西日本、ひいては京都に住まう妖怪達の本拠地『裏京都』。
先程訪れた金閣寺近くの奥まった場所にある鳥居を潜った先に、レーティング・ゲームにおけるフィールド生成の技術とよく似たそれを駆使して異世界に作り上げたらしい、その地はあった。
その地はまるで江戸時代にタイムスリップしたかの様な、時代劇のセットをそのまま持って来た様な家屋が立ち並んでいた。
…が、この地へと招かれた一誠とヴァーリ、アーシアとゼノヴィア、イリナと黒歌の耳には、殊にゲームクリエイターである一誠にとって飽きる程聞き慣れた、この時代劇そのままな世界では場違いと言うしかない電子音や現代的な音楽、決め台詞と思しき声が聞こえて来た。
そのミスマッチな状況に何か言いたげな一同に気付いたのか、案内をする妖狐の女性が説明を始めた。
「周りから流れる音が気になりますか?実を言うと裏京都でも十年くらい前から様々な現代文化を取り入れております。その中でもゲーム、特に兵藤様、この場合はIS様とお呼びした方が良いですね、貴方が開発したゲームの浸透ぶりは凄いの一言です。入って来るや否や老若男女問わず、殆ど全てと言って良い妖怪達がその魅力に嵌って行きました。最近では妖怪達だけで組織されたこの地を本拠とする『裏京都電子競技倶楽部』という名の、えーと『いーすぽーつ』でしたっけ?その団体も発足したのですよ」
eスポーツとはゲームを『競技』として扱う場合の名前で、その大会においては様々なゲームタイトルの中から競技性の高い物をスポーツにおけるそれと同じく『種目』として指定、世界中のゲーマー達が腕を競い合うのだ。
その団体がこの地で既に発足されているという事実に、一同はそれまで抱いていた裏京都の、妖怪のイメージが崩壊の一途を辿り唖然とする一方、一誠は自分の作り上げたゲームがこの地にまで浸透している事の嬉しさと、そのゲームが此処の環境を大いに変えてしまった事の気まずさが混ざって複雑な様子だった。
そんな一同を他所に先へと進む妖狐に付いていくと、やがて家屋が立ち並ぶ所を抜けて林へと入り、更に進むと巨大な赤い鳥居へと辿り着いた。
其処には別ルートで来たらしいロスヴァイセにバラキエル、セラフォルーの他に、豪華な着物に身を包んだ、金髪の間から狐耳を、背後から9本の尻尾と思しき物を生やした母娘らしき2人組がいた。
「八坂様、
「来たか、皆」
自分の仕事は済んだと言わんばかりに、そう言い残し消えていった妖狐。
…その折、快く出迎えたバラキエルに対して、セラフォルーは渋い表情を隠そうともしなかったのは余談である。
「お初にお目に掛かる、IS殿。否、イッセー殿と呼ぶべきか。妾の名は八坂、この裏京都を統べる九尾の妖じゃ。この者は娘の九重」
「は、初めまして、IS殿!八坂の娘、九重と申します!」
「此度は此方側の我儘で此方に呼び寄せた事、お詫び申し上げる」
それは兎も角、その役目を引き継ぐ様に、八坂と呼ばれた母親らしき女性が自己紹介を始め、九重と呼ばれた娘らしき少女が促されるままに続いた。
「それは宜しいのですが、こうして一誠君も来られたのです、そろそろ訳を伺っても?」
「そうじゃな、バラキエル殿」
呼び出しておいて関係ない長話をするのも良くないと思っていたのか、挨拶もそこそこに、バラキエルの問い掛けに応じる様に八坂は事の次第を話し始めた。
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それは数日前、須弥山――アジア、というより東アジアを本拠とした神話勢力の事を指す――の主神である帝釈天の使者との会談に臨むべく、八坂が護衛の妖怪達と共に裏京都の地を出た所から遡る。
会談の場へと向かっていた八坂達だったが、突如として霧らしき物が辺りを覆ったと思った直後、真っ白な空間に閉じ込められ、何者かの襲撃を受けた。
八坂達も迎撃するも多勢に無勢、しかも襲撃者が使役したらしい魔獣と思しき存在には八坂達の攻撃が殆ど効かず、絶体絶命のピンチに追い込まれた。
そんな中で1人の戦士がその空間に乱入、追い込まれていた八坂達を助けるべく立ち回った。
黒のベースカラーに金色のラインが入り、各関節部からは角と思しき棘が生えた筋骨隆々な体躯、赤い複眼と金色の角が特徴的なクワガタムシを彷彿とさせる顔、携帯型ゲーム機を思わせる黒と金のベルトを腰に付けた戦士は、挨拶代わりと言わんばかりに魔獣達を焼き尽くし、想定外な状況に動揺を隠せない襲撃者達へ何処からともなく取り出した大量の石を乱射、その猛攻に襲撃者達は撤退に追い込まれ、八坂達は無事、元の場所へと戻る事が出来た。
その戦士、襲撃者の誰かが「クウガ」と呼んでいたその戦士に八坂は自らを助けた礼をすると共に、彼が何者かを訪ねた。
それに対してクウガは、
「いざと言う時は兵藤一誠を頼れ、彼が万事を解決してくれる」
「兵藤一誠…?」
「彼が兵藤一誠だ。近々、この京都の地へとやって来るだろう。その時、接触を図ると良い」
明らかに返答になっていない事を言いながら、1枚の写真を八坂に手渡す。
己の質問に答えなかったクウガの態度に憮然としながらもその写真を見た八坂、だが其処に映っていた存在の姿に驚きを隠せなかった。
「あ、IS殿!?そち、この御方とはどういう関係なのじゃ!?」
「私は彼の夢を応援する者、彼らの笑顔を守る者だ」
動揺する余りクウガを問い詰めた八坂、其処でやっとクウガは朧気ながら己の心情を明かし、その場を去って行った。
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「その後、妾は無事、帝釈天殿の使者との会談を行い、滞りなく終わらせる事が出来た。じゃがあの時クウガ殿がいなければ妾も、お供の者達もきっと無事では済まなかったであろう」
(クウガ、か。そういえばリアスが手に入れた『バーコードウォリアーディケイド』のデータに、クウガという名の仮面ライダーの物があった様な…?
それは兎も角として、妖怪達の攻撃が効かない、恐らく禍の団であろう襲撃者が呼び出した魔獣。だが仮面ライダーらしいクウガの攻撃は普通に通った、と言う事は…?
今までバカの一つ覚えみたいに人外勢力の重要拠点に送り込んでいた事、アザゼルさんは神器使いを強引に、禁手に至らせる為とは言っていたが、それだけで貴重な神器使いを酷使するとは、浪費するとは思えない。となれば…!
成る程、繋がった。となれば八坂さんがこの後言うであろう言葉、頷かない訳には行かない!)
経緯を話し終えた八坂、一方の一誠は彼女の話を聞きながら、彼女達を助け出したクウガの正体を予想し、同時に禍の団のこれまでの行動を振り返り、今しがた八坂から聞いた『妖怪の攻撃が効かない魔獣』の情報とも照らし合わせ、1つの結論に至った。
「それにまだ安心は出来ぬ。今『裏』を騒がせている禍の団、その一味が数日前に妾達を襲撃したと思うておる。彼奴等の狙いは分からぬが、あれで引き下がるとは思えん。あの妾達の術が効かぬ魔獣の事もある、今度襲撃されたら妾達だけではどうにもならん…」
そんな一誠の様子を知ってか知らずか話を続ける八坂、その姿を、裏京都を統べるに相応しい普段の彼女を見知っている者が見たらまず「何時もの彼女じゃない」と言うであろう程(実際に娘である九重はその姿に動揺しきりであった)、不安を隠せていなかった。
「其処でイッセー殿、お主に妾の警護をお願い申し上げる。
一生に一度しかない学校行事の最中にこの様な厄介事を押し付けるのは、誠に済まないと思っておる。じゃが、妾は」
「分かりました、八坂さん。貴方は俺が、俺達がお守りします!」
そんな彼女の頼みに、一誠は二つ返事で応じた。