悪魔の妖刀   作:背番号88

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31話

 東京から三時間ほど離れた北関東某県の温泉地・伊我保。

 泥門デビルバッツは、この伊我保温泉街で関東大会へ向けての強化合宿を行う。

 近場であるがわざわざ学校を休んで……夏休みでもないこの時期に一週間も学校を休んでも問題ないのかと思うものもいるだろうが、校長先生よりも偉い某先輩が是というのなら是である。それに遠出しているのにもちゃんと理由はあり、それはこの場所が関東大会の強化合宿にうってつけだからだ。

 

 長門も泥門に入学前の春休みで利用したが、泥門がお世話になるこの北江屋旅館は、“世界に通用するアスリートを育成する”のがモットー。女将の北江杉代が指揮する従業員一同が、粉骨砕身、徹頭徹尾、そりゃもう徹底的にサポートに入ってくれる。練習場所にも事欠かない。閉鎖されている有料道路は存分に『死の行軍(デスマーチ)』ができるし、林道はパスやランをするときの邪魔する壁役に見立てることもできるし、アメフトの試合の出来る練習場(フィールド)もある。

 普段の泥門高校で練習するよりもずっと効率的に鍛錬することができよう。

 

 さらに、ここは調整にいい。

 関東大会まで二週間足らずともなれば、体力や技術の増強を図るだけでなく、調整にも気を配らなければならない。

 アメリカンフットボールは、屋外での戦いだ。

 当然、天候の影響も無視できない。春から始めたばかりのメンバーが大半の泥門デビルバッツは、この東京と2、3週間のズレがある伊我保の気候――つまりは、関東大会時の環境に近い場所で経験値をがっつりと積ませておくべきだろう。

 経験が全てではないが、知っているのと知らないのでは当然心の持ちようが大きく異なる。トレーナーであり師である酒奇溝六は『アメフトは心の勝負』と語る、ここで経験値稼ぎが関東大会制覇に大きく出るはずだ。

 

 ここで前衛組は有料道路で『死の行軍』をしたり、後衛組は林道でヒル魔先輩のスパルタな要求がされるパスやランの練習をしたり、そして、フィールドを借りて作戦の動きを確認する全体練習に勤しんだ。

 

 

 そうして、最終日は仕上げ。

 地元のアメフトチーム、ホットスプリングスとの練習試合。実戦だ。

 

 

 合宿最終日。いつもの練習場所とは違うグラウンド『伊我保町立球技場』。

 町おこしの一環として一昨年建てられたばかりのこの球技場の入口にはお手製の看板が立てられている。そこには墨で達筆に『泥門デビルバッツ対伊我保ホットスプリングス』の文字が書かれている。

 

「練習試合なのにこの観客数って、いったい……」

「四方八方、敵に囲まれてるって感じだな」

 

 スタンドは人で埋め尽くされている。町民総出で応援に駆け付けているのだ。

 非常招集をかけられた非部員の石丸らも揃っているが、ここにいる人間の九割九分九厘は、相手方である。偶然にも同じ合宿に来ていた王城ホワイトナイツが観戦している中立地帯があるもそれだけ。四方八方、敵に囲まれているアウェー状態。初めての土地の、初めてのグラウンドということもあり、完全に泥門は不利を強いられるゲームだろう。

 

「つっても、地元のプライベートリーグってことはよ、ハッキリ言っちまうと、おっさん連中のレクリエーションってやつだろ? 試合途中でバテバテになんぞ絶対。そんな寄せ集め相手にうちが負けるわけねぇ」

「負けたら恥だぜ、恥」

「頭、丸めっか?」

 

 それでも、泥門には自負があった。これまで強敵と戦い、これを制してきた。まったくの素人から初めてこれまで格段に成長してきているという。これは決して虚勢の類ではない。

 関東大会で王城や西武と戦おうとしている自分たちが趣味でやってる素人たちに負けるはずがない。いや、負けてはならない。

 そんなことを考えながらホットスプリングスの陣営へ目をやれば、大柄な大人たちと肩を並べる背番号88が、こちらを腕を組んで睨み据えていた。視線だけで断てそうなほど怖気走らせる眼光を滾らせて。

 これにセナだけでなく、他のメンバーも気づいた。だが、こっちだ、と呼びかける前に溝六が口を挟む。

 

「そいつはどうかな。日々の労働で培われた体力ってのは、そう馬鹿にしたもんじゃねぇぞ。だいたい、お前らの方が若いが、それでも体の出来上がっていない高校生だ。ナメてかかると痛ぇ目に遭う。それに」

 

 村正とやり合うんだからな、と――この最後の文句にはセナも十文字達もギョッと眼をむいた。

 

 

「試合となれば手を抜かん。――本気で、来い」

 

 

 絶対的なエース――長門村正が、敵に回る。

 溝六トレーナーの元チームメイトの武田が監督する伊我保ホットスプリングスとは、春休みにチームに混じって練習をさせてもらっていたので、連携は問題なくこなせる。

 地元のプライベートリーグのアメフトチームだが、長門村正は加入すればチーム総合力が一、二回り底上げさせるタイプのプレイヤーだ。

 

「長門君が、敵に……!」

 

「ああ、そうだ。今日の試合、糞カタナは敵だ。糞デブもぶっ殺すつもりでヤれ。――じゃねーと、こっちが殺されんぞ!」

 

 『デスゲーム』で強豪チームと当たってきたが、ひとつの壁を超えた先にいる超人はいなかった。

 凡人には踏み入れない“天才の領域”にいるプレイヤーは、王城ホワイトナイツの進清十郎、NASAエイリアンズのパトリック・スペンサー、西部ワイルドガンマンズのキッド、そして、大阪――帝黒アレキサンダーズの大和猛、本庄鷹、赤羽隼人……実際に試合して誰ひとりとして圧倒されなかったものはいない。たった一人で戦況を覆し得る正真正銘の怪物は相対するだけで絶望を感じるだろう。

 ――だがこの先関東大会に出場する強豪との試合には必ず天賦の超人とぶつかることになるのだ。

 

「洒落にならねぇ超人ひとりが加わっただけで、ビビっちまうようなら関東大会は勝ち抜けねぇってことだ」

 

 武蔵の言葉に、一年生たちはゴクリと唾を呑む。

 

「マジかよ……」

「長門のヤツ、最近は更に鬼気迫ってきてやがるからな」

 

 あの東西交流戦以降、長門村正の気迫が違う。練習の最中でも息をのむほどだ。

 勝利に渇望しているというのが目に見えてわかる。

 鬼気迫る超人を前に、心臓は委縮し、息苦しささえ覚える。――だけど、後ろ足は引かない。

 勝ちたいのは、自分も……自分たちだって、同じだ!

 人一倍ビビりなセナだったが、長門の威圧から目を逸らさずににらみ返す。

 

「アハーハー! つまり、この試合で僕にエース交代するってことだね!」

「はっ! 上等だぜ。前に十人束になっても敵わねぇってのを前言撤回させてやる!」

「フゴッ!」

 

 本気で勝つ気で来る――そんなチームメイトに、ふっと長門は笑みを浮かべた。

 

 

 ~~~

 

 

 クソッ……!

 頭の中がもやもやする。雑念が思考にこびりついて離れない。

 長門たちが参加したオールスター戦――対決した大阪地区代表の中にいた。

 本庄鷹。

 プレイを見たが、間違いない。昔に野球雑誌に載っていた顔。一目で直感MAXだ。俺が何としてでもなりたかった“本庄二世”。その“本庄二世”として謳われてきたヤツが、高校アメフト界の頂点のチームにいる――

 

 俺は、ずっと、ずっと、キャッチの神様・本庄さんを目指して生きてきた……

 そんな史上最強の野手(フィールダー)・本庄選手から、父と息子のマンツーマンコーチで、すべてを叩き込まれたサラブレットと闘う。クリスマスボウルを制覇するには、倒さなきゃなんねぇ……!

 ――だけど、そんなこと、俺にできんのか?

 

 

「俺を前に、うつつを抜かすとは余裕だなモン太」

 

 

 ヒル魔先輩から限界点をピンポイントで突いてくるスパルタパスに腕を伸ばす、しかしそれを遮る大きな手。

 ボールは指に掠ることもできず、インターセプトされた。

 

 長門……!

 本庄鷹と渡り合った男。そして、練習でも、この試合でも、キャッチ勝負で競り合って、徹底して一度としてボールに触れさせない強敵。『デス・クライム』でぶつかったが、その時よりもこの“壁”はずっと高くそびえ立っている。

 その手の届かないてっぺんから見下ろされるように、言われる。

 

「集中力が散漫してる。それとも雷門太郎の全力プレイはこの程度なのか?」

 

「……っ!」

 

 長門のヤツが、高さも速さも強さもMAXに兼ね備えた選手だってことは知ってる。

 でも今のコイツはそれだけじゃねぇ。

 前まで普段は腹の底で抑え込んでたモンを、迸らせている。そして、ソイツにあてられて俺はビビっちまっている。

 

「ふん、この最近のお前はとことん腑抜けているな。張り合いがなくてがっかりだ」

 

 背を向けられる。

 ボールを捕れず、立ち上がれずに下を向いちまってる俺を一瞥して、離れていく。

 ……こんなザマじゃあ、呆れられちまうのも当然だ。けど――けどよぉ!

 

「……には、……っつうのかよ」

 

「ん」

 

「俺には、敵いっこないっつうのかよ」

 

「………」

 

 本庄鷹と長門のキャッチ勝負は痺れたプレイだった。あれは俺じゃあ入り込めねぇ領域MAXだった。だけど――!

 この試合を映したテレビ画面に腕は伸ばしたまま引いちゃくれねぇ! あれから何も掴めない手は欲している。

 

「最強MAXベストイレブンだか、ダントツの天才超人だか知るかよ! ――おめーは、俺とじゃキャッチ勝負で相手にならねぇっつうのか長門!」

 

 もう我武者羅だった。自分でも何を考えているのかわからない。“届かない”と十年の努力が悟らせてくる直感に胸を絞めつけられて。これを打ち消すのに必死で……必死で……でも、どうしようもなくて!

 答えが欲しい。ブレブレに揺らいじまってる自分が吹っ切れるような、断固たるものが欲しい。

 

「……ようやっと、吠えるくらいにはなったか」

 

 だけど、長門は優しく情けをかけてくれるような性質じゃない。『妖刀』は立ち向かってくるのなら情け容赦なく斬って捨てる。

 

「かかってくるなら死ぬ気でかかってこい。余所見なんてできないくらいに、ボールに飢えさせてやる」

 

 

 ~~~

 

 

「まだだ! まだまだァ!!」

 

 モン太……!

 一本たりともパスキャッチを許さない長門君に、何度打ちのめされようがが、立ち上がる。全身でぶつかってボールに手を伸ばす。泥まみれで。これが関東大会への調整で、練習試合だなんて思えないくらいに必死だった。

 

「はっ!」

「ハァ!」

「ハアアアアアアッ!」

 

 食らいつくモン太に触発されて、十文字君、黒木君、戸叶君が三人がかりでホットスプリングスの大人ラインマンに大きな風穴を開ける。

 

「今度は、セナのランか」

 

 長門君……!

 モン太達と鎬を削りながらも、その覇気が衰えることは一向にない。むしろ盛んになっている。

 あの交流戦で体感させられた空気、余計なものが一切入り込まない全力勝負の世界。この緊張感に身震いする。

 相手は、40ヤード走4秒2の全速で駆け抜けてもなお抜かせない。本物のアイシールド21・大和君の幻像と姿が重なる。

 結局、一対一で抜くことができなかった。今だってイメージトレーニングをすることがあっても、抜き去るイメージが浮かんでこない。

 

(だけど――)

 

 自分が抜けなかった大和猛を抜き去ったあの場面は、目に焼き付いている。

 走り方を教えてくれたのは陸だけど、長門君のランがアメフトの走りの手本にしていた。

 あの時空が歪んだと錯覚するほどの瞬時の後退(カットバック)を自分にも――

 

「ッ!」

 

 急ブレーキからバックステップ。トップスピードの反動が足に来るけど、これで長門君の制空圏から逃れ――――られない!?

 

 後退した自分に、無拍子で迫る長門君。

 一挙一動逃さぬ集中力。獣じみた超反応でこちらの動きをとらえてきた。

 咄嗟に、回し受けの要領で腕を盾にする『デビルスタンガン』。

 

「温いぞセナ!」

 

 0秒で繰り出される片手突きは、進さんの必殺タックルを彷彿させる。長門君はそれをさらに長身を前倒しにしてくるので伸びがある。

 構えたはずの盾は、蜻蛉切(スピア)に穿たれて、片手で抱え込んでいたボールを弾かれてしまった。

 

「迅いが、他の曲がり(カット)よりもブレーキがかかり過ぎている」

 

 突かれたのは、ほんの0.1秒の隙。これまで後ろ走りで逃げたことなんてなかったセナには不慣れなステップだったのだ。だけど、天賦の超人相手にはそれは致命的だった。

 

 今のじゃダメだ。長門君は本気で抜く気持ち(イメージ)を乗せながら、勢い殺さず退がっていた。あのように……ううん、()()な僕は長門君以上にできないと……!

 

(そうだよ。これまでは手本に――ずっと背中を見てきた長門君だけど、僕は長門君を抜きたいんだ! 走りだけは誰にだって負けない!)

 

 その為には、ただ後ろに下がるだけじゃ、ダメだ。捕まったらおしまいなんだから、もっと動くんだ!

 

 

 ~~~

 

 

 モン太やセナ、一年生たちだけではない。

 

「おおおおおお!!!」

 

 純粋なるスピード&パワー、そして、体格体重腕力の差を覆すメンタル。

 麻黄中学から付き合いで最も押し合いをしてきたであろう後輩は、栗田良寛を鬼気迫る勢いで倒す。

 すごい……!

 力比べになるぶつかり合いの練習は、力が同等近くでなければ張り合いがない。技術面はとにかくとして、純然なパワー勝負には先生の酒奇溝六は付き合えない。

 だけど、長門がいた。今、自分をも圧倒するくらいに成長した頼もしい後輩が――

 

『ラインマンが、相手よりも先に倒れるんじゃねぇ栗田!』

 

 そして、薫陶を受け継いだ先輩がいる。

 

『たとえ押されようが倒れるな! 何度だって相手に食らいつくんだ!』

 

 強引に押しのけられたけど、起き上がり小法師のようにすぐ大勢を持ち直す。

 

『この先、お前よりも力のある奴が出てくるかもしれねぇ。だが、そのでけぇ体を張って相手を5秒も足止めできたのなら――そいつはお前さんの勝ちだ、栗田よ』

 

 交流試合で、山本鬼兵に徹底して叩き込んでもらった、壁漢(ライン)魂。重心の据わった栗田良寛の粘り腰が、ヒル魔に迫らんとする長門村正の勢いを阻む。そして、突貫のスピードさえ殺せれば、自力で勝る栗田は負けない。

 

「ちぃっ!」

 

「ケケケ、よくやった糞デブ」

 

 

 ――ヒル魔より投じられたボールは、長門が精一杯に伸ばした手を掠め、空白地帯を突いていた。

 暴投か? いや違う。

 

 ノーマークだったレシーバーが、この『速選(オプション)ルート』に飛び込んでいる。

 

 司令塔・ヒル魔妖一と狙い所をリンクする頭脳的なプレイ。

 

(だけど、『速選ルート』は、王城には通用しなかった)

 

 雪光学は、東京地区大会決勝で、進清十郎を中核に据えて敷かれた穴のない王城ディフェンスに、一本もパスをキャッチすることが敵わなかった。

 

(絶対に負けられない関東大会には、王城ホワイトナイツときっと当たることになる!)

 

 あの鉄壁の布陣に、気づかない(ノーマークの)パスコースを速選するだけでは足りない。

 気づかれないように(ノーマークで)ポジションにつく技術が必要だ。

 

(僕は、スタープレイヤーにはなれない)

 

 自分は弱い。

 見るからに弱い。

 だからこそ、油断を誘える。他に意識を割く“余裕(すき)”が生まれてしまうはずだ。

 この自分の“弱さ”を活かした闘い方で渡り合う。

 これを武器として効果的に発揮できるのが、マークを他所に目移りさせる視線誘導(ミスディレクション)。手の仕草や目の動きなどで相手の視線をボールや他の選手に誘導することで、マークを外させる。

 その為にはもっと相手を見る、視る、観る。その癖を事細かに洞察しなければならないけど、勉強は得意なんだ。僕は不覚を突くくらいのアドバンテージがないと、この先戦えない。

 

(僕は、スタープレイヤーにはなれない。だけど、チームを勝たせられるようなプレイヤーになるんだ……!)

 

 眠れる光学兵器だった雪光学の、光学迷彩術――

 机上の空論を連戦に次ぐ連戦で『デスゲーム』で試してきて、ようやく形になってきた。

 

 

 ~~~

 

 

「まったく、長門村正がひとりはいるだけでプライベートリーグのアメフトチームがここまで戦えるようになっちまうとはな。お前が鍛え込んできた『妖刀』にはつくづく驚かされる、溝六」

 

 千石大の元チームメイト・武田はそういってくるが、村正は元々どこの高校でもエースを狙えるポテンシャルを持った天才。出会ってきた選手の中でもとびきりの原石だ。

 だが、村正はエース級のプレイヤーなどで満足しない。

 だから、鬼のしごきで骨の髄にまで染み渡らせるくらいに基礎を徹底させた。頂点を制覇できるようになるには必要だからだ。そして、小手先の技(テクニック)など二の次として最も大事な勝負強さ(メンタル)を教え説いた。

 今や村正は、溝六が思い描いた、何処までも鋭く、かつ柔軟な一本の刀の如き、最高のアメリカンフットボールプレイヤーへとなれただろう。

 だが、村正は、負けた。

 遠く離れても互いを意識し合える宿敵(ライバル)との試合に負けた。

 

 村正は大和猛に負けねぇだけの能力はあった。それは間違いない。最後の最後で一歩先を行かれたが、帝黒の連中を圧倒していた。

 しかし、試合は負けた。

 酒奇溝六はその要因を、チームの練度と見る。

 

 大阪地区代表と銘を打っているが、実質帝黒学園。対し、東京地区は他校から寄せ集めのチームだ。どうしても練度で劣る。

 最後のワンプレイ、『殺人蜂』からの一斉ランは、全員がエース級スプリンターの帝黒アレキサンダーズの強みが出ていた。

 東京地区の最強選手が集ったドリームチームに勝った最強チームに勝つには、より固い結束を持たなくてはならない。

 共に地獄を駆け抜け、修羅場を潜り、同じ夢を目指せる戦友(チームメイト)――そいつらと一丸とならなくては、頂点には届かない。

 

(負けて悔しいだろう村正。夢に見るほど悔しがっているはずだ。だが、今のお前がさらに強くなるには、お前ひとりじゃできねぇんだ)

 

 だから、思いっきりチームとぶつかれ村正。

 お前にも食らいついてくる負けん気の強い連中だ。きっと強くなる。

 

 そう、抜き身の妖刀は名刀とは呼べない。刀身収める(チーム)無くして名刀には仕上がらない。

 

 

 ~~~

 

 

 王城の一年でレギュラー入りを果たしているのは、オフェンスタックル・鈴木英二、ランニングバック・猫山圭介、ディフェンスライン・渡辺頼広と、謹慎でこれまで一度も試合に出れていないけれど同じディフェンスラインの猪狩大吾。そして、背番号41番をもらった自分……

 ディフェンスチームのラインバッカーとしてレギュラー入りをしているけれども、しかしそれはそれまでラインバッカーに入っていた3年の具志堅隆也先輩がキッカーにコンバートすることになったからだ。それまで艶島林太郎先輩と兼任してキックゲームを担当していたが、関東上位のチームにはキック専門のプレイヤーが必ずいる。王城ホワイトナイツに欠員だった専門職に、具志堅先輩は専念することにしたのだ。今年が最後の3年生として、どうしても全国大会決勝(クリスマスボウル)へ行きたい。ラインバッカーのレギュラーだったのに、チームが全国制覇するために、レギュラーだったラインバッカーのポジションを他に譲ったのである。

 小学生の頃からタッチフットの選手で、王城学園中等部からアメフト部に入っている生え抜き。キツい練習から一度だって逃げたことがない。――それでもレギュラーに求められるレベルは高い。

 

 『潜在能力(ポテンシャル)は、きっとお前の方が上だ』と言ってくれた具志堅先輩。『力の使い方は巧い』と庄司監督や高見先輩に言われている。

 でも本来であれば控えであるはずの自分は、当然実力は他より劣っていて、それだけ『巨大矢(バリスタ)』を実践できるようになるまでチームの足を引っ張ってしまっていた。

 

 だからこそ、だ。

 王城ホワイトナイツは完成されているチーム。だから、伸びしろがあるとすれば、きっとそれは自分だ。自分がもっと王城のレギュラーに相応しく実力を身につければ、チームは底上げされるはずだ。

 

 でも、関東大会前まで猛練習に励む理由はそれだけではない。

 

 渡辺は東京ベストイレブンに選ばれていたけど、東京地区のナンバーワンルーキーではない。

 『進清十郎と同じ逸材』と言われて、憧れた『スピアタックル』をものにしている一年生(ルーキー)がいる。

 

 

「おう、ようやっと来おったわ。泥門の奴ら」

 

 

 大田原先輩の声に反応し、視線を追えば、いた。

 凶笑を湛える金髪のヒル魔妖一を筆頭に泥門デビルバッツ――王城ホワイトナイツと因縁深い東京第二位がぞろぞろと会場入りを果たしている。

 顔つきが、違う。顔や腕やらに過剰なくらい包帯を巻いているものが多い。全員が一皮剥けたようで、決勝でぶつかった時よりもただならぬ凄みがある風格を漂わせている。創部二年目で、大半が今年始めたばかりのアメフト初心者で構成されるチームとはとても思えない。

 そして、注目をされてることに緊張しているように動きが角張ってるアイシールド21――進清十郎先輩が注目している――小早川セナに続いて、一番最後に“奴”が顔を出す。

 

(長門村正……!)

 

 ついつい、目に力が入ってしまう。

 怪我で、地区大会決勝で対決することは避けられたが、間違いなく泥門デビルバッツの中で最も警戒すべきプレイヤーで、角屋敷吉海が最も敵視する相手。

 

 身長163cmで、体重52kg。あの背番号21よりも少し大きい程度で、同じ一年生の猫山と肩を並べる程度の小柄な体格。桜庭先輩のような長身長はなく、進先輩のような高い身体能力だってない。だけど、長門村正はそれを両方とも持っている。

 

 だけど、負けたくない……!

 長門村正に勝って、俺をレギュラーにしてくれた王城ホワイトナイツが間違ってないと証明する!

 

 

 ~~~

 

 

「おおおおおおお!!」

 

 関東大会トーナメント抽選会。

 月刊アメフトの撮影会も兼ねており、全チームの出場選手が会場内に集まっている。こういう場の空気に慣れていないセナやモン太らは、しきりにきょろきょろと視線を巡らし落ち着きがない。ミーハーな瀧鈴音も一緒になってキャーキャー騒いでいる。

 

「最強MAX超人大集合か!」

「そうか、この人たちが皆……地区大会で他のチーム全部蹴散らして勝ち上がってきたんだ……!」

 

 セナの言う通り、どこも地区大会を勝ち抜いてきた強豪チームだ。

 足長俊足の北海道No.1スプリンター・狼谷大牙が率いる岬ウルブス。

 力押しのランを得意とする岩重ガンジョーを中核とした茶土ストロングゴーレム。

 情報があまり出回っていないが、泥門と同じ初出場でSIC(埼玉・茨城・千葉)地区の代表・白秋ダイナソーズ。

 それから、同じ東京地区で争った西部ワイルドガンマンズに王城ホワイトナイツ、それから神奈川地区第二位・太陽スフィンクスといった試合したことのある顔見知りも揃っている。

 そして、まだ会場入りはしていないみたいだが、神奈川地区第一位でこの関東大会九連覇中の――

 

「ええ、番場さん……??」

「ど、ど、どんな地獄の特訓をしたら、あんな傷に……??」

 

 『デスゲーム』に参加せず、傷だらけとなった太陽スフィンクスの番場衛を見るのがはじめてな栗田先輩とセナが驚く。

 それを言うなら、泥門(うち)も似たようなものだ。特に荒療治をしたモン太は顔中にぺたぺたと絆創膏が貼られていたりする。

 試合に支障が出るような負傷はさせていないが、少々やり過ぎた。だが、こちらも手を抜く訳にはいかなかった。

 

「ケケケ、連中、練習試合じゃ負け越してっからな。番場は負けちゃいねぇが、それで納得するようなタマじゃねーだろ」

 

 どのチームも、関東大会に向けて万全の準備をしている。どこと当たっても侮れないだろう。

 

 そして、まず東京地区第三位の西部ワイルドガンマンズからトーナメントのくじ引きが行われる。

 

「5番」

 

 あまり表舞台に立とうとしないキッドに代わってくじを引いたのは、甲斐谷陸。

 この兄貴分な幼馴染の堂々とした立ち振る舞いに、真っ先に反応するセナ。

 

「西部はトーナメント表の左っかわか!」

「!! 何ィ左か! ――だとどうなんだ?」

「いや、最初の人はどこでもカンケーないでしょ」

 

 天然ボケをかますセナとモン太の二人。鈴音の指摘(ツッコミ)に、がっくりと軽く肩を落としながら長門も同意する。

 そこへ、さっさと場を後にした甲斐谷がこちらへ来た。

 

「泥門、反対側のAブロック引けよ。西部は泥門にホントの決戦をする決勝で雪辱を晴らすんだからな」

 

 この前は同じ地区代表チームでプレイしたが、甲斐谷は自分たちを最大のライバルだとみなしているようだ。こちらも、一度は勝ったが西部は油断ならぬ強敵だと思っている。

 

「そうだ。陸とも進さんたちとも……皆と決勝で闘うんだ!!」

「いやそれはむり」

 

 セナのボケがひどくなっている気がする。いかん。姉崎先輩に怒られたが、この前の練習試合で打ちのめし過ぎてしまったか。いや、でも今こうしてミイラ男ばりに包帯が巻かれているのは姉崎先輩の過保護が多分に占めていると思っている。

 その後、西部の次に壇上に上がった白秋ダイナソーズがくじを引いてから、泥門の番。

 

「ほら、次がウチらだ。行ってこい、セナ」

 

「ええええっ!? 長門君が出るんじゃないの!?」

 

「俺は俺でやることがあるみたいだからな。ほら、鈴音、エスコート任せた」

 

「まっかせてー!」

 

 長門がくじを引いてもよかったが、それよりもやることができた。そう、たとえば(アメフト流の)挨拶回りとか。今もヒル魔先輩たちが、王城の高見伊知郎先輩と(聴こえないが真っ黒い内容で)にこやかに会話(という腹の探り合い)をしている。他にも大吉は『デスゲーム』でぶつかった太陽の連中とパワフル語で語り合っていて、十文字・戸叶・黒木達に雪光先輩に夏彦ら、太陽戦に参加した面子も付き添って挨拶に行っているようだ。

 なので、チームの看板選手であるセナを少し強引に押し出せば、ノリノリな鈴奈に連れられて壇上へ。

 それを見送る長門だったが、スッと視線を横へ流す。

 王城からも何やら強い視線を覚えるが、それよりも肌が火傷するくらい熱い執着が長門に向けられている。たとえるのならば、恐竜のような巨大な肉食獣に睨まれたような悪寒。

 

 そして、長門が背中をなぞる殺気ともまがう戦意の行く先へ振り向いたその時、腕を、捕られた。

 

 

「やはり、ビクともせん。常人なら手首の骨が砕ける力で掴まれていてもまるで動じん」

 

「いきなり物騒なことを言うなあんた」

 

 

 長門の手首を捕まえたのは、長門以上の体格をした大男。額に傷跡をつけ、隈取のようなペインティングをしている厳つい面相。シャツを張り裂けんばかりに押し上げる肉体は屈強にして重厚。こうして肌を触れ合わせているだけで力量を把握できる。コイツの力は桁外れであると。

 そして、長門の腕を掴んでいる握力は、万力の如く凄まじい。長門も振り解こうと軽く抵抗をするが、離せない。もっとも長門も引っ張ろうとする力に対し、大地に根を生やすかの如くどっしりと重心を落として半歩たりとも譲らない。

 そんな傍目ではわかりにくい拮抗した綱引き状態の中で、大男は笑った。

 

「何、挨拶代わりだ」

 

「挨拶というのは、こういうものだ」

 

 掴まれている右腕とは逆の左手で、大男の右手を掴まえて、握り締める。

 ミシィ、と不気味な音がしたが、どちらも何てことがないように笑みを交わしている。

 

「泥門の長門村正だ。よろしく」

 

「ククッ、俺の手指を鳴らすとは。これは随分と心地良い挨拶だ」

 

 互いに互いの腕手を取り合い、睨み合う両者。その間に慌てて割って入る男。

 

「どれ、これはこちらも」

「ちょいちょいちょーい! 勝手に何やってんの! あ、挨拶! 挨拶ね~! じゃ、俺もよろしくね~!」

 

 無理矢理感があるが、握手するその手を取って、強引に打ち切らせる。まるで一触即発間近の均衡を見つけたような慌てぶりである。

 ジャケットスーツを着こなし、ピアスをつけている。前髪を一房染めているその男は、確か、泥門の前にくじを引いていた白秋の選手だ。

 

(どうしてもっつうから連れてきたけど、場外乱闘とかよしてくれよな峨王。ここで怪我人を出されちゃあこっちももみ消せない)

「何、“挨拶”程度で壊れる相手ではない」

 

 長門に聴こえぬよう小声でお小言をしているみたいだが、その大男はまるで意に介している様子もなく、こちらから背を向けた。

 

「帰る。これ以上は抑えきれんからな」

 

「おい勝手に……ったく」

 

「長門君、2番を引いて西部と逆ブロックに……あれ、長門君、その人は?」

 

 それと入れ替わる形で、くじを引いたセナたちが戻ってきた。集まってきた泥門の連中に、やれやれと男は肩を竦めて、用意してあったそのコーラの瓶を差し出してきた。

 

「お近づきに……それから、いいもん見せてもらったお礼に、どうぞ」

 

「お礼?」

 

「見たよ交流戦。惜しかったね。帝黒学園に一点を争ったゲームは初めて見た」

 

「あ、ありがとうございます」

「……僅差だろうが、負けは負けだがな」

 

 心からの称賛を送られて、セナは恐縮したようにぺこぺこと頭を下げながら両手でコーラ瓶を受け取る。

 

「俺は白秋ダイナソーズの投手(キューピー)やってる円子(まるこ)ってんだ。『円子』って苗字、なんか女みたいだろ? だから『マルコ』って片仮名のノリで頼むわ」

 

「は、はぁ……」

 

「円子じゃなくてMarcoならイタリア男っぽくてチョイ不良(ワル)風味って奴? まぁ、同じブロックにいるみたいだし、当たることになったら、お手柔らかに頼むよ」

 

「ふん。あれほどのチームメイトを揃えておいてよく言うな」

 

 円子は誤魔化すよう笑みを顔に張り付けたまま、長門たちの前から立ち去った。

 

(握手した時の手の皮は固く、相当に練習を積んできている証だ。一見優男を気取っていたみたいだが、あれは骨太だろう。それに、何よりもあの目……底を見せようとしない狡猾さに、“帝黒学園”と口にした時に一瞬、飢えた者の輝きを見せる貪欲さが垣間見えた。……あれは、ヒル魔先輩と同じで、実力差に関係なく油断ならないタイプだ)

 

 白秋ダイナソーズが引き当てた番号3で、どうやらセナは2番を引いたようなので、ちょうどその真下になる。もし勝ち上がれば二回戦で泥門デビルバッツと当たるかもしれない。

 

『東京代表王城ホワイトナイツ』

 

「屁!!」

「平仮名の“へ”じゃない。7だ7」

「へ?」

 

 番号の球を斜めに持った大田原に的確な指摘を入れる高見。

 

「王城と……逆ブロックになったね」

「決戦は決勝か。地区大会ん時と同じとはいかねぇ!」

 

 関東大会の本命のひとつとして注目されている東京地区第一位の王城学園は、7番。西部と同じで逆ブロックとなった。

 両校がぶつかるとすれば、二回戦。春大会決勝と同じく、攻撃特化と守備特化チームの熾烈なゲームになると思われる。

 

「これで半分が決まったか。まだどこも一回戦でどれと当たるとは決まってないみたいだが」

 

「どうせ当たんのなら強敵バッチ来いだよな! な! 長門! セナ!」

 

「う、うんそうだね微妙だね」

 

 さて、残る4校。

 茶土ストロングゴーレム、岬ウルブス、太陽スフィンクス、それから――

 

 

『神奈川代表・神龍寺ナーガ』

 

 

 着流し姿でゆっくりと、余裕ある貫録を見せつけるよう壇上を登るのは、東日本の覇者。関東大会の大本命であろう神龍寺。

 

『ケケケ! 神龍寺ナーガのスポーツ推薦枠のひとつに、超絶バカの糞デブをねじり込んどいたぞ!』

『ったく、無茶苦茶しやがるなヒル魔』

『やったぁ! 3人神龍寺でアメフトやれるんだね!! 来年長門君も入ってくれれば皆で全国大会決勝(クリスマスボウル)を目指せるよ!!』

 

 そして、長門村正が行くかもしれなかったチームだ。

 だけど、その夢物語は叶わなかった。

 ――ひとりの天才によって。

 

(……これは先輩たち三人のことだ。後輩であるというだけの俺がどうのこうのと言える立場ではない)

 

 ありえたかもしれない想像図を打ち切るように長門は目を瞑る。――その時だった。

 

 

 ~~~

 

 

『天才なんざ、テメェひとりじゃねぇ糞ドレッド。才能に胡坐をかいてりゃ、一年後に後ろから追い抜かれんぞ』

 

 いつかの夜の話。

 才能のない奴らを蹴落としていい気分になっていた時だ。

 ちょうどその内のひとりであるカスがほざいた負け犬の遠吠えをふと思い出した。

 

「あ、そうね~、カスがほざいてたの、あいつのことだったのか~」

 

 山伏が取った(くじ)――ちょうどいい。

 軽くすり()って、投げる。手首のスナップだけで投じられたそれは不意打ちじみていてその瞬間に誰も気づけない。そして、弾道は呑気に目を閉じてる野郎の眼球に直撃する――

 

 

 ~~~

 

 

「――!」

 

 いきなり鋭い回転をしながら高速で球が飛来してきた。こっちへ。

 ちょうどその球が来る方向から、セナは長門の後ろにいた。だから、すぐ察知した。当たる。長門君の顔面に。

 あぶない!

 すぐ彼の手を引いて躱させようとした。

 

 だが、セナが動くよりも速く、その手は動いた。

 

 

 ~~~

 

 

「――とんだご挨拶だなまったく」

 

 

 薄らと眼を見開いた長門は、自分に飛んできた球を鷲掴みに捕らえていた。

 

 

 ~~~

 

 

 今の弾道を、ギリギリで捕えた。

 直前まで目を閉じていて、ほぼ反射的に。

 その瞬間を目撃したひとりは冷静に評価する。あれは並の反応ではない。“飛んできた球を捕る”という行為を身に沁みつくまで反復した故の反射的動作だ。

 

 あの野郎、ブッ殺してやる……

 当てるつもりで投げた球を捕られた金剛阿含、サングラスの奥の眼が見開かれる。己の予定調和を崩してくれた者への、頭に血が昇る怒りに。

 だが、それを一旦収める。

 当たらずともすぐ横を掠めてびっくりした者が尻餅をついて騒いだからだ。

 これに駆け付けてくるのは、関東大会を取り仕切るアメフトの会長。

 

「何だ今のは。何事だ!」

 

「山伏先輩がくじのボール引いたらすっぽ抜けちゃったんですよ。――ねぇ先輩」

 

 サングラスを外し――煮えくり返る憤怒は腹の底へ沈め――表面的に穏やかにそう語る。

 チラッと視線を飛ばせば、戸惑いながらも山伏はこちらの発言に対し首肯を返した。そして、僅かに睨み合った後に、アメフトの会長は重い口を開いた。

 

「以後、気を付けるように」

 

 

 ~~~

 

 

 思い出した、この感じ。

 あの時と一緒だ。

 

 江ノ島で見に行った春季大会の関東大会、王城対神龍寺。

 睨まれただけで、胃がキリキリ縮む感覚を、セナは直感的に思ったのだ。

 

 最強の、悪……!!

 

「……え? な、長門君!?」

 

 

 ~~~

 

 

 口煩(うざった)い連中は去ってから、金剛阿含は宣言する。

 

「おーい、一休。今度の試合、俺スタートから出るわ」

 

「マジすか!? うっわ超久々の全開神龍寺じゃないスか! 何百点差つくっスかね!? 鬼楽しみ~ッ!!」

 

「ちょっと、プチッ、て潰しときてえ目障りな奴がいてな」

 

 ぐるんと首だけ傾けて、宣告する。

 金剛阿含の視線の先、そこにはあちらから近付いてきた長門村正がいた。

 他の神龍寺の選手らもこの長門の接近に気付く。先の一休の発言も聴こえていただろう。だが、これらを長門は一切意に介さず、

 

「すまない」

 

 謝ってきた。

 これにすぐ、阿含の凄みに臆したのか、と何人かは思った。だが、それは違った。

 

 

「“握手”程度の力だったんだが、あんたらのボール、握り潰してしまった」

 

 

 その手を開いてみせれば、“1番”と表記された球が、ぐしゃりと潰れていた。

 あからさまなその暗喩(ボール)を、阿含へと放る。これを叩き落とし、阿含は踏み潰す。

 そして、思い切り馬鹿にしたような落胆とした息を吐き出す。

 

「スピード0のデブやパワー0のチビ、半端なザコ共の中に混じって、狡いだけで才能のねぇカスになんざ使われてる、そんな物好きが本当にいたとはなぁ。ああそういやこの前、負けちまったみたいだから結局そいつらと同類(おなかま)ってことか」

 

「ああ、仲間だ。だが、負けたというなら神龍寺ナーガ(そちら)も同じことだろう? そういえば途中退場で不完全燃焼のまま終わった天才様は、負け犬にすらなれなかったんだから、その実感が薄いのにも無理はない」

 

 阿含の挑発に、切れ味鋭い弁舌で言い返す長門。

 

「あ゛あ゛?調子付いてんじゃねぇぞ一年坊主」

 

「今度の試合は、途中で逃げてくれるなよ。こっちは、この機会に、現状、『百年に一人の天才』止まりのあんたをぶっ倒すつもりだからな。なに、退屈させてやる気はない」

 

「……軽くプチッとやっとくだけのつもりだったけどな…気が変わった。――完璧に擦り潰してやる」

 

 火花散る、なんてレベルではない。目の前の相手を射殺さんばかり眼光をギラつかせる最強の悪に、神も仏も斬り捨てる妖刀は一歩も退かず。

 蒼褪めたセナはもちろん、一休ら神龍寺の選手にも口を挟めないやりとり。この応酬を笑ってみられているのは、悪魔(ヒル魔)ひとり。

 

 

 ~~~

 

 

 全国大会アメフト選手権関東大会Aブロック。

 

 攻撃&攻撃!! 破壊力と意外性の泥門デビルバッツ!!

           VS

 大会10連覇に王手をかけた無敗の神神龍寺・ナーガ!!

 

 

 SIC地区の新鋭はゴリ押し戦術の肉食恐竜・白秋ダイナソーズ!!

           VS

 関東、いや日本を代表する超絶ヘビー級軍団・太陽スフィンクス!!

 

 

 関東大会Bブロック

 

 爪牙とスピードで大地を切り裂く北海道の狼・岬ウルブス!!

           VS

 無敵の早撃ちショットガンを引っ提げて西部ワイルドガンマンズ!!

 

 

 ご存知、その守備力は完全復活の最強城塞・王城ホワイトナイツ!!

           VS

 すべてを粉砕する静岡の猪突猛進ランナー・茶土ストロングゴーレム!!

 

 

    神龍寺―         ――西部

        ×―+    +―×

    泥門――  |    |  ――岬

          ×――×――×

    白秋――  |    |  ――王城

        ×―+    +―×

    太陽――         ――茶土

 

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