アクセル・ワールド~地平線を超えて   作:真ん丸太った骸骨男

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どうも、真ん丸骸骨です。
投稿感覚を一週間で固定したいけれども、何とも進まない物ですね。
ですので投稿期間よりも内容をもっと考え煮詰めながらやって行こうと思います。それでもおかしな所があれば、突っ込みを入れて頂きたく思います。


第十話

いくら対戦と言っても、僕とハル君のレベル差は歴然。

経験は言うまでも無く、戦績も勝率の方が遥かに多い僕、さらに僕自身が対戦をそれ程乗り気では無い事があり、いくつかの指定を受けた。

ハル君が僕を捕まえられれば勝利と言う物だ。簡単に言うと鬼ごっことも言う。

 

「良いかハルユキ君。君は無理をする必要はない、彼を捕えて五秒と言う時間を稼げさえすればいいんだ」

「はいッ!それぐらいなら僕にだって何とか……」

 

ただ捕まえれば良いと言う訳ではない。

五秒と言う時間、僕を拘束する事がクリア条件となる。つまり僕は仮想敵。

長距離ジャンプを可能とし、空中でも動く事が出来る僕は格好の練習相手と言う訳だ。

 

ただ、僕も攻撃をするし、回避行動をするのでそう簡単な物ではない。

 

「それじゃ、やろうかクロウ。僕の速度に付いて来れるか?」

「付いて行きます!あなたと同じ世界を、僕は目指してるんですから」

 

周りにギャラリーはいない。

僕たちはマンションのローカルネットにのみ接続して対戦を行っているのだ。

これには僕もマンションに接続していなくてはならないので僕も彼らの住むマンションの入り口で接続している。

今現在五人が居るのはマンションの玄関前、仮想敵と言う役目上逃げ回ったり距離を開けすぎるのはいけないと言う事で試合開始場所も同じ場所からと言う事で決まった。

 

「では行こうか、観客を魅了するような試合をしよう」

「はいッ!」

 

まず僕から駆け出す。

それを追うようにしてクロウが追いかけてくる。

だが、あまり離れすぎても行けないので、幾らか距離を取るとクロウの動きを観察する。

クロウは即座に通常速度では勝てないと判断してオブジェクト破壊に向かいゲージを確保する動きを見せ始める。

一分ほどの時間を使ってゲージが四割にまで届くとクロウは準備が整ったとばかりに大声で僕に宣言する。

 

「行きますッ!」

 

直後彼の背中から銀色の美しい翼が顕現する。

それをはためかせ、空に飛ぶと、僕は観戦で見ていた以上の威圧感を肌で感じ取る。

 

「やっぱり制空権を取られると違うな。見ているのと対峙するのとでは感動も一塩と言ったところかな」

 

上空から急降下してくるクロウに僕は跳び上がり迎え撃つ。

まっすぐ伸ばされた拳を片腕でいなし、空いた腕で追撃を掛ける。それを受け止めたクロウは前転するように体を回転させ踵落としの要領で僕の頭を狙ってくる。

 

「正解だ、初めから捕まえに行っても大人しく捕まる相手はいない。が、まだこれじゃダメージは許せないねッ!」

「空で避けたッ!?これが空中ジャンプ!」

「残念だが、まだそのアビリティは使っていないんだよ」

 

クロウの振り下ろす足にそっと腕を添えてそこを支点に体をほんの少しだけ動かし攻撃をいなして、反撃に拳を彼の脇腹に叩き込む。

 

「がッ!?」

 

僕の一撃で飛んでいくクロウを空中ジャンプのアビリティを使い追いかける。

くの字で飛んでいき、姿勢制御に苦心するクロウの逆側に僕は高速で移動し新たな攻撃を加える。

 

「これは、エリアル――――ッ!?」

「これが空の戦い方だッ!」

 

そこから飛んで行った先に現れては拳を叩き付ける事十数回、僕はゲージを使い果たし地上に着地する。

クロウの体力ゲージを確認すると、ようやく半分を切った所だ。

攻撃の瞬間腕を交差させて上手く防がれたと言っても、レベル差があってこの数値しかダメージを与えられないと言うのは自分の攻撃力の無さを呪わずにはいられない。

だが今のでレベル差を強く感じさせられたはずだ。レベルが上がれば速さに慣れてこれくらいの芸当は熟してくる輩は大勢いる。

僕ら速度タイプは、そこからさらに戦いに変化を与え、勝利をもぎ取らなければならない。

 

「さぁ、如何するハル君?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は下から見つめる薄青色をした対戦相手を見つめながら次の手を考えを巡らせていた。

今までの短い攻防で感じたのは、強い、と言うよりも巧い、と言う事だ。

タクや黒雪姫先輩から教えられていた特徴から、僕と同じように速度で攻めるタイプだと思っていたが、その完成度は桁違いだ。

薄い防御を考慮した回避技能、足りない攻撃力をラッシュで稼ぎ、防御されれば緩急を付け油断を誘う。

先程の空中の連続攻撃も、防御をしたつもりだったのに攻撃の挙動を見せたと思ったら通り抜け後ろから、と言う事もあったのだ。

 

(空は僕が強いって言っておきながらあれだもんなぁ、勝てる訳ないよ……)

 

先程の自信があった空中での一幕を思い出し、つい弱気な考えが頭を過ぎる。

そもそも空中での速度も地上時と大して変わらないのでは、捕える所か攻撃も危うい。

 

(あれ?)

 

と、そこまで考えて気になる事が頭に浮かびあがってくる。

攻撃を受けながら観察し、思い出した時に感じた違和感。

あの速度で攻撃されていた筈なのになぜ防御が間に合っていたのか。

 

(どうせ勝てないし、ミッションクリア条件は五秒間の捕縛だ、やって見る価値はあるっ!)

 

ミッション制のゲームは今まで何度もやって来た。

どんな無茶なクエストでも必ずどこかに弱点、クリアするための糸口がある。

それはこのブレイン・バーストでも言える事だ。完ぺきな存在なんてない、そんなのが居たら今頃このゲームはエンディングを迎えてるはずなんだ。

 

「今度こそ行きますッ!」

「来い!君の力を見せてくれッ!」

 

僕が思考している間にまたゲージを溜めていたのか、先ほどと同じように空中戦に応じてくる。

空中戦だからこその攻略法、他の誰であってもそれを隙だと感じない物だが、僕には唯一の手段となる。

 

「はああぁぁ――――!」

 

最初と同じように空中での格闘戦はまだ向こうに分があるのなら、それに応じなければ良い。

急降下と同時に蹴りを放つ。勿論こんなテレフォンパンチのような攻撃が先程の反応スピードからしたら避けられて当たり前だ。

だが、この攻撃は見せ技、本番は此処から。

 

背中を晒した僕に向かってソニックは空中ジャンプを用いて接近する。

すぐ後ろに感じる威圧感を受けて僕は羽をはためかす。

 

「うおっ!?」

「ここ、だあぁぁぁ――――ッ!!」

 

背中に接触する瞬間、肩翼だけを動かし体を無理やりに右に動かす。

そのタイミングで僕は飛びついた。

 

防御が間に合っていた理由、それは数秒の接近に必要なタイムラグだ。

彼の移動速度から攻撃が間に合わないと言うのは如何にも腑に落ちなかった。そこで十数回にも及ぶエリアルコンボと言える攻撃を思い起こす。

そこで気が付いたのは、数瞬の彼の不自然な落下だった。

 

「そう、あなたのアビリティの弱点はジャンプと言う特性上、連続使用が出来ない事だ。一秒か、または二秒、あなたはジャンプをする事が出来ないッ!」

 

連続して使用できるのなら、それはもう空中歩行の領域だ、決してジャンプではない。

ただの気の所為や、単なる手加減と言う線も捨てられなかったが、他に攻略法が思い浮かばなかったので実行に移す事になった。

 

「――――正解、まさかそんな数瞬の隙を突いてくるとはね」

 

彼の曝した背中に飛びついた格好の僕たちは、そのまま地表に向かって急速落下をしていた。

落ちるまでそれほど時間は無い。

だが、この高度からなら落下ダメージでかなり削れるはず。

 

「やはり空の上では君には勝てそうにない。今日はそれが解っただけでも収穫だ」

 

そう呟いたソニックは、首を稼働限界まで振りむかせ、

 

「良い戦いでした。君の勝利だ」

 

認められた、親である黒雪姫先輩や親友のタクにはいつも言われていたが、どこか不安が付きまとっていた。

それは今までの領土戦での失態、他二人に少なくない負担を掛けていた事から僕の心に深く突き刺さっていた。それが全て晴れたとは言えない、だが、まったくの第三者から言われるのは幾ばくかの救いに感じた。

 

「ありがとう、ございましたッ!」

 

自分の言葉と同時に激しい衝撃音。

五秒間の拘束は、地面にソニックを叩き付けると同時に達成された。

 

 

 

 

 

 

 

 

(久しぶりだ、この感じ……)

 

体に感じる満ち足りた感覚。

義務的な対戦ではないのは何時振りだろう。自分の意思で空を駆け、地を駆け、相手に向けられる敵意に正面から向き合ったのは。

その感覚に僕は鳥肌が立つのを感じた。血が昂ると言えばいいのか、とにかく、僕は心の底ではやはり対戦を楽しみたいのだろう。

直に対戦して、それを強く感じた。

だが、その考えを頭を振ってすぐに忘れる。考えてはいけない事だ。

 

「あ、あの、ドロー申請をしないと」

「ん?あ、あぁ、良いよそのままで。良い戦いのご褒美、って言っちゃうと偉そうだけど、うん、この戦いはさっき言ったように君の勝ちだよ」

 

残ったのは僅かに一割弱、ここから巻き返すのは容易だが、この戦いの趣旨は僕のジャンプとクロウとの模擬戦。このままドロー―でも良いが、それでは対戦の旨みが無いと思うし、クロウはしっかりと目的を達したのだ、ポイントを得るだけの資格はある。

 

「ほら、結構離れちゃったし、早く戻ろう。あの二人を待たせると怖そうだよ」

「うっ、それは確かに。でも、ソニックさんのポイント大丈夫なんですか?通常対戦してないって聞きましたし、余裕がないんじゃ……」

「気にするほどじゃないよ。日常じゃまったくと言って良い程加速なんて使わないから、まだまだレベル4くらいと同じくらいだよ。全然余裕」

 

心配するクロウに僕は笑い飛ばしてやり、彼の持つ遠慮を無視する事にした。

粗削りながら彼の素質は高い。あの黒の王が惚れ込むのも頷けると言う物だ。だから僕も、少しばかりお節介を焼いてみたくなる。

 

「そんな事よりもクロウ。君に僕から一つアドバイスをあげるよ」

「アドバイスですか?」

「そう、君が苦手としている射撃型との戦い方」

 

クロウから息を飲む声が聞こえた気がした。体も僕の台詞を聞いたとき少し緊張で固くなった。僕の想像以上に、その事は彼にとって大きな問題だったようだ。

シルバー・クロウがこの世界で羽を得てから三か月、それだけあればあれだけ注目を集める能力だ、対応策などを練られるのも摂理である。

そしてその弱点と言うのが彼の≪飛行する≫と言うの能力その物だったのが、彼にとっては大きな痛手であっただろう。飛ぶと言う事は遮蔽物に隠れられないと言う欠点がある。つまり、射撃の格好の的となるのだ。

それが彼にとっての他の真髄を許さぬ強みであったのだから、スランプに陥っていてもしょうがない。

 

「領土戦、観戦させてもらったけど、あれだね、君は自分のスタイルを忘れてるよ」

「忘れてる?」

「そう、僕もね狙撃された経験はあるよ。それも執拗に。と言うか、今も対戦すると大抵狙撃されるし」

「ソニックさんは遮蔽物で隠れてるんでしょ?そうじゃなきゃ今まで逃げ切り続けられるなんておかしいですもんね。まぁ、僕も低空飛行すればいいかもしれませんけど……」

「いや、それだと君の本領が発揮できないじゃないか」

 

確かに僕はクロウの様に遮蔽物が全く無いと言う訳ではない。でも、全てを全てそれで防げるほど対戦は甘くない。ごく稀にだが、跳弾などと言う冗談のようなスキルを使う奴もいるのだ。隠れているだけでは捉えられるだろう。

 

「単純だよ。僕たちは速度重視のアバターだ。なら動けばいいんだよ、撃たれてもそこにいなければ当たらない」

「理屈ではそうでしょうけど、実際僕撃ち落されてますし……」

「だから君は忘れてるんだよ、君がいるのは地上じゃない、空だ。そこで君は避けてやる避けてやるって、動きが止まってたよ」

「えっ嘘ッ!?」

「遮蔽物が無くて止まってたら、そりゃ撃たれるよ。それに空なら、地上なんかよりも避けるのは難しくないと思うよ?」

「難しくないって他人事だと思って……」

 

口調が崩れてきたのは、関係を築く上で良い事だが、恨み言を言われて少し苦笑いを浮かべる。

 

「勘違いしてはいけない。何度も言うけど君がいるのはあの空だ。地上よりも自由に、それこそ無限に広がっているんだ。完璧に捉えられる奴なんていないよ」

 

未だ納得の言っていない様子なので、あまりやった事は無い少ないゲーム知識を引っ張り出して、彼に解りやすい例えを出す事にした。

 

「ほら、フライトシューティングだって、誘導弾は当てやすいけど機関銃とか当て辛いでしょ?」

「なるほど、僕はあまり苦に感じないですけど、馴染まない人は難しいらしいですよね」

 

玄人発言をされて返された。僕はその馴染まない人間なので、あの空中をふらふらと視点が定められないのと相まって数時間やって少し酔った挙句に墜落してゲームオーバーと言う事など毎回だった。関係の無い話だが、昔一緒に遊んだ楓子さんもそう言ったゲームが得意だった記憶がある。

 

しかもあれは相手も同じ条件でやっているから当てられるのであって、地上から砲台として狙うのはそれ以上に困難だと個人的に思う。

 

「ッと、話し込んじゃったかな。戻ろうか」

「あ、はいッ!」

 

そして僕らは再度五人集まると、先程の戦闘に対しての意見交換などで時間を潰し、加速時間を終えた。




お疲れ様でした。
今回は対戦と最後にアドバイスをする感じで終わりました。
説教ではないので大丈夫、主人公は先輩風を吹かせられれば良いと思ってます。


話は変わりますが、今回の話がうまく進まなかった時に、勢いで書いた短編の様な物を上げようと思います。そちらは三人称を練習しようと書いたものなのですが、見て頂ければ幸いです。
そちらもアクセルワールドで、主人公に出来なかった設定の垂れ流しになっているかもしれません。
五千時くらいの短い物ですがどうぞ。

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