成功法とは限らないからこそ楽しい   作:コウT

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前回の続きですー

よろしくですー




一色いろはは考えてる。

 

 

 

「あ。もうすぐ着くよー」

「ふわぁ……もう着いたんですか?」

「お前は寝ていただけだからわからないだろうな」

「あんたもちょっと寝てたでしょ……」

 

 

 ゴールデンウィーク初日。少々渋滞に巻き込まれたが無事に目的地へと辿りつくことができそうで、皆のテンションは少しずつ上がっており、眠っていた一色や運転に集中していた雪ノ下さんも口を開いて、会話している。

 

 

「チェックインしてから何しますかー?」

「うーんまずは部屋割りをして、そのあと時間も時間だからご飯。みんなが二十歳超えてたら、お酒を買って、部屋で飲もうかなって思ったけどできないし……どうしよっか」

「私はご飯食べたら、休みたいかな」

「えー! つまらないですよー。私も早くお酒飲めるようになりたいなー」

 

 

 酒癖悪そうだよな、一色。飲むことになっても、なるべく遠い席にいよう。てか今日はもうご飯食べて、風呂入ったら、寝よう。そもそも何で旅行に来たら、夜更かしをしなきゃいけないみたいな流れになるんだよ。

そんな考えをしてるうちにホテルの駐車場に到着して、それぞれ車から降りていく。

 

 

「陽乃先輩、運転お疲れ様でした!」

「あ、ありがとうございました」

「いえいえー。一度車で旅行に行ってみたかったんだよねー。免許取っても、運転する機会なかったしさ」

「……お疲れ様です」

 

 

 さてそんなわけで何でいつもの奉仕部メンバーではなく、こんな珍しいメンバーで旅行に来ているのか。

それは先日一色からお誘いを受け、諸々の事情があり、このメンバーになった。高校の人達との旅行は修学旅行くらいしかないし、おまけに男は俺一人だけ。いやハーレム展開は期待してないぞ……本当に。

 しかし一色はともかく川崎が来ることは本当に意外だったし、雪ノ下さんも面白そうだから来たんだろうが……と言うよりこの人には来たことに関して少々聞きたいことがある。

 

「せんぱーい! 荷物よろしくです」

 

 と、微笑みながら一色から荷物を手渡される。

 

「はあ……少しくらい自分で持てよ」

「女の子は荷物が多いから大変なんですよ」

 

 こういう時に女の子を使う女子ってずるいよな。まあこいつの場合そういう事が得意だろうから、自然に出ちゃうんだろうけど……。

 

「さてと……じゃあチェックインしてくるからちょっとその辺のソファにでも座っててー」

「あ。私、家に電話するので少し離れますねー」

 

 と、二人がそれぞれ離れていき、残された俺達はソファに座りながら待つことにした。

 

「ねえ」

「ん?」

「その……旅行ありがとね」

「もう何回も聞いたし、誘ったのは一色だから俺に礼を言う必要はないだろ」

「う、うん。でもあんたと旅行行くって想像できなかったからさ……ちょっと楽しみで」

 

 と、顔を赤らめながら笑っている。な、なんだろう。よく友達と旅行に行くと普段とは違う魅力を感じるというがこれもその一つなのだろうか。

っていうか……今日のこいつは何かその……違うんだよな。旅行気分で浮かれてしまってるのだろうか。

 

「その、なんだ。ゴールデンウィーク中も予備校の講習とかあるって聞いてたけど大丈夫なのか?」

「うん。平気だよ。お母さんにも話して、休みにしてもらったし。それに……比企谷と旅行行くのに予備校は後回しだし」

「ん? 何か言ったか?」

「いや! 何でもない!」

 

 最後の方は聞こえなかったが何故か顔を逸らされてしまった。何か言ったか?

 

「お待たせ―! チェックイン終わったよ」

「お待たせしましたー」

 

 そう思ってる内に同時に二人共帰ってきたのでそのまま部屋へと向かう……が、

 

「えーと……何で一部屋?」

「え? だって一部屋分しか用意されてなかったよ?」

 

 嘘つけ! この旅行は元々平塚先生が旅行行こうとしてたから……ん? 平塚先生が友人と旅行行こうとしてて、取ったチケットだよな。てことは元々女性四人一部屋の予定だったのだから……間違ってはいない。尚、旅行メンバーに男性がいたかもしれないという考えは残念なことに出てこなかった。

 

「むしろ私達と同じ部屋なんだからお礼の一つくらい言われてもいいと思います」

「そうそう。こんな選り取り見取りな女の子達と一緒の部屋なんだから。本当は嬉しいくせに」

「いやいやいや……」

 

 何とかならないものかと受付に戻って、聞いてみたが別途料金かかるということで仕方なく一緒の部屋になった。幸い部屋はコネクティングルームで隣の部屋と隣接しているので何とか俺一人、女子三人という形になる予定だったのだが。

 

「どうしてベットが二つずつに分けられてるんだ……」

「まあそういう内装ですからねー。もう諦めましょうよ」

「いやこれはさすがに……つかお前達は嫌じゃないのかよ?」

「全然。むしろ先輩と一緒なんて楽しみですよ?」

「私も……嫌じゃないし」

「私は全然おっけーだよ。あ、襲う時はみんなが寝てから、ね?」

 

 そんな勇気をお持ちの人がいるなら是非ともお近づきになりたい。この人を襲うとかどういう神経してるのだろうか。

 

「けど比企谷君と一緒の部屋は一人だけなんだよねー。どうしようか?」

 

 もはや完全に無視された。最悪フロント近くにあるソファーで寝るとしよう。

 

「先輩を誘ったのは私ですからここは仕方なく私が一緒の部屋になってあげますかね」

「ま、まあここは同級生の私の方が変に気を使わずに済むだろうから、私が一緒の部屋になってあげるよ」

「ここは一番年上の人が一緒になるべきだよね。てなわけで私が一緒になってあげるかなー」

 

 それぞれの主張が言い終えると三人は何故か互いを睨み合い、空気が少しずつ重くなっていく。てかいなくなるからそこまで考えなくても……。

 

 

「先輩! 私ですよね?」

「い、いや。別に俺は誰でも」

「私だよね? 前に家に来た時、平気で寝てたから多分気を使わないだろうし」

「ま、まあそういうこともあったな」

 

「いやーこはお姉さんと一緒だよね? お姉さんと一緒の部屋だと特別にご奉仕してあげてもいいんだよ?」

「えーとそれはですね……」

 

 

 最後のはどう考えてもまずいだろうがとりあえず今回の旅行で少しでも気を使わない相手が一緒の方がいいだろう。

そうなれば一人しかいない。

 

「川崎。悪いが一緒の部屋でもいいか?」

「う、うんっ! ……ありがと」

 

 何で礼を言われるのかよくわからないし、しかも名前を言った途端に笑顔になったし。川崎はさっそく自分の荷物と俺の荷物を隣接している隣の部屋へと持っていっている。

 

「ふーん……まあ今日は譲ってあげるとしますか」

「ん?」

「何でもないよー。それじゃあ少し休んだら、夕飯にしましょう」

 

 そういうわけで一色いろは&雪ノ下陽乃ペア、比企谷八幡&川崎沙希ペアで部屋は分かれたが基本扉は開けっ放し(閉めようとすると一色に怒られる)なので二人も平然とこっちの部屋に入ってきて、俺のベットでごろごろしたり、勝手に鞄の中身を漁ろうとして来る。そんな面白いもん入ってねーよ。下着の柄がつまらないとか言うな。

 早くも旅行は色々と波乱の予感を迎えていた……。

 

 

× × ×

 

 

『だからー好感度をゲットして、雪乃さんや結衣さん以外の選択肢を作ることが重要だと思うんだよ、お兄ちゃん』

『何で好感度をゲットしなきゃいけないのと選択肢について三十文字以内で答えろ』

 

 現在トイレ前。急に電話がかかってきたかと思えば、今回の影の首謀者からで、当然ろくな会話じゃないだろうなと思いながら、電話に出ると案の定だった。

 

『お兄ちゃんと同じ部屋になるために早くもそんな争いが発展するなんて……』

『そのおかげで今日の夜は最悪フロントのソファーだけどな』

『まあまあそういわずに。今もみんなと楽しくご飯食べてるんでしょ?』

『まあな』

『楽しそうで何より。とりあえず一日何があったかは小町に毎日報告してねー! 日報は大事だよ、お兄ちゃん』

 

 日報って言うなよ。せっかくのゴールデンウィークなのに胃が痛くなるだろ。書いたことないけど。その後たわいもない会話をして、電話は終わった。席に戻るとすでに三人は食事を終えているようで軽く食休みをしているようだった。

 

「電話長かったですねー。妹さんからですか?」

「ああ。どうでもいい話だったが。てかあとは俺だけか?」

「はい。私達はもう食べ終わったので先輩だけですよ」

「そうか。んーまあ俺もそんなに食欲ないし、腹減ったらコンビニ行けばいいかな」

 

 むしろコンビニとかでなるべく部屋にいる時間を減らしたい。いくら川崎が相手でもさすがに同じ部屋というのは少々気まずいとこがある。

 

「それでさー。明日からの予定を三人で話してたけど一応校外学習の下見だからとりあえず有名なところをいくつか回ろうと思うんだけどいい?」

「いいですよ。その辺はおまかせします」

 

 そう言うとそれじゃあと雪ノ下さんは言葉を続けて、

 

「ここからが本題だけど比企谷君。みんなで話し合ったんだけどただみんなで回るってのはつまらないから、午前中は四人で行動。午後からは二人ずつで行動って形にしたいんだけどいいかな?」

「はあ……でも四人じゃだめなんですか?」

「うーんそこはね。話し合った結果こうなったということで。で、一応一日ずつペアは変えていこうと思って、明日は川崎ちゃん。明後日は一色ちゃんと。そして最終日は私と組むことになりましたー!」

 

と、一人で盛り上がるが他二名はなんだか不満そうな様子だった。

 

「何で私が真ん中なんですか……最終日がよかったのに」

「そもそも何で部屋まで変わんなきゃ駄目なの……ずっと私でよかったのに」

 

 何か呪文を唱えるようにぶつぶつ言ってるが聞こえないのでスルーしとこう。

 

 

「まあそういうことになったからよろしくね」

「はあ……まあその辺は言ったところで無駄だと思うのでいいです」

「理解が早くて助かるよ」

 

 諦めが早いといった方が的確かもしれないがもうこの旅行に参加すると決まった時点で彼女達に振り回されるのは覚悟していた。まあ小町が言ってた好感度をゲットするためには二人で行動したときのほうが大事だろうと思うし。何で手に入れなきゃいけないのかはわからないままだが。とりあえずまずは今晩だ。さくっと乗り切ってしまおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お風呂あがったよ」

「あ、ああ」

「どうしたの? そんなあわてて」

「いやなんでもない……」

 

 部屋に戻った俺達は腹が膨れたこともあり、眠気もかなりきていたのであとはお風呂入って寝るだけだった。

お風呂を沸かした後、先に川崎が入ってるのでベットに横になりながら、お風呂が開くのを待っていたら浴室から寝巻きというよりラフな格好になった川崎が出てきた。湯上りなのでポニーテールではなく、髪をおろしているので物凄く新鮮なのだが……いやこういうことを素で思ってしまった自分が結構恥ずかしいけど綺麗というか大人っぽいというか……いつもとは違う一面なせいか変に緊張してしまってる。

 

「さ、先に寝てていいからな」

「何で? まだ九時だよ」

「いや良い子は九時に寝なきゃ駄目と教わらなかったか?」

「知らないし。それに私、良い子じゃないし」

 

 いたずらな笑みを向けてくる彼女は何だかいつもの川崎っぽくない。逃げるように浴室へと向かう。すでに初日なのに色々とやばい気がするのだが……。こういう時って何故か早風呂になってしまうのですぐにあがってしまった。寝てるかなーと思いつつ、ベットのほうを覗くと川崎はまだ起きていた。

 

「早かったね」

「あ、ああ。ちょっとぼーっとしちゃったから」

「ふーん。てか髪濡れてるけどちゃんと乾かしたの?」

「いや……いつも自然乾燥だし」

「だからボサボサになるんだよ。こっち来て」

 

 と、自分の横をぽんぽんと叩く。

 

「別に良いって」

「いいから……来な」

「はい」

 

 睨んでくる川崎に反抗することなく、そのまま彼女の横に座る。……いや駄目だろ、これは。シャンプーの香りと風呂上りで少し火照って、赤くなった川崎の顔が近くなる。ああまずい、まずい!

 

「後ろ向いて」

 

 言われるがままに後ろを向くとドライヤーの起動音が聞こえ、川崎が俺の髪を撫でるように乾かしていく。顔が見えない分さっきよりかはましな気がする。

 

「ちゃんと髪型ケアすれば少しはましになるから毎日やりなよ」

「別にいいって……そんな気にしてないし」

「あんたはいいかもしれないけど……私が嫌だし」

「何でお前が嫌なんだよ」

「うるさい」

 

 てかケアしたところでくせっ毛だから直らないんだよね。まあ中学のときにストレートパーマをかけようかと考えたがどうせすぐにボサボサになるんだからいいかなって。

 それにしても……すげえ気持ちいい。優しく撫でられる感じが眠気をよりいっそう誘うし、何より風呂上りなせいか楽な気分だ。

 

「気持ちいい?」

「ん」

「よかった。けーちゃんみたいに嫌がらなくて」

「けーちゃんはまだケアとかいいだろ」

「子供のうちからやらないと駄目。将来苦労するだろうしさ」

 

 女の子は大変なんだな。そう思いながら気持ちよく川崎に髪を乾かされ、十分後にようやく髪を乾かし終えて、それぞれ自分のベットへともぐる。

 

「それじゃあ電気消すぞ。明日の朝七時に目覚ましセットしたから」

「うん、ありがと……」

 

 リモコンで部屋の明かりを消して、早速夢の世界へ入ろうとする。結局フロントで寝ることにはならなかったがまあこんだけ眠気が溜まっていれば気にすることなく夢の世界へと旅立てる。

 しかし沈黙はすぐに破られる。

 

「……寝た?」

「まだ。つか寝ろよ」

「……あんたは寝ないの?」

 

 これから寝るところだったといいたいがこうも会話が進むと眠気がどんどん消えていく。

 

「ねえ……そっちにいってもいい?」

「は?」

 

 思わず起き上がると同時にベット横のテーブルランプの明かりがつく。もちろんそれをつけたのは俺じゃなくて目の前でまくらをぎゅっと抱きしめている川崎だ。

 

「何考えてんだよ。二人に見られたらどうすんだよ」

「平気……鍵閉めたから」

 

 余計に怪しまれると思うんだけど。すでに明日の朝が怖くなってきた。

 

「駄目……かな?」

 

 瞳を潤わせながら、こちらに問い詰めてくる彼女の姿に思わず顔を逸らす。いくら好感度がほしいといえど、いきなりベット展開はまずいだろ! 最近のラブコメでもこんな展開はいきなりすぎるぞ!

 

 

「いや、さすがに男と女が同じベットっていうのは」

「私は……嫌じゃないよ?」

「そうかもしれないけど」

「比企谷は……私と寝るの嫌?」

 

 

 もちろん嫌じゃない。だけどさすがにこれはまずい気がする。

 と、考えていると急に川崎がオレのベットへともぐりこんできて、俺とほぼ密着した状態となっている。

 

「あんたが優柔不断なのがいけないんだからね!」

「いや……つかなんでこっちにきたんだよ」

「うるさいっ! いいから寝るよ!」

 

 いや寝れねえよ。お前がきたせいでさっきから心臓がバクバク言ってるし。川崎の顔を見れないので壁側を向いている。そうだ、この壁を材木座だと思えば寝れるかも知れんぞ。材木座、材木座……いや戸塚にしとこう。そうしとけば幸せな気分で寝れる。

 

「ねえ」

 

 戸塚、戸塚……。

 

「……こっち向いてよ」

 

 とつ……無理。さすがに限界だった。いやもう少し粘れよ、俺。

 

「……そんなに嫌なら戻るけど?」

「……別に。単純に寝たいだけだ」

「じゃあこっち向いてよ」

 

 仕方なく、顔の向きを変えると目の前には笑みを浮かべた川崎の顔があり、お互い見つめあった状態になる。

 

「えへへ……やっとあんたの顔見れた」

「一日一緒にいたんだから見てただろ」

「そうじゃなくてさ。ちゃんとあんたの顔を見るのは」

 

 そういうことを言うのはよくないと思います、つか川崎ってこんなことを言うやつだっけ? 何かキャラ変わってない? 大丈夫? ねえ?

 

「あのさ……また今度私の家にこない? ご飯食べに」

「ああ、いいぞ。小町も喜ぶと思うし」

「いやその……あんただけで」

「俺だけ?」

「うん……今度家族で旅行に行くらしいんだけど予備校あるから私いけなくてさ……だから来てくれないかな?」

「……まあ構わないけど」

 

 テーブルランプの明かりのせいで顔が赤くなっているのは川崎の目にも映っていることだろう。それほどまでに今の川崎の言葉は誘惑させたものだった。

 

「ありがと……ねぇ……手、繋いでもいい?」

 

 どーせもう何を言っても無駄だろう。そう思えば不思議と気が楽になった……と思う。

 

「勝手にしろ」

「ありがと……なんかいつもと違って素直だね」

「うるさい」

 

 

 それから二人が寝るまでには時間がかからなかったが思っていた以上にぐっすり寝れたのでよしとしよう。

 

 

× × ×

 

 

「ねぇ……きてよ」

「ん?」

「比企谷……起きてよ」

 

 時刻は午前七時。見慣れた自分の家の部屋ではなく、ホテルの一室。そして俺の視界にはこちらの顔を覗くように見る川崎の姿。

 

 

「へ?は?」

「寝ぼけてんの? 顔、洗ってきなよ」

 

 すでに着替えも済んでいる川崎は澄んだ顔でそう言った。

……ようやく俺は昨日の夜の出来事を思い出したがもう終わったことは仕方ない。

そんな時ふとチャイムの音がビーと鳴り響く。

 

「ごめん。出てもらっていい? 多分二人だと思うから」

「ああ。わかった」

 

 ベットから出て、扉のほうへと向かうと川崎があっ!と声をあげる。

 

「何だ?」

「その……昨日のことは内緒だから……ね」

 

 おお……顔を赤らめつつも、笑みを浮かべて人差し指を口に当てている。これが噂に聞く二人だけの秘密というやつ……いやまあこれは秘密にしないとまずいだろ。トップシークレット案件だろ。特に平塚先生の耳にまで届いた場合はとんでもないことになりそうだ。

そう思いながら扉を開けると、

 

「おはようございます、先輩。さてどうして中の扉の鍵が閉まっていたのか説明してもらえますか?」

「おはよう、二人共。お姉さんも聞きたいなぁ……どういうことかな?」

 

 同じ笑みで悪魔のような笑みを浮かべた二人に俺も引きつった笑みを浮かべていたと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあまたあとでねー!」

「うん……また連絡するので」

「せんぱーい! 絶対に負けちゃ駄目ですからね!」

「はあ? 何のことだ?」

 

午前中は海周辺を回り、先程昼食を終えたばかりでここからは昨日話した通り二つのペアで行動することになる。今日の相手は川崎だ。

 

「じゃあ……行こっか」

「ああ。で、どこいくんだ?」

「あーそれなんだけど行きたい場所があるんだけいい?」

「まあ任せる」

「わかった」

 

 何か知らんが昨日の夜からは機嫌がいい川崎に連れられて、そのまま電車に乗る。距離的にはそんなに遠くもないが近くもないらしく電車で一駅、そこから歩いて数分の場所らしい。

 

「あんたは……行きたい所ないの?」

「うーん特には。軽く観光地をネットでググったけどそんなに興味ありそうなところはなかった」

「結構あんたが好きそうなところあると思うんだけどな」

 

 俺が好きな場所なんて自宅以外ない。むしろ自宅以外の場所は好きではないと言ってもいいぐらいだが別にインドア派ってわけでもないんだよなあ。いつもここに矛盾が生じるけどまあそれは臨機応変ってことで。

 それにしてもまだ五月というのに気温はかなり高く俺も川崎も夏服である。半そで短パンの俺のラフな格好に白のトップスに紺色のスキニーパンツって言うんだっけ? まあ動きやすい格好でいる。また半袖なのでいつもよりも肌の露出があり、目のやり場の少々困るし、おまけに……。

 

「なあ川崎」

「何?」

「何で手を繋いでるんだ?」

「駄目?」

「いや駄目ではないけど……」

 

 女の子と手を繋ぐなんて慣れていないので本当に困る。手汗とか溜まってないか本当に不安になるし。

 

「あ、降りるよ」

「ああ」

 

 今更ながら思うけどこれってデートじゃね? なんて考えは最初のうちに出てはいたのだが相手が川崎だし、気にする必要はないはずだった。

 でも昨日の一件で彼女を気にかけることになったのでそう意識せずにはいられなかった。

 

「着いたよ」

「……えーと川?」

「うん、川」

 

 後ろには海、目の前には山。そして目の前には川。都会の川とは違い、透き通った水が美しく見える。ぼくなつにあるよな、こういうところ。

 

「有名なところよりもこういう風に自然を味わえるところで遊びたいなって」

「まあ……河原で遊ぶほうが健康的だしな」

 

 去年の話だが河原で遊ぶ女の子達を見ていたのでふいにそう思ってしまう。そういや留美ともクリスマス以来あってないけど元気なのかね? 今度遊びに……通報されかねない世の中だし、やめとくか。うん。

 

「さて。それじゃあ遊ぼうか」

「へ?」

 

 気の抜けた声を出してると靴を脱いだ川崎は川に入っていった。川はぜんぜん深くないようなので特に濡れる心配もなさそうだ。

 

「比企谷もおいでよ」

 

 そう呼ばれたので川の方を向く。まあせっかくだしな……靴と靴下を脱いで、川に足をつけていく。

 おぉ……思わず声が出そうになるくらい気持ちいい。足から冷たさが徐々に……と、気持ちよくなったところでいきなり顔に水しぶきが飛んできた。

 

「ははっ。どう? そっちのほうが気持ちいいでしょ?」

「おい……服濡れたんだが」

「気にしない、気にしない。えいっ!」

 

 と、続けて水をかけてくる。どうやらお前は俺を怒らせたようだな。

もはや川崎が女の子であるということを忘れて、思いっきり水をばしゃと水をかける。そこからお互い無言のままかけあいっこが続き、もはや服が濡れることなんて考えていなかった。でも俺達はいつの間に笑みを浮かべていたのは確かだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー楽しかった。てかこんなに服を濡らさないでよ」

「お前が最初にやってきたんだろ」

「私はそこまで思いっきりやってないし。まあ楽しかったからいいか」

 

 一通り遊び終えた俺達は川岸に座り込んで川に足をつけながら、一休みしている。まあはしゃいだからな、ずいぶん。

 

 

「やっぱ私はこういうふうに体を動かすほうが好きだな」

「へえー」

「珍しい?」

「ちょっとは」

 

 体を動かすことは好きなのかもしれないがあんまりこういう子供っぽい遊びが好きなのは知らなかった。むしろあんなに笑顔な川崎を見たのは初めてかもしれない。

 

「なんか……変わったね」

「変わった?」

「うん。ゴールデンウィークにあんたに誘われてから、前よりもあんたといるの……楽しいっていうかさ」

「……恥ずかしいなら言うなよ」

 

 顔が赤くなるのは暑さのせいだ。決して聞いてる俺が恥ずかしいからではないぞ。

 

「ねえ……前から聞きたいことあったんだけど聞いてもいい?」

 

 川のせせらぎの音がさっきよりも耳に響く。これに蝉の鳴き声が聞こえれば夏らしさが出るけどまだ五月。今でこんなに暑いのなら、夏はどれだけ暑くなるんだろうか。

 

「雪ノ下と由比ヶ浜のことどう思ってるの?」

「どう思ってる……か。まあ大切な奴らとは思ってる」

「……そっか。やっぱり特別なんだ」

「勘違いすんなよ。恋愛的な意味とかじゃないからな」

「知ってるよ。あんたがあの二人のことを大事にしてるなんて」

 

 空を見上げながら川崎は言う。今まで同じクラスメイトの一人としか見てなかった彼女だからこそそういうふうに見えてきたのだから言えてしまうのだろう。だから俺もそれを否定することはしないし、素直に認める。

 

「もしさ……あの二人があんたの事を好きだったらどうする?」

「それは光栄だな。俺なんかを好きになってくれるなんて」

「……じゃあ付き合おうといわれたら付き合うの?」

「さあな。その時の俺次第じゃねえの? 正直なところそういうふうに考えれば、変に期待しちまうからしないようにしてる」

 

 

 期待は裏切られる。そんなことを耳にしたのはいつだったか覚えていないけどきっとそれは間違いじゃない。期待通りにいくなんて甘えた人生なんだ。期待通りに行かないからこそ人生だと思うし、もし上手くいかなければきっと後が辛い。それが怖いから俺は期待をしない。

 すると隣の川崎が体の向きを変えて、俺のほうを見つめてくる。ちょうど目が合ってしまうが川崎は動揺する様子はなくしっかりと俺のほうを見てくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのさ……もし私が……あんたのことを好きっていったらどうする?」

 

 

 

 

 

 

 

 


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