悪魔の妖刀   作:背番号88

54 / 58
51話

 

 

 アメリカンフットボールの本場、アメリカに来てからも走り続けた。

 

 日本人にしては高い先天的な高身長と、血反吐を吐く鍛錬で後天的にもぎ取った身体能力。

 何よりも『決して倒れないこと』……とこれは、ただの根性論だが、執念で体現してみせた。

 最初は日本人ということで侮られていたが、その評価もやがては逆転し、名門アメフトチームの中でも突出したエースとなった俺は、いつしか最強ランナーの称号を名乗るに相応しくなった。

 それを俺自身も歓迎した。

 ヘルメットにアイシールドを装着し、自らの走りに『帝王』を冠するようになった。

 全ては、自分の退路を断つために。

 

 

『哀しいなぁ~~』

 

 

 それでも、井の中の蛙だったのだろう。

 大海を荒立たせるほどの王者に、帝王は思い知らされた。

 己は万能ではあるが、所詮は器用貧乏。絶対的なエースとなっても、決して誰よりも速く走れるわけでもなく、誰よりもパワフルなわけでもない。

 才能なき者がどんなに声高に吼えようが、頂点というのは、選ばれし者のみが届き得るのだと。

 

 

『母校ノートルダム付属も地に堕ちたものだな。貴様のような凡夫に頂点の名――『アイシールド21』を許すなど』

 

 

 “小者”の見得に使われて汚されるのは、看過できない、と。

 

 巨人。

 身体がまだ出来上がっていない中等部からすれば、高等部の人間はさぞ大きく見えることだろう。

 だが、そうではない。その頂点たる男は、何もかもがスケールが違った。明確な格上だった。

 

 

『力無き人種が己の鼓舞のために偽りの頂点を名乗る。哀しいことだ……頂に立つ者の責務として、引導を渡してやらなくてはならない』

 

 

 凡夫であっても、貴様にも意地はあるのだろう。

 だから、納得させる機会を設けた。

 

 中等部の地区大会制覇を称賛した激励会の中の催し……というお題目で、突如組まれた高等部との練習試合。

 アメリカで最後の試合となったその日、たった一人の頂点によって、積み上げてきた何もかもが、壊された。

 

『み、Mrドン!? 降参します!? だから、どうか……』

 

『貴様の言葉は聴けんなぁ。この試合には、凡夫の除籍がかかっている。ならば、凡夫が屈するまでは試合は終わらん』

 

 観客皆が目を覆う悲惨な光景だった。

 もう前衛のレギュラー陣は、再起不能。控えの選手も怖気づいており、フィールドから背を向けて逃げた者までいる。

 無理もない。チームの総力をかけたところで絶対に勝てない相手。挑めば、ほぼ間違いなく病院送りとされる。

 

 

 だが、それでも俺はただ屈する真似だけはできなかった。

 

 

 このエースの選択に、蹂躙劇に巻き込まれたチームメイトは口々に非難した。

 これまでの苦難が報われる激励会だったはずなのに、どうしてこんな絶望を突き付けられなければならないのだと。

 ひとり、またひとりとプレイをする度にこの泥船(チーム)から離脱する。作戦も何もあったものではない。プレイと同時に一人を除く全員が持ち場を放棄して、中にはわざと転んで怪我をすることでフィールドから逃れる選手もいた。とにかく王に逆らう愚だけは徹底して避けた。

 なのに、エースがひとり反逆し続ける。

 練習試合として最低限度の体裁を保つために王の強権が働き、控え以下の人員まで駆り出された。

 なんて身の程を弁えない愚かな日本人なんだと罵倒が背に浴びせられる。

 ひとりで闘うようになった帝王に、勝ち目などなかった。

 

 たとえチームで突出した高い能力を有していようとも、アメリカンフットボールは、孤立無援(ひとり)では、戦えないのだから。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 それでも。

 それでも闘い続けた。

 

『ここまでだな』

 

『………』

 

『『努力が才能を凌駕する』……凡夫の耳には実に甘美な言葉だ。それもあるところまでは真実――だが、最後には必ず、人種の壁、素質の壁が待っている』

 

『………』

 

『哀しいなぁ。もし、貴様が凡夫ではなければ、時代最強の走者(アイシールド21)としての資質に恵まれていれば、それが哀しい夢だとしても、貴様を信じて俺に闘い挑むモノが一人でもついてきたかもしれないだろうに。しかし、今。貴様を除き、誰一人、俺に歯向かう輩はいない。もはや、これ以上闘っても得るものも、失うものもない。これ以上試合を続けても、哀しいばかりとは思わんか』

 

 問答に応じる余裕もなく、ただただひとり立ち呆けることしかできない己の在り様に、目を眇める王者。ついに見限り、背を向ける。その間際に、掠れた声で吼えた。

 

『逃げる……のか、Mrドン』

 

『なに?』

 

 掠れた声で呟くように放ったのは、なんて安い挑発。しかし、ここまで思い知らせても、目に光を宿すことにふと興味が引かれ、足を止める。

 

『そうだ。その通りだ、Mrドン。俺はあのパトリック・スペンサーのように誰も追いすがれない黒人の脚質(バネ)も、お前のような誰も敵わない圧倒的な暴力もない。ここで立っているのも、結局、ただの無茶苦茶な根性論……そんな根性論でさえ一笑に付すほどに、互いに配られた才能(カード)には差がある』

 

 もはや勝っても負けてもここには居場所はない。誰からも応援されない。味方のはずのチームメイトも裏切った。

 それでも。

 それでも、アメリカで築き上げたモノ……アイシールドと背番号21のユニフォームがなくなっても、日本で誓った己の根幹となるモノが奮起させる。

 

 

『だけど、俺には才能以上に、俺を強くしてくれる存在がある。Mrドンがその資質に恵まれているのならば、俺はこの縁こそ何人にも勝るものだと誇っている。彼に誓って、俺は負けを認める気はない。幾度となく地に塗れようと勝つまでお前に挑もう』

 

 

 たとえ相手が格上の存在だからといって、関係ない。才能を理由に闘いを放棄するような男が、“最高の好敵手”と対決することができるのか。否だ。

 だから、闘い続けることができた。この苦難に遭いながらも、笑うことができた。

 

 

『凡夫とはいえ、ここまでの大言を吐いたお前に、頂点の世界を見せてやろう。それでも尚、再び頂点(おれ)に挑む気概がまだ残っているのであれば、敵と認めよう』

 

 

 そして、次のプレイ。

 猛然と迫る王者に、為す術なく、一撃で屠られた。

 これまでが如何に手加減していたのかを思い知る、力の差。ついに大和魂ではどうにもならなくなるほどのダメージに、ヘルメットのアイシールドが割れ、視界は暗転。必殺の一撃に意識の手綱も手放し、頽れる身体が地に堕ちる……のを、背を押す何かが支えた。大きくふらつきながらも、一歩、前進した。そこまでだった。

 

 

『ほう。耐えたか。そうかそうか――では、頂に立つ者の礼節として、闘技場で剣を交えた敵を、完膚なきまでに殺すとしよう』

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 大和猛は地に屈した。

 格上の相手に、独りで挑んで、全てを失った。

 あの苦々しい記憶。

 

 そして、今。

 チームの力は底をつきかけている。

 勝ってはいるものの、人数も総力も向こうが上で、評判では格上とされる絶対的なエースを相手に、孤軍奮闘するしかないような戦況。

 

 なのに、好敵手(とも)が置かれている状況は、どうしても己の過去とは重ならないのだ。

 

 何かが、違う。

 アメリカで積み上げたものの中にはなかった、彼が日本で積み上げてきたものがこの違和感を強くさせる。

 

「ああ、それこそが、帰ってきたこの日本に探しているものだ」

 

 まだ原石のままだったとはいえあの唯一無二の才能を誇るパトリック・スペンサーを降した、泥門デビルバッツの“可能性”が、ここで潰えるとは思えなかった。

 

 

 ~~~

 

 

「ばぁーーー! はァーーー!!!」

 

 雄叫びと共に振り上げた脚でボールを思い切り蹴り抜く。

 キックオフの号砲を轟かせたのは、王城キッカー・具志堅、ではない。

 

 

「え? キッカーが、大田原……!!」

 

 

 ラインである大田原が、キック。

 長門がオンサイドキックを決めた意趣返しにか、これまでの王城にはなかった裏技。

 それは、高く打ち上げるというキックの定石から反している。

 

「うおおお、これは、『低空爆裂キック』ッ!!」

 

 足の親指あたりでボールの下の方を蹴り上げるのが、キックオフの基本。

 だが、大田原は、足の甲をボールのど真ん中にブチ当てて蹴り飛ばしている。

 勢いはいいが、低い弾道。当然、地面に落ちるのが速いが、ボールは楕円形。バウンドしても勢いが衰えないキック力で放たれたボールはイレギュラーバウンドを繰り返す。

 飛距離こそ出ないが、こんな暴れ球を捕らえられるのは、泥門には二人しかいない。

 

(っ! モン太を狙ったか!)

 

 まともなコントロールなどできるはずがないが、蹴り飛ばす方向くらいは選べる。それは、長門のいる側は避けて、モン太のいる方へと蹴っ飛ばされた。

 桜庭のマークで疲弊しているモン太を、動かす。消耗戦を徹底している。

 

「キャッチMAーーXッ!」

 

 我武者羅に、飛びついて跳ね回るボールを捕らえるキャッチの達人。

 しかし、そこまでだ。

 モン太に脚で王城のディフェンスを躱せる能力はなく、また、味方へボールをパスをするにもノーコンだ。

 何よりも、高校最速の守護神が差し迫っている。

 

 ――ヤベェ! 破壊力MAXのタックルが来る!!

 

 進清十郎の右腕(やり)が、モン太に狙い定められた。

 

「モン太!」

 

 これに追いつけたのは、同じく高校最速。

 

 ――『デビルスタンガン』!

 

 セナがモン太と進の間に割って入り、盾となる。

 が、その程度の障害で止まる存在ではない。

 

 

 ――『光速トライデントタックル・廻』!

 

 

 捩じり穿つ掌は、盾を破り、球へ伸ばされる。

 咄嗟にモン太が身を呈してボールを庇い、そして、セナともども地面に沈められた。

 

 

『盾になったセナ選手ごとモン太選手をぶっ飛ばしたァァァァ!!』

 

 

 一度捕まえたボールは離さない。

 その執念でボールを落としこそしなかったが、二人揃ってダメージが大きい。

 すぐに起き上がれず、自分たちをまとめて一撃で仕留めた最強格のアメリカンフットボールプレイヤーを見上げるしかできなかった。

 

 

 ~~~

 

 

「オラアアアア! 何のんびりしてやがんだ……! さっさとプレイ始めやがれ!」

 

「は! いくら急かしてこようが、こっちのペースでやらせてもらうぜ」

「アメフトってのは、毎プレイ25秒以内で始めりゃいいんだ。リードしてる俺らがギリギリまで時間を潰すってのは、戦術なんだよ戦術」

「そっちが0秒でやんのはそっちの勝手だが、だったらこっちが25秒ずつ時間潰してやんのも勝手ってこった」

 

 王城の不良と泥門の不良三兄弟が言い争っているが、その通りだ。

 23-20。泥門がリードしている状況。王城が泥門の不安材料であるスタミナを削って来るのならば、泥門は王城の懸念点である残り時間を潰す。

 

 ここで教本通りに作戦を選ぶのならば、泥門は時間をかけて着実に攻めるべきだろう。

 ただ時間を潰すだけではない。ハイペースだった守備からギアを落とし、息を整えさせる。完全に回復とまではいかないだろうが、それでも無理があるだろうが、前半後半それぞれに3回ずつ与えられる1分30秒のタイムアウトを使ってやりくりすれば、最後まで試合をもたせられるか。

 

(キックオフでやられたセナ(ラン)モン太(パス)切り札(エース)はまだクールタイムが必要だ。二人が完全に潰れたら、それこそ泥門の戦線は崩壊する。とはいえ、まだほぼ1クォーター(15分)残っている。流石に潰し切れる時間じゃあない。もう1度タッチダウンを取る必要がある。攻め手を緩めるわけにはいかない)

 

「……参ったな、これは」

 

 苦しい状況下だからこそ、指揮官の弱音は響く。

 ハッとセナはこのボヤキに反応して視線を向ければ、そこに不敵に笑う長門。先の発言にチームの耳目を誘っておきながら、大黒柱は衰えるどころかますます盛んになる闘志を纏っていた。

 

「それでも潜り抜かなければならない難関ならば、踏破するのみだ」

 

 

 ~~~

 

 

 『妖刀』がフィールドに描く陣形は、パスターゲット5人体制(ファイブワイド)の『エンプティバックフィールド』

 司令塔への護衛は一切配置せず、その分の人員を攻撃のための先兵にする、背水の陣を泥門は再び敷く。

 

 

『泥門、石丸君へのショートパス成功! 地味にですが1ヤード前進です!』

 

 

 パスキャッチの人員を増やせばそれだけで陽動の幅が広がる。

 5人の内、誰にボールが投げられるのか、守備側は注意を払わなければならない。それは、単に的を絞らせないだけでなく、特定の選手(セナやモン太)に偏っていた仕事量を分散させる狙いもあるのだろう。

 そして、長門はマークを外したほんの僅かに生じた隙を逃さず通してくる。

 

(だが、外側を増員し、中央を手薄にすれば、セオリー通りに中央突破(ブラスト)……トップクラスのラインマンである栗田と長門の高校最強ともいえる剛の走法(パワーラン)は、大田原や進でも止め切れない)

 

 単純な(ゴリ)押しでは泥門が上。

 白秋ダイナソーズが得意とした『北南ゲーム』と同じく、力でもって守備をこじ開け、突破する。

 一気に大量ヤードを稼ぐことはできないだろうが、攻撃的かつ着実に前進し、連続攻撃権を獲得する。

 時間のかかる戦法だが、時間を潰したい泥門には都合が良い。

 

(時間潰しの安全策であるラン一辺倒にならず、ある程度のリスクを承知してパスを織り交ぜる。おかげで、こちらは相手のプレイが読み切れない。厄介、ではあるが)

 

 この展開は、予想できていた。

 そして、まだ、潰し切れる時間ではないと計算している。

 それに、回復できるほどの時間もないことも。

 

「井口、直接対決しているお前の判断を聞きたい。モン太への『デビルレーザーマグナム』はあると思うかい……?」

 

 高見と進に意見を求められた井口は、一度、泥門の方を見る。膝に手を置いて息を切らしている、立っているのもやっとなマーク相手は誰がどう見ても……

 

「いや、もう限界ですねアレ。こっちのマークを振り切れるくらいの全力疾走(ダッシュ)は無理ですよ。アレならこっちは他にフォロー入れそうな余裕はあるんじゃないか」

「いいや、待ってください」

 

 と井口に異を唱えたのは、桜庭だ。

 桜庭は、モン太の目の奥に灯す光がまだ潰えていないことを見取っていた。

 

「まだ、モン太への警戒を解くべきではありません。確かにモン太は……どう見てももう体力的には限界です。でも、だからこそ来る。それがモン太だ。それが泥門なんだ……!」

 

 井口が入るまで相手をしてきたのは、桜庭。ならば、彼の意見は無理できない。

 守備の指揮官である進は決を下す。

 

「ならば、井口、お前は雷門太郎から目を切るな」

 

「ああ、こっちから更にバシバシ『バンプ』で攻めて、残り滓のスタミナがガス欠になるまで削り切ってやる。それでロングパス投げてこようものなら、インターセプトかましてやるぜ」

 

 『三重の防壁』は、敵の攻撃を阻止するために非ず。

 後衛の人数を増やし、それで泥門後衛を徹底マークして体力を削った。焦土作戦の如く、相手に多少の前進を許しても、それ以上に継戦能力を削る方向に働きかけた。

 その成果が今、目に見えて表れている。

 

 決戦の直前、泥門はマスクトレーニングを課したおかげで、いつもより基礎体力容量が増設されている。

 そもそも、あの『死の行軍(デスマーチ)』を達成した心身の強さは決して侮れるものではない。

 だが、それはこちらも同じ。

 

 基礎体力なら、王城ホワイトナイツに敵う者などいない……!!

 

 全員、あの富士山トレーニングをこなしてきている。

 あの過酷な鍛錬にチーム全員参加した王城は、試合終了の笛の音が響くまで、全力で走り抜けられるはずだ。

 

(それに、試合の前半で、ヒル魔が抜けたことも大きい。選手の大半が両面に出なければならない少数チームの泥門にとって、一人が抜けたフォローをするのに全員で負担しなければならない)

 

 泥門全員の疲労は、王城の2倍、いや、3倍はかかるだろう。

 相手にリードを許しているが、まだ十分に勝ちを狙える。既に王手(チェックメイト)しかかっている盤面でも、相手に使える持ち駒がほぼ切れている。これに対し、こちらにはまだ持ち駒があるのだから、完全に勢いが止まった時、風向きはきっと変わる。

 

 高見伊知郎が冷徹な指揮官としてチームを勝利に導く策を考案し、チームもそれを信じ、希望(よゆう)が持ててきている。

 それでも、決して弛まない。

 

(ヒル魔妖一という頭を失い、小早川セナ(アイシールド21)と雷門太郎という両手足(エース)が潰れかけている。

 だが、泥門には、長門村正がいる)

 

 進は確信している。

 自分と同じ性能(スペック)ならば、この程度では潰れない。チームの誰よりもフォローに回っていてもあの男ならば最後まで戦い切るだろう。

 そして、あの男がいる限り、どんな劣勢下であろうと泥門に勝ち目が潰えることはない。

 

 

「だからこそ、対処は簡単だ」

 

 

 そして、冷徹なる指揮官が(えら)選手(カード)は、『進化する新星』。

 

「角屋敷、試合に出れるな」

「はい! 手の調子も問題ありません!」

 

 マネージャーの若菜に手伝ってもらいながら、右腕にテーピングを巻いていた角屋敷が、高見に応える。

 

「あまり無茶はさせたくないが、ここは角屋敷の力が必要だ」

 

「遠慮なんてしないでください。この試合に勝つためなら、俺は全力を尽くします」

 

「わかった。頼む」

 

 前衛の渡辺を下げ、角屋敷を中盤に加える。

 再び守備の中盤を担うラインバッカーを4人体制にしたが、新生王城ホワイトナイツに守りを固めるつもりはない。

 

 

 ~~~

 

 

(角屋敷吉海を入れ、後衛を増やしたか。……さりとて、単に守備をパス寄りにしたわけでもなさそうだ)

 

 同じ陣形だが、先程とは気配が違う。

 ただ視認できるモノより深い情報を察知する直観が訴える。

 王城は確実に仕掛けてくる。

 現状を許せば、王城は状況が不利となるのは目に見えている。

 必ず、策を打ってくる。

 それは一体――

 

「……………ああ、そういうことか」

 

 真正面に相対するモノの肌に突く圧が、この直感が掴んだものの解に至らせた。

 なるほど、この意図は――

 

 

「高校最強の守護神を、自由にするためのものか」

 

 

 先程は使ってこなかった、新生王城最強のカード。

 

 

「来るか、進清十郎!」

 

 

 ~~~

 

 

「行くぞ、長門村正!」

 

 

 ~~~

 

 

 『電撃突撃』を仕掛けるのは、『巨大弓(バリスタ)

 栗田がボールをスナップするや否や全速力で飛び出した進が、長門に迫る。

 

 王城の作戦は、超高速で進が、1対1で、長門を仕留める。

 今、全ての起点となっている長門さえ押さえてしまえば、泥門の攻撃は不能となる。パスターゲットを絞れなくても、発射台はひとつ。

 

 

 長門には西部キッドの『神速の早撃ち』に匹敵する無拍子のパス回し(ワンインチ・パス)がある。

 ――だが、パスを投げられない状況では、それも意味がない。

 

 

(進選手が抜けて、王城の守備に空白ができたのに……!)

「その『速選(オプション)ルート』は通さない。俺達が進先輩を支えるんだ!」

 

 

 モン太やセナは回復し切っていない。瀧や石丸も両面で試合に出ており、疲弊している。攻撃面のみだが雪光は、もともと体力が少ない。

 動き出しは遅く、王城のマークをすぐに振り切れない。

 守備の中核である進が持ち場を放棄しても、それを他のラインバッカーたちが補う。最強の守護神が、標的と接敵するまでの僅かな時間を潰す。

 長門がチームの援助で王城の『ツインタワー剛弓』を斬るのに足らなかった10cmを届かせたように、

 進が『ワンインチ・パス』を貫くのに欲しかった1秒をチームの総力を挙げて、稼いだのだ。

 

 

「雷門太郎やアイシールド21らが健在であれば、パスで躱せたかもしれないが、彼らの消耗は大きい。進との1対1(ワンオンワン)から逃げる術はない、長門」

 

 

 高見伊知郎の思い描いた盤面通りとなった。

 背水の陣を敷く指揮官は、孤立無援の状況。

 そう、泥門の体力を削ったのは、この最大の好機を作り出すため。

 王城ホワイトナイツの策が結実した今、長門村正という泥門デビルバッツの大黒柱を討つのに絶好の場面となった。

 

 これから自力で逃れる術はない窮地に追い込まれながら、誰も頼れない。攻める機会も見出せない局面。

 ここまで追い詰められれば、ボールを確実に捉えている刺突から、ボールを身を呈して庇うか、急ぎ投げ捨てるかのどちらかした選択肢(カード)にない。

 この直面した状況を悟りながらも、長門村正は、一歩前に踏み込んだ(せめにいった)

 

 

「苦難上等。進清十郎、“光速”の貴様を制して、“光速(アイツ)”を斬る術をモノにさせてもらう」

 

 

 悲壮感はなく、むしろ歓迎するように長門は笑っていた。

 『妖刀』の修羅は、守りに入らずに、攻める。

 相手の呼吸、視線、足運び、重心、針の穴のような僅かな隙すら瞬時に捉える眼力で互いに見合わせて――仕掛ける。

 

 

 ――『(スラッシュ)デビルバットゴースト』!!

 

 

 ステップを切りながら、更に長身を沈みこませる。

 横と縦――二つの動きを同時に掛け合わせることで、袈裟斬りの如く、斜めにブレる走り。

 長門のバネに富んだ肉体を十二分に生かした最大限のパフォーマンス。

 

 

「その(はしり)は、予測し(みえ)ている」

 

 

 大和猛や金剛阿含らを抜いた長門村正のランテクニック、その走行ルートを寸分の狂い無く脳裏に描けるほど進清十郎は研究してきた。

 白秋戦で一度しか見せてなかった小早川セナ(アイシールド21)の必殺ランでさえ例外なく対応して見せた守護神に、一度披露した手札は通用せず。

 

 

 ――『光速トライデントタックル・廻』!!

 

 

 渦を巻いて突き出された光速の『三叉槍』は、光速の域(4秒2)に至らぬものでは躱せない。

 

 斜めに切り抜けようとした長門を、最速最短で真芯に捉えた進のタックルは、フィールドへ激しく突き倒した。

 

 

 ~~~

 

 

『決まったァアアアアア! トライデントタックル炸裂ー!!』

 

 

 泥門デビルバッツの最強選手が地面に屈し、首を垂れるヘルメットを見降ろす王城ホワイトナイツの最強選手。

 アメフト関係者たちは唸りながらも、この決着を受け入れていた。

 “パーフェクトプレイヤー”と称されるほどに非常に高い評価をされていた両者だが、その格付けは前評判を覆すものではなかった、と。

 1対1で争えば、勝つのはやはり進だ。

 

 

 ~~~

 

 

『またも『電撃突撃』が炸裂! これこそが、王城、最強の守備! この男こそが、完全無欠の守護神! 何人たりとも抜くことは敵わない高校最強のラインバッカー、進清十郎! もはや泥門為す術なしかー!』

 

 試合は劣勢になりつつある。

 チームの皆、体力が底をつきかけており、唯一パフォーマンスを維持しているエースも止められた。力の差を見せつけられるような形で。

 流れを止めるには、無理をしてでも、彼が戦場に出るしかない。彼の右腕(パス)ならば、エースの力を最大限に発揮させられる。

 

「――手を止めてねーで、とっとと契約通りテーピングを巻きやがれ、糞マネ」

 

「え?」

 

 こちらが止めてでも試合に出る、と覚悟していただけに驚きは大きい。

 戸惑うこちらに彼の調子は変わらない。まったく一顧だにしせず、こちらに腕を突き出したまま、編集した後半の試合映像に注視している。

 

「ケケケ、過保護は卒業したんだろ、糞マネ。糞チビが実はアイシールド21でした~、ってネタバレかまされた時は、びっくりし過ぎて泣いちまったっつうのに、心配性がちっとも抜けてねーんじゃねぇかァ?」

 

「! ヒル魔君! あれは、その」

 

 大事な弟分と想う余りに目を曇らせたが故の黒歴史を掘り返され、慌てる姉崎。

 

「それとも、『ヒィィィィ、まもりお姉ちゃん、助けて~~~』って糞チビ共がビビってると思ってんのか」

 

「思ってない! そんなの思ってないから! ……けど、セナが……皆が頑張ってるのはわかってるのに……」

 

 余計なお世話だと何度も自分に言い聞かせても不安が拭えないのは、それだけ戦っている相手が強いから。

 王城ホワイトナイツ。

 この関東大会の優勝候補筆頭。

 泥門デビルバッツが春秋の東京地区大会で戦い、二度とも負けている相手なのだ。

 全国大会決勝(クリスマスボウル)に向けて最大の壁ともいえるその王城に、今の泥門は追い詰められている。

 そこから、敗戦の苦渋がフラッシュバックが過ってしまうのだ。

 それは、ただマネージャーとして見守ることしかできなかった自分よりも、選手として戦い抜いた彼の方が強いはずだろうに。苦戦を強いられるチームの元へ何をおいても馳せ参じたい衝動に駆られているだろうに。

 それでも尚、ヒル魔妖一は揺るがない。

 

「テメェに言われるまでもなく、状況は理解している。試合前の下馬評からして、王城の方が泥門より優勢だとか、同じ“怪物”でも進の方が糞カタナより上だとか言われてんだろうが。この展開は俺も、糞カタナも後半やる前から読めてんだよ。だが、ここであいつらを“優しさ”やら“お情け”やらで助けたところで糞の役にも立ちやしねぇ」

 

 今はまだリードしているが、この後の展開次第で十二分に逆転される可能性はある。

 王城ホワイトナイツは、守備力の高いチームだ。

 これまでの試合記録から、王城が、試合の最中にも鉄壁の守備力を更新しているのは明らかだ。

 準決勝でも、後半には西部の攻撃に適応し、零封にしている。一度でも使った手札(さく)は対応され、その威力を半減にされてしまう。

 

 だから、切り札を切るならば、試合を決める時だ。

 この場面で切るべき切り札(エース)を温存しているのは、そういうこと。

 背水の陣から戻さず、最速のラン――アイシールド21を使わず、最低限の手札(じぶんじしん)で戦い、訪れるかもわからない“機”まで粘っている。あの高校最強のアメリカンフットボールプレイヤーを相手にしながら、待ち続けて……

 

「――なんて、殊勝なヤツじゃねぇな。あの糞カタナが、ビビってる可能性なんざ0%だ。何せ、最強の選手になる、ってほざきやがったんだ。このままやられっ放しでいるようなタマじゃねーよなァ」

 

 見るまでもない。

 結局のところ、事ここに至っても、絶望している姿など微塵も想像できないのだから。

 そして、向こうも勝利に貢献できない余計なお世話など求めていない。

 

「ま、言いくるめるには生中な作戦じゃあ納得させられねぇじゃじゃ馬なのが糞難点だが……“誰が相手だろうと勝つことを前提にすれば”、打開策なんざいくらでも思い付く」

 

 

 ~~~

 

 

「あ゛あ゛ん! 何、眠ってんだテメェ! 余裕ブッコきやがってとっとと起きてプレイを始めやがれ!」

 

 猪狩は吼えた。

 王城最強(しんせんぱい)泥門最強(ながと)をブチのめして、チームの士気が最高潮に高まっているが、向こうは相変わらずじらしてくる。

 それどころか余計に酷くなっていた。こちらを散々じらつかせながら、ようやくフォーメーションについたかと思えば、攻撃の起点となるクォーターバックが目を瞑って動かなくなったのだ。

 周りのことなどまるで気にも留めず、だらりと姿勢を弛緩して、試合をする気が一切見えない。あの息をするだけでこちらの息を呑ませる覇気がなくなっているのだ。

 一体どうした? やる気がなくなったわけではないだろうから、ああしてこちらの油断を誘ってやがんのか? と怪訝になりながらも、警戒は絶対に解かない。

 

 そして、25秒となり――肝心の指揮官が視界を閉ざしたまま、プレイが始まった。

 

 栗田からスナップされたボールを捕り、ついに開眼。

 

 

 ~~~

 

 

 目の前に、全力で挑める相手がいる。

 

 中学生時代、猛と別れてから、どれほど成長したのか、どれほどの高みにいるのかの判断材料が足りなかった。

 ヒル魔先輩からの指示で、高校まで“長門村正”の情報を秘匿するために、強豪校との対戦は控えさせられていたし、機会があっても実力を発揮させないよう雁字搦めな制限が課せられた。本気でやれば確実に目立つとわかっていたからこそ、『妖刀』は厳重に鞘に納められていた。

 そんな中で、この日本で、猛以外の相手を、明確に目標(てき)と定められることに、幸運を覚えた。

 あの時、送られてきた試合映像が、神龍寺ナーガの金剛阿含であったのなら、ひどく落胆したことだろう。先輩方と因縁があるにしても、才能だけの男が頂点だと提示されても納得はできない。

 進清十郎は、『神速のインパルス』という唯一無二の天性(タレント)を持った金剛阿含と比較すれば平凡だが、その基本こそを極めている超正統派。才能と、それ以上の反復練習によって、アメリカンフットボールの聖書(バイブル)を体現した存在だ。

 あの『スピアタックル』をひとつとっても、最速かつ最短で標的を打ち抜く、無駄をそぎ落とした技術の結晶。

 彼のプレイを追及すればするほど、勝利のための効率の良い戦い方が知れ、そして、それが如何に現実には困難だと悟る。

 だから、彼こそを目標とし、手本とし、そして、いずれは超える障害とした。

 

 

「そう、そして、超えるべき時は、今だ」

 

 

 さあ、この集大成(100%)をぶつけよう。

 カチリ、と己の中の歯車(ギア)が切り替わる感触と共に、『妖刀』は抜かれる。

 

 

 ~~~

 

 

 また、長門自らランだと……?

 

 捕らえたボールを即座に脇に抱えて、全力疾走。パスを投じる気配も見えない。

 高見伊知郎の視界には、ボールを捕り、速攻でランを仕掛ける――進に挑もうとする長門の姿。

 

 教本通りならば、進の『電撃突撃』が来るとわかっているのなら、小早川セナ(アイシールド21)をぶつけるべきだ。それでも尚、背水の陣を止めず、無謀な勝負を強行する長門。

 長門村正の脚では、進清十郎は抜けない……と証明は成された。

 一度倒されて、ムキになってしまっているのか。だとすれば、それはもう暴走としか言いようがない。

 絶対的な能力とそれに比例して肥大する自信に付随しがちな、自己中な傲慢さを制御し切れなくなっているのか。

 

 それとも、それだけ小早川セナの損耗が大きい、進に勝負を挑むには回復し切れていないのか。

 アイシールド21のランに頼ったところで、進に捕らえられてしまうと予想し、無駄撃ちとなるのであるなら切り札の温存に努めた方がマシだと冷静に判断を下したのであれば、孤軍奮闘しようとする姿勢にもある程度は理解が示せるが……

 

 いずれにしても、これはチャンスだ。

 この3回目の攻撃も『電撃突撃』で防がれたとあれば、泥門は窮地に立たされる。たとえ次はアイシールド21を突入させたところで、4回目……その崖っぷちに追い詰められた1度の機会で、この王城の守備で連続攻撃権獲得に至る(10ヤード前進する)ことは不可能だと断言しよう。攻撃の泥門が点を奪えずに、こちらに攻撃権を渡すことになれば、王城は逆転できる。

 

「この好機、確実にものにするんだ、進……!」

 

 

 ~~~

 

 

(止まるな)

 

 長門村正は、ランにおいても間違いなくトップクラスだ。

 恵まれた肉体の発条(バネ)を活かした人の目では追い難い斜めの機動性は、大和猛や小早川セナ(アイシールド21)にも劣らぬランテクニック。

 ここまで一度として阻止し切れないパワーラン。

 そのスピードも西部の甲斐谷陸に並ぶ40ヤード走4秒5と強豪校においても十二分にエースランナーを任せられるレベルにある。

 ――だが、時代最強走者(アイシールド21)程の光速の脚(40ヤード走4秒2)はない。

 故に進清十郎は確実に追いつく、捉えられる、逃さない。

 己が勝るスピードを最大限に活かし、一気に仕留めに行く。

 

(臆するな)

 

 長門村正は脚だけでなく、ハンドテクニックもまた卓越している。

 迂闊に間合いに踏み入れば、その居合い抜きの如き最速の一太刀で斬り捨てられるのが幻視できてしまう。

 リーチで劣るこちらは、長門の『スティフアーム』にいなされれば、抜かれるだろう。

 しかし、“パス”という飛び道具(カード)がある移動砲台(ながと)に様子見など時間を与えるのは禁物だ。チームメイトがパスターゲットを抑えてくれているこの瞬間を無駄に流してしまうわけにはいかない。

 

 故に、高校最速の抜刀速度(ハンドスピード)以上の、限界を超えた(120%の)超光速(スピード)でこちらの間合いにまで潜り込む。

 相手はそれでもこちらの三叉槍(うで)を叩き斬るだろうが、捻りを加えたこの一突きはそれを凌駕する。

 

(決して、弛むな……!)

 

 周囲は格付けが成ったと評価するが、進清十郎自身にとっては、依然と長門村正は同格。

 ほんの僅かの油断も見せれば、仮定の順位付けなど容易く逆転する。全身全霊でもって戦うべき、最強の相手だ。

 

(確実に決める――)

 

 真正面に相対する長門。激しい足さばきを見せながら小刻みに体を揺らし、刺突(タックル)の狙いを外そうとする。

 渾身のタックルを食らわせても尚、脚を止めることのない彼の屈強な心身は、打点をズラせば、前進を許すことになる。

 当てる、ではダメだ。求められるのは、急所を穿つ一撃必殺。

 

 

『おおーーっと! ここで飛び出した、アイシールド21! マークした角屋敷君を振り切って、フリーとなった!!』

 

 

 機が、動く。

 脚はカットを切りながら、長門が上体を沈める。

 『妖刀』の袈裟斬り――『/デビルバットゴースト』の前兆。アイシールド21の飛び出しを察知しながらも、それを進は逃さなかった。

 

 

 ――今だ!

 

 

 進清十郎は、アクセルを踏んだ。グースステップからの超加速。光速を超えるスピード。引き金に指をかけても発射阻止し得る速さでもって制圧する。

 

 

 ~~~

 

 

 消え、た――!?!?

 

 

 ~~~

 

 

 極限の集中力が見せる透き通った世界から、消失。

 あり得ざる事態に、思考が0.1秒停止し、視界にかかる陰に気付き、覚る。

 

 

 俺の頭上を、飛び越えに……

 

 

 ――『(バックスラッシュ)デビルバットダイブ』!!

 袈裟斬りの走法を途中で切り替えた、地摺り、天昇る逆袈裟斬りの飛翔。

 

「『ランを止めて、パスを出す()()()()()()』と思い込ませるだけじゃあ、あんたは抜けない」

 

 意表を、突かれた。

 油断など微塵もないと己に幾度となく用心を促しておきながらも、なお驚天動地を味わう。

 そう、身軽さを武器とするアイシールド21ならば、想定できたスーパープレイ。だが、それは彼だけの特権ではない。

 身体のバネを活かした縦に沈む(ブレる)走法で、自ずと見下ろす……視線を大きく下へ誘導された(むけられた)ところから、最高点まで、最速で翔ける高校最高の跳躍力。

 一瞬で相手の頭上を越えてきたジャンプは、ヘルメットで制限された視界からは、消失したように錯覚し(みえ)ただろう。

 

「だが、『飛び道具(パス)があるのなら、ランからダイブ()()()()()()()』と思い込ませていれば、あんた相手でも勝ち筋はある」

 

 ――“だからこそ、やる”

 ヒル魔妖一が提唱する戦術理論。

 『このカードを出すかもしれない』ではなく、『このカードを出すはずがない』と思わせて、勝機を見出す。

 

 あの『オンサイドキック』と同様に、ここまで温存してきた一手だったか。

 あらゆる可能性を想定しておきながら、裏をかかれた。

 進の『光速トライデントタックル・廻』を、ハードル走のように駆け抜けながら跳躍して回避。

 高校最速に対する、高校最高。

 即座に反転切り返し、着地後を狙う進だったが、左右の曲がり(カット)と違い、120%の超加速から減速せずに後方に切り返すのは無理がある。

 そのロスの分、着地後も減速しない強靭な疾駆が、一気にリードを開く。

 

 

 ~~~

 

 

「進を倒して、日本一の選手になれと言ったが、とんでもねぇ野郎だ、長門」

 

 アイシールド21の『デビルライトハリケーンD』にも初見で対応して見せた進をこうも抜いてみせた。

 溝六の目を以てしても、跳ぶ瞬間まで動きも気迫も完全にランにしか見えなかった。

 

「いや、そうじゃねぇな、ありゃあ。フェイントもへったくれもねぇ。直前まで完全にランだった。気迫だけじゃあ、進には通用しねぇ。そう、まるで……」

 

 

 ~~~

 

 

 プレイが、変わった。

 いいや、爛々と尾を引く眼光から、解き放った、と称するべきか。

 

「そんなの関係ない! 止めるんだ!」

 

 絶対的なエースが、抜かれた……としても、呆けていい理由にならない。

 王城の守備は、如何なる時も決して弛まない。

 角屋敷、薬丸、具志堅は即座に、一糸乱れぬ連携で走路を封鎖していきながら、包囲。進んだ先が袋小路となるよう3人がかりで長門を阻む。

 

 

 ――それを一蹴するからこそ怪物と呼ばれる。

 

 

 まるで無声(サイレント)映画の殺陣のように。

 同時に仕掛けた3人が声を発する間もなく、叩き切られ、振り切られ、切り抜かれた。

 ただ相手のタックルを躱し様、手刀で崩す。それを3人まとめて淀みなく一切を迎撃した。

 

 一段と、速くなった……!?

 ここまで圧倒的ではなかった。3人で掛かれば、1人は食らいつけたはずだったというのにそれがまともに当たることも許されない。

 迅速かつ的確な対処。反応速度と精度が以前と違う。

 脚の速さ自体は変わらないのに、こちらの先手を取って来る動き出しの迅さ。

 これほどの迅さ、比較対象として進に覚えがあるのはただ一人。

 そう、これはまるで――

 

 

 ~~~

 

 

 ――ガンッ!

 

 観客の一人が、目前の無人の椅子を苛立つままに蹴り砕いた。

 

「ひぃ!?」

「な、何だいきなり君は……!?」

 

 そのすぐ横にいた観客が非難せんと立ち上がるが、一睨みで身が竦んだ。

 

 

「視界に入るな、カスが」

 

 

 立ち上がろうとした男性客は慌ててしゃがみ込み、悲鳴を押し殺す。

 ダメだ。今、あの男の機嫌を損ねてはならない。ほんの少しでも癪に障れば、虫けらのように潰される。

 眼中にない自分らでも心底恐怖する、その静かな殺意が向けられるのは、今、フィールド中央を駆ける泥門のエース。

 

「あ゛~……――はっ、ここまでイラつかせると逆に笑いたくなってきやがる。やれるもんならやってみろよ、甘ちゃんが。テメーと進、どちらが上か、見定めてやる」

 

 

 ~~~

 

 

 アレは、まさに金剛阿含の『神速のインパルス』……!

 

 

『泥門、7ヤード前進! 長門選手の個人技が炸裂し、王城・鉄壁の守備を突破し、独走ー! 最後は進選手に止められましたが、停滞気味の戦況を覆すビッグプレイでした!』

 

 

 歓声に沸く周囲に反して、金剛雲水の周囲は静まり返っていた。

 

 まさか、これほどとは……。

 

 一休や山伏、神龍寺の面子の誰もが息を呑み、言葉を発することができないでいる。

 

 いや、ありえない……

 しかし、数多の選手の技を吸収するあの男ならば、できうるのか。

 そう、あの動き、反応の速さはまるで、阿含(おとうと)のよう――

 

 

「否」

 

 

 教え子らの思考を聞き取ったかのようなタイミングで差し込まれた声。ハッとして、その主を探せば、そこには、師・仙洞田寿人がいた。

 師がわざわざ足を運んで見に来ていたことには驚くが、それだけ注目していたのか。

 物静かな佇まいと裏腹に、完全実力主義を貫く厳格な神龍寺ナーガの監督は、鋭い眼光を雲水らへ向けながら、教え子らの間違いを正す。

 

「長門村正……あ奴は、確かに天賦の才を持つ者。しかし、阿含とは似て非なるものよ」

 

「しかし、今の反応速度は、阿含の『神速のインパルス』のよう……」

 

「否。あ奴は、阿含のように頭で考えて動いてはおらん。感じるがままに動いておる。まさしく、無念無相の境地よ」

 

 彼の大剣豪、宮本武蔵が五輪の書に記した無念無相。

 それは、無意識に正解を選べる自由な直観力。

 将棋のプロ棋士が次の一手を選ぶ際、最善手を“思考”ではなく、“直観”で打たれていることが多いと言われる。

 これはプロが常人にはない脳の神経回路を駆使しているからで、それは長い訓練や経験によって発達するもの。

 考えて動くのではなく、感じたまま瞬発的に動ける能力。

 

 認識し、思考し、反応する――リアクションタイムが、0.11秒。それより迅く電気信号(インパルス)が伝わることは、科学的に不可能とされている。

 人間が感じる感覚は、脳に信号が到達するまでに僅かな時差が生じる。

 長門は思考の(かんがえる)過程を放棄することによって、この僅かな時差を短縮させているのだ。

 

「しかし、そのようなことが可能なのですか?」

 

「無論、容易いことではない。百の修練があっても届かぬ領域よ。だが、故に、それをあ奴は千の、万の修練……才を凌駕する執念によって己が本能を研ぎ澄ませ、光を捉えるほどの“神速”に至らせたのだ」

 

 生まれ持った『神速のインパルス』ではない。

 時代最強ランナーを追う渇望は、夢に見るほどの闘争欲求であり、長期間覚醒状態を保ったままで脳が活動し続けた結果、本能がままに相手を斬る、最速の感覚を掴ませた。

 言うなれば、『神速のインスティクト』。

 

「だが、未熟也。直観のままに動くには、心身に迷いがあってはならん。己以外の全てを雑念と見なし、これを一切消す。孤高の域に達しなくては、真に“神速”は完成せん」

 

 

 ~~~

 

 

『進選手、『電撃突撃(ブリッツ)』を仕掛けたーっ!!』

 

 超高速で特攻を仕掛けるのは、高校最強の守護神。

 全ての攻撃の起点となる司令塔を真っ先に潰しに行く。

 それに対するには、更なる迅さが必要だった。そう、好敵手(やまと)光速(スピード)を捉えるため、ずっと、欲していた力。

 その解がそれ。

 長門村正は、本能寄りの選手だ。

 

 元々獣じみた感性が、超集中状態に入れば、いよいよ獣のそれである。

 目は重心の傾きから進行の予測を見極め、聴覚は筋骨の軋みから起こりの予兆を聞き分け、皮膚は視線の圧を感じ取り、全身が相手の動きを捕捉するレーダーと化す。

 加えて、『“視認(みて)”⇒“思考”(かんがえて)⇒“反応(うごく)”』の並列処理から、“思考”を省略化(カット)

 察知してから身勝手に迎撃する。

 この長門村正の反射は、金剛阿含の反応にも劣らぬ域に達した。

 

 また、反応の迅さだけでない。走りの質も変わった。抑えていた本能を全開放した副産物か、より野性的になっていた。より一層の躍動感が足された疾走は、前後左右の全てに斜めの角度がついており、目に追いづらいものになっている。

 

 しかし、ずば抜けて反応が速い輩とは、既に対決経験はある。

 

(反応速度の想定を、“金剛阿含”と修正し直す)

 

 進清十郎と金剛阿含は、昨年の関東大会で戦い、その結果、金剛阿含は進清十郎を認めた。『神速のインパルス』を捕捉し得た進清十郎を、金剛阿含は認めざるを得なかったからだ。

 0.1秒の遅滞も致命的となる闘いを経た進からすれば、阿含と比較して長門には粗が見える。

 『神速の本能(インスティクト)』は、未完成で、不完全。

 更なる高みへ至るための扉を自力でこじ開けるに至ったが、入門編に過ぎず。制御しきれてはいない。

 

 そして、そんな暴走と変わらないそれに、味方である泥門は追いつけていない。

 限界近く消耗している泥門の選手が、全力全開のエースに合わせられるかと言えば、否だ。先程の独走状態に入ったにもかかわらず、誰も長門のフォローに入ることができなかったのがその証拠だ。

 

『監督。あの長門村正は、金剛阿含に匹敵する脅威です。行かせてください、『巨大矢(バリスタ)』を』

 

『いかん! お前もわかってるだろ。まだあれはとても実戦では使えん』

 

『いえ、可能です』

 

『お前ひとりが可能でどうする!』

 

 春の大会の一事が脳裏を過る。

 

『『巨大矢』は……王城戦術の革命だ。皆、まだとてもじゃないけど練習不足だよ』

 

『…………わかりました』

 

 泥門デビルバッツとの二回戦で、『巨大弓(バリスタ)』を断念せざるを得なかったのは、チームメイトがエースのプレイに合わせることができないと判断されたからだ。

 孤軍奮闘しようにも、限界があり、限度があるのだ。

 そして、ここまで周囲に合わせることでチームの形を保っていた長門が制限を止めて暴走すれば、チームメイトは置き去りにされ、寄る辺のない、独り善がりの愚者に陥る。

 

 それらを我が事のように理解でき、今、王城ホワイトナイツというチームに支えられた進清十郎は――飛び出した。

 

 

 ――『光速トライデントタックル・廻』!!

 

 

 捩じりを加算した超加速の一突き。側面を手刀で弾こうが巻き込んで貫き通す必殺。

 先程、飛び越えら(かわさ)れたにもかかわらず、一切の躊躇がない。違う。仲間からの全力の支援(フォロー)を受けていることを悟ったからこそ、僅かな迷いも振り切った。

 

 

「行け、進! 王城のエースであるお前こそが、最強だ!」

「全力でバックアップします! 後ろは任せてください、進先輩!」

 

 

 背に受ける声援と支援を後押しに、超光速で迫る進。

 右手刀の牽制も、最高の跳躍力もこれには間に合わない、と抜き身の本能は察知した。

 回避不能と思考するより迅く、自動的に迎撃に打って出る。進清十郎の渾身のタックルに対し、まるで鏡合わせのように、長門村正も渾身の特攻で応じた。

 

 

 ――『卍デビルバットソード』!!

 

 

 互いに120%の超加速。

 その衝突の刹那、視た。その長身をさらに捻り半身気味に倒しながら自ら当たりに行き、合わせた――ボールを狙った三叉槍の切先を、畳んで盾にした右腕で受けた。

 ジョルトカウンターの如く放たれたパワーランに右腕(やり)が、痺れ、弾かれた。

 長門もまた会心の一撃を受けた右腕に骨肉を貫通する激痛が走ったが、左腕(ボール)を狙った一刺しを回避。右腕と右腕の等価交換。両者共に痛みに怯むような精神性ではなかったが、再起動に差を生じさせたのは、体格か。衝突の刹那に生じた好機、神速に達した本能は考えるより迅く、そのまま剛から柔の走法へ切り替えていた。

 

 

 ――『デビルバットハリケーン』!!

 

 

 三叉槍と鍔迫り合いながら猛進する回転抜き(キリ)

 突貫して、相手の勢い(スピード)を殺しながら、己の勢い(スピード)を殺さずに躱す、小早川セナ(アイシールド21)が角屋敷吉海の槍を凌いだことの再演。

 三叉槍の一撃を受けても崩れないボディバランスが有って成せる極限技。体格差で立ち直りが0.1秒出遅れた守護神は、最高速度で巻き返さんとする――

 

 

 長門は、必ず俺が止める……!

 

 

 回転(スピン)を使った分、直進するより0.1秒遅れていた。

 ここで決着がついたセナと角屋敷との対決の違いは、両者の速度差――刹那の遅滞で、勝敗を覆す光速のスピードがあるかないか。

 

「!」

 

 左手の小指薬指が、グローブに引っかけていた。

 近づく相手を弾き飛ばす嵐の如き回転(スピン)を見切り、二の槍(ひだり)で刺す。まるで白羽取りを成すかのように、長門の右手を指二本で掴まえていた。

 

 

「小指と薬指だけの力で掴まえやがった……!!」

 

 

 なんて、執念。

 狙った標的を仕留めるまでは決して止まらない必中の槍の如く。

 

「―――」

 

 指二本で、手首を引いて強引に。引っかけた指二本の関節が外れかけようが構わず、グローブが千切れんばかりに振り切って、ついに長門の体勢を崩させた。

 

 

「長門が、やられた!?」

 

 

 いいや、これしきでは長門は倒れない。

 長門が体勢を立て直すよりも迅く復帰し、確実に、仕留める。

 

 

 ~~~

 

 

「進清十郎に一矢報いることはできるだろうが、それだけでは王城に勝てない」

 

 作戦で、長門はそう告げた。

 展開を先読みし、個人技での限界点に行き着いた。

 

 ――進清十郎は、『進化する怪物』。

 一髪千鈞を引く強敵手との競り合いの最中にも、更新する。先程は予測を上回る超反応だったが故の誤りで抜かされたのであり、決してこちらの動きが捕捉し得ないほど速かったわけではない。阿含に匹敵する超速の反応速度と想定し直して脅威度の修正を図った上で、対応するだけのこと。意表を突けるのも最初の一度限り。

 『神速のインパルス』との対決は昨年、既に経験済みである進清十郎はその更新は瞬く間に完了することは予想できた。

 

 だから、札を切る。

 

 

「無理を言う。この1プレイだけで十分だ。全力の俺に、後先のことなど考えず、死力を尽くしてついてこい――」

 

 

 ~~~

 

 

 全力の、個人技。

 基本的に長門は相手に合わせて連携を取る。そこに余分な思考が生じ、鈍らせる。その遅滞の思考を放棄して最善手を優先し、周囲に配慮しない暴走は、配慮されていた味方では、追いつけない。

 ――そう、こっちも考えて動いては、間に合わないのだ。

 

「ボールが、来る……っ!」

 

 考えちゃいないが、感じた。

 振り向かない。両エースの激突の瞬間を見逃してる。だけど、この背中に受けたモノは間違いない。

 対峙する相手は、マークこそ外さないが、両エースの激突に目を向ける余裕があり、こちらは最初の一歩を先んじることができた。

 

 

「死力MAXダーーッシュッ!!」

「なっ!? コイツ、いきなり!?」

 

 

 飛び出したモン太に、驚く井口だったが、動揺は一呼吸で鎮まった。

 出し抜かれても一歩分。今の、バテバテのモン太なら、十分持ち直せる。死力を尽くす相手と違って、心身に余裕がある。バック走をしながら、進と対決する長門の動向を気にかけるだけの。

 だが、それも失われる。

 

 

 ――どうなってる、もうとっくにこいつは死んでるはずなのに……!?

 

 

 バック走で追いかけるが、差が縮まらない。それどころか、並走しながら視界の端で捉えていたヘルメットの側面が、徐々に離れていく気さえする。ありえないのに。

 まさか、向こうの方が速いのか!?

 

「っ! そんなはずがない……っ!」

 

 追いつけないバック走から切り替えた。出遅れてしまったが、雷門太郎のマークに全集中を注ぎ込む。

 後塵を拝するこの状況は、直面しても尚、受け入れがたい。桜庭が忠告していても、実際に対峙していた井口の目にはどう見たってモン太は死んだも同然だった。

 理解できない現状を、振り払って見せるよう井口は鼻を鳴らす。

 

「はんっ……なに、今までみっともなくハアハア舌出して、へばったフリでもしてたのかな。お猿さんにしては演技が上手じゃないか。けど、残念。そんなんで僕を振り切ることなんて無理なんだよ!」

 

 挑発の言葉を背に浴びせるが…………反応は何も返らない。

 さっきはあっさり挑発に乗る直情的な性格をしていたくせに、こちらを無視する様は苛立つ。

 

「調子に、乗るな!」

 

 腕を伸ばし、モン太の肩を突き飛ばす井口。ふらつく身体は、あっさりと崩れる。やっぱりそうだ。コイツはもう限界だった。少し焦ったが、モン太を仕留めた井口は、自分の見立てに間違いがなかったことに内心胸を撫で下ろして――倒れ込みかけながらもギリギリ堪え、まだ、我武者羅に前進するモン太に唖然とした。

 

 

 挑発に応じる余力すらも向けない。

 全力のエースに応じるためには、こっちも全力を費やすのが最低限度だからだ。

 

 無防備にどつかれても止まらない。決められたルートへ修正して只管突っ走る。

 俺達のエースは、向こうのエースの破壊力MAXのタックルをもらいながらも戦ってるんだから、ちょっと『バンプ』で押されたくらいで倒れる無様を晒していいはずがない。体が折れそうになったって、堪える。

 

 

「邪魔、すんじゃねぇよ……!」

 

 ゾクリとした。

 どうしてそんなにも、自分すらも顧みずにやれるんだ……っ?

 気迫だか執念だかで動いてる。精神が肉体を凌駕しているとしか言いようがない有様。まるで、ゾンビだ。

 

 

「俺は、『キャッチの達人』。パスが飛んでくるんなら、何度だって蘇って捕ってやる!」

 

 

 ~~~

 

 

 難攻不落とされた長門が、倒れてる。

 持ち直そうとする気配など端からなく。

 今ある全てをこの一投に注ぎ込んでいる。

 

 ――っ! ここから、パスへ修正できるのか……!

 

 体勢を立て直す進に対して、長門は体勢を崩されながらも構わず、ボールを構えていた左腕を振り切った。

 

 

 ~~~

 

 

 ――いや、いくら何でも無理やりが過ぎる!

 投手としての才覚にいくら恵まれていようとも、進との競り合いの最中に、あんな不安定な体勢からまともにパスをコントロールできるわけがない。

 

 だが、そんな高見の中の常識を覆すかのように、転倒する間際に、彼方へ飛ばす軌道の先には、それを追うレシーバーがいた。 

 

 

 ~~~

 

 

「ありゃあ、まともに狙いはつけられない」

 

 確かに、無理やりが過ぎる。

 たとえ曲撃ちができたとしても、あんな綱渡りを強行すれば、狙いを定める余裕などありはしない。

 

 

「そうだ。ルートを外れるな」

 

 

 すぐ隣から聞こえたこの発言に、キッドは僅かに驚く。

 長年付き添ってきた幼馴染からしても、体と同じく口も堅い鉄人が自発的にこぼした呟きは稀少。

 鉄馬丈は、基本、誰かに指示されなければ、何もしない。命令待ちの待機状態。一日中しゃべらなかったことも珍しいことではない。

 

 だからこそ、自らの意思で放った言葉は、抑えきれない感情の発露に違いなく。

 

 観客の99%が長門と進の対決に注目する最中にあっても、好敵手と認めた(モン太)を一心に目で追って手に汗を握るその様に、キッドはテンガロンハットを被り直す。

 それから、前言撤回はしないが、一言、付け加えた。

 

「まあ、狙いをつける必要もないか」

 

 

 ~~~

 

 

 味方を、見ない。

 味方に配慮しない全力の、パスプレイ。

 あのキャッチバカは、全力疾走で自分のルートを走ると確信できるからこそ、敵の守備位置を直観的に把握するだけで十分だ。もっと言えば、チーム全体で、エースたる進清十郎をバックアップするという統率された体制を取る王城の連携(うごき)は、容易く予想し得た。

 だから、パスターゲットを探す手間は、省略しても構わない。

 

 

 ~~~

 

 

 横走り投げ(はしりながら)空中狙撃(とびながら)竜巻投法(まわりながら)、と激しく動きながらでも狙いを外さない、移動式発射砲台として優れた才覚と絶対的なボディバランス。

 長門は、この身を横に投げ出している中のアクロバットな曲撃ちでも、パスをルート上へ通した。 

 

 そして、そのパスルートを雷門太郎は、譲らなかった。

 

 

『パス成功ー! 執念を見せたモン太選手のキャッチで、泥門デビルバッツ、8ヤード前進! 王城ホワイトナイツの厳しい守備に遭いながらも、更に連続攻撃権獲得です!』

 

 

 スポットライトが、ボールをキャッチした方へ流れた。

 ほんの数秒、二人きりに切り離された空気の中、ゆっくりと身を起こしながら、長門は言う。

 

「進清十郎、あんたの特攻に、こちらも触発された。いや、ムキになった。泥門デビルバッツも、怪物(おれ)配慮す(あわせ)る必要はない、ってな」

 

 狙いを外さなかったのは才能だが、狙いを定めさせたのは信頼。

 

「俺達は全員で挑んでいる。進清十郎、王城ホワイトナイツに勝つために」

 

「こちらも同じだ、泥門デビルバッツ」

 

 

 ~~~

 

 

 フィールドを揺らす程湧く歓声。

 けど、今はそれに応えることもできない。いつもなら、天高く指を突き立ててMAXな決めポーズを取るところだが、残念ながら起き上がる余裕もない有様だ。

 

(ああ……ついに切れた。最後のスタミナ一滴が)

 

 芋虫のように身をよじりながら、どうにか上体を起こす。脚は、まだ震えてる。疲労のあまり痙攣してる太腿は、血が通っていないかのように感覚が戻らない。

 

 

「タイムアウトをお願いします」

「モン太!」

 

 

 その様に、長門は審判へタイムを要求。倒れたままのモン太へセナが血相を変えて駆け寄る。

 この試合最後の大仕事だと長門は言っていたが、それに甘えてばかりはいられない。最後まで戦い抜く気概でいるつもりだ。だから、あまり格好悪い真似はこれ以上晒すわけにはいかないというのに。

 と俯くまま動けないでいるモン太へ、その声は贈られた。

 

 

「ナイスガッツだ、野球少年」

 

 

 歓声の最中にも、不思議とその声はよく通った。

 

 ハッと、白んでいた視界に色がつく。

 それはもう反射的に、勝手に顔は上向いた。声がした方を、見る。

 

 

「さっきのキックボールを背面捕りしたことといい、凄いキャッチだった」

 

 

 ああ――

 言葉は、でない。だせない。一時、息をするのさえも忘れた。それくらい夢中だった。夢中になった憧れだった。

 あの人はスタンドの最前列にいて、自分はフィールド……相対した時とは構図が逆だけど、色褪せることない己の原点がフラッシュバックして景色と重なった。

 

 

「10年前のあの日――スタンドにいた少年、だろ?」

 

 

 その情景を、憧れ……本庄勝も共有していた。

 ファンサービスでグローブを贈った一人の少年を、彼も覚えていた。

 

 

「覚えてっかな。あの時、渡したグローブ」

 

 

 思いもよらぬ出来事に、感動が止まらない。全身が震えっ放しになってどうしようもないくらいに、感情が千々に乱れる。

 

 ……わかってる。

 わかってるんだ。本条さんは、俺のことを応援にしに来てくれたんじゃねぇ。本庄鷹(一人息子)の対抗馬となり得る長門を見に来てたんならわかるけど、俺のことなんて眼中になかったはずで……

 

 

「戦うフィールドは変わっても、ずっと極め続けてんだな、キャッチの道を……!」

 

 

 なのに、どうしようもなく嬉しい。

 あの時に抱いた“本庄二世”の夢が叶わないとわかっていても、本庄選手に認められたことが、これまでの努力が報われるくらいに。

 

(畜生、試合中に感極まってる場合じゃねぇ。男は悔しい時以外は泣いちゃいけねぇんだ)

「すまねぇ、セナ、ちっと肩貸してくれ」

「モン太?」

 

 それから、慌てて駆け寄って、身体を起こすのを手伝ってくれたセナに頼み、スタンド壁近くまで肩を貸してもらってから、自力で立つ。

 それから、左手のグローブがフィールドに擦った拍子に破れていることに気付き、外す。

 

 

「はい……! あざっした、本庄さん!」

 

 

 スタンドにいる憧れへ、まず一礼。

 歓喜したのは、確かで。

 だけど、決別する。

 伏した顔を上げたモン太の目には涙があったが、決して逸らさない。今は見上げるしかない、憧れである『キャッチの神様』さえ睨む力強さがあった。

 

 

「俺は、雷門太郎は、この決勝戦で関東No.1レシーバーになって――キャッチの神様だって超えて――クリスマスボウルで、本庄さんを倒して――世界最強のレシーバーになる!」

 

 

 無礼であると百も承知だが、もう二度と自分の夢を諦めないと誓ったのだ。

 一度破れてから、掴み直した新たな夢を吼えながら、球状に丸めたグローブをスタンドへモン太は投げた。

 全くのノーコンであるはずのその一投は、奇跡的にもコースを外れなかったが、目標である本庄勝へ届くにはわずかに飛距離が足らず……――落ちる間際に、スタンドへ身を乗り出しながら、その大きな手は掬い捕った。あの日の返礼、そして、挑戦状を受け取ってくれた。

 

「大きくなったな、全く……」

 

 それ以上のやりとりはない。

 する資格もないし、何よりも試合中。

 バチン! と両手で顔を挟み叩き奮起したモン太は、スタンドから背を向け、戦場へ戻る。

 

 

 ~~~

 

 

「なんかよくわかんねーけど、男見せやがったなモン太!」

「まあ、もう限界だろうから、休んでても構わないぜ」

「そうだそうだー! こっからは俺らにも出番を譲りやがれ」

「フゴゴッ!」

「アハーハー! ここからは僕の独壇場さー!」

「っせぇ! まだ俺はやれるぜ! 試合終了までキャッチMAXだ!」

「モン太君、あまり無茶は……」

 

 思わぬハプニングはあったが、そのおかげで体裁を保てるくらいにはモン太は息を吹き返したし、それにつられてチームの士気も発奮した。

 だけど、もうモン太にこれ以上の無理はさせられない。

 アドレナリンが出まくっている今は、疲労を忘れていられるが、試合終了までその状態を維持できる保証はどこにもないし、興奮状態が切れた時の反動もその分だけ大きいだろう。

 作戦会議で宣告したように、札は切った。

 だが、切った札でも、牽制として機能させられる。

 

(モン太の活躍で、パスの印象が強まった。進清十郎の『電撃突撃』も成功率が半々だと王城も考えているはずだ)

 

 そして、ゴールへ前進するにつれて、守備範囲が狭まればその分だけゾーンの厚みが増す。パスを通せる空白(スペース)も減っていく。

 であれば、ここで使う札は、ランの最強――小早川セナ(アイシールド21)

 

(セナの走りで、ランが警戒されれば、『電撃突撃』も躊躇するようになる。王城も、これが決勝点となり得ることは理解しているはずだ。リスクを無視できなくなれば、こちらにも余裕ができる。セナとモン太(ふたり)以外を頼った札も使えるようになり、選べる戦術の幅も広がる)

 

 ただ、一点。

 不安材料があるとすれば、今のセナの体力で、40ヤード走4秒2(フルスピード)で走り抜けられるのは、20ヤード程。

 ゴールまではまだ30ヤード程は残っている。

 

(セナを起点としたランプレイを警戒していないはずがない。必ず、進清十郎が障害として立ちはだかる)

 

 同じ光速の脚を持つ者同士で、それに加えて、進には120%に超加速する技術があり、その体力も健在。試合終盤までトップスピードを維持できる持久力がある。

 たとえセナが一度抜いたとしても、少しでもスピードを緩めれば追いつかれるだろう。

 

(そうなったら、捕まる。……正直、捕まるだけならばいい。最悪なのは、壊されることだ)

 

 アメリカンフットボールは、球技であり、格闘技だ。

 進清十郎は、何人もの選手の骨を折り、病院送りとしてきた。昨年の練習試合では助っ人2人の骨を折っている。

 峨王力哉のような破壊衝動のままに相手を壊すことはしていないが、チームの勝利のためならば、相手選手を破壊することに何の躊躇いも持たないだろう。

 そして、純粋なパワーでは劣っていても、スピードを掛け算させて跳ね上げさせた『光速トライデントタックル・廻』の威力は、峨王の圧殺にも匹敵する。

 今の体力が限界に近い状態で、三叉槍の一撃をその身に受ければ、セナが試合続行不能となるリスクは少なくない。

 ここでセナまで抜けてしまえば、泥門は戦線を維持することは極めて困難になる。

 

(『電撃突撃』を仕掛けさせて引き付けてからショートパス……は、角屋敷吉海が徹底してマークで張り付いている。俺が盾役(リードブロッカー)として入れれば良いんだが、発射台(クォーターバック)の役目を放棄してしまえば、パスへの警戒がなくなり、ランに守備が集中……突破は至難となる)

 

 単騎駆けで最強の敵とぶつけさせるのが、最も勝率が高いだろうが、それ以上にリスクが大きい。だが、ここでタッチダウンを奪えなければ、泥門デビルバッツに勝ち目はない。

 

 そして、作戦を決めた長門は、指示を待つ皆へ向く。

 

「――ランの最強のカードを使う」

 

「!」

 

「ということは、つまりセナ君、だね」

 

「はい、栗田先輩。今のセナにあまり無理はさせたくはないんですが、頼らざるを得ないと判断しました」

 

 無論、策はある。

 セナにだけ危険な橋を渡らせる気は毛頭ない、と言いかけたところで割って入られた。

 

 

「――やめて、セナをイジメないで」

 

 

 聴き慣れた声に、()()()()()()()()()セリフ。

 

「ひっ――」

 

 真っ先に反応した人はやはりこの人。けれど、我らの泥門の主将は、ピタッと急停止。ちょっとアクセルが壊れてる感激屋のこの人が固まるとは相当である。

 

「は?」

「はぁ?」

「はあああ?」

「あはーはん?」

「え?」

「フゴ?」

「えええええええ??」

 

 他の面々もゆーっくりと振り向いて、フリーズ。一同皆愕然としている。

 そうして、最後、武蔵先輩と揃って溜息を吐いてから、ようやく長門が反応すれば、そこには優しい皆のお姉さんなマネージャーが、がっちりと防具を身に着けて意気揚々と参上……

 

 

「これ以上無理をさせちゃったらぶち壊れちゃうんだから、私が守るわ!」

「その無駄にクオリティの高い一発芸(コスプレ)にどんなこだわりがあるのか知らんが、その全方位にケンカを売ってく趣向はどうにかならんのか? いや、もういい。とにかくその気色悪い声真似はやめてくれ。怖気が走るし、後ろでご本人がお怒りだから」

 

 

 したわけではない。断じて。

 あれは、聖女に扮した悪魔の如く、姉崎まもりの画像を張り付けたフルフェイスマスクをした先輩の姿に、チーム皆を代表してツッコんだ。

 あとで絶対に、姉崎先輩に説教されてくれ。

 

 

 ~~~

 

 

『おおーーっと! フィールドに現れたのはやはりこの男! ヒル魔選手! 負傷退場したとのことでしたが、チームの窮地に復活してきたかー!』

 

 東京ドームのシステムをハックしてきた、あるいは関係者を脅したのか、LEDビジョンに無数の悪魔の蝙蝠(デビルバット)が乱れながら羽ばたく映像が映し出され、アナウンスに火がつけられた観客たちの期待値を上げに盛り上げる。

 頭が痛いと長門は嘆きたくなった。

 ド派手な参上をかました当人は、似てない姉崎まもりのコスプレしてるし、どんだけレパートリーを用意してるんだとか、どうして毎度無駄に演出に凝るんだとか色々と言いたいことがあるが、それらを追及したらキリがないし、どうせ口では勝てないだろうから棚に上げる。

 突き付けるのは、淡々とした事実。

 

「あんた相手に大人しくしろなんて無理だから言わないが、怪我人はベンチに下がっていてくれ」

 

 え? と栗田先輩らがこちらを見やる。すっかりヒル魔がプレイに加わるものだと思っていたのだろう。

 この会場全体、観客達を沸かしておいてなお、長門はヒル魔の参戦を認められない。一指揮官として。

 

「自己管理も把握できない人間が、チームの指揮権を預けられると思ってるのか」

 

「あん、鏡見て言ってんのか」

 

 はい、そうですか、と引き下がる性格ではないのは知っていたが、挑発気な返しにむっとする。

 

「今は戯言に付き合ってやる余裕はないし、この先のプランニングも固まっている。そこに怪我人が入る余地はない――」「糞チビの爆走でも、王城連中に捕まらず一気にタッチダウンを奪うにはまだ前進する必要がある。それを詰めるため、糞カタナがボールを運ぶ。進の野郎の『電撃突撃』があって厳しいが、テメェならタックルをもらおうが、『キューピードロー』で(自力でボールを運んで)ゴリ押しできんだろうな。さっきのパスで印象が残ってる糞サルへの牽制を挟めば、2、3回の攻撃権で10ヤード分を詰めれるっつう腹積もりだろ」

 

 言うはずの台詞を盗まれた開いた口から、はぁ、と溜め息を吐き、沸々とした苛立ち(ノイズ)を排出する

 

「さっきフィールドに着いたばかりだというのにあっさり作戦を読むか。そのことでもはや驚きはしないが、そこまでわかっていてなお余計な真似をする気か」

 

「70%、ってところだな」

 

 長門の見立てとヒル魔の評に相違ない。だが、そこまで通じていてなぜここで口出しをするのか。

 

「ケケケ、王城相手にあそこから逆転までしてんのは期待以上だ。下手な小細工を弄さずとも、このままいけばまあまあの確率でタッチダウンを獲れんだろ。――だが、赤点だ」

 

「まさか、この局面で、0.1%の隙も無い100%の作戦を求めてるのか。頭を打ったせいで夢見がちな夢想家(ロマンチスト)にでも目覚めたわけじゃないんだろ」

 

「ああ、だから、テメーが見落としてるモンも見えてる。アドレナリンをドバドバ出し過ぎて気づいてないかもしれねーから訊いてやるが……

 ――糞カタナ、この試合で進のタックルを何発もらいやがった?」

 

 その指摘に、ハッとした視線が長門に集まる。

 チーム全員、この常人離れしたエースのことを理解し、信頼し……だからこそ、見逃していた。この苦しい最中にあっても、あまりに平然としているからこそ、勘違いしていた。

 そして、彼が対峙する相手もまた怪物の域に達した超人。

 

「……そうだよ。去年の練習試合、進君のタックルで助っ人が2人も骨折してるんだ」

 

 蒼褪める栗田の震えが周囲に伝播する。それはセナらも聞いたことのある話。

 そう、峨王のように相手選手を不必要に破壊はしないが、進は勝つために必要であればそれを躊躇わないだろう。ましてやその破壊力は去年を明らかに上回っている。

 峨王の圧殺(パワー)以上の威力を秘めた進の渾身のタックル(パワー×スピード)

 それを何度も真っ向から受けているその身体に、一体どれだけのダメージが蓄積しているのか。

 

「糞カタナは助っ人の連中とは出来が違う。だが、糞デブが潰しても壊れねぇ糞頑丈さを計算に入れても、これ以上テメーが無理を(ゴリ押し)すれば、50%の確率で壊れる」

 

 期待以上の戦果だと評しておきながら落第だと結論付けるその理由を、淡々と告げるヒル魔。

 この場の主導権を握りつつある悪魔の口先は更に論じる。

 

「さっきのテメーの作戦も、俺に読めるなら、あの糞メガネにも大方予想がついてんだろ。その上でこの状況を許している。何せ、糞カタナの方から処刑台に登ってきてくれてるみてーなもんだからなァ。進の野郎に、糞カタナをブチ殺させるにはこの上なく好都合だ」

 

 長門の想定通りに事が進めばこの先、進との正面衝突はまず避けられない。

 いや、それ以前から、長門は何度も進という最強の槍を真っ向からぶつけられてきたのだ。

 

 点差はつけられようが、最大の障害である長門を除ければ、十二分に逆転できる。

 これまで二度の公式戦から証明されている通り、長門が退場すれば、泥門の戦力はがた落ちする。それどころか、指揮官を担える人材が彼とヒル魔以外にいない以上、泥門は空中分解し、まともな試合はできなくなるだろう、と。

 あの冷酷な王城の指揮官ならば、それくらいは目論んでいてもおかしくはない。

 

 そうして、散々、周囲の不安を煽り立ててから、口調を軽薄なものに変えて揶揄するようにこちらに振って来る。

 

「ま、大事な大事な後輩を心配する余りにビビっちまって計算違いしてるかもしれねーから、一応、確認しておくが、どうなんだ、糞カタナ?

 “自己管理も把握できない人間が、チームの指揮権を預けられると思ってるのか”、だっけか? 指揮官様なら当然、答えられるはずだよなぁ?」

 

 ニヤニヤと口は笑い――ただし、目は笑わず――嬉々としてこちらの揚げ足まで取って来る。

 

 …………………………………………………本っ当に、性格が悪い。

 

 つくづくだが思い知らされた。

 この先輩と口論する場に立ってはならない。天才も、聖人も、怪物も、この悪魔の口先には乗せられる。

 ものの1、2分で周囲を扇動し、ここまでの戦局で確固たるものとしたはずの指揮官としての立ち位置に敵以上に瑕疵を植え付けさせてきたのだ。自分のことは棚に上げた上で、だ。性格が悪いことこの上ない。

 

「わかった。チームの指揮を預かる者として冷静さを欠いていたことは認める。だが、こちらの作戦を批判するなら、その代案はあってしかるべきだ。指揮権を返すかは、あんたの作戦(アサインメント)次第で判断させてもらう」

 

 苦々し気な表情で、せめてもの抵抗を見せた後輩へ、悪魔の先輩は1枚のカードを突き付けた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。