「まさかバグスターの方が、ライダー適合者が持つ力を求めるとはな。ロックソルティ、今はどんな感じだ?」
『悪い意味での異常はありませぬ、お父様。寧ろ身体の奥底から力が湧き上がる様な感じが致します』
「力が湧き上がる様な感覚、か・・・
リアス部長が持つ滅びの魔力は悪魔においても特別な物、それをバグスターの本能が求め、我が物とすべく取り込んで見せた、か」
『「自分の事は、自分が一番わからないもの」とはよく言ったものですな、お父様。私とリアス様が力を合わせライダーとして戦う、その事はひょっとすれば、世界が決めた運命だったのかも知れませんな。我らを生み出せし神であるお父様ですら干渉できぬ、運命・・・』
「だから言っているだろうロックソルティ、俺はその様な存在では無いと」
各メンバーがレーティング・ゲームに向けて訓練に励んでいた頃、一誠は1人、自室にあるPCの前で、先のマイティアクションXのオリジンガシャットに起きた異変の調査を行なっていた。
いや1人と言うには語弊がある、そのディスプレイに映る、茶色と白を基調とした体躯に黒のシルクハットを被り、黒のマントを羽織った貴族らしき出で立ちの異形が、一誠と言葉を交わしていたのだから。
その異形――一誠が初めて世に送り出したゲームで、オーソドックスながらも奥深い動作が持ち味の2Dアクション『マイティアクションX』に登場するライバルキャラ『ソルティ伯爵』の色違いキャラを模したバグスターであるロックソルティは、自分でも先の異変に関して予想外だと言いたげな反応をしていたが一方、それによってこれまでにない力の昂りを感じられる様になったと、己の強化を喜んでいた。
そう、あの時ロックソルティの媒体であるマイティアクションXのオリジンガシャットは、リアスが持つ滅びの魔力に反応、我が物とすべく彼女から漏れ出していたごく一部を吸収、データ化するという行動に出たのだ。
それによってガシャットの宿主であるロックソルティは滅びの魔力を取り込み、己の力とする事が出来、その副作用としてガシャット本体及びラベルの変色も起こったという事である。
「悪魔が持つ魔力とバグスターウィルスとの間に親和性があるとは予想外だったが、面白いな。あの時パラドが言っていた事の裏付けになるかも知れない。それを活かして適合者を増やすのも良いし、取り込んだ魔力をベースとしたライダーガシャットを作り上げるのも良いな。バグスターウィルスの可能性、まだまだ底が知れないな・・・!」
『正しく、心が踊りますな、お父様!』
「ああ、ロックソルティ!
それはともかく、原因が分かった以上ガシャットはリアス部長に返すとしよう」
『む?渡す、の間違いでは?』
「滅びの魔力が取り込まれた今となっては、このガシャットを用いてのライダーへの変身はリアス部長しか行えない。となれば、緊急時でも無ければ部長が持つべきだ。であるならば、このオリジンガシャットは部長の物、返すと言う表現で間違い無いだろう?」
『それもそうですな、お父様』
悪魔の魔力をも取り込んで我が物として見せるバグスターウィルスの可能性に心が踊りつつも、今臨むべきはライザー陣営とのレーティング・ゲーム、魔力の影響で彼女の物となったガシャットを何時迄も預かっているわけにもいかない。
そう思い立ち、リアスにガシャットを渡す、もとい返すべく、部屋を出た、が、
「あ、そういえばもう深夜だ。部長も寝ているだろうな・・・」
時刻は既に深夜、幾ら夜に強い悪魔といえど、仕事でも無いのにこの時間帯まで起きている存在は、
「あれ、リビングの灯りが点灯している・・・?」
いた。
既に皆眠っているだろうと判断して引き返そうとした一誠だったが、未だ明るいリビングの様子から、まだ誰かが起きているだろうと考え、其処へ足を運んだ。
其処では、
「部長、起きていたんですか?」
「あら、イッセー。ええ、今度のレーティング・ゲームに向けて、ね。そういうイッセーはどうしたの?」
眼鏡を掛け、赤いネグリジェを身に纏ったリアスが、本を読んでいた。
彼女の口振りから、開いていた本は兵法書らしく、其処に書かれた戦術を学びながら、数日後に迫ったレーティング・ゲームで取るべき戦略を練っていたのだろう。
「今しがたマイティアクションXのオリジンガシャットに起きた異変の調査が終わりまして、部長にガシャットを返そうと探していた所です。此方をどうぞ」
「あら、ありがとう。でも返すって、ガシャットは貴方の物でしょう?」
「調査の結果、そのガシャットは部長だけが使えると言っていい状態だと判明しました。ならば部長が持つべきだと判断しました」
「そ、そうなの・・・」
一体どんな調査結果が出たんだと言いたげな表情を、一誠の返答を受けて浮かべるリアス。
そんな彼女の様子も何処へやらといった感じでガシャットを差し出す一誠、リアスもまた素直に受け取った。
「レーティング・ゲーム用の兵法書・・・
その様な書物が売られていたんですね、流石は冥界での一大エンターテイメントと言うべきか」
「ええ、そうね。尤も教科書通りの戦術なんて、百戦錬磨のライザーには通じないでしょうけど」
「それでも、決まった型から入るのはアプローチの1つとして良いと思いますよ」
自らの用は済んだと言わんばかりにリアスが行っていた事――戦術の研究――に注目した一誠と、そんな彼と言葉を交わすリアス、だが彼女の表情は何処か思い詰めた様子だった。
「・・・聞かないの、イッセー?
私が何故、無謀としか言えないレーティング・ゲームに臨むのか、貴族の身分でありながら、ライザーとの結婚を嫌がるのかを・・・」
やがて我慢できなかったのか、何も聞いて来ない一誠に訳を聞いてきた。
「・・・何となくですが、その理由には見当が付いています。
ノブレス・オブリージュ。高貴さには、貴族と言う地位には義務が伴うという、有名な言葉です。今回の焼き鳥野郎との婚約もまた、その義務の1つに据えられている物なのでしょう。増して部長は魔王様の妹君、その地位も責も計り知れない程の大きさを有しているのでしょう。
部長はそれを理解した上で、それでも尚譲れないものがある。その譲れない物の為に、あの焼き鳥野郎とはどうしても結婚出来ない、という事なのでしょう。
態々見当が付いているのに、それを敢えて聞き出そうなんて、無粋な真似はしません」
その訳を、真剣な眼差しをしながら答える一誠、その答えに、一誠の洞察力と気遣いに一瞬驚いた様子を見せながらも、何処か決心がついたのか頷いたような素振りを見せたリアス、
「・・・私はリアス・『グレモリー』なの。
冥界の誰も、私を『リアス』として見てはくれないわ。何処へ言っても、私はグレモリー家の者として、魔王であるお兄様の親族として見られたの。グレモリー家の次期当主、魔王サーゼクス・ルシファーの妹君・・・
勿論それは何物にも代えがたい誇りではあるわ。けれど、私と共に歩む存在には・・・
私の夫には『リアス』として見て欲しい、私を1人の女性『リアス・グレモリー』として接して欲しい・・・
それが貴方が言っていた、私にとって譲れない物なの」
やがて、その訳を口にした。
「正直に言えば、あのライザーも良い面はあると思うわ、でなければあんな言動をする彼に、彼の眷属達の殆どが慕うなんてありえないわ。それでも彼は私を『グレモリー』としてしか見てくれない。そんな彼との結婚はどうしても出来ないわ、例え我儘と後ろ指を指されようと、無謀と言われているレーティング・ゲームに臨もうと。ごめんなさい、イッセー。私の我儘の為に、貴方達を巻き込んで・・・」
「俺は我儘だとは思いませんよ、部長」
「え・・・?」
「前にも言いましたが、人となり、悪魔となりを見もしないで眷属関係を結ぶなど、良くない事です。そんな関係、絶対長続きしません。婚姻となれば、それも悪魔社会の将来が掛かった物となれば尚の事。当人同士が互いを理解し、その想いを受け止めてこそ良き婚姻関係は生まれる。相手を見もしないで婚姻関係になっては関係は冷え込み、やがては袂を分かつ事に、離婚と言う事態に至るでしょう。それは両家の関係に、引いては悪魔社会の基盤にすらもひび割れを生じさせかねません。
ならば部長の想いは我儘じゃない、権利です。管理者としてこの街の治安を守ると言う義務を果たしている以上、権利の1つや2つ、通って然るべきです」
その理由を、自らの想いを口にしたリアス、その想いを己の我儘とし、それに自らの眷族を巻き込んでしまった事を詫びた彼女だったが、一誠はそれをリアスの権利と捉えた。
「あ、ありがとう、イッセー。でもこの街を守っているのは主に貴方やバグスター達でしょう?殆ど何もやっていない私が声高に権利を主張するのもどうかと思うけど・・・」
「部長。貴方は俺達の王です。自ら前線に立つ王の話を聞いた事はありますが、自分が前線で働いていない事を気に病む王の話など聞いた事ありません。それは俺達がすべき事です。
王として何が出来るか、何をすべきか。部長はそれを考え、実行していけば良いのです」
「・・・そうね、本当にありがとうね、イッセー」
そんな一誠の言葉に、リアスは決意を新たにした様子だ。