームのディフェンスはラインバッカーの己を中心に据えて、広く、外側を中心に守りを敷いている。セナのランプレイは自分以外には阻めないと判断し、ならば外側に散らしてくるパスプレイに重点を置いて他を守らせる。

 だから、Bチームは、中央にいる自分さえ抜ければ、タッチダウンを決められるだろう。

 

「だが、抜かさん!」

 

 瀧夏彦とセナのランプレイ。

 まずはセナがその身を隠している盾・瀧夏彦を倒し――

 

(! これは、これまでの力押しのブロックとは違う!)

 

 それは、まるでボクシングの上体逸らし(スウェー)のようなブロック。

 押し合わないで、体を捻ったり逸らしたりして、押してくる相手の力を上手く逃がしている。それでいて、大きく上体に無理な体勢を強いながらも相手から離れない。

 足のとられる不安定な砂浜で練習してきた瀧夏彦が身に着けた、柔のブロック。

 倒されないのではなく、倒れにくくする。柔らかく粘りついて相手から離れず、倒れるまでに時間のかかるブロック質。

 

「アハーハー! 言ったじゃないかムッシュー長門。次は僕が勝つって……!!」

 

「“柔よく剛を制す”とはよく言ったもんだな。だが、まだ経験値が足りん」

 

 感心しながら――踏み足に力を篭める。重心移動で押し合いの最中に力を増す圧力。それでもって、瀧夏彦の重心をズラして、倒す。

 “剛よく柔を断つ”。

 

 だが、今の瀧夏彦のリードブロックにわずかの時間を割かれた。

 

 そして、セナはこのリードブロッカー・瀧夏彦が稼いだわずかの時間で、ステップを曲がり切っていた。

 

「それでも、“アイシールド21”は抜かさん!」

 

 

 ~~~

 

 

 盾になってくれた瀧さんが、一瞬、長門君を止めてくれた。その一瞬のチャンスを逃さない。

 長門君が長い腕で間合いを潰してくるよりも早く、『デビルバットゴースト』のステップを踏み切ることができた。

 

(でも――でも、長門君なら必ず諦めずに腕を伸ばす!)

 

 そう、エイリアンズ戦でパンサー君を止めてみせた、力の溜めなく初動する超速の重心移動。

 この長門村正の制空圏に踏み入って、捕えられなかったランナーはいない。一人として逃亡を許されず斬り潰された。

 ただ肉体が恵まれているだけでない、その身体を十全に使いこなせるよう努力し、そして、如何なる相手も止めてみせる執念じみた強い意志を持ってる長門君だから、捕まえる。

 

 ズシリと肩にかかる圧、抜いたと安堵したランナーを潰す『妖刀』の手――だけど、抜き去っても安心など欠片もしなかった。何故ならば、

 

(信じていた。長門君なら絶対に捕まえる! ――だから! ここからまた抜くんだ!)

 

 ――追い詰められた身体の中から、今、噛み合った。

 

 長門君を手本に学習したステップと、10年間走り続けた小早川セナの走りを、ひとつにまとめあげ、更なる高みに達した。

 

 

 ~~~

 

 

 『黒豹』と同じ、セナも実戦経験が少ない。

 だからこそ、対決の最中にも驚くべき速さで成長する。

 

(スピン……!!)

 

 爆速ダッシュから0秒で急カーブをぶっちぎるステップに、スピンを組み合わさった。

 視界から消える上に、もし押さえても回転で抜けていく。言うなれば、竜巻(ハリケーン)ゴースト。

 長門村正の二番煎じなどではない、柔よく剛を制す――弱よく強を制さんとした小早川セナの走りだ。

 

「ついに盗んだものを己の技にしたか、セナ……!!」

 

 そして、オフェンスのBチームは、ディフェンスのAチームより……いや、小早川セナは長門村正に初めてのタッチダウンを取った。

 

 

 番外14.5話

 

 

『おお! 村正君がビーチフットで、水着姿……。それもあの西部の『早撃ちキッド』さんと一緒にプレイしてるとか、写真を――』

『コソコソ泥門を嗅ぎまわってるネズミはテメェか糞パーマ』

『ひぃぃ!!?』

 

 ビーチフットの決勝。それを遠目でコソコソと窺っていたら、いきなり背中に冷たい鉄の感触……それから、銃口が引き金を引く、カチャリという金属音。

 思わず跳び上がってしまい、手に持っていた手帳を落としてしまう。

 

(はぅぁ! 『村正君マル秘情報ノート』が!)

 

 アメフトに関係ないプライベートな情報まで網羅(チェック)している手帳。それに手を伸ばす前に私の背後を取った人に拾われてしまう。

 思わず振り返ると、そこには泥門のクォーターバック・ヒル魔妖一さんがいて、手にした他人の手帳を何の躊躇なくパラパラとめくっていた。

 

「あ、ぁああっ!? 見ちゃ、それを見ちゃダ……!?」

 

 それを見られたらもう……特に村正君にバレたら……!

 握られてはならないネタを見られてしまい、何も言えなくなった。そんな震える私に、手帳の中身を速読し終えたヒル魔妖一さんは……手にしていた銃器を下ろして、手帳を返すよう差し出してくれた。

 

「え?」

 

 それも、友好的な(不気味なくらいキラッキラした)にこやかな笑みを浮かべて。

 

「いやー、村正君にこんな素敵な彼女がいただなんて驚きだ。アメリカにまで押しかけてきてくれるなんて、隅に置けないヤツだねぇ!」

 

「か、かかカカ彼女!!? いえ、私はお隣さんなだけで、その……!」

 

「うん、これは奇遇だ。実はちょうど、長門村正専属のマネージャーを現地調達できないか考えててな~。アイツは泥門の中でも飛び抜けてるからそりゃ特別な合宿メニューを組んでるんだけど、異国の地で単独行動させるのは危険だから、誰か一人支えについててほしかったんだよな~」

 

「専属、マネージャー? それは誰でもいいんですか?」

 

「合宿の間だけの期間限定だから問題ねぇ。ただ、こっちからは報酬はほとんど出せないし……“村正君と四六時中密着取材できちゃう”ような労働環境なんだが」

 

 それは、私の胸にときめく文句だった。

 

「無論、期間限定とはいえ泥門の一員になるんだからそこで得た情報は一切門外秘だがなァ」

 

 折角知り得た情報をブログに載せることはできないのは残念。

 でも、ここで断ったら、代わりに現地調達されたこのアメリカンナイズな金髪美女が村正君にべったり……!

 

「やります。是非やらせてください! 村正君専属マネージャー!」

 

 こうして、私はヒル魔妖一さんにスカウトされて泥門デビルバッツの夏休み合宿に同行することになった。

 

 

(労働力と主務に使えそうな人材ゲ~~~~ット)

 

 

 ~~~

 

 

「は、初めまして熊袋リコです! 合宿の間だけですが、むら…皆さんのマネージャーを務めさせていただくことになりました! よろしくお願いします」

 

「よろしくね、リコさん。私は、泥門のマネージャーをしてる姉崎まもり。こっちの子は主務をしてるセナで、何かわからないことがあったら聞いてね?」

 

「は、はい!」

 

 西部ワイルドガンマンズの合宿地・ベン牧場。

 そこにビーツフットボール大会後、西部の監督との交渉結果、泊めてもらえることになった泥門だったが……どういうわけか、長門村正とよく見知ったお隣さんがこのアメリカにいて、何故か泥門の合宿期間限定のマネージャーに加わっていた。

 ヒル魔先輩から紹介されたときは、思わずバーベキューの串を落としかけた。

 

「泥門と言えば、ラインマン、以前の太陽戦で落第だと記事に書いてしまったことをお父さんが謝らなくちゃいけないって言っていました。ごめんなさい」

 

「ふっ」

「へへ!」

「良いって良いって。俺達もう気にしてねーからそんなの!」

 

 ハァハァ三人組とも話せて、早速泥門と打ち解けているのはいいが……

 

「……ヒル魔先輩、脅迫手帳(アレ)、使ってないんすよね」

 

「何度も同じこと訊いてくんじゃねー、糞カタナ。利害の一致だ。そんなに心配なら傍に付かせるから、テメェが面倒見りゃいい」

 

「わかりました」

 

 よくお世話になってるお隣さんだ。これでリコに何かあったら熊袋さんに顔合わせできない。

 

「ふ、不束者ですがよよろしくお願いします、村正君!」

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