悪魔の妖刀   作:背番号88

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19話

『盤戸スパイダーズのタイトエンドに、伝えておいてくれませんか。貴方のリードブロックの戦術は大変参考になりました。――そして、今年は俺が東京地区大会のMVPを獲ると』

 

 別れ際、佐々木コータローに言い放ったそれは――失念していた宣言だった。

 

『……いねぇ』

 

『え……』

 

 リードブロッカー……それは、ランナーと一緒に超スピードで走りながら邪魔する敵を吹っ飛ばす者。攻撃時はもちろん、キックオフの時等で特に重要になる。

 昨年の東京MVP赤羽隼人は、“最強のリードブロッカー”だった。

 ただ相手を押すのではなく、重心が下がったのを見極めてから押し、ほとんど力を遣わずに相手を倒してしまう手腕は、まさに魔法。

 当時、中学時代の長門村正は、ただ力押しの己を恥じ、己だけでなく相手の重心をも御すというリードブロックの魔術師のプレイを勉強し続けた。そこから押し合いながらその洞察力で後ろに身体が傾いた――タックルで踏み込む直前に、二重の重心移動で増した圧力で倒す術を、伊我保温泉での春休みの個人合宿の末に身につけるに至る。

 

 長門にとって赤羽隼人とは、ブロッカーの何たるかを栗田良寛に教えた山本鬼兵に似た、リードブロッカーとしての教本、純粋に一選手として尊敬していた。

 

 

『そんなスマートじゃねぇ奴は、盤戸にはいねぇ』

 

 

 しかし、赤羽隼人は、盤戸スパイダーズからいなくなっていた。

 昨年の無名だった盤戸スパイダーズを準優勝にまで導いた奇跡のスーパールーキーたちは、帝黒学園へとスカウトされたのだから。

 

 

 ~~~

 

 

 スポットライトの影。

 オフェンスとディフェンスに続く、第3のチーム。

 盤戸スパイダーズを勝たせるためにキックゲームを極める……先輩たちとキックチームで盤戸スパイダーズ全員一緒に全国大会決勝(クリスマスボウル)に行くために縁の下でずっとやってきた。

 

 上手く回ってやがったんだ……ずっと……!!

 

全国大会決勝(クリスマスボウル)行ってキックゲームの力証明すんだ。裏切った連中を見返してやるんだよ! その為には俺が最強のキッカーになんなきゃなんねぇんだ……!」

 

 

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「今示そう、キックの力を。そしてスペシャルチームの力を……!」

 

 

 ~~~

 

 

 9月25日。全国アメフトトーナメント三回戦で当たったチームは、盤戸スパイダーズ。

 緒戦から3-0、7-6とロースコアで勝ち進んできた、キックに特化したチーム。

 大量加入した奇跡のスーパールーキーがいなくなり、昨年から一気に部員数が減って様変わりしてしまったが、伝統とも言えるキッカーの強さは今年も健在。

 泥門と同じ少ない人数で苦しみながらも勝ち進めているのは、トライフォーポイント成功率100%のスペシャルキッカー・佐々木コータローの勝負強さと、選手全員が最後まで諦めない粘り強いメンタルを持っているからだろう。

 

 客観的に見てヒル魔先輩が下した泥門の勝率は、99%。だが、1%でも負けるのなら、全力で挑む。

 

 

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「見やがれ。これが俺ら盤戸スパイダーズ、最強スマートなキックチームの宣戦布告だぜ!!」

 

 試合開幕のキックオフ。盤戸のキッカー・佐々木コータローが蹴り上げたのは、ふわりとした柔らかなキック。

 狙った地点へ正確にボールを蹴り送り、事前にそれを知るチームが一丸となって取りに行く。

 これまでの試合で、Aクラスの強豪を撃破してきた泥門のオフェンス力を警戒する盤戸は、攻撃権を渡したくはない、だからこの『オンサイドキック』という博打に打ってでた。盤戸は唯一どこにも負けないキックゲームで、相手にボールを触れさせずに完封させてみせると……

 

「『オンサイドキック』は、エイリアンズ戦で身に染みてんだよ!」

 

 対する泥門の動きは、早かった。

 NASAエイリアンズ戦で後半にしてやられたプレイだ。十文字らも初めてではなく、このキックでもって逆転されたものとして印象が強く残っているのは当たり前だ。

 だから、させない。

 泥門もまた一丸となって動く。これも事前に、ヒル魔が盤戸スパイダーズは、得意のキックゲームを最大限発揮できる戦法で泥門に勝負してくると……このスパイダーズのキックで点を獲り、『オンサイドキック』で攻撃権を奪う作戦『スパイダーズ(ウェブ)』を読んでおり、ボール回収の連帯に乱れはなかった。

 

『長門君の超絶リードブロックで、盤戸の選手を一掃! ボールを押さえたのはアイシールド21!!』

 

 張り巡らそうとした蜘蛛の網を、『妖刀』が断つ。

 

 

 ~~~

 

 

『いいか、セナ。まず“アイシールド21”というのは、1人の男の名前じゃない。名門ノートルダム大付属中が生んだ100年の伝統、時代の最強ランナーだけが掲げるエースナンバーだ』

 

 ……長門君が教えてくれた話に、僕は開いた口が塞がらなかった。

 “自らを最強と名乗る称号”……そんな恐ろしいものを初心者の頃から何気に宣言させられていた身としては、大変恐縮するしかない。

 けど、

 

全国大会決勝(クリスマスボウル)に……本気で頂上、史上最強と試合いたいのなら、この“アイシールド21”を名乗って()けるような断固たる決意が必要だ』

 

 進さんに勝つ……

 そして、皆で全国大会決勝(クリスマスボウル)に行く。

 

 長門君は、王城戦でも進さんに勝って史上最強のプレイヤーになると宣誓し、西部の陸にもナンバーワンルーキーではなく、東日本最強の選手、東国無双の称号を得ると宣告した。

 負ければ待っているのは嘲笑……だから、長門君は負けられない覚悟を背負って試合に望んでいる。自分の名に懸けて絶対に優勝する、そんな自ら背水の陣に赴く、そういう覚悟を――

 

 でも、まだ僕には重い……!

 

『無理につけろとは言わん。でも、セナにその気があるのなら、俺が手伝ってやる』

 

 そう、今の僕には――だから、強くなりたい。

 

 

『ウソを本当にする、最強のランナーになりたいというなら、ただ走れるだけじゃだめだ』

 

 準々決勝に勝ち上がってくるだろう巨深の筧さんは、長門君のようにその長い腕でこちらが動く前に先手を打って潰してしまうハンドテクニックを持っている。網乃サイボーグズのNASAエイリアンズにも見かけは劣らぬ筋肉質な選手をも腕一本で倒してしまえるのだから、華奢な僕なんて簡単に抑えつけてしまえるだろう。

 

『けどそれは、突っ張りを真正面から受けたらの話だ。俺だって進清十郎の『スピアタックル』をまともに受ければ止められる』

 

 焼肉屋での対決。長門君でも止められた進さんのタックルを、僕が受けられるのは現実的に無理だ。

 

『だから、槍の側面を弾くように、突き出した腕を横から叩く。その腕を使った防御法を習得するために……セナ、お前に空手の『回し受け』を教える』

 

 生まれてこの方、喧嘩なんてやったことがないし、格闘技はもちろん習ってない。

 でも、長門君は言う、『『空手に先手無し』という言葉があるんだが、あくまで自衛の技であって、相手を痛めつけるために編み出されたわけではない』、と防御こそ大事だという話に僕は意欲が湧いた。

 それから、練習後に(まもり姉ちゃんに心配されたけど、“護身術を長門君に習う”と言って納得してもらった)、長門君から空手の防御の基礎中の基礎である『回し受け』を指導してもらった。

 

『別に空手を極めるためにやるんじゃないから、『回し受け』の型を覚えるんじゃなくて、『回し受け』で、腕で相手をいなす感覚を覚えろ』

 

 

 ~~~

 

 

 腕で腕を弾き合う『デビルスタンガン』

 必殺技名がつけられるのは、単に相手をビビらすためだけではなく、ここぞというときにだけ使う特別な技なのだと戒めるため。

 ボールは両手でがっしり抱えるのが基本。でも、腕で相手を弾こうとすればどうしても肝心のボールは片手持ちになる。

 格好の餌食。隙だらけ。突破力も2倍になるが、ボールを奪われるリスクは10倍になるのだ。

 

『だが、NASAエイリアンズのパンサーのランプレイを思い出せばわかるだろうが、巧いランナーはそうした腕の使い方も熟達している』

 

 そうして、腕を使えるほどのランナーじゃないと、きっと進さんには勝てない。

 体格でどうしても負けてしまう僕は、相手の腕に捕まってはいけないし、ならその相手の腕を捌けるハンドテクニックができないと……!

 

 

 試合の終盤。

 開幕から走り続けて、走れなくはないけど、脚の筋肉が疲労してきたときだった。

 

「こんなとこで負けられねぇんだ! 連中のこと見返してやるんだよっ!!」

 

 コータローさん……っ!

 

 ベンチからキッカーのコータローさんの激が飛んで、盤戸のディフェンスの雰囲気が変わる。

 スパイダーズのキャプテンともうひとりの選手が左右から挟み撃ちするように走路を塞いできて、それで僕はボールを左わきに抱え込むと右手を使って、相手キャプテンが必死に伸ばしてくる腕を弾こうとし――

 

「うおおおお!」

 

 けど、その気迫に押し負けてしまった。

 相手の腕を弾けたけれど、そのことに集中し過ぎて走ることに疎かとなってしまった僕は、反対側から迫っていた相手選手に左わきに片手持ちしていたボールを弾き飛ばした。

 そして、そのボールをまた別の盤戸の選手が拾って走る。

 ヒル魔さんが止めてくれたけど、残り40ヤード……コータローさんがキックでゴールを狙える射程距離にまでボールを運ばれてしまった。

 

 

 ~~~

 

 

 この試合、初めてになるキックゲームだ。

 盤戸スパイダーズは泥門デビルバッツの攻撃力を封じるために攻撃権を奪う『オンサイドキック』を行使してきたが、絶妙なキックコントロールを持ったキッカーはいても、強力なリードブロッカーの存在が彼らにはいなかった。

 それでも、ボールを渡せば、止められない。

 千石のエリートたち、柱谷の達人たちを相手に圧勝してきた泥門のオフェンス、盤戸の雑草魂の粘り強いディフェンスでも止め切ることはできない破壊力だ。

 相手の『オンサイドキック』を許さず、またオフェンスは相手を圧倒する泥門は盤戸を零封にしながら50点以上の大差をつけている。

 しかし、相手のキッカー・佐々木コータローの目にまだ諦める気配はなく、チームもまた膝を屈するものはひとりもいない。

 

 だから、最後まで全力を尽くす。

 

「キックゲームだけは、どこにも負けんじゃねええー!!」

 

 キックゲームに特化した特殊部隊。

 エースキッカーのフィールドゴールキックを守護する壁は一層圧が増すも、それを強引にこじ開けて行く。

 

(泥門に武蔵先輩(キッカー)がいない以上、相手チームにキックを決めさせん! それがあの人を待つ後輩としての決意だ!)

 

 必死になってしがみついてくる盤戸の選手を振り切りながら、長門村正は跳ぶ。

 

 

 ~~~

 

 

 赤羽……! これが盤戸の――

 

 

 ~~~

 

 

「畜…生……畜生ォオォオオ!!」

 

 決着がついた……盤戸スパイダーズに1点も許さずに。

 “エースキラー”などとアメフト誌に書かれる『妖刀』長門村正、この試合でもまた盤戸スパイダーズのエースキッカー・佐々木コータローを斬り伏せた。

 

「キックチームの俺らのこと裏切った連中によ。キックがどんだけ重要か全国に行って証明してやんなきゃなんねーんだ!! なのに、なのに……!!」

 

 最後のキック……長門が伸ばした手、その指先がボールに触れていた。

 キックは直接弾かれなくても、相手に突っ込まれるだけで微妙に狂うもの。そして、長門は指先からでもボールを弾き返せるだけの力があった。

 

「……昔、武蔵先輩が言っていたことがあります」

 

 敗者に敢闘賞はなく、勝者が語る言葉はない。

 けれど、手を膝について項垂れるコータローへ、長門は背を向けながら、

 

「――“キッカーが頭に置いていい世界は、ボールと右足だけだ。味方が守ってくれるのを疑ってもいけないが、信じてもいけない”……仲間を思い過ぎるあんたは、あの一瞬、ボールでも、自分の足でもないものが、頭の中を占めていた」

 

 畜生……!

 どうして、どうしても、あの時、長門の姿が、赤羽(アイツ)幻視()えちまった……!

 

 

 ~~~

 

 

 父の転勤だった。

 転勤先で、偶然にもスカウトされた学校があった。

 

 ……でも、正直かなり迷った。

 東京で、ひとりで暮らせば盤戸に残れることはできた。

 転校後の出場停止期間で、秋大会の決勝もしくは三位決定戦にしか出られない。一年を棒に振るかもしれなかったが……迷っていた。

 

 しかし、ちょうどその時に、父が流行り病にかかった。

 病気で床に伏せる父に、一人暮らしをする旨を伝えるには憚られて、快癒した一週間後には、今更転校しても秋大会には出場できる期限を越えてしまい間に合わなかった。

 それに、親元を離れることに遠慮ができてしまった。

 それで踏ん切りがついてしまったんだろう。

 

 だが、まだあのチームに心残りがあった。

 どうして、盤戸スパイダーズに執着しているのだろうか、自分でもよくわからない。

 

「フー、負けてしまったか……」

 

 東日本東京地区の三回戦の結果が載った月刊アメフト誌を置く。

 

 元盤戸スパイダーズ、昨年度東京地区MVP選手、そして、帝黒アレキサンダーズの一軍に属するタイトエンド・赤羽隼人は、あの日からギターを手に取ることがなかった。

 

 

 ~~~

 

 

 それは、工務店で雑務をこなしていた時だった。

 

 ひとりの男が、約束(アポ)もなく、従業員しか通れない場所に押し入って、自身の前に現れた。

 

「キックチーム……俺達の力だけじゃ、届かなかった。けどよ、キッカーがいないチームが全国大会決勝(クリスマスボウル)まで勝ち抜けるはずがねぇんだ!」

 

 玉八ら職人たちが戸惑いながら、こちらと視線を行き来させているが、止めはしなかった。

 

「本当に強いチームになったら戻るつったけどよ……!!」

 

 ただ、黙って、聞いていた。

 

「泥門は本気で強いチームになろうとしてんのに、いつまでもキッカーを揃えないのは、テメーを待ってるからじゃねぇのかよ!」

 

 胸ぐらを掴まれたが、抵抗はしなかった。

 

「テメェは……テメェも……! 本気で、あいつらを、テメェを信じてるあいつらを見殺しにする気かよ!」

 

 握り締めた拳から、血が出てこようとも。

 この男……佐々木コータローの慟哭を受ける。

 

「ああ」

 

 男が人のために血ぃ流してる時は、見殺しにするのが情けだ。たとえそれがかけがえのない友達だろうとも。

 

「テメェ……!!」

「コータロー!」

 

 飛び掛かろうとしたが、慌てて駆け付けた女子マネージャーに抱き着かれて、止められる。

 バランスを崩した奴はそのまま彼女に引きずられながら、工務店から出されようとしたが、そんな状態でも口は叫ぶのを止めなかった。

 

 

「絶対に全国大会決勝(クリスマスボウル)に行くっつう約束があるんじゃねぇのかよムサシィイ!!」

 

 

 ~~~

 

 

「次が決戦だ。正直、泥門は強えよ」

 

「でも、絶対てっぺん行くって筧は言ったんだろ」

 

「ああ。アイシールド21・長門村正を倒す」

 

 巨深の武器である高さを最大限に生かしたフォーメーション『ポセイドン』

 この戦術を使った時、必ず泥門は、本当に強い体を持ったアイシールド21に中央突破をさせてくるだろう。

 そこを何としてでも、押さえてみせる。そう、今度こそ――

 

 

 巨深ポセイドン、独播スコーピオンズを下し、ベスト8に進出。四回戦・準々決勝は、泥門デビルバッツ戦。

 

 

 ~~~

 

 

「おそらく準決勝でぶつかる泥門……アイシールド21、そして、長門村正に勝つためには、『ロデオドライブ』で満足してちゃダメだ……! もっともっと、さらに磨きをかける!」

 

 

 西部ワイルドガンマンズ、裏原宿ボーダーズを下し、ベスト8に進出。四回戦・準々決勝は、江戸前フィッシャーズ戦。

 

 

 ~~~

 

 

「アイシールド21と長門村正、あの二人を倒すには、タックル直前での急加速――120%のスピードで当たる術を完成させる……!!」

 

 

 王城ホワイトナイツ、三多摩マリナーズを下し、ベスト8に進出。四回戦・準々決勝は、狩舞パイレーツ戦。

 

 

 ~~~

 

 

「幻詩人に勝ちゃ次は王者の王城戦だ! そして、決勝は泥門に試合でリベンジすんぞテメーら!!」

 

 

 賊学カメレオンズ、呪井オカルツを下し、ベスト8に進出。四回戦・準々決勝は、幻詩人ファイターズ戦。

 

 

 ~~~

 

 

 東京都地区、トーナメントは残り八強へ。

 強豪のみに絞られた最終局面へと突入してゆく――!!

 

 

 そして……

 

 

 ~~~

 

 

 村正……君は人種の“壁”を超えてみせた。

 だから、俺も今の限界(かべ)を超える――!

 

 

「――40ヤード走……計測タイム、4秒2!!」

 

 

 大阪府地区、帝黒アレキサンダーズ優勝。関西大会……全国大会決勝(クリスマスボウル)までの通過点へ順当に駒を進める。

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