ギャスパーの封印が解除され、改めてリアスの眷属として迎え入れられた授業参観の日から翌日、一誠はリアスからの頼みで、街の外れにある神社に来ていた。
本来、悪魔にとって神聖なる物は避けるべき物、神社もまた神道における聖域、日本神話に登場する神々を祀っている場である以上例外ではなく、故に普段はリアスから出入りを禁止されている筈なのだが…
「いらっしゃいませ、イッセー君」
「朱乃。それは巫女服か?随分と似合っているな」
「うふふ、ありがとうございます」
其処に、一誠を出迎えるべく朱乃が
「ところで朱乃、神社は神道における聖域、悪魔である俺達が入って大丈夫なのか?」
「ご心配ありませんわ。此処は裏で特別な約定が執り行われているので、悪魔でも入ることが出来るんです。先代の神主が亡くなって無人になったこの神社を、リアスが私の住居として確保してくれた際に取り計らってくれたのですわ」
悪魔に転生していた筈なのに何故神社にいられる訳を明かす朱乃、実際、一誠も一緒に鳥居を潜ったが、身体への異変は特に無かった。
「成る程、朱乃は今此処に住んでいるのか。色々と大変ではないのか、維持管理とか…?」
「いえ、そうでもありませんわ。気に掛けて貰って、嬉しいです」
それに一誠は一安心したのか、朱乃と言葉を交わしつつ、神社の拝殿へと入る。
「初めまして、兵藤一誠君。先日の一件は、本当にありがとうございました」
「初めましてと言うべきか、イッセー君。いや、仮面ライダー殿。本当に、本当にありがとう…!」
其処には
どうやら一誠と朱乃を待って居た様である。
「紹介しますわ、イッセー君。此方はミカエル様」
「ミカエルって、四大天使の筆頭と呼べる存在で、天使達の長を務める、あの!?」
「はい、兵藤一誠君。そのミカエルです」
その一方である金髪の青年、それは今現在の天使勢力において事実上のトップを務める、
まさか天使勢力のトップであるミカエルが来ていたとは想像だにしていなかった一誠は、驚愕の余り慌てふためいていた。
「あらあら、流石のイッセー君も思いがけないお客様に大わらわと言った感じかしら?」
「それは驚くだろう、まさか三大勢力の会談が迫って色々と忙しい中、まさか俺達に会う為に時間を割くなど想定外だ」
「うふふ、それもそうですわね。そして此方は、私の父、バラキエル」
「貴方が、朱乃の…!」
「ああ、イッセー君。やっと君に、お礼を言える日が来た。朱乃達が姫島家の手に掛かってしまったのではないかと気が気でなかったあの時以来、この日をどれだけ待っていたか。しかも今回の件では、コカビエルからも守ってくれた。本当に、本当にありがとう…!」
もう一方である黒髪の壮年男性は、グリゴリの最高幹部であり、朱乃の父親であるバラキエル。
此方は、娘である朱乃が同席しているのだからありえるだろうと想定していたのもあって、驚きは少なかった。
「その一件に関しては、私からもお礼を言わなければなりませんね。本当に、ありがとうございました。今回の一件、全ては貴方の力添えがあってこそ無事に解決出来たと聞きました」
「いえ、この一件は俺達全員いたからこそ解決出来た事だと考えています。俺は俺の出来る事を、皆は皆の出来る事をした、その結果です」
そのバラキエルが一誠に礼を言うのに合わせて、ミカエルもまた礼を言った。
「…聞かないのですか、いや、疑問には思わないのですか?」
「何をですか?」
「聡明な貴方であれば疑問に思う筈です。今回の一件を引き起こしたコカビエルは聖書に名を連ねる程の実力者、そんな彼相手にゼノヴィアと紫藤イリナ2人だけでは戦力不足は明白。なのにリアス・グレモリーとの交渉の折、悪魔勢力の助力を断った。無謀な判断の訳を、何故聞かないのです?」
各勢力の最高幹部である2人からの感謝の言葉に、謙遜した様に返す一誠。
その一誠から、何の不満も疑問も抱いた様子が見られない事に違和感を覚えたミカエルが尋ねた、今回の一件に対する天使勢力の対応について疑問は無いのか、と。
「あなた方の現状を知る今であれば、見当はつきます。『神は死んだ』、その事実に伴う悪影響を最小限に抑える為。その事実を知った2人を、神器の力で悪魔を癒したアーシアを追放したのも、それが理由でしょう。『表』ですら天使陣営を、教会を取り巻く状況は厳しいと思わざるを得ないニュースは毎日の様に聞きます、其処に『神は死んだ』等という禁忌が知れ渡ってしまったら…
態々見当が付いているのに、それを敢えて聞き出そうなんて、無粋な真似はしません」
その訳を、真剣な眼差しで答える一誠、その姿は、嘗てライザーとのレーティング・ゲームに臨むリアスに決心させたそれを髣髴とさせる物だった。
「物事の裏をも読める洞察力、苦悩や苦痛を理解し手を差し伸べる気づかい…
朱乃から聞いていたが、その年で随分と立派な青年だ。ゲームの開発・販売を手掛けて大層な収入を得ているとも聞く。朱乃の他に恋人がいるのも、その立派な人柄故であろう。そんなイッセー君になら、朱乃を嫁として託せる。既に相思相愛の間柄だ、今から朱璃と相談して、式場の手配をせねばな…」
そんな一誠の答えに、何処か満足気に呟くバラキエル、どうやら既に一誠と朱乃達の関係を把握し尚且つ認めており、彼らの将来に関して早くも準備をしようと躍起になっていた。
「心遣い、痛み入ります。貴方であれば、これを託しても大丈夫でしょう。今日、貴方を呼び出したのは、これを貴方に託す為です」
何とも気の早過ぎるバラキエルの呟きを他所に、ミカエルは一誠を呼び出した訳を説明すべく『何か』を出現させた。
「これはゲオルギウス――聖ジョージが龍を退治する際に用いた
現れた『何か』はエクスカリバーやデュランダルとは違った聖剣、アスカロン。
アスカロン、それは古代ローマにおける聖人ゲオルギウスが、龍を退治する際に用いたとされている聖剣で、実際、アスカロンの刀身で反射された光が龍の口を貫いたという逸話が記されている。
尚、その出自故に『パチモンの割れ物』とイリナからボロクソに言われている教会の(ry
「何故、其処までして悪魔である俺にアスカロンを?」
そんな逸話を持った聖剣となれば、デュランダル等と同じく貴重な物、それを(事実上の)敵対勢力である悪魔でも扱える様に手間を掛けた上で一誠に渡すという行動に、疑問を持った一誠は尋ねた。
「嘗ての大戦後、大きな争いこそ無くなりはしましたが、小規模な小競り合いは散発されています。この状態が続けば、いずれ皆滅ぶ。自分達による消耗の果てか、或いは他勢力による襲撃か、どちらであっても、避けられないでしょう…
ですが、そんな三大勢力でも、大戦の際に手を取り合った事がありました。赤と白、二天龍と呼ばれる双龍が戦場をかき乱した時です。この時、我らの主である神、悪魔を束ねる魔王、そして堕天使を率いるアザゼルらの協力によって、二天龍を神器に封印する事に辛くも成功したのです。その代償として神も魔王も力尽きてしまいましたが。我々はその時の様に、再び手を取り合う事は出来る、そう願っています。
堕天使の最高幹部バラキエルの娘である姫島朱乃と、魔王サーゼクス・ルシファーの妹であるリアス・グレモリーと、教会のエクソシストだった紫藤イリナやゼノヴィア、聖女と言われていたアーシア・アルジェントと想いを通じ合わせる貴方の、貴方の周囲の様に。三大勢力其々の重要な存在と相思相愛の貴方に、嘗て三大勢力が手を取り合った切っ掛けである龍の襲撃から身を守る為の力を授ける…
言わば願を掛けたのです」
その一誠の疑問に、ミカエルもまた真剣な眼差しで、答えた。
「…分かりました、謹んで、お受けいたします」
だがそんなミカエルの気持ちに、一誠は一瞬、ほんの一瞬だが、応じるのに躊躇した。