禍の団による襲撃があったとパラドから報告を受けた次の日、
「今日はありがとう、朱乃。俺の誘いを受けてくれて」
「イッセー君とのデートのお誘いですもの、喜んでお受けしますわ」
土曜日であるこの日、一誠と朱乃は2人、仲睦まじい様子(恋人なので当然と言えば当然ではあるが)で、駅前の通りを歩いていた。
言うまでも無いが今日は一誠と朱乃のデート、それも一誠から誘った物だ。
夏休み中は禍の団という脅威への不安故に、新型ガシャット開発に精を出し過ぎて彼女達を蔑ろにして来た(と思っている)一誠、だがディオドラとのレーティング・ゲームでの一件により、禍の団において最大の規模を誇った旧魔王派が壊滅した事もあってそれもひと段落し、これからは自分の恋人達との時間を大切にしていこうと決意、まずは此れまで恋人から誘われて行くだけで、計画も丸投げだったデートに、自分からも誘って行く事としたのだ。
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「深海魚って変な顔が多いのね」
「そうだな。地上の俺達や、浅い所の魚達とは見えている物、感じている物が全く違うから、それに適応した果てにああなったのだろう。そうなった訳を考えると奥が深いな」
デートが始まって数時間、水族館を回り終わった2人は楽し気な様子でそう言い、再び街中に繰り出した。
其処に至るまでも、高級ブランドの衣料品店では「これ似合う?それともこっち?」と朱乃が洋服を比べたり、ランチの為に入った喫茶店ではお互いに頼んだ物を「はい、あーん」と食べさせ合ったりと、恋愛物のドラマや漫画ではお決まりなシーンが続いた展開を2人は満喫していたが、その楽しさも益々膨れ上がり、何時しか朱乃の口調は何時ものお姉様的な物では無く年相応の女の子のそれだった、が、
「ん?あれは…」
「あの見覚えがあり過ぎる後ろ姿、まさか…」
ふと通り掛かったゲームセンターで2人が見た光景、それは、その外から見える場所に設置された『バクレツファイターアーケードエディション』――バクレツファイターをアーケード筐体に移植する際、様々な調整・新規要素を施したバージョンである――の筐体を挟む様に、向かい合う形で座った2人の男性、主にプレイする年代からは年が上という意味で大きく外れた2人――片方は一誠も朱乃も見覚えのある、というか朱乃に至っては身内である角刈りの壮年男性、もう片方はラフな格好をし、左眼に眼帯らしき物をつけた老年男性――が、目前の相手に勝って見せると言わんばかりにジョイスティックを素早く、無駄なく操作しているという物だった。
「負けませんぞ、オーディン殿!此処で負けては天才ゲームクリエイターの舅の立場が廃る!」
「片腹痛いわ、若造が!ゲームと言えど烏風情がワシに勝とうなど千年早いわ!」
「オーディン様、此処で何時までも油を売っている暇はありません!というかバラキエル様もですが、そんな色々とバラしちゃ不味い事を口にしないで下さい!」
その白熱振りたるや、老年男性の秘書と思しき出で立ちをした女性からのツッコミも全く耳に入らない程であった。
「お父様、いい年して何をムキになられているのですか…
イッセー君の舅の立場って…」
「あの秘書らしき女性の言う通り、色々と口にしては不味い事言っては駄目でしょうに…」
そんな光景に2人は唖然、先程までのムードも何処へやら、ツッコまずにはいられなかった。
「ぬぉ!?バラキエル坊、お主やりおるわ、ゲームとは言えこのワシが膝をつくとは…!」
「1、2、3、○ー!ん?あ、朱乃、それに、イッセー君…」
「「何やっているんですかお父様(バラキエルさん)…」」
そんな周囲を他所に勝負は決着、接戦の末に壮年男性――バラキエルが勝利を収め、某プロレスラーの如きガッツポーズを上げるが、其処で外から自らの娘である朱乃と、その将来の夫である一誠の姿に気づき、一瞬で気恥ずかしくなったのは言うまでもない。
「す、すまん、朱乃、イッセー君。折角のデート中に、とんだ醜態を晒してしまうとは」
「いや、それは良いのですが、何故お父様は此方に?」
白熱する余り、グリゴリの幹部として以前に世間一般の大人として普通やらかさない醜態を晒した挙げ句、一誠と朱乃のデートを台無しにしてしまった事を謝罪するバラキエル、流石の2人もどう受け止めたら良いのか分からず、彼が何故秘書を連れた老年男性と共に此処にいるのかに話題を変えた。
「ああ、そうだな。実を言うと其処におられる北欧の主神オーディン殿が今回、日本神話に属する神々とこの街で会談を行う為に来日されたのだが、その護衛として私が派遣されたのだ。とは言え会談まで日にちがある、其処でこの街を案内していた末にこのゲーセンに行きつき、オーディン殿からの勝負の申し出に、その、血が騒いでしまい、二つ返事で受けてしまってな…」
それを受けて、面白い光景を見たと言わんばかりに笑う老年男性――オーディンを紹介しながら、先程の出来事について説明するバラキエル。
「ほっほっほ、初めましてかの、天才ゲームクリエイターISよ。お主が作ったゲーム、大いに楽しませて貰っておるわい。まさかこの歳で人間の生み出せし遊戯に嵌るとは思わなんだ」
「あ、はい。楽しんで頂き、光栄です」
「して、今日はバラキエル坊の一人娘とデートか。仲睦まじさをこれでもかと見せつけるとはやりおる。流石に7人、いやフェニックス家の娘も加えて8人か?その年でハーレムを築く事はある」
「あ。あはは…」
紹介を受けて歩み寄って来たオーディンは、一誠がISとして世に送り込んだ様々なゲームを絶賛しつつ、共にいる朱乃を見て2人がデートしている事を察した。
その視線の先を辿ると、その眼は一誠の左手と朱乃の右手が、恋人繋ぎでしっかりと繋がっている状態を捉えていた。
その意図に気付いて照れ笑いをする2人だったが、気恥ずかしさの余り思わず手を放す、という事態にはならなかった。
互いに愛し合って止まぬ2人の想い、絆に何処かほっこりした様子のオーディンだったが、ふと一誠に耳を近付けるよう促し、
「其処でお主に相談なのじゃが、
ワシのお付きのヴァルキリー、名をロスヴァイセと言うんじゃが、あやつを嫁に貰ってくれんかのう?」
「ゑ?」
「あやつは器量良く、見た目も申し分ない。然し先の騒ぎを聞いていれば分かると思うが少々固い所があっての、未だに彼氏いない歴=年齢の生娘ヴァルキリーじゃ。と言ってもまだ19じゃが、このままの調子では何れ行き遅れになってしまうのではないか、其処が心配なのじゃ」
「へ、えーと、その…」
そう、秘書らしき姿のヴァルキリー――ロスヴァイセとの婚約を提案された。
思わぬ提案に驚きを隠せない一誠、然し後にこれが現実の物となるのだが、それはまた別の話。