それは、バラキエルからトレーニング方針を各メンバーに伝えられてから数日が経過した日の事だった。
「うーん、やはり1つのガシャットに2つものゲームを、2種類のバグスターウィルスを共生させるとなると、所々の挙動にバグが発生してしまうな。そのバグによって今までのガシャットとは比べ物にならない程の出力を、レベルを得られたのは僥倖だ。然しこれを用いて戦う事、それはレーティング・ゲームの場を除いて命がけだ、肝心な時に想定外のバグが発生し、戦えなくなっては取り返しがつかない事態に発展してしまう。どうすれば良いか…」
その日、グレモリー家の邸宅にある一室、此処を割り振られた一誠は1人、新たなガシャット開発作業に取り組んでいたのだが、何処か行き詰った様子だった。
其処へ、
「イッセー先輩、大変です!」
「ギャスパー?どうした、如何にもな様子で?」
ギャスパーが慌てた様子で部屋のドアをノックしながら、一誠に大事が起こった事を伝えて来た。
一誠もそれが直ぐ理解できたからか、開発作業を邪魔されたと感じる事なく、直ぐに対応した。
「イッセー先輩、良く聞いて下さい。
白音ちゃんが今朝、倒れたんです!」
「な、何だと!?」
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白音が、自らの恋人である白音が倒れた、その衝撃的な事態を聞いた一誠は開発作業を中断、彼女が運ばれたメディカルルームへと(周りに迷惑を掛けない形で)急いで足を運んだ。
「白音ちゃん!」
ギャスパーからの報告からほんの数分でメディカルルームに辿り着いた一誠、其処にはベッドに寝かされ(人間界で過ごしているが故に染み付いた癖か)普段は隠している猫耳と尻尾が出ている白音、そして彼女を看病していたらしい黒歌の姿があった。
「イッセー!」
「黒歌、話はギャスパーから聞いた。済まない、直ぐに駆けつける事が出来なくて。白音ちゃんの現状は?」
「生傷の方はアーシアが治してくれたし、気の乱れは私が何とかしたのにゃ。後は安静ね」
「ありがとう、黒歌。流石は白音ちゃんのお姉ちゃんだ」
「当然の事をしたまでにゃ。というかお姉ちゃんなのに、妹の変調に気付けなくて不甲斐ないのにゃ…」
「そんな事は無いさ。オーバーワークだと聞いたが、何処までやれば良いかのさじ加減は自分自身でも分からない物だ、まして禍の団という脅威がある中で…」
その黒歌から白音の現状を聞く一誠、因みに今まで先生を付けていた黒歌に対して何故呼び捨てにしたのかと言うと、冥界に来たその日、黒歌から告白されて快諾、晴れて黒歌は一誠の7人目の恋人となったからであり「恋人になったからには、先生付けなんて他人行儀な呼び方は止めて欲しいのにゃ」という提案からである。
そんな黒歌からこの場を引き継ぎ、白音が休むベッドへと一誠は向かった。
「白音ちゃん」
「ご、御免なさいイッセー先輩、新しいガシャットの開発作業があるのに、心配をお掛けして…」
「気にする事は無い、恋人の心配をするのは当然の事だろう?
…白音ちゃんが良ければ聞かせて欲しいな、何故オーバーワーク等という無茶に至ったのかを…」
その姿を見た白音が、開発作業を中断させてまで足労を掛けてしまった事を謝ったが、一誠は気を悪くした様子も無く、何が白音を其処まで焦らせたのかを尋ねた。
「…イッセー先輩、強く、なりたいです。
何かと話題に上がる禍の団もそうですけど、部長の夢を叶える為に、皆と、イッセー先輩と共に在り、守る為に、強くなりたいんです、心も、技も、体も。皆も同じ考えだと思いますし、あんなにヘタレだったギャー君も今はもう立ち直って、クロノスの力を、仮面ライダーの王としての力を授かった事に恥じない様トレーニングに励んでいる中、負けられないのもあります。でも、イッセー先輩ぐらいに頭が回る訳じゃないし、祐斗先輩やイリナ先輩、ゼノヴィア先輩みたいに聖剣は扱えない。だからといって部長や朱乃先輩ぐらいの魔力量も無いし、アーシア先輩の様に誰かを回復させる力も、ギャー君の様な特別な力も無い。それに術式の扱いも、猫又としての力の扱いも、姉様には才能も努力も及ばない…!
イッセー先輩から授かったノックスの力も十分に使いこなせていると胸を張れる訳じゃない…!
私は、役立たずだから、何もかもが中途半端だから…!
だから、皆以上に頑張らないといけないんです!」
眷属の中で自分ならではと誇れる物が何一つない、得意分野と言える物は数あれどそのどれもが「他のメンバーで良い」と言われる中途半端な状態…
バラキエルからも指摘された「他のメンバーで良い、となる」という現実はバラキエルが指摘するずっと前から白音を追い詰め、修行開始から数日でのオーバーワークという事態に至ってしまったのだ。
「そうか…
白音ちゃん。そんな頑張る君に、プレゼントだ」
「これは、ガシャットの設計図、ですか?でも、今までのそれと随分違う様な…」
そんな白音の姿を目の当たりにし、何か決意を固めたのか、一誠は持って来ていたPCを取り出し、新しいガシャットの設計図を彼女に見せた。
「ああ。白音ちゃんは自分自身の事を中途半端だと言うが、俺はそう思わない。秀でる所が、誇りに思える所が幾つもある、マルチタレントと言うべきその長所は素晴らしい物だ。その幾つもの誇りに思える所が同じ場面で使い分けられるとしたら、一緒に使えるとしたら…
これは俺がそう思い至って考案し、思わぬ力を秘めたガシャットに今、花開こうとしている、そう!
これは、君の為のガシャットだぁぁぁぁ!」
「わ、私の為の、ガシャット…!」
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「もう少しだァ…!
もう少しでェ…!」
それから数週間が経過した日、あれから新しいガシャットの開発作業を継続していた一誠だったが、何らかの切っ掛けによって作業の行き詰まりが解消され、順調に進んでいた。
そして最後の調整作業も終了、エンターキーを叩く、と、
「出来た、遂に出来たァ、全く新しい、ガシャットがァ…!
後は、これを、白音ちゃんに…」
PCと繋げていた機械に装填されていた水色のガシャットにラベリングが施され、それを受けて一誠はそんな歓喜の言葉を呟きながら取り出した。
そのガシャットは大まかなサイズだけならドクターマイティXXガシャット等と同じだが、その形状は直方体に近い物となり、2つものゲームを共生させると言っていた通り、片方のラベルには『PERFECT PUZZLE』、もう片方には『KNOCKOUT FIGHTER』と異なるタイトルと絵柄が描かれ、そして正面部分には丸く、半円ごとに其々のラベルと同じ絵柄が描かれたダイヤルの様な機構まで取り付けられていた。
今までとは大きく違う姿となったガシャットを手に、それを待っているであろう白音へと向かおうとした一誠だった、が、
「あ、あれ…?」
その気持ちに反し、身体が思う様に動かず、やがて崩れ落ちてしまった。
「イッセー先輩!?ど、どうしたんですか!?」
「あ、白音ちゃん、丁度良かった…」
そんな事態が発生した一誠の部屋を偶々通り掛かった事で、彼が崩れ落ちた音を聞く事が出来たのだろう、白音が部屋へ入り、急いで駆け寄った。
「たった今、開発中のガシャットが完成したんだ。その名も『ガシャットギアデュアルα』。この一号機を是非、白音ちゃんにプレゼントしたかったのだが、君の方から受け取りに来てくれるとは嬉し」
「イッセー先輩?イッセー先輩!?しっかりして下さい、イッセー先輩!」
まるで運命が味方したかの様に駆け付けてくれた白音の姿に安どの笑顔を浮かべた一誠、手にしていた新しいガシャット――ガシャットギアデュアルαを白音に手渡したが、その瞬間、まるで操り人形の糸が切れたかの様に動かなくなってしまった。
まさか一誠の身にとんでもない事が起こってしまったのではないか、最悪の状況が頭を過り、必死で一誠に呼びかける白音。
「くー、くー…」
「ね、眠っただけですか、び、びっくりしました。それにしても、大きい隈です。開発作業に、寝る暇も削り過ぎていたのですね。本当に、ありがとうございます。ゆっくりお休みなさい、イッセー先輩…」
だが一誠は、眠っただけだった。
白音の膝の上ではっきりした寝息を立てながら、安らかな寝顔で熟睡をする一誠の姿に、白音はガシャット開発での苦労を想像し、労いの言葉を掛けた。
因みに徹夜続きの開発作業が影響して、一誠はそれから数日、目を覚まさなかったのは余談である。