「先の返り討ちに懲りる事なくまた辻斬りとはな。貴様の字引には反省という文言が無いのか?」
「またあんたですかぁ!?そっちこそ一体何度邪魔すれば気が済むんですかこのコスプレ野郎!」
「コスチュームプレイなどでは無い、此の成りこそ己の真なる姿なり」
その夜、案の定と言うべきかエクスカリバーを破壊すべく街を彷徨っていた祐斗、そんな彼に目を付けたのか何者かの影が這い寄ってきたが、それを見抜いていたカイデンが割って入った。
まるで既に出会っていたかの様な言葉を交わすカイデンとその影の正体、そう、その影は2日前にカイデンを襲撃して返り討ちにあったあの聖職者みたいな姿をした少年であった。
その時に持っていた2振りのエクスカリバーはカイデンが鹵獲したのでその手にはない、代わりと言っては変だが、カイデンと鍔迫り合いを繰り広げているその両手には、その時とはまた違った気配を発する聖剣が握られていた、恐らくそれは盗まれたエクスカリバーのうち、残る1振りだろう。
カイデンもそれを察知し、いち早く鹵獲すべく聖剣を弾き飛ばすべく力を込めるが、
「おっと、同じ相手に2度もやられる俺様じゃあねぇんですよ!『
「成る程、幻覚を引き起こす類の得物か、中々に面倒な物だ」
弾き飛ばされた聖剣――夢幻の聖剣は霧散するかの様に消え、手持無沙汰になった筈の少年の手には聖剣が握られたまま、それを用いて再び斬りかかった。
そのからくりを瞬時に察知し、辛くも斬撃を回避したカイデン、其処へ、
「僕も加わろう!エクスカリバーは僕が破壊するんだ、嫌だと言っても加わらせて貰うよ!」
「左様か、なればその助太刀、謹んでお受けしよう」
「くそっ邪魔すんじゃねぇよどいつもこいつも!」
いつの間にか2振りの魔剣を作り出した祐斗が戦いに加わった。
彼の経緯も、それ故に抱くエクスカリバーへの憎悪もカイデンは知っている、故に鬱陶しがる事無くその乱入を受け入れ、彼の一挙手一投足に合わせるかの様に立ち回ってゆく。
類稀なセンスを有するカイデンが合わせた事もあってか、初めての共闘とは思えない連携を見せる祐斗とカイデンの立ち回りに圧倒される少年だが、
「随分と苦戦している様だな、フリード」
「何しにきやがった、バルパーのおっさん!」
「バルパー…?
よもや貴様が、かの計画の頭目であった、バルパー・ガリレイか?」
「っ!?貴様が、聖剣計画の…!」
「如何にも、と答えている暇は無いな。フリード、聖剣に因子を込めろ。さすれば聖剣の力が更に引き出される」
「へいへい、人使いの荒い事で。流れる因子よ、いざ聖剣にっ「「「「「てね!」」」」」」
「む、幻覚に重みを持たせ、実体ある分身を作り出したか、厄介な」
何処からともなく現れた初老の、聖職者と思しき服装の男――バルパー・ガリレイからの助言を受けて夢幻の聖剣に何かを込める様な挙動を見せる少年――フリード。
聖剣計画の首謀者であるバルパーの唐突な登場にカイデンと祐斗の注目が其方を向いてしまったのもあってそれをみすみす許してしまい、フリードは5人もの分身を作り出した。
バルパーの登場もあって態勢を立て直す事に成功したフリードは、驚きを隠せない2人に、分身と共に飛び掛かろうと聖剣を構えた、が、
『ステージ・セレクト!』
「な、何なんだ此処!?」
「空間転移だと!?何者の仕業だ!」
「これは、ステージ・セレクト?一体誰が…」
「思わぬ幸運だ。これで奴らの退路を絶てた」
ゲーマドライバーから発せられるそれと同じ様なボイスが何処からともなく聞こえたかと思ったら、ノイズの様なエフェクトと共に、彼らはいつの間にか武家屋敷、その庭園の様な場所へと転送された。
思わぬ事態に動揺を隠せないフリードとバルパーの一方、この光景に見覚えがあったのか、祐斗とカイデンは大して驚かなかった。
ステージ・セレクト機能。
ゲーマドライバーに搭載されている機能の1つで、ゲーマドライバーの左腰に付けられているガシャットのホルダーにあるスイッチを、ガシャットを装填しないまま押す事で、自らと周囲にいる『存在』を、作動させた仮面ライダーにとって最も力を発揮出来る専用のフィールドへと転移させる物だ。
祐斗達も嘗てグラファイト達との訓練の際に使用していたし、開発者である一誠は当初からはぐれ悪魔を討伐する際に周囲への被害を防ぐ為に積極的に使用している便利な機能ではあるのだが、此処に仮面ライダーは1人もいない。
仮面ライダーに変身出来る適合者なら祐斗がいるが、聖剣に対して抱く憎悪がバグスターに嫌悪されて現状は変身出来ず、それ故にこのステージ・セレクト機能も使えない筈。
なら一体誰の仕業なのか、此処にいる誰もが仕掛けた仮面ライダーを探していると、
「き、貴様、何時の間に!?」
「アイェェェェ!?忍者!?忍者ナンデ!?」
「白い忍者の、仮面ライダー…?」
「仮面ライダー、風魔…」
庭園の中心部に、その仮面ライダー――仮面ライダー風魔はいた。
白い無造作ヘアーが特徴的な顔、忍者装束の様な紺色のライダースーツの上に白色の帷子を身に着け、右手にはガシャコンウェポンと思しき短刀を持った、正に忍者と呼ぶに相応しい風貌をした存在、仮面ライダー風魔は、一誠が開発したゲームの1つで、様々な陰謀渦巻く世界情勢に翻弄されながらも己に課せられし任務を全うする忍者を主人公とした大人気ステルスゲーム『ハリケーンニンジャ』のライダーガシャットを用いて変身する仮面ライダー、そのバトルスタイルは圧倒的なスピードと多様な戦法で敵を翻弄する正に『忍者』その物だ。
「がっ!?あ…!」
「ふ、フリード!?いつの間に…!」
「は、速い、捉えられなかった…」
そんな風魔に対して隙を晒すなど何時でも殺せと言っているのも同じ、その隙を突いて一瞬の内にフリードに近づいた封魔はそのまま短刀を一閃、フリードは何も抵抗出来ずに息絶えた。
「木場祐斗よ、奴こそ貴様が抱きし憎悪の根源。用心棒亡き今こそ、仇を討つ絶好の機ではないか?」
「そうだね、カイデン。あの風魔という仮面ライダーも敵じゃないみたいだし、乗らせて貰うよ…!
バルパー・ガリレイ。僕は貴様が企てた聖剣計画の生き残りだ、いや、正確には貴様に殺された身だ。今は悪魔に転生した事で生き永らえている。バルパー・ガリレイ、今度は貴様が殺される番だ!」
「よ、止せ、やめ、うぐぁ!?」
その様子をただ1人冷静に見ていたカイデンは、邪魔者がいなくなった今こそ諸悪の根源であるバルパーを殺せるチャンスだと祐斗を唆し、それを受けて祐斗は、無様にも命乞いするバルパーの声を聞くことなく、憎悪を込めた一撃を振るう。
嘗てバルパーが企てた聖剣計画のもと非道な実験を受けさせられた末に惨たらしく殺された祐斗、何年かの時を経て今度は、悪魔として転生した祐斗自身がバルパーを殺害した。