アクセル・ワールド~地平線を超えて   作:真ん丸太った骸骨男

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第十二話

その日の学校はずっとつまらないと感じていた。

友達がいない訳じゃない。それなりに会話をするし、一緒に休日を過ごす事だってある。親友とは言えないが、それでも仲がいいと自信を持って言える。

だが、彼らと話していてもどこか満たされないのだ。

 

その理由も自分で何となくだが理解している。

不謹慎な事だが、僕は待ち遠しいのだ。『災禍の鎧』がではない、彼らと共に戦う事がだ。

何時もエネミーを狩り続け、マナーが最悪なプレイヤーと戦ってきたがほとんど一人でやっている。今回の様に、誰かと計画を立てた戦闘は今までにない。自然と頬が緩んでくる。

 

「僕、こんなに誰かと一緒にやりたかったんだな……」

 

それは彼らが特別なのか、それとも誰でも良かったのか、それは今の段階では解らない。

でも、彼らと一緒にいるのこの上なく楽しい。それだけは間違いない。

 

「っと、来たか?」

 

授業が終わり、出来るだけ早く彼らと合流できるように杉並エリアまで来ていた。そんな時、タッ君からのメールを受信、災禍の鎧、クロム・ディザスター討伐作戦が決行される。

僕は杉並エリアにある喫茶店に着いており、今すぐにでも入る事が出来る為、時計を見ながら一分間経つのを待ち構える。

 

「≪アンリミテッド・バースト≫」

 

時間の五秒前に加速コマンドを使用する。たった五秒だが、向こう側からしたら数時間だ。

少しのズレが膨大な時間を生み出してしまうので、待たれるよりは待った方が精神的に楽だろう。

 

ハル君の家は覚えているのでそこまで駆け上がり、その場から外が見える所に胡坐をかいて窓辺から広がっている世界を一望する。高さが圧倒的に低いが、見る視点と場所が変わると、また違った景色の面白さを実感する。走っている時と、こうして眺めている時間はまったく飽きが来ない。

 

「おわッ!?もういた!?」

 

暫くすると、背後からシルバー・クロウの驚きの声が届いた。時間を確認すると、丁度現実時間では連絡を貰った一分後、時間ピッタリだ。

 

「やぁ、ソニック。昨日ぶりだが、待たせてしまったか?」

「いや、僕が待ち切れなかっただけさ」

 

ロータスと軽い言葉を交わし、順にあいさつを交わしていく。

 

「そうだ、クロウはこの空間は初めてだったね」

「えぇ、無制限フィールドも昨日初めて聞きましたよ」

「見てみると良い、君なら僕よりも何かを感じられると思うよ」

 

この世界はあまりにも自由だ。地を走る僕ですらそう感じられるのだ、空を飛べる彼からしたらこの世界はどのように映るのだろう。とても興味深い。

僕以外のメンバーに、この世界について細かく聞いているクロウは何処となく興奮しているように見える。

 

「おら、そろそろ良いだろ。早めに場所変えちまおうぜ?」

「そうですね。所で……」

 

そこで幾つかの疑問点が出てきた。はたしてクロウは四人もの人間を担いで飛ぶことが出来るのか、と言う事だ。組み合わせを考えれば、二人までは楽に行けるだろう。

何せこの中で一番体格のあるシアン・パイルを一度空高くまで運んでいるのだから。

 

「さ、流石に四人は…… たぶん三人までならいけると思いますけど……」

「まぁ、そうだろうね。なら一人は僕が運んで行こう。クロウ程快適な旅にはならないだろうけど、エネミーに引っかからない様には走れるからさ」

 

空と違い、地上にはエネミーが闊歩している。それらと出会った場合、安全に逃げ切るには二人も居たら流石に足を取られかねない。まだ一人だけならば、速度も多少落ちるだけで十分逃げ切れる。

 

「解りました。それなら僕はソニックさんと一緒に行きます。マスターたちはハルと一緒に」

「そうだな。それならば合流場所を決めておこうか。おい赤いの、貴様の情報が頼りなんだ。正確な場所は解るか?」

「あぁ、今までの奴の行動からすると、ブクロのサンシャイン周辺だ。その近くのビルの屋上で良いだろう」

 

そこまで直ぐに決めると、ロータスとレインがどちらがクロウに抱かれて飛ぶかと実りの無い言い争いをしていた。肩車状態のレインを想像して、その小さな体から何やら親子のような絵が脳内で出来上がった。

そこにさらにロータスを両腕に抱き上げた状態を想像し、自分の中で微笑ましい家族像が映し出される。

 

「……アタシがガキだって?ぶっ殺すぞッ!スピードジャンキーッ!!」

「ぬおぉ――――ッ!?」

 

それを口に出して提案した所、その図と全く同じ物がレインの頭の中でも完成したようで、腰に付いていた彼女の初期装備と思しき小銃を僕に向かって乱射してくる。威力を絞っているだろうし、当たらないように狙っているだろうが、至近距離から狙われると、怖い物は怖いのだ。

 

「とっととッ!?それじゃ先行きますね!」

「え?ちょっ!?」

 

パイルの腕を掴み、マンションから飛び降りた。予めゲージを溜めて置いた僕はマンションの壁に足を着け、そのまま垂直に駆け下りていく。

 

「ま、前以って言って下さいよ!!僕は高所から落ちる時のリカバリなんて習得してないんですからッ!!」

「あ、ごめん。とりあえず逃げたかったから……」

 

大きな体を僕の腋に抱えられながら、あまりのショックに半分切れかけている。

それを何とか諌めつつ、目標地点まで目指す。後方を確認すると、二人を腕に抱きながらようやく飛び始めたクロウの姿が映った。二人してクロウの腕の中で飛ぶことに拘り、妥協したのだろう。

 

「クロウとロータスは現実で恋人同士なんだよね?」

「そうですね。マスターは大勢の生徒の前で公言してますし、ハルは釣り合わないって言って否定するでしょうけど、マスターを好きなのが傍から見て分かりますからね」

 

リアルでの彼らが如何言う関係なのかは、なんとなくはチユリちゃんに聞かされているが、まさか生徒が大勢いる中で言うほどアグレッシブだとは予想を上回っていた。ハル君が受け入れないのは未だ自分に劣等感を持っているからだろうが、それもこのゲームを通して少しずつ改善していくだろう。

 

それよりも問題なのはレインの方だ。あれは完全にからかっている。

初心な二人の反応が面白いのは解らなくはないが、そっとしておこうと言う考えが無いのだろう。やはり、精神年齢が高くなろうと、女性はそう言った話題には飢えていると言う話は本当のようだ。

 

「まぁ、今は合流場所に……――――ッ!隠れるよっ!」

「うわっ!?ど、如何したんですか?まさかエネミー!」

「いや違う、これは……」

 

少し進んだ所で僕は異変を感じてすぐに物陰に隠れる。途中遠目にエネミー狩りをしているチームを目撃したが、それ以外にこの近くにアバターが息を潜めている様だ。その証拠に違和感のある壊れ方をしたオブジェクトを発見する。爆撃を受けたかのような焦げ跡に、何かで切ったような切り傷、それ以外にも種類の違う破壊の痕跡が見て取れる。

無制限中立フィールドの属性は『混沌』。一定時間ごとに『変遷』と呼ばれるフィールドの属性が切り替わる特徴を持っている。機械的なフィールドから、森林に変わったりとするのだが、その際倒したエネミーがリポップ、つまり再度出現し、それ以外にも、壊れた建造物等も再度復元されて元に戻る。

 

「つい最近この辺りでゲージを溜めていた集団がいたと言う事か?どう思う?」

「そうですね。この辺りは都心に隣接していてもエネミー数は少ない、この数が集まるにしては些か不自然だ。もっと他に目的があるように思います」

 

パイルの考えを聞いて、僕は改めて彼らの目的を考える。

パイルの言うとおり、この辺りは狩りには不適切だ。それにこの近くには縄張りを持つエネミーはいない為、それも除外して良い。

大勢で徒党を組んで叩かなければならない対象と言って思い浮かぶのは、今僕らの目標の『クロム・ディザスター』だが、彼らに対象がいつ何処から入るか等と言う情報が得られるとは思わない。

 

「情報を得られないし、出現する場所もランダムだ、こんな所にいる訳が……」

「……いや、ありますよ…… 情報を得る方法が……」

 

何かに気が付いたパイルが、武装が付いていない方の腕を顎の下に当てて深刻そうに口を開いた。

 

「そうだ。僕たちが『災禍の鎧』の位置や情報を得られたのは赤の王が所有者のリアルを知っていたからだ。なら、それを渡した人間だって、彼のリアルを知っている可能性だって十分にあるっ!」

「そうか、アイテム譲渡の際に……」

「そうです。あんな強力な武装を何の見返りも求めずに渡すのはあまりにも不自然です。たぶんそこでリアル情報を対価としたんでしょう」

 

アイテム状態ならば通常対戦でも譲渡は可能だ。自分だけ一方的にリアルを知る事も出来る。傭兵と呼ばれるアバターと同じような手段を取ったのだろう。

 

「そうすると最初から目的は……」

 

渡した相手を態々犠牲を払って潰す意味は無い。それを利用して出来る事があると言う事だ。

そこまで手の凝ったやり方を選んだ理由は――――

 

「ええ、赤の王の首、です。そして、マスターも狙われている」

 

そう、レインがクロウと接触する前に杉並で対戦を行った事はすでに周知だ。敵の詳細を知っていたのなら、そこにレインが行った目的も想像できるだろう。つまり、王を二人相手取ったとしても、対処できるだけの手段を用意している可能性がある。

 

「急ごう。この破壊痕を辿れば辿り着けるだろうから」

「はいっ!」

 

そこから少し進んだ場所に大きなクレーターを発見した。だが、その上空には既にクロウが浮いており、対空砲火を浴びていた。

 

「ハル!……クッ!!」

「待ってっ!」

「何故ですか!?助ける為に来たのにっ!!」

「我慢してくれ、まだ敵が何人いるのか解らない。それに相手は王がいるんだ。やるのなら相手が油断している攻撃の瞬間が一番効果的だ」

 

今にも飛び出しそうなパイルを何とか止め、彼のすぐ後ろで何時でも出られるように体を低くし何時もの姿勢で待機する。

クロウが対空砲火を避けながら、誘導されるように地上のクレーター部分に着地する。そのクレーターを中心に三十にも及ぶアバターが取り囲んだ。

その中でも異彩を放つ純色のアバターが、クレーターを見下ろしながら話し始めた。

距離があるため会話の内容は聞き取れないが、彼のアバターの姿によって、如何にも胡散臭さが先行する。

 

「あれは、黄の王イエロー・レディオ…… やっぱり彼だったか」

「あれが……」

 

黄の王イエロー・レディオ。細長い手足に巻き角の様になっている頭のシルエットが特徴的で、顔に張り付いた笑う仮面と合わさり、ピエロその物のようだった。

 

全てのアバターが姿を現したところで、パイルがその杭打機をこちらに背を向ける人影に照準を合わせる。

彼の射程距離ギリギリまで接近しているため、初手の奇襲は彼が担う事になっている。

だが、黄の王がカードの様な物を取り出した時、それが不味い物だと第六感の様な物で感じた。このタイミングで取り出すのだ、直接的な効果は無くとも、精神的に多少の効果を発揮するような揺さ振るための道具だろう。

 

暫くして、空に浮かび上がる映像、リプレイファイルが再生される。そこに映し出されたのは、純色の七王と呼ばれていた時代の映像。つまり、赤の王と呼ばれていたのがスカーレット・レインではない時代である。

それも王たちが一堂に会していた事など数えるほどしかない。

 

「これは不味すぎるだろう……」

 

映像は進む。最悪な結末へ向かって。

 

「これって、マスターが賞金首になった時の……」

 

シルクハットを被った様な頭、腰に装備されている小銃とカウボーイのような容姿をしたアバター、初代赤の王レッド・ライダーが加速世界から強制退場した時の映像であり、これがネガ・ネビュラスの解散に繋がっていくロータスからしたら二度と見たくない忌むべき映像。

映像の中でロータスとライダーが会話の流れから友好の抱擁を交わした時、ロータスは零距離の必殺技を放ち、ライダーの首を刈り取る。

映像はそこで途切れた。

 

あんな物を見せられて、平静でいられるわけがない。僕が考えていたタイミングは、少なくとも、王が二人いれば数秒は耐えられるだろうと考えたからだ。だが、このゲームは精神がそのままアバターの動きに直結してくるような作りをしている。

今のロータスに戦闘能力を見込む事が出来るだろうか。

 

「ダメだ、少し早いけど行くしかない」

「そう言ってくれなかったら先に行く所でした。もう、僕も耐えられません!≪ライトニング・シアン・スパイク≫ッ!!」

 

パイルの杭打機から杭が放たれた瞬間、僕は弾ける様にその場から駆けだした。パイルの背中に体当たりの様にぶつかり、地面に固定されていたパイルを強引に引き抜いて高速で移動する。

 

「良いかい、パイル。慎重な君なら逃げる事を進めるだろうけど、逃げ切れる可能性は限りなく低い。それにレインは性格からしておそらく逃げないで戦うだろう。何とかレインを援護してくれ」

 

パイルは小さく首を縦に振るだけで答える。

例え逃げたとしても、僕は逃げ切れるとは考えていなかった。相手は王を冠する一人、見た目から解るように、彼のアバターは身軽で速さを備えている。走って逃げてもあの身軽さから逃げられるとは考えがたかった。僕が抱えて逃げても人数が増える度に速度は落ち、おそらく追いつかれる。

ならば、正面から叩き伏せるしかない。

 

パイルが放った杭が囲んでいた一人の頭に直撃し、その存在を消滅させる。その空いた隙間から直進し、クレーターの中心で固まる三人と合流した。

 

「お前等……ッ!」

「すまない、様子を見ていたが上手く割って入るタイミングがつかめなかった」

「ば、馬鹿野郎ッ!!何で出てきたっ!敵の人数が見えねぇのかッ!」

「仲間を見捨てる訳ないだろう……」

 

そうだ、前とは違う。助けるべき相手が目の前に居る、助けるだけの力もあると信じている。

 

「これはこれは……これから楽しいカーニバルが始まろうと言う時に、いきなり乱入と言うのは頂けませんね。ソニック?」

「君こそ、僕がいる前でまさかPK紛いな事はしないだろうね、レディオ」

「PKとは心外ですね。私はレギオン同士の条約に基づいた行動を取らせて頂いているだけですが?」

 

彼の言う条約とは王が治める六大レギオンの不可侵条約の事だ。

詳しい条約は一般プレイヤーの僕は知らないが、一番有名な物ならばよく聞く話だ。他のレギオン構成員を全損に追い込んだ場合、誰でも一人同じ目に合わせる事を許可すると言う物があった筈である。

今回、クロム・ディザスターの件でその条約が当て嵌められたと言う事だろう。

 

「僕はレギオンの構成員じゃないからね、関係ないよ。そちらが仕掛けて来るなら、僕もやらせてもらうよ」

 

レディオの表情はピエロの笑った顔のままだが、心なしか、苛立っているように感じる。

僕とレディオは睨み合ったまま動かず、周りのアバターも如何したら良いのか解らずに動けずにいた。

 

「……これだから単純な方は面倒なのですよ」

「姑息な手段ばかり考えるよりずっといいと思うけどね」

「見解の相違ですね。頭が足りない方には考えられない策と言う物ですよ」

「……頭の足りない方に何度か潰されてるけどね」

 

何度か対戦を行ったり、助けた人間たちの避難先のレギオンでもあるが、僕がやっている事と彼らがやっている事がぶつかる事がままある。明確な敵と言う訳ではないのだが、あまり関わりを持ちたい相手ではない。

 

「やはり貴方とは話が合わないようですね。……良いでしょう、ここで貴方が彼女の味方に付くと言うのなら、私がお相手して差し上げましょう」

「僕は初めから君狙いだから構わないよ。君さえ押さえられれば相当楽だろうからね」

 

レディオは手にバトンを出現させ、僕はクラッチングスタートの体勢を取る。緊張感が高まる中、僕とレディオは忌々しげに同じセリフを口にする。

 

「僕は――――」

「私は――――」

 

 

『貴方が嫌いだッ!!』

 

激突する。




お疲れ様です、真ん丸骸骨です。
忙しいのでこれからの更新は月一で固定になりそうです。筆も速い方ではないので、もっと遅くなる可能性もありますが、長い目で見て頂けると幸いです。

今回の話は、原作を見逃しているだけかも知れませんが、なぜ待ち伏せが出来たのかと言う事が無かったので独自解釈で進めてみました。可笑しな部分がありましたらご指摘お願いします。

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