【死神】は、五年前まで十五年もの長きに渡り日本で活動していたヴィランである。故に、隠れ家もいくつか用意してあった。
「やっとたどり着いた。」
彼が現れたのは、四方を分厚い金属で覆われた四角い部屋だった。おかしな事に、この部屋にはドアや窓の類が一切存在しない。あるのは小さな通気口だけという、ほぼ完全な密室だった。
家具も殆どない。小さな机に椅子、電灯、パイプベッドだけである。長いあいだ使用していなかったからか、随分とホコリが積もっていたが、彼は気にしないでベッドに横になった。後で掃除でもしないといけないだろうが、彼は今疲れていた。
じつはこの部屋、地下にある。彼には何人かの協力者がおり、その人物に頼んで作ってもらった部屋だった。【死神】は、個性を使うことでこの密室へと侵入することができるのである。
「まさかオールマイトがいるとは・・・。」
仮面を机に放り投げる。
そうすることで意識のスイッチが切り替わった。仮面をつけているあいだはどことなく丁寧だった仕草が乱暴になる。【死神】としての自分から、魂魄狩人としての自分へと変化する。これが、彼の母親から受け継いだ個性の能力であった。彼は、自身の個性の他に、もう一つの個性を持っている。
変声器もとってみると、原型がわからないほど完全に破壊されていた。これではもう使えないだろう。同じく机に放り投げる。ヒーローのコスチュームに使われる技術を利用して作られたものだったのでとても頑丈なのだが。改めてオールマイトの異常な攻撃力を理解し、背筋が震える。
「やはり平和の象徴。あれだけ弱った状態であの強さとは。個性の相性的に負けるとは思わないが、他のヒーローと連携されると逃げるだけでも一苦労だろうな・・・。」
勿論、オールマイトの超スピードに付いてこられるという条件が付くが、彼にダメージを与えることが出来る個性を持つヒーローと共闘されると酷く厄介なことになると彼は感じた。そして、人の
「ヴィランなど・・・そうまでして生かす価値のある存在だろうか・・・?」
ヴィランに生きる価値なし。
それが狩人の考えだ。個性を悪用する人間は全て死に絶えろ。それが彼の願いであり目的だ。ヒーローがヴィランを生かすなら、その生かされたヴィランも全て殺し尽くして、最後に自身の命を絶つことを彼は覚悟していた。そして、この日本に帰ってきた理由は、死んだと聞いていたとあるヴィランが生きているという情報をとあるルートから入手したから、なのである。
「・・・・・・両親の仇・・・・・・【オールフォーワン】・・・!お前は、俺が必ず殺す・・・!!!」
掠め取られたと思っていた敵。それと出会う日を夢見て、彼は眠りに付いた。
★★★
日本を震撼させた、通称”ヘドロ事件”から一週間。連日ニュースやネットでその結果は騒がれていた。実質、【死神】に【オールマイト】が敗北したと言われても仕方のない事件だった。確保した犯人は掠め取られ、その後の追跡でも影すら掴めなかったのだから。
一時は、平和の象徴が負けたことでヴィランの枷が緩み犯罪が増えるのではないかと思われたが、それとは裏腹に、小さな事件すらもピタリと止まり、ここ数年で最も検挙率が少ない一週間となっていた。
それもこれも、【死神】が前より更に恐れられたからである。
勿論、現代において個性の相性というものは重要である。”ヘドロ事件”でも分かるように、ヒーローはヴィランの個性が自分と相性が良くない場合、相性のいいヒーローが来るまで時間を稼ぐことに集中する。そのほうが被害を少なくできるからだ。だからこそ、元々物理攻撃を無効化することが分かっている【死神】に対して、【オールマイト】の攻撃が効かなくても非難されるようなことではない。
だがそれでも【オールマイト】ならどうにかなるのではないか、という考えが民衆の根底にはあった。数々の苦難を乗り越えてきたオールマイトなら何とかするという信仰のようなものが確かにあった。オールマイト信者と言われても仕方のない人が、日本には一定数存在するのである。
テレビでも何度もあの事件は放送されており、天候すら変える【オールマイト】の超攻撃力に平然と耐える【死神】の姿が映し出されている。彼が日本からいなくなって五年。一般人は、ようやく、彼の恐ろしさを再認識していた。
そして、より強く彼の恐怖を思い出したのはヴィランたちのほうである。
ヒーローは彼らを逮捕する。少なくとも、事故以外では殺しはしない。
しかし、ナンバーワンヒーローすらあしらう【死神】は、必ず殺しに来るのである。しかも、彼はその神出鬼没さも有名である。北海道にいた一時間後には沖縄でヴィランを殺していたという事件さえ過去にはあり、何らかの転移系の個性を持っている(または協力者がいる)のは明白であった。彼に対する恐怖により、日本はかつてないほどの平穏を手に入れていたのである。
―――しかし。
当の本人である魂魄狩人は不満だった。
彼は自身の個性”
・・・そしてなにより、彼は『犯罪をなくしたい』のではない。『犯罪者を絶滅させたい』のである。
犯罪が止まったからなんだ?それまでに犯罪を起こしたという事実は無くならない。かつてヴィランであった、ただそれだけで、彼が殺す理由は十分なのである。ヴィランが生きていることが耐えられない、だから殺す。それが彼の生きる意味であり理由だからこそ、ヴィランが息を潜めている現状に不満が溜まっていった。彼がヴィランの居場所を感知する方法は、ネットしかない。事件が起こったというニュースや書き込みを見て行動しているのだ。今の状況では、ヴィランが行動する前に自分が衰弱し、
・・・・・・だから、彼は行動を起こした。
この日、日付が変わろうかというその時間。
この刑務所は静かに地獄へと変貌していった。
職員すら気がつかないほど静かに、死神の鎌は命を刈り取って行ったのである。
母さんの敵⇒両親の仇に修正 11/30