時は少し遡り、オカルト研究部の部室で留守番する事となったギャスパー達は、
「コイツでトドメ!これで俺の勝ちだ!」
『K・O!』
「ま、また負けたァ!いやぁ強いですね、パラドさん!ボクのコンボが此処まで通じないなんて…」
「どうやら引き籠っている時に研究しまくっていた様だが、格ゲーは外に出向いて、他のプレイヤーと切磋琢磨してナンボだ。何時まで経ってもCPU相手じゃぁ、駆け引きは上手くいかねぇぜ」
厳かな雰囲気を漂わせる会談の状況など関係ないと言わんばかりに、ゲームをしていた。
因みに今ギャスパーとパラドがプレイしているゲームは、一誠が開発した『バクレツファイター』である。
ギャスパーも封印されている時に研究し尽くしていたのか相当な腕前ではあったが、対人戦の経験が全くなかった事による駆け引きの拙さが仇となり、百戦錬磨のパラドには成す術が無かった。
「でも嬉しいな、パパが作ったゲームに此処まで熱中してくれる人がいると。ね、皆!」
「その通りだ、ポッピー。人々から目を向けられる事無く、絶版に追い込まれるゲームが山ほどある中、ギャスパーの様なゲーマー達によって、我らが父のゲームが深く、そして広く楽しまれてゆく…
我が事の様に嬉しい物だ」
「応とも。出来る事なら皆がこうして、平和にゲームを楽しめる時が来て欲しい物だ。その時が来るか否かは、この会談の成否が関わっていると言っても過言ではない」
そんな2人が熱中する様子を、ポッピーとマサムネ、そしてグラファイトが微笑ましそうに見守っている中、
「…どうやら、招かれざる客が来た様だ」
クロトがふと、何かしらの気配を感じたかの様に呟いた。
「く、クロト?どうしたの、一体?何が、来たの?」
「敵襲だ。大方、会談の情報を聞きつけた各勢力のタカ派連中か、或いは三大勢力に恨みを持つ存在が妨害しようと、仕掛けたのだろう」
「て、敵襲!?」
「想定はしていたが、当たって欲しく無かったぜ!こっちを滾らせる様な真似しやがって!」
会談を妨害すべく襲撃して来た敵の存在を、いち早く察知したクロトは周りにその事を知らせつつ、戦闘に向けての準備に入る。
「だがクロト、そういった事態も織り込んで、この学園には三大勢力の実力者によって強固な結界が張られている筈。仮にそうであったとしても、慌てる必要は無いのではないか?パラドも落ち着け」
が、そんなクロトの行動と、パラドの激昂にグラファイトが待ったを掛けた。
そう、この会談は今まで敵対関係にあった三大勢力、その首脳同士による会談なのだ、今まで敵対していた者同士のトップ同士が話し合いの場を設ける事に不満を持つ内部の者、或いは三大勢力に恨みを抱く存在が、会談の存在を知ればそれを妨害しようと考えるのは容易に想像がつく。
故にその対策として三大勢力の実力者が協力して、強固な結界を張ってある、これによって如何なる手段を講じようと内部への侵入はおろか、外部への退出も出来なくなっているのだ、が、
「グラファイト、そうとも言えん様だ。セキュリティホールと言うべきか、結界に穴が出来た所がある。敵は其処から侵入している様子だ。凄腕の術者が此方に悟られぬ事無く穴を開けたか、或いは既に開いていたという情報が漏れたか…」
「それと、どうやらギャスパーの情報が、時を止める神器を有するギャスパーが、制御不安から此処で留守番しているという情報が何処かから漏れたらしい、一部が別動隊として、此方へ向かっている様だ」
「え、えぇ!?ぼ、ぼぼぼボクは、どどど、どうすれば…!」
何事にも絶対は無い、マサムネの探査によって、結界に穴が開いているのが見つかり、敵が其処から侵入している事も発見された。
更に悪い知らせは届く、どうやらギャスパーがこのオカルト研究部室にて留守番しているという情報が漏れたらしく、一部が此方に接近している事が、クロトの探査で発覚した。
恐らくは彼の、未だ制御に不安が残る神器の力を暴走させ、襲撃を容易にしようという魂胆なのだろう。
悪い知らせの連続に、ついさっきまで怖いものなしと言える位に快活だった時から一気に、嘗ての恐怖心丸出しな姿に逆戻りしてしまい、挙動不審になるギャスパー。
「落ち着くんだ、ギャスパー!言った筈だ、恐怖に囚われ、何事もネガティブに考えてはいけない!後ろ向きに考えれば考える程、神器は良からぬ働きをしてしまう!慌てふためいていては敵の思う壺だ!こういう時こそ勝利のイマジネーションだぁぁぁぁ!」
「勝利の、イマジネーション…!
はい、クロトさん!ボクは強い!ボクはやれる!ボクなら出来る!そう、ボクはライダー世界のキング!」
そんな彼に飛ぶクロトの檄、それによってギャスパーの心は平静を取り戻した。
「そうだ、その意気だ、ギャスパー!その意気で、君の主を、リアスママ達を守りに行くんだ!此処に来るのはあくまで別動隊、本隊は三大勢力のお偉いさんを討つべく大多数の人員を割く筈だ!此処は我らバグスターに任せ、新校舎の会議室に向かうんだ!」
「はい、行ってきます、皆さん!」
先程までの快活さを取り戻したギャスパーを見て一安心したクロト、そのままギャスパーに、リアス達がいる会議室に向かう様指示を飛ばし、ギャスパーもそれに応じて魔法陣によって転送された。
「あ、あれ!?一体何処に!?」
「あのハーフヴァンパイアが、いない!?」
「ギャスパーならもういないぞ。貴様らの考えは我らに筒抜けだ!」
『ナイトオブサファリ!』
それから数秒して、魔術師の様な格好の襲撃者達が部室へと入って来たが、標的であるギャスパーの姿がない事に戸惑いを隠せなかった。
そんな襲撃者達からクロト達を庇うべく前に出るグラファイト、その右手には、ベージュのガシャットが握られていて、背後には夜のサバンナらしき背景に『NIGHT OF SAFARI』の文字と、ライオンやシマウマ、キリンにチーターといったサバンナに住む動物達がデカデカと描かれたスクリーンが現れた。
「培養!」
そしてその掛け声と共にガシャットを胸に突き刺す、すると身体から緑色の泡が沸き上がり、同じ色のオーラが放たれると共にその姿は緑色のドラゴンを思わせる異形、マドウダンジョンの主人公である勇士グラファイトの真なる姿、自らに流れる龍の血が覚醒した龍騎士態へと変貌した。