悪魔の妖刀   作:背番号88

35 / 58
35話

 キッカー・武蔵がボーナスゲームを決めて、14-7。

 

「ケケケ、テメーら、泥門デビルバッツの戦術ポリシー知ってっか?

 ――ブチ殺すかブチ殺されるか! こっからのキックは全部超連発『オンサイドキック』だ!!!」

 

 試合は優勢。流れも再び泥門に持ってきた。だが、悪魔の指揮官はそれで守りに入るような温い性格ではない。

 

 

『これは……泥門デビルバッツ、フィールド片側へと極端に寄ったキックオフ陣形だー!!!』

『敵陣に蹴り飛ばすはずのキックオフを横に短く蹴って強引にボールを奪う! “さっきのビックプレイよもう一度”という完全な『オンサイドキック』体勢です!!』

 

 

 所詮、『オンサイドキック』は一か八か。成功率なんて20%もない。再び点差を突き離せたのだから、ここは安全策を選ぶべきだ。

 だが、ヒル魔妖一は本来なら定石から外れた『だからこそやる!』という奇策を駆使して相手の裏をかく傾向がある。

 虚々実々。故に神龍寺は、『オンサイドキック』に対応すべく前に集まってセットする。

 

 

「何ィィィィィ!?」

「キック寸前で泥門が一斉に普通のキックオフ陣形に戻ってく……!!」

 

 

 けれども、この男の口上は、信用してはならない。発言の半分以上が虚言(ウソハッタリ)上等である。

 これは、『60ヤードマグナム』のキック力を最大限に活かすべく演出なのだ。

 凄まじい脚力で蹴り飛ばされたボールは、この日で最も高く、前列にいた神龍寺選手全員が唖然と仰ぎ見る。

 

「今度は逆に『オンサイドキック』を囮に、普通のキック!?」

「んなプレイ聞いたことないっすよ!!」

「ブヒィー!! すっかりチョコンキックだとおもって、前に集まってたもんだから……」

「戻れっ! 戻れーーーっ!!」

 

 急いて後ろへ飛んでいくボールを追いかける。その動揺から隙が生まれる――

 

「喝!!」

 

 これを許さぬ金剛雲水。

 凡才であるが故に、試合前からあらゆる可能性を想定していた男は、この程度の揺さぶりで心を乱さず、慌てる皆へ呼びかける。

 

「ヒル魔の手口だ! 強豪がリードされて浮足立つところにトンデモプレイをぶつけて混乱を誘う」

 

 そして、もうひとり。

 天上天下唯我独尊――チームの動揺になど我関さず、独りボールの位置に回り込んでいた天才。

 雲水はこれを知る。

 この状況、阿含(おとうと)は必ずいち早くボールの落下点へ回り込むと。

 ならば、自分たちがすべきことは定まっている。

 

「冷静に対処すればどうということはない。いつも通りに阿含の走行ルートの敵をブロックしろ!」

 

 雲水の指示に、神龍寺の面々の目の色が変わる。悪魔の囁き戦術で乱された混乱が払拭される。

 冷静沈着に、果たすべき役割をこなす。

 神龍寺ナーガは、強い。総合力でSを冠するチーム力。

 

 

「止めろセナァァ!」

 

 神龍寺の前衛がブロックして、金剛阿含(ボールキャリアー)が通る走路への泥門選手の侵入を阻む。

 だが、彼らは一瞬、動揺の隙を見せたのも事実。この一瞬を命取りとする韋駄天の俊足が立ちはだかる壁を抜き去る。

 

 アイシールド21・小早川セナ。

 さっきの失点は、彼の切れ味鋭いランが起点となった。――金剛阿含は、それをやられっ放しにしておける男ではない。

 

 

「調子づいたチビカスが、才能の差って奴をわからせてやるよ」

 

 

 左右に激しくステップを刻む。クロスオーバーステップを応用した停止しない曲がり(ノンストップカット)

 それは突如視界から消え失せ、相手の背筋を凍らせることから、“幽霊(ゴースト)”と名付けられたその走法は――

 

「あ、あ……――」

 

 『デビルバットゴースト』!!

 小早川セナが、『死の行軍(デスマーチ)』で2000km石蹴りして完成させた必殺技を、一度目の当たりしただけで、金剛阿含は模倣してみせた。

 

 

『なんと、阿含くん! アイシールド21のお株を奪う『デビルバットゴースト』ォォ!』

 

 

 目の当たりにする自分の必殺ランの衝撃は計り知れず、まったく反応できずにセナが抜かされる。

 

 これが、天才。

 百年に一度と謳われた才能は、己が望むままに全てを嘲笑うのだ――

 

 

 ~~~

 

 

「――いいや、温い」

 

 

 ~~~

 

 

 しかし、この男にすれば児戯に過ぎないか。

 

「悪いな。ちょっと力が入り過ぎちまった」

 

「………!」

 

 セナに続いて、迫ってきた長門村正を、阿含は同じく仲間の必殺ラン――『デビルバットゴースト』を仕掛けたが、結果は観客にも一目瞭然。

 蹲るように膝をつく阿含と、悠然とそれを見下ろしている長門。『百年に一人の天才』という畏怖が、掠れて見えるよう。

 

「同じステップワークがこなせたところで、セナや猛のと比べれば、走りにキレがない。付け焼刃の域を出ない。つまりは、練度が足りん」

 

 抜けずに、倒された。言葉にすればそれだけ。

 『時代最強ランナー(アイシールド21)』をライバルとする長門村正からすれば、金剛阿含の走りには、粗が見えていた。

 

「はっ、格付けが決まったな」

 

 天才(あごん)を圧倒するこの男も天才なのか。

 違う。天才止まり、じゃない。()()()()()()――手の付けられない、“怪物”。

 

「つくづく思わされる。長門は、泥門の“最強(エース)”だと……」

 

 ヒル魔が笑い、武蔵が息を吐く。

 そして、泥門デビルバッツの全員が思った。

 自分たちのエースは、相手よりも格上だと。

 

 

「エース勝負は長門(こっち)の勝ちだ。練習もロクに出ねぇで女と遊び回ってたやつとは違う」

 

「そうだ。女と遊び回ってたやつとは違う」

 

「……何か、練習不足よりそこに怒りが強調されてないか?」

 

「女と遊び回ってたやつとは違う!」

 

「わかったわかった。その鬱憤は試合(ゲーム)で発散しろ黒木、戸叶」

 

 

 ~~~

 

 

 武蔵のキックで大きく後退され、前進も長門に抑え込まれた神龍寺の攻撃。

 『金飛龍』――いまだにプレイを読まれず、攻略されていない戦術。

 三人の投手が肝となる連携戦術……だが、思考が怒りで真っ赤に染まった天才によって成り立たなくなっていた。

 

「ダイレクトスナップで、直接俺によこせ!」

 

 このプレイ、山伏は雲水へボールをスナップする予定だったが、阿含が脅しかけるように要求する。

 作戦外の行動。暴走だ。

 

「阿含……っ!」

「俺が22人いりゃ最強オールスターだ! テメェらとチンタラボールを回さず、俺ひとりにボールを集めりゃそれで十分勝てんだよ!」

 

 いいから早くボールをよこせ!

 雲水が声をかけようとしたが、阿含の耳には入らない。

 山伏は数瞬躊躇ったが、これ以上の遅延をして、痺れを切らした阿含の怒りを買う前に行動に移した。

 

 

「潰せ、糞チビ!」

 

 

 ボールが手元に来るのとほぼ同時に、それが来る。

 高校最速40ヤード走4秒2――阿含自身よりも疾いスピード。

 それでも、0.11秒の反応速度は迅速。光速のチャージを、神速の超反応が回避する。

 ――直後、切り返したセナが再び阿含に迫る。

 

 

『セナや猛のと比べれば、走りにキレがない』

 

 

 先程の言葉を、証明するかのよう。実際現時点、このチビカスを躱せても、脚で振り切れない。

 それが、まさに、まるで自分がチビカス(セナ)に劣っているかのように思わせてくる。コイツまでも俺のいる完璧な才能の世界に踏み込んできている。

 

 俺にわざわざ殺されに来るのは誉めてやるチビカス。――だから、とっとと死ね!

 

 向かってくるのにタイミングを合わせ、強引に薙ぎ払う手刀。

 

「!!」

 

 ――来る……!!

 阿含の手刀に反応して、セナが咄嗟に腕を盾にする。『デビルスタンガン』の回し受け。それでも吹き飛ばしたが、ガードされた。

 これがさらに阿含をイラつかせる。

 だが、噴き上がる憤怒を冷ます、寒気がするほどの存在感。

 来る。

 相手せざるを得ない小早川セナに稼いだこの数瞬に、間合いを詰められた。

 

 コイツ、後半に入ってからますます、凄みが増してきてやがる……! ヘタしたら俺並に迅い……!?

 

 ――『妖刀(ながと)』の、(リミッター)が、抜か(はず)れた。

 静かに、研ぎ澄まされた集中力が、極限に達している。

 雑念が消え、100%の実力を発揮させてくる“怪物”に、生半可な攻めは逆に危険。野生じみた第六感も利かせてくる『妖刀』は、反応速度すら『神速のインパルス』に迫る!

 

 ランで躱すか――だが、長門に金剛阿含の『デビルバットゴースト』など通用しないと実証されている。

 パスを投げるか――だが、もうこの範囲は長門の『人間制空圏(ドーム)』内だ。至近だろうが本能のままに超反応されてパスカットされる予感がある。

 力で倒すか――とこれ以上、そんな思考をする余裕は阿含には、ない。

 

 “起こり”のない初動からの、0秒で相手を押さえに来る筧駿並のハンドテクニック。

 極限集中下でプレイの純度が増しているその動きは、瞬きの間に、接近された――そんな空間跳躍じみた制圧だった。

 それでも、阿含はこれを迎撃せんと反射的に手刀を繰り出していた。

 ――先程、突然迫られたセナを捌いたのと同じように。

 

「そりゃ悪手だろ糞ドレッド。何で同じ駒22枚がカモり易いか。そりゃあ同じ奴は同じシチュエーションで同じこと返してくっからだ」

 

 金剛阿含が袈裟懸けに振り下ろす手刀へ、“槍”が合わせられる。

 

 槍で刺す技術は、単純に突き出すだけでは足りない。突き出す瞬間に“捻り”を加える。

 ただ刺すだけでは、槍の穂先を深く食い込ませない。捻ることでより深く突き込める。つまり、肉を斬り、骨を砕き、その心臓を貫き抉り、刹那の速さをもって、一撃必殺を果たせるのだ。

 

 

「あんたの動き(くせ)はもう見切った」

 

 

 ――伸ばされた“(うで)”は螺旋を描くように捻りが加えられていた。

 内側に正拳突きやコークスクリューのように捻じり切った拳を、手刀の側面に入れ、一気に捻じり込む。コロに乗せて右から左へ流すよう、鋭い衝撃が吸化されて、その方向性(ベクトル)が目標から逸れる。そして、筋肉のバンプと螺旋の力で最小にして最速の払いを瞬時にこなす。

 それは、撃鉄を叩いて、弾丸を前に発射させる火薬のような威力を発揮させる。

 

「まっ……――」

 

 ――『蜻蛉切(スピア)タックル廻』!

 交流戦で目撃したライバルを倒したその技――『トライデントタックル』は己を倒し得るものだと覚る。この危機感が成長を促す。

 進清十郎が走法(ランテクニック)を高めて“槍”の加速力を上げたのならば、その対策として長門村正は手法(ハンドテクニック)を注ぎ込んで“槍”を別の方向性に改良させた。

 相手の攻撃を払ってから突くのではなく、防御と迎撃を一度にして、更にはその破壊力(パワー)を跳ね上げさせる。

 これは、制限解除された超集中からの見切りが可能になったからこそ、成せた技。

 そして、その超集中を呼び覚ますほどに長門村正が勝利の執念を宿させた対象は、天才止まりの選手ではなく、頂に待つ時代最強――

 そう、先程にあんな不細工(パチモノ)な走りを見せられて、スイッチが入ったのだ。

 

「だから、絶対に勝つ……!!」

 

 竜巻の如き覇気を纏う(うで)が、(あごん)が鷲掴む(ボール)ごと(ねじ)穿()つ。

 弾いても逸らせ(のがれられ)ぬ、理不尽な破壊力が直撃した金剛阿含の身柄が、転々とフィールドを吹っ飛ばされた。

 

 

 ~~~

 

 

「阿含、大丈夫かっ!?」

 

 尋常ではないパワー。あの男を侮っていた。

 長門村正の一撃は、阿含を沈める。下手をしたら、プレイに支障をきたすほどのダメージを喰らわされた。

 ベンチもこれに担架を持ち出す。

 真っ先に駆け寄った雲水は、阿含を起こそうと手を差し出して……パシン、と払い除けられた。

 

「さわんな。ちょっと寝転んだだけだろうが。ジャマすんじゃねぇ。ヤツをぶちのめすんだからよ……だから、いらねぇよこんなの!」

 

 独りで、立ち上がる。

 駆け付けたベンチが持ってきた担架を蹴り飛ばす。

 思うがまま、不快な真似は許さぬ暴虐な振る舞い、だが健在ではない。

 姿勢はふらついている。それでも地に伏しっぱなしでないのだけは固辞する阿含の意思が、戦いへ向かわせる。

 

「……いや、阿含、ベンチに下がれ。今のお前は本調子ではない。体を休め、頭を冷やすんだ」

 

「あ゛あ゛? ふざけんな。どうして俺が凡人のお前なんざの指示に従わねーとなんねぇんだ」

「いい加減にしろ阿含!!」

 

 胸倉をつかむ。雲水が、阿含のを。

 常に冷静で、相手を言葉で諭そうとしてきた男が、誰よりも遠慮していた弟に手を上げたのだ。

 ギロリ、と阿含が雲水を(にら)む。

 

「……てーな。身の程を弁えない凡人ってのが一番ブチッとしてぇ。なあ、雲子、お前のアタマと俺のアタマ、どっちが上か言ってみろよ」

 

 天才(おとうと)の口から突き付けられる、その現実。覆しようのない力関係だということは、己こそが一番知っている。

 凡才(あに)の口から震えた答え(こえ)が零れる。

 

「……ってる。わかってる。そんなことは……お前だ。いつも目の前にいたお前は絶対に越えられない天才だ。俺は俺の限界を知った。受け入れるしかなかった。だから、凡人(おれ)は自分よりも阿含(おまえ)を活かす道を選んだんだ」

 

 天才に抗わんとしたかつての己。思い知った現実を賢く受け入れた今の己からすればそれは泣きたいほど羨ましいことだ。

 だが、そんな己の涙は、あの日あの夜、誰よりも無様を晒したくなかった弟の前で、雲水はすべてを流し切ったのだ。

 

「だというのに……俺が喉から手が出るほど欲してるものを全部持ってるお前が、そんな愚かな振る舞いをしようとしている。許せるものか、そんな真似許せるものか断じて……!」

 

 ……なのに、その枯れ果てたはずのものが、今の雲水の双眸からこぼれ出ている。

 

「……ありえねぇよ泣くとか。そんなみっともない真似を晒したくなかったんじゃねぇのかお前はよ」

 

 胸倉掴む雲水の手を、阿含は容易く払い除ける。

 ダメージが残る身体。そんなハンデがあっても、力関係の上下は不動。

 

「俺がこの中で一休だけは認めてんのは腕だけの話じゃねぇんだよ。負けっ放しを一度でも許容したゴミには一生わかんねぇだろうがな」

 

 心底から見下す弟の目に、兄は反論できず。……その口元を戦慄かせながらも。

 そんな兄の無様を、弟は視界に入れることすらせず。

 

 

 ~~~

 

 

 神龍寺が急遽タイムアウトを取った合間に、セナは後半から攻撃にも全力疾走させていた脚をクールダウン。溝六特製の『急冷アイシング腹巻』で靭帯を伸びにくく、軽くなったように思わせる。冷気で一時的にだが、痛みを麻痺させるのだ。

 セナ自身はまだ走るのに問題ないと思っているが、試合に興奮状態にある中での自己管理はあまり当てにはできない。無茶はさせるが、大事にする。

 それはどこのチーム、どの選手でも同じことだ。

 

「長門君、神龍寺がなんか揉めてるみたいだけど、大丈夫かな?」

 

「いや、セナ……何が何であれ、金剛阿含は侮れん。どうやら、あの男は、二人分の負けず嫌いを背負っているみたいだからな」

 

 

 金剛阿含、ベンチに下がらずプレイを続行。

 先程のように、脅迫してボールを要求するような振る舞いはせず、大人しくポジションについている。チームメイトもそれには触れない。チームが、がたついている。

 ――これを逃す、悪魔の勝負師ではない。

 

 

「SET! HUT!」

 

 阿含への全プレイラッシュを決めているアイシールド21が当然のようにこのプレイも阿含へ迫る。先のダメージが抜け切っていなかろうと情け容赦なく。

 だが、構うまい。

 今度は、雲水へボールを渡した山伏。

 阿含が抑えられようが、発射台はまだある。

 

(ベンチに下げられなかったが、このプレイは阿含を囮とする(やすませる)。阿含の力は神龍寺に必要なんだ。勝つためには……!)

 

 弟がいなくても攻撃パターンは構築されている。普段の試合をサボっているのだから、当然この対応には慣れている。だから、冷静に。

 己の領分を弁え、すべきことを果たすのだ。

 小早川セナが、阿含へと『電撃突撃』を仕掛けた今、泥門の守備には穴があるはず――

 

 

「ケケケ、さっき教えただろうが、泥門デビルバッツの戦術ポリシーは、『ブチ殺すかブチ殺されるか!』だってな!」

 

 

 無音疾駆(キャットラン)にして、無重力疾走(パンサーラン)を複合させた忍び走りで、息を潜めて、最短距離で迫る。

 

(!!? バカな――長門村正が、こんなド真ん中から突っ込んできただと!?)

 

 全プレイ泥門の守備の中核となっていた、それがこちらの攻撃パターンを削っていた。

 神龍寺ナーガの金剛阿含を降した直後なのだ。ただいるだけで、中央での勝負を回避させたくなる利点がある。だというのに、そんな欠かせぬ要石に、守備位置を放棄させた。

 泥門デビルバッツ。どこまでも守りに入らない姿勢。読み切れないこの『金飛龍』を撃ち落とさんと、二連発――“そんな手段に出るはずがない”という雲水の意表を突くヒル魔妖一のカード捌き――小早川セナと長門村正の『同時作戦電撃突撃(ダブルブリッツ)』で、金剛兄弟を阻みに来た。

 

 いや、冷静に対処しろ。

 誰であろうと、全速で素早くリリースできればパスが間に合う。

 

 

 ビキッ、と緊張で強張った腕から、響く感覚。

 

 

 そう、だった。

 雲水も『妖刀』の卍抜き(パワーラン)にぶち当たっている。前衛を圧し込むほどのパワーがありながら、後衛エースランナー級のスピード。その長身の体格でありえない、さらに120%に限界突破したスピードが激突時のパワーを4倍以上に押し上げたその威力。そう簡単に抜け切れるダメージではない。

 そして、攻撃守備と両面で、超人的な天才の弟と連携を取る『疑似神速のインパルス』。これは、金剛雲水には、明らかな酷使(オーバーペース)だった。

 凡人が、天才を真似ようなど、無茶が過ぎる。弛まぬ鍛錬で肉体が鍛えられていようが、深い溝のある天才との差を埋められたわけではないのだ。

 アドレナリンでそれを無視していたが、それが運悪くも試合終了ではなく、今、この一瞬の油断が致命傷なりうる場面で、表に出た。

 

 

 そんな雲水のアクシデントに気付いたのは、神速の反応速度にして思考回路を持った天才のみ。

 

 

 ~~~

 

 

 ……あ゛~、こりゃどうしようもねぇ。

 あそこにいんのが俺なら、0.01秒早く気づいて手もあったのに、詰んだな。

 俺に大層な事ほざいておいてテメェ自身が壊れるとか何やってんだよとことん見放されてんな雲子。これだから、自分のことを諦めてるカスと一緒にやんのはだりいんだよまったくよ。

 それで“天才(ながと)”にぶちのめされんのをどうしようもないって受け入れんだろうしよ。

 つうか――

 どっちにしろあんな奴を庇ってやる理由もねえわな。奴自身がそれを望まねえ。凡人であるテメェよりも天才の俺の方を優先すべきだと言い張りやがるんだからなあの雲子は。

 ハッ、一休ならともかく、凡才のカスがリタイアしたところで、いくらでも替えが効く。俺がいれば十分だ。

 あ゛~これで本当に終わりだな、糞が……

 

 

 ~~~

 

 

 自分に、この努力する天才という“怪物”から凌ぐ術は、持っていない。

 

(阿含、すまない、一プレイしか休ませられなかった。だが、それでも攻撃権(ボール)さえ奪われなければ、あとは阿含が――阿含がいるなら――!)

 

 1対1となってしまったこの局面で、自分にできることは、ボールの確保。それが雲水の思う100%の安全策。(ベスト)あの阿含を捻じ伏せた“槍”が来ようが、この身を呈してボールだけは奪わせない……!

 

 

「――勝手に投げてんじゃねぇぞ。ブチ殺すぞウンカスがああああ!!!」

 

 

 誰も庇うもののいないはずだった。

 しかし、ここに不可能を可能としてしまう迅さを持つ天才がいる。

 『神速のインパルス』の超反応で割って入ってきた阿含が、パスプロテクション……雲水の盾となった。

 散々力の差を思い知らされたはずの長門村正と、真っ向から組み合う。

 

 

「あ゛あ゛あ゛――ッ!!」

 

 このパワー――今までの競り合いより強い……!!

 この時、長門村正、そして、進清十郎は異変に気付いた。

 ミシリと重圧が押しかかる双腕から感じ取った金剛阿含の放つ殺意、それは長門が纏っていた力と同系統――己の為ではなく、護る為に敵を壊す。

 己の悦楽にのみ才の暴力を振るってきた男が、“最強”であれと望む兄を背負い、その力を滾らせる。

 パワーが上である長門を押し止めるほどに――

 

「だが、こっちも背負っている。チーム全員分を!」

 

 押し合いの最中に、強靭な足趾把持力で大地を噛みしめ、極まった重心移動でより深く圧力をかける二段押し。

 セナ、モン太、小結、十文字、黒木、戸叶、瀧、雪光、栗田、武蔵、ヒル魔――11人分の“最強”を背負う長門村正の覚悟。

 そして、同じ天才でありながら、長門にあって阿含にない、才に奢らず積み重ねた鍛錬と、限界を超えて競い合える最強の好敵手(ライバル)の存在。

 孤高にして孤独であった『百年に一人の天才』は、この決定的な差を、思い知る……!!

 

「く、そ、がああああああああっ!!!」

 

 

 ~~~

 

 

 己を庇って――そして、倒された。

 それでも、阿含(おとうと)が身を呈した行為は、僅かながらも確かに時間を稼いだ。

 

 チャンスだ。泥門守備で長門村正が陣取っていた中央が、がら空きだ。

 

『一休くん、超バック走でモン太くんを躱し、がら空きの中央へ!!』

 

 そして、これを一休(レシーバー)も気づき、速選で動き出している。

 

 

 だが、『電撃突撃』を仕掛けてきたのは、2枚。

 

 

 小早川、セナ……!?

 阿含へ突撃していたアイシールド21が切り返して、雲水を狙っている。閃光弾けるが如く迫る高校最速。

 駄目だ。自分にはあの光速のスピードは捌けない。パスを投げようとする利き腕が、捕まえられる……!

 その前に、早くボールを腕に抱えて、次に繋げる。この好機は、逃すしかない――

 

 

『天才の弟を最強にする……そうだ。お前は間違ってはおらん。決して、な……』

 

 

 そうだ。

 俺は――

 俺は――――

 俺は、これでいいはず、なんだ。

 今更、決めた道を違えるなど無様極まる。だから、このままでいいんだ――

 

 

 ――そんなんで、満足できんのかよお前自身は――

 

 

 声が、聴こえた。

 口から言葉にして発せられた罵倒じゃあない。

 屈辱的な青天を食らわされて倒されながらも、睨みつけてくる、この兄を離さない弟の視線が、そういっているように聴こ()えたのだ。

 視線を交わしたのは、時間が停止したかのような刹那の事。

 だが、これに触発されたかのように――そう、まるで天才の弟に押し付(あずけ)っ放しにしていたかつての執念(きもち)を突き返されたかのように――雲水の腕が動いた。

 

 

(え? ボールを左手に――そして、阿含さんみたく手刀!?)

 

 阿含が倒されている(はんのうできない)この瞬間、阿含の援助を要する『疑似神速のインパルス』も発動できない。

 だから、これは雲水自身の反応だった。奢らず日々培ってきた反復が成し得た対応速度だった。

 

 投手の命である利き腕を狙ってくるセナに対し、雲水はボールをその逆の手に移す。

 そして、スイッチして自由になった右手で、セナのチャージを牽制するよう手刀を振り下ろす。これに反射的にセナは腕を盾にして、生じた0.1秒の間に、左手からパスを放る。

 

 その投球フォームに乱れなく、まさに鏡に映った“阿含(おのれ)”。

 明鏡止水――それは水に映った月さえ真っ二つに切り裂く鋭いパスだった。

 

 

 ――捕る! 絶対に捕る!!

 長門村正が抜けた中央、一休もそこへ駆け込んでおり、切り返しのバック走でモン太のマークを振り切っていた。

 阿含さんが盾となり、雲水さんが賭けに出たその一球――絶対に、逃してはならない……!

 

 

「そうだ。勝利とは己の手でもぎ取ってこそ。

 ――だから、掴み取れ、栗田先輩!!」

 

 

 ~~~

 

 

 初めてアメリカンフットボールの試合を観戦した時から、ずっと夢だったんだ。

 あの神龍寺ナーガに入って、全国大会決勝(クリスマス)に行くことが!

 麻黄中で溝六先生に出会って、ヒル魔とアメフト部を作って、武蔵が加わって、長門君も入ってくれた。

 

『ふんぬらばァーーっ!!』

 

『あちゃー……キャッチはボールに掴み掛るんじゃなくて、手で作ったポケットでボールを待ち受けること。もっと静かに、優しく。栗田先輩は、力入れ過ぎなんすよ』

 

『あ、あははは、ごめんね。僕、ラインなのにキャッチの練習に付き合ってもらっちゃって……』

 

『別に栗田さんとやるのは楽しいですから。ラインがボールに触れる機会がないとはいえ、やっぱりアメフトをやっているんですからボールを使ったプレイもできたら面白いっすよ。それに栗田先輩は特待生として神龍寺に進学するつもりなんだから、パワー一辺倒よりもキャッチもできるって方が戦略の幅が広がってアピールポイントになりますって』

 

『うん! そうだよね! ヒル魔がスポーツ推薦枠にねじ込んでくれるって言うけど、僕自身、もっと上手くなった方が絶対いいよね長門君!』

 

 中学時代、初めての後輩はいつも朝練の際、不器用な自分と皆が揃うまで根気よく練習に付き合ってくれていた。

 

 ……結局、僕は憧れた神龍寺にはいけなかった。

 そうだ。あの時、ヒル魔と武蔵は、2人だけ神龍寺に行くことだってできたんだ。長門君だって、実力で神龍寺の特待生枠を勝ち取れるくらいすごいんだ。

 でも、一緒に泥門に来て、泥門デビルバッツを作ってくれて、僕と一緒のアメフトチームになってくれた――

 

 

 だから、乗り越える。

 そして、勝ち取るんだ! 皆で全国大会決勝(クリスマスボウル)に行くっていう夢を!

 

 

 ~~~

 

 

 金剛雲水が投げ、細川一休が走る、二人が目指したその先に、二人よりも先に陣取る巨体。

 誰よりも鈍重なはずの、栗田良寛がそこに居た。

 

 罠だっ!!

 最前線で壁を張っているはずの栗田が、コッソリ入れ替わって後退。そして、長門が抜けた穴を埋めた。

 ――『入替(ゾーン)ブリッツ』だ!

 

 

「栗田……!」

 

 栗田良寛は、動けない。

 

「栗田……!!」

 

 デブカスは、スピードがまるでない。

 監督選手、神龍寺の誰もが侮る。力一辺倒。推薦枠に推しこんだ時から、全く成長していない。

 そう、侮った思い込みが、この瞬間を作った。

 

 くっ……! 前が……雲水さんのパスがまったく見えない……っ!?

 この状況、絶対パワー勝負になる競り合いで、一休の細腕で栗田を動かすことなどできない。絶対有利なポジションを取られた状態でクラッシュすれば、身軽な一休は栗田に蹴散らされる。

 

 

『うお゛おおおおお!! 栗田がデカ尻で、一休ブッ飛ばしたァーーーっ!!』

 

 

 完全にフリー。ボールは読み通りにこちらに飛んできている。だから、後は掴み取るだけだ。

 

「死ぬ気で捕りやがれ! 糞デブっ!!」

 

 ヒル魔が吼える。

 

「見せてやれよ栗田。お前を追い出した神龍寺に。お前の成長をよ」

 

 武蔵が見つめる。

 

「朝早くに付き合わされてきたんですから、決めるところは決めてください栗田先輩」

 

 長門が信じる。

 

 

『イ……イ……インターセプトォォオオオオ! なんと栗田選手、ボールを捕りました! 泥門ボ~~ル!!』

 

 

 そうして、不遇に何度となく転び、時に俯き涙することがあっても、手を伸ばしチャンスを待ち続けてきた男の手は、掴み取った。

 

 

 ~~~

 

 

 泥門デビルバッツは、攻めた。

 フォーメーションは、長門と瀧をランニングバックとワイドレシーバーの両方をこなすフレックスバックとし、更にモン太と雪光をレシーバーに据えた『フレックスボーン』だ。

 大きく三度の速選(オプション)を取り入れる高度な戦術を駆使して、長門に倒された阿含が一時戦線離脱した神龍寺の守備を攻める。

 

 

『おおーっと、泥門ゴールまであと少しのところで、阿含くんが復活!』

 

 

 ここだ……! この瞬間、ワンポイントだけでいい――僕の(つよ)みを見せるんだ!

 人の眼には様々な習性がある。

 視界に速く動くものと遅く動くものがあれば速い方を追ってしまう。

 目の前の人がふと余所見をしたら同じ方を見てしまう。

 など、そうした習性を利用し視線を操るテクニック。手品などで使われる人の視線を誘導するそれ。右手で派手な動きをして注意を引き付け、左手で次のタネを仕込むといったような視線誘導が自分の活きる道だ。

 

 細川一休に競り勝ったモン太くん、縦に抜かれれば誰にも追いつけないセナくん、そして、天賦の超人である長門くんに、周囲に矢鱈アピールする瀧くん。

 とにかく目立つ存在が揃っているんだ。

 

 

『長門君、鋭く中央に切り込んだー! そのガタイを活かしたパスを決めるかー!』

 

 

 この瞬間、この試合で最も注目を集めている長門君へ皆の意識が引き寄せられる。

 更に僕は目線や仕草でもって、意識だけでなくマークマンの視線を誘導する。ヘルメットで狭まっている視界もあいまって、要注意選手ではない、弱者の存在は見逃してしまう。

 

 うおおおお!

 声は、出さない。目立つから。あくまで思うだけ。

 それでも、ヒル魔さんがパスを投げれば、気づく。金剛阿含と細川一休。それぞれ長門君とモン太くんのマークについていたけど、すぐに『速選(オプション)ルート』の狙いを覚った。

 でも、スタートは僕が絶対に有利。

 走れ! 走れ! 走れ! 絶対捕るんだ!! 

 

 相手のマークを外すためにした一動作分出遅れた、それを埋めるように飛びつく雪光。

 ヘッドスライディングのように前に飛び出しながらも精一杯に伸ばした手は一度ボールを上に弾いた後で、滑り込む雪光の手元へと落ちた。

 

 

『タッチダァァァーウン!! 泥門デビルバッツ、この試合を決定づける追加点を挙げたのは、伏兵・雪光学ーーー!!』

 

 

 ~~~

 

 

『最終スコア、21対7!! なんと! 泥門デビルバァーッツ、関東無敗の神・神龍寺ナーガを打ち破ったーーー!!!』

 

 

 終わ、った。

 最後まで勢いづいた泥門に押し切られて、逆転することができなかった。

 身体が、重い。息が、切れる。こんなのは初めてだ。全てを出し尽くした感覚。そして、それでもなお降せぬ相手。

 

『今日は、楽しかった。また来年、楽しみにしてる』

 

 握手しに差し出された手は無視してやれたが、それでも奴のセリフが嫌でも耳に残った。

 ああ、クソッたれ。こうして目を瞑るだけで、胸が締め付けられて、吐き気みたいなムカつきがあって、頭がガンガンする。

 最悪の気分だった。

 ――だからこそ、こんな負けっ放しはさっさと拭い去りたくなる。

 

「聞け、このカス共。春大会だ。来年の春にコイツらぶっ潰してやる……!!」

 

 阿含の宣誓(ことば)に、雲水は無言で頷いた。

 その目には、試合前にはなかった、熾火のようなものが灯されていた。彼もまた、この泥門戦で、弟のように、何かを感じ入ったか。

 

「テメェらが足を引っ張りやがったら勝てやしねぇ。ついて来れねぇカスは全員滝壺で殺すぞ……!!」

 

 

 ~~~

 

 

 完全燃焼して、それから完全に火が点いた金剛阿含に、神龍寺の面々が力強く頷きついていくのを長門は見送る。

 

 金剛阿含という男を、少々見誤っていたか。

 この試合、金剛阿含は、こちらの予想を上回った。

 金剛雲水に『電撃突撃』をした時、あの男は自分の為ではなく誰かの為に力を振るったことだ。

 護るべき者を護る為に、発揮するその殺意。

 それは、護るべき者がいなければ纏えぬその力。

 だが、金剛阿含は纏った。

 つまりは、そういうことだった。

 

 

「――やはり、勝ち上がってきたか泥門デビルバッツ」

 

 

 そして、関東大会一回戦を勝ち進んだ泥門デビルバッツは更なる激闘へ挑む。

 

 

 ~~~

 

 

 太陽スフィンクス。

 関東屈指の最重量級ライン。トッププレイヤーである番場衛が統率するラインはこの大会に向けて開発した新たな陣形を取った。

 隙間(スプリット)を極端に狭め、絶対に間を抜かれないようにした大きな図体を活かしたパス壁。

 まさに太陽スフィンクスならではの戦術。

 重戦士たちが(ファラオ)に密着してガチガチに護る! 破壊不能の黄金の兜――『ツタンカーメン・マスク』!

 

 

「あーあ、いきなし全力手の内見せんなっちゅう話だよ」

「言っただろうマルコ! 無理だ!! ――GYYYYAAAAAH!!」

 

 

 これを、蹂躙する圧倒的な力。

 白秋ダイナソーズ背番号70・峨王力哉。ベンチプレス200kg超、高校最強のパワーの持ち主にして、地区大会全試合で敵チームのクォーターバックを大怪我で退場させてきた。

 峨王の暴虐はこの関東大会でも存分に振るわれ、番場たち重量級ラインは全滅……ただ、王たるクォーターバック・原尾だけは守り抜いた。

 

 

『峨王くんの圧倒的な力を前に、太陽スフィンクス、途中棄権にて敗退ーー!!』

 

 

 ~~~

 

 

「セナと長門たちが勝ち上がってきたんだ。俺だって負けてられない! 今度こそ俺達最強西部ワイルドガンマンズが泥門デビルバッツを倒す!」

 

 西部ワイルドガンマンズ。

 『神速の早撃ち』キッドを主軸とした『ショットガン』と鉄腕レシーバー・鉄馬丈、そして、『暴れ馬』の甲斐谷陸がランで鋭く切り込んでくる破壊力は、この関東大会でも炸裂した。

 岬ウルブスを相手に100点を奪取し、泥門ではなく自分たちこそが最強の矛であると知らしめた。

 

 

『西部ワイルドガンマンズ、圧勝! 準決勝進出ー!!』

 

 

 ~~~

 

 

『本日最終戦は、王城ホワイトナイツVS茶土ストロングゴーレムッ!!』

 

 『すべてを粉砕する』とまで言われる突進力を誇る茶土ストロングゴーレム。

 試合開始のキックオフリターン、ボールを確保したリターナーは、主将にしてエース選手・岩重ガンジョー。

 

「一回戦の長門村正くんの『卍デビルバットソード(パワーラン)』は凄かったけど、この岩重ガンジョー様の『御敗(おっぱい)クラッシュ』はもーっと凄いぞっ!」

 

 岩のように頑丈なボディから繰り出される突進力は地区大会でも当たり負けなし。

 

「ぶっ――飛ーばせー!!」

 

「……!」

 

 前に飛び出してきた小柄な選手に岩重は迷わず猛烈なアタックを決めに行く。

 

 ずしぃ……っ! と岩重の腰に鈍い衝撃。叩きつけるかのように速い、そして強いタックルだ。アメフト選手としては比較的小柄な体型でありながら、妙にずしりと響くものがある。

 この相手は自分よりも小柄だというのに……!

 

「っ……!」

 

 重圧タックルを繰り出したのは、王城のラインバッカー・角屋敷吉海。

 

「だけど、ボクは止められなーい!」

 

 それでも倒し切れない。

 不意に身体が宙に浮いた。遅れてやってくる衝撃。背中一面に伝わる痛み。真っ暗になっていく空の色が目に飛び込んでくる。

 

 クソ……ッ! 止められない!

 跳ね飛ばされたと気付くのと同時に、悔しさが胸を灼いた。タックルが決まったと思ったのに倒し切れず、しがみついたのに振り解かれた。

 最大限、自分の持てる力を“上手に使って”、体格の割に重い一撃を出せた。だが、まだ一撃で倒せるようにはならない。

 ――そう、あの人のように……!

 

 

 ――『トライデントタックル』!

 

 

 声が、出ない。

 息も、できない。

 そのあまりの威力に、岩のように頑丈な肉体を貫かれ、岩重ガンジョーが悶絶する。

 

『進くんの強~~烈なタックルがガンジョーくんを串刺し! 一撃で仕留めました!』

 

 新生王城ホワイトナイツ。

 神龍寺ナーガに並ぶ関東大会優勝の最有力候補。

 そして、関東最強の守備力を誇る王城の中核を担うのが、高校最強のラインバッカー・進清十郎。

 努力する天才にして手の付けられない“怪物” 。神龍寺戦を経て、『泥門には過ぎたる者』や『花実兼備の選手』と謳われるようになった長門村正と同じ、いやそれ以上の評価がされる最強の選手。

 

 

『試合終了ーーー!! 本日最終戦、王城ホワイトナイツ、茶土ストロングゴーレムに一点も入れさせず、完封勝利です!』

 

 

 ~~~

 

 

 関東大会準決勝。

 

 百点ゲームと零封勝利! 互いに最強同士の矛と盾のぶつかり合い!

 西部ワイルドガンマンズVS王城ホワイトナイツ。

 

 モンスタールーキーを擁する新鋭チーム同士の血沸き肉躍る衝突!

 泥門デビルバッツVS白秋ダイナソーズ。

 

 

   泥門―+    +―西部

      |    |

       ×―× ―×

      |    | 

   白秋―+    +―王城

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。