「はわう!?」
一誠がリアスの眷属として悪魔に転生してから一夜明け、何時も通り学校へと向かっていた彼の眼の前に、アニメやゲーム等でしか見られない様な光景が広がっていた。
シスターと思しき服装の少女が、何の障害物も無いであろう路面に躓きすっ転んでいたのだ。
(何もない道で転ぶって『ときめきクライシス』でも設定していない展開だぞ…
現実は小説よりも奇なり、とはよく言った物だな。と、そんな事考えている場合じゃない)
「だ、大丈夫か?」
その余りに現実離れした展開に一瞬、自らが開発した恋愛系ビジュアルノベル『ときめきクライシス』を例に上げてまでその状況に心中で突っ込んでいたが、直ぐに考え直し、その少女に声を掛けた。
「は、はい、大丈夫です…
はぅ、何故何も無い所で転んでしまうんでしょうか、これも神から授かった試練なのでしょうか…?」
(これが神の試練だとしたら、随分と不条理な神がいた物だ。何処のあらゆる危険から助かる方法を授ける(自称)じーさんだ…)
「よし、と。これ、君の荷物だろう?見た所、シスターの様だが、何故これ程の荷物を持ってこの街に?」
「あ、ありがとうございます!実はこの街の教会に赴任する事になっていたのですが、道に迷ってしまって…
道行く人達に尋ねても言葉が通じず、困っていた所なんです」
その声掛けに応じた彼女の、何ともツッコミどころ満載な言葉に再び心中で突っ込みつつも、転んだ際に周囲へと転がって行った彼女の荷物を纏めながら尋ねた。
尚、金髪碧眼と日本人離れした美少女、という風貌の通り彼女は日本人では無く、口から発する言葉も日本語では無い、此処は日本の市街地であり、住んでいる人の殆どが日本人なので言葉が通じないのも致し方ないと言える。
では何故一誠と彼女が普通に会話出来ているのかと言うと、悪魔は多言語理解能力――自らの最も理解出来る言語に自動翻訳する能力を有しており、昨日悪魔に転生したばかりの一誠もまたその能力を得たので、こうして会話できるのだ。
「教会か、俺で良ければ案内しよう」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
そんな困っている彼女を放っておけず、道案内を買って出た一誠、だが、
(いや待て俺、彼女は何処からどう見ても天使勢力に属するシスター、悪魔である俺とは敵対する存在。その存在をあろう事か悪魔である俺にとって何より避けるべき場所である教会に道案内する事、それを二つ返事で了解してどうする!?今から自殺しますと堂々と宣言している様な物じゃないか!それにあの教会、出払ったのでは無かったのか?もう何年も前にそうなっていた筈、となれば廃墟であろう其処に案内するというのもどうだろうか?だが今更ダメだとは言えないし…)
と、案内し始めて数秒でその事を後悔していた。
今や一誠は悪魔勢力に属する存在、そんな彼が天使勢力に属するであろうシスターらしき彼女を道案内する等、色々と不味いどころの話では無いからだ。
それを抜きにしても一誠の想像通り、この街の教会はもう数年前に神父等の関係者が出払って以来管理されていない状態、廃墟となってしまってもおかしくない状態だ、重い荷物を抱えた彼女を其処まで歩かせて案内するのは意地悪ではないか、その考えも彼の頭を過ぎっていた。
「あれ、パパ?こんな所でどうしたの?」
「ギリルか」
とはいえ一度やると言った事を投げ出す等出来ないと悩みながら歩いていると、其処に救世主が現れた。
某悪に染まった光の巨人の息子が怪獣相手に戦う特撮ドラマにおける武闘派ヒロインの少女によく似た、丈が短めな白衣姿の少女、ギリルが一誠の姿を見るや否や駆け寄って来た。
「実を言うと其処の女の子が道に迷っていたみたいなんだ。聞いてみるとこの街の教会に赴任する事になったらしいから道案内をしていたんだが…」
「分かったわ、パパ。後は私に任せて、パパは学校に」
「ありがとう。助かるよ、ギリル」
偶然鉢合わせたギリルに訳を説明すると、その裏にある一誠の深い事情を察したのか、道案内の件を受け継ぐと申し出て来た。
「初めまして、シスターさん。パパなんだけど、実は急いで行かないといけない用事があるから、此処からは私が教会へ案内するわ。宜しくね」
「はい、宜しくお願いします!」
道案内を継いだギリルがシスターの少女にそう告げ、2人は一誠と別れた。
(ギリル。良かったら、その女の子が赴任するらしい教会について、出来うる限り調べてはくれないか?昨日俺が堕天使に襲撃された件もある、もしかしたら…)
(任せて。情報が入り次第、パパ達に連絡するわ)
別れ際、一誠がギリルにそんな指示を小声で飛ばしながら…
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「二度と教会の関係者に近づいちゃダメよ」
「すいません部長、軽率な行動でした」
放課後、オカルト研究部の部室に来た一誠は、朝の件を何かしらの手段で見かけたらしいリアスからお説教を受けていた。
開口一番にリアスからそう咎められ、何の事か一瞬で察した一誠も、案内を買って出た事に関して直ぐに後悔していた事もあって己の軽率な行動を謝罪していた。
「教会関係者、それも
「はい」
悪魔祓いの攻撃、それは教会、というより天使勢力を象徴する光。
悪魔にとっては天敵と言ってもいいそれをまともに喰らえば、たとえ上級悪魔であっても致命傷になる、それだけには留まらず、魂まで消滅してしまい、この世界から文字通り『いなくなる』。
故に悪魔にとって天使勢力は勿論、天使が堕ちた存在とその血族からなる堕天使勢力も同等の力が使えるが為に、単なる過去の蟠りに留まらず避けるべき相手なのだ。
「ですが部長、そのおかげと言ってはおかしいですが、それによって有用な情報が得られました。
この街に潜伏している、堕天使達に関する情報です。それには、昨日俺を襲った堕天使も関わっている様です」
「な!?それは本当なの、イッセー?」
「はい。どうやら件のシスター――アーシア・アルジェントは、今は堕天使勢力に属している様です」
そんな天使勢力に属するであろうシスターと接触した軽率さを説教されていた一誠、だがそれは有益な情報を彼らに齎した。