悪にしかなれない人間もいる   作:芳奈揚羽

2 / 3
書いては消しの繰り返し。設定とかは決まってますが、久々に書くとやっぱり難しいですね。しばらくは月1で投稿出来ればいいなと思ってます。


第2話

 ヴィランにより建設中だったビルが破壊され、連鎖的に区域の建造物が多数破壊されたため放棄された地域。その崩壊したビルの一室に、膝を抱えた男が座り込んでいた。

 

 背は低い。中学生と言われれば信じてしまいそうなほど小さい男である。だが、彼こそが世界を騒がしている『ヴィランを殺すヴィラン』【死神(リーパー)】。本名は魂魄(こんぱく) 狩人(かりと)24歳なのである。

 

「・・・そろそろ限界か・・・・・・。」

 

 そう呟く彼は、指の先を見つめていた。その指からは、よく見ないと分からない程度ではあるが、虹色に輝く粒子が吹き出ている。いや、それだけではない。ほんの少しずつではあるが、指先が光の粒子として解けていくのが見えた。

 

「・・・初日から狩りすぎたか。もう少し抑えるべきだった。」

 

 彼が日本へと帰還してから一週間。既に、3日もヴィランを殺していない。初日からたったの4日で、合計30人以上のヴィランを殺した彼を恐れて、ヴィランは息を潜めてしまっているのだ。

 つい先日までいた紛争地帯を基準に考えてしまっていたのだ。そこで彼は毎日のようにヴィランを殺害していた。このくらいなら大丈夫だろうと考えた結果だったのだが、完全にやりすぎてしまっていた。

 

 狩人(かりと)は焦る。何故なら、彼は狩人(かりゅうど)であるが故に。狩人(かりゅうど)は、獲物がいなければ生きていけない。生きるために必要な糧であるヴィランがいなければ、遠からず彼は最悪の事態を引き起こすだろう。それだけは阻止しなければならないと彼は思いつめていた。

 

 だからだろう。

 

 彼は普段、ヒーローがいる現場で狩りをすることはない。ヒーローが間に合っていない現場に先回りし、ヒーローが来る前に仕事を終了させる。それは、彼はヴィランにしか力を振るわないと誓っているからだ。かつてヒーローに憧れた身として、最後のラインだけは死守している。だから、ヒーローと戦うような事態に陥る訳には行かなかったのである。

 

 だが、彼は今衰弱していた。

 

 今すぐヴィランを探さないと、とんでもない災厄を日本に解き放つことになる。それを理解していた。日本に帰ってきた目的を達成せずに死ぬなどありえない。その為、彼は見つけた獲物に食らいついてしまったのである。

 

 『ヴィランが商店街で暴れている』と、SNSへの書き込みを見て、そこにヒーローがいるかなど考えもせずに飛び出してしまったのである。

 

 

 

★★★

 

「・・・・・・すまない。」

 

 商店街。そこで一人の痩せた男が呟いた。

 

 病気を疑うほどやせ細った、骨と皮だけの金髪の男。だが、彼こそが日本最強ヒーローである【オールマイト】その人なのである。

 

 そんな彼が、破壊された商店街の一角に向かって謝罪を口にしていた。誰かに聴かせるためのものではない。ただ、死者に対する懺悔だった。

 

「ヴィランであろうとも・・・いいや、ヴィランだからこそ生きて罪を償う必要がある。だというのに・・・私は君を守れなかった。」

 

 日本では、殺害は基本的に禁止されている。それは、凶悪なヴィランに対してもそうである。反対意見も確かにあるが、多くのヒーローはいかにヴィランを生きたまま捕まえるかも研究している。出会い頭に最大火力をぶつけて終わり、では済まないのだ。

 いかに周辺への被害を少なく、ヴィランを生きたまま捕縛するかというのは、常にヒーローの頭を悩ます問題なのである。

 

 彼の目の前には、多くのヒーローや警察関係者が、飛び散った大量のヘドロを回収していた。そして、事件が解決したというのに、誰ひとり明るい顔をしている人などいない。誰もが沈痛な顔つきで黙々と作業を続けていた。

 ヘドロによる悪臭もさる事ながら、このヘドロが既に死体(・・)であるということも拍車をかけているのだろう。飛び散った死体を回収するなど、誰もやりたくない。本当は当事者であるオールマイトも手伝うべきだろうが、彼はとある事情により【オールマイト】として活動する時間に大きな制限を受けている。彼は最強ヒーローとして抑止力としての役割を持っており、彼が弱体化していることを大勢に知られる訳には行かなかった。

 

 よって、心苦しくはあったものの、彼はその場を離脱したのである。

 

 ―――逃亡した【死神(リーパー)】を追跡する、という名目で。

 

「あの時、もっと早くに気がついていれば・・・。」

 

 とある少年の輝きに感化され、今日の制限時間をすぎていたにも関わらず無理やり変身してヘドロヴィランを倒したオールマイト。周囲がその圧倒的な力に湧き、歓声を上げる中、やはりそれに気がつくのは彼が一番先だった。

 

「危ない!!!」

 

 ヘドロヴィランから開放されたばかりの少年と、それを気にかけていた少年。その二人を咄嗟につかみ、恐るべき速度でその場を離脱したオールマイトだったが、結果としてその判断は間違いだった。

 そもそも、その人には少年二人を攻撃する意思などなかったのだから、この時点でヘドロヴィランを救いに行っていれば、彼を助けることもできただろう。

 

 ZUUUUUUUUUUUUNNN!!!

 

 凄まじい衝撃がその場を襲った。上空から降ってきた何かが、ヘドロヴィランの本体を直撃したのだ。立ち上る砂煙の中、オールマイトが見たのは大鎌を振りかぶる【死神】の姿だった。

 

「やめ・・・っ!」

 

 走り出そうとするも、既に遅かった。振り下ろされたその凶器は、ヘドロヴィランの体を両断していたからだ。

 

『あ・・・』

 

 多くのヒーローたちが手こずったヘドロヴィランの最後の言葉だった。体がヘドロと化しているが故に、物理的な攻撃にはかなりの耐性を持っていたハズの彼はあっさりと死んだ。

 

「クッ・・・・・・!」

 

 ヘドロヴィランが既に死に絶えていることなど、既にオールマイトは理解していた。【死神】とは、世界各地で二十年活動を続ける最強クラスのヴィランである。特にそのうちの十五年間は日本で活動していたため、彼を知らないヒーロー関係者はいない。

 彼の個性は未だ判明していないが、彼の攻撃がどういう性質を持っているかを知らないヒーローはいない。だからこそ、ヘドロヴィランが既に死んでいることに、確信を持ててしまうのだ。

 

 ―――【死神】の大鎌は、物理的な防御をすり抜ける。

 

 ―――【死神】の大鎌は、その一撃で必ず殺す。

 

 彼の大鎌に対して防御するという選択肢はありえない。明らかに死ぬような攻撃でなかったというのに、体に掠っただけで殺されるのだ。そして、大きな特徴は、彼の大鎌は物理的な干渉を一切受けないということだ。

 彼の大鎌は、物質を破壊出来ない代わりにあらゆる物体をすり抜ける。

 

 ―――武器で防御した者がいる。地面を操作して壁を作った者がいる。体を金属に変えた者がいる。

 

 その一切が通用しなかった。それらの必死の努力を嘲笑うかのように大鎌は全てを無視した。過去、この大鎌を防御出来た唯一の個性は”結界”という、自身の周囲にエネルギーによる防御を行うフィールドを作る個性だけ。しかしその個性も、何度も攻撃をうけることにより消滅し、結局殺されてしまった。

 

 だからこそこの場のヒーローは確信していた。既にこのヴィランの命は存在しないと。

 

 しかし、それでも彼らはヒーローである。目の前で殺人が起きて、それを黙って見ていることなどできない。一番初めに飛び出したのはオールマイトだったが、それに遅れて何人ものヒーローが【死神】へと突撃した。それに加わらなかったヒーローも、周囲の人々を安全な場所まで誘導しようとし始める。

 

「スマッシュ!!!」

 

 オールマイトが腕を振り抜いた。それらを見ていた人々は希望を見出す。

 あの【死神】であろうとも、オールマイトならば勝てるのではないか?【死神】の特性は有名だ。しかし、それでも思ってしまうのだ。天候を変えるほどのパワーを目の当たりにして、人々は【死神】の敗北を幻視した。

 

 DANNNNNNNNNNNNN!!!

 

 とても人を殴ったとは思えない音だった。【死神】は小さい。オールマイトとの身長差により、パンチは顔に当たることとなった。避けるそぶりも見せず、【死神】はその拳の餌食となった。

 

「・・・・・・やはりダメか・・・!」

 

 そんな中、オールマイトが零した一言が静まり返った商店街へと響く。彼の目の前には、一歩も動いていない(・・・・・・・・・)【死神】の姿があったのだ。仮面は粉々に吹き飛んでいるが、彼自身には傷一つ付いていない。

 

「そうですね。いくら貴方でも、私を傷つけることは出来ない。・・・余りの迫力にヒヤッとしましたけど。」

 

 微笑みながら言う【死神】。変成器も壊れてしまったのだろう、声変わり前の少年のような高い声だ。

 そう。これは有名な話。【死神】は一切の物理攻撃を無効化する。彼を傷つけるには、火や水のような攻撃じゃないとダメなのだ。今まで彼に傷を負わせたのは火と水の攻撃のみであり、物理以外ならなんでもいいのかと言われるとそうでもない。風の攻撃は無効化されることが判明していた。

 

「なら、捕らえる・・・!」

 

 だが、そこでじっとしているオールマイトではない。殴るのがダメなら拘束すると、彼の体を押さえつけようとする。しかし・・・

 

「無駄ですよ。」

 

 ヒュンという独特の音を立てて、彼は消え去った。次の瞬間現れたのは、少し離れた商店の屋上であった。

 

「目的も達成したので帰ります。それとオールマイト。体は大事にしたほうがいいですよ?」

 

 懐から新しい仮面を取り出しつけてから、彼はまた消え去った。この場を離れたのだろう。もう近くには出てこない。

 

「・・・クッ・・・!」

 

 オールマイトは歯噛みした。目の前で人を殺されて、それを逃がしてしまったのだ。個性の相性が最悪とはいえ、完全なる敗北と言ってよかった。

 

「私は【死神】を追う。さらばだ!」

 

 制限時間もとっくに過ぎており、急いで現場を離れたオールマイト。ビルの間を飛び跳ねながら、オールマイトは先ほどの言葉を思い出した。

 

「体は大事に、か・・・。まるで・・・・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。