アクセル・ワールド~地平線を超えて   作:真ん丸太った骸骨男

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一月半と言う時間が掛ってしまいました。
実際に執筆に使っていた時間は恐らく半月だけなので、大変申し訳ないです。もっと早く出来れば良かったのですが、なかなか時間が取れなかったもので。

今回はタクム君視点のみで書かせていただきました。主人公たちの活躍は次回に持ち越しです。


第十三話

黄の王とソニックが戦闘を開始したのを合図に、周りのアバターが眼下に居る僕たちに狙いを定める。その殆どが動く事が出来ないマスターを狙っていた。

『零化現象≪ゼロフィル≫』と呼ばれる症状、僕も初めて目にするが、精神的な負担がその人物の許容範囲を超えた時動けなくなる。一般的には心の傷、トラウマに直面した時受け入れられず発症する事が多いそうだ。それだけ過去の出来事に対して並々ならぬ感情を心に秘めていたと言う事だ。それを平気で抉るような真似をした黄の王を睨む。

 

「ハルっ!絶対にマスターから離れないでッ!!」

「わ、解った!でも、それだと狙い撃ちに……」

「うるせぇよ、アタシもいんだ。ソニックの野郎がレディオを抑えてるお蔭で奴らまだ攻撃渋ってやがる。集まっただけの雑魚なんか、まとめてぶっ飛ばすッ!来いっ、『強化外装』ッ!!」

 

この状況で頼もしい一言を口にして、赤の王がその体に自分よりもはるかに大きい武装の数々に身を包んでいく。僕のやるべき事は、彼女の援護。圧倒的射程と火力を誇る彼女の弱点、近接を許してしまうとあまりにも脆弱と言う事である。本来はそこまで接近を許す事などないが、今回は始めからかなり距離が近い。

 

「僕の役目は近接型の相手か……」

 

口では簡単のようだが、それがどれだけ困難な事なのかが僕は理解している。この場に居るのは僕よりも高レベルで純粋な近接能力を持っているのが殆どであろう。それが一気に複数で押し寄せてくる、だから倒す事は始めから諦める。

 

「ウオオォォ――――ッ!!」

 

僕は吼える。自分に気合を入れる意味合いと、敵が僕に集中する様に視線を集める。一対一ならば、まだ倒れているマスターなどにも目を向けられるだろうが、人数が増えると流石にカバーが出来なくなる。それどころか、僕が保つかも解らない。

 

「それでも!ここは絶対に死守して見せるッ!」

 

ここを通せばハルとマスターにまで危険が及ぶ。彼らの目標は、こんな所で終わって良い様な物では決してない。僕はもともとハルのその目標の障害を少しでも取り除くためにレギオンに加わったんだ。ハルから受けた借りを返す為に。

 

「始まったばかりで…… ようやく動き出したこんな所でッ!終わらせて堪るかッ!!」

 

何人かのアバターは赤の王の主砲によって既に倒されているが、数が多いだけに赤の王の爆撃の合間を縫うようにして接近してくる敵が複数存在した。一番先頭を切ってやってくるのは大きな右腕の先に三本爪を付けたアバター。僕と同じように、見ただけでその能力のポテンシャルがある程度読める。その腕部に注意さえすればそれほど脅威ではないだろう。

 

それ以外にも十名近く接近しつつあるが、最も注意しなければならないのは道着のような姿のアバターである。武装などの特性上、超近距離のアバターにはどうしても押し切られる事が多く、密着されれば勝機は無い、しかも今回はさらに何人もの相手をしなければならない。

 

「やるなら纏めて、か」

 

考えがまとまった所で僕は真直ぐ駆けてくる三本爪のアバターに走り寄りながら杭で狙い、そのまま射出した。相手もそれが解っていたのか大きく横に飛び去りるが、射出した状態で両手を添えて大きく振り切る。

僅かに鈍い音を立てて、飛んでいく三本爪、ほんの僅かしかゲージを削れ無かっただろうが、この現状で削り切るまで長い時間相手をしてられない。

 

「次ッ!」

 

次に狙いを定めるのは、躊躇なく巨大要塞と化した赤の王に接近するアバター。そこまで全力で駆けより、引きずり降ろしてまた遠くに投げ飛ばす。

 

同じ様な事を何度か繰り返し、僕は何時まで経っても遠距離爆撃が減らない事に気が付いた。赤の王が本気を出せば、同じ遠距離のアバターに勝ち目所か、数分の時間すら稼ぐ事も難しい。しかし、爆発つの音は未だ激しく鳴り響いていた。

 

「赤の王ッ!早く遠距離アバターをッ!僕一人じゃ長く持たないッ!!」

「解ってる!チッ……ジャミングで狙いが定まらねぇッ!」

「ジャミングっ!?」

 

相手に障害を与えるのは黄色系統のアバターに良く見られる特殊技、赤の王を狙うとあって最初から相性の良い相手を連れて来ていたと言う事か。

 

「解りました。僕がそいつをやります」

 

戦いながら外延部に居るアバター達を見渡す。大きなクレータを一定の間隔で包囲している中、一カ所だけ人口の密度が濃い場所を発見した。

 

「あれかッ!!」

 

赤の王の対策の為に連れてきた作戦の要。護衛に付ける人数は誰よりも多い筈だ。

 

「ハルッ!後は任せたよッ!!」

「まてよタク!まさか、あそこに突っ込む気か!?」

「話している時間は無いよ。でも大丈夫だよ、ハル。君たちはやらせない。まだ僕は君に借りを返せてないんだから」

 

何かを言いたそうにしているハルを尻目に、僕は全力で駆ける。重鈍な体ではそれほどのスピードは出ないし、追いすがってくる敵を振り払いながらではなかなか距離は詰められない。

それでも一歩、一歩、傷を増やしながら地道に迫る。

 

「行かせるかってのっ!!≪マグネトロン・ウェエエェェブ≫ッ!!」

 

すぐ背後から響く必殺技の発声。次いで感じるのは体が重く前に進まない感覚。足を前に出している姿勢のまま、顔だけを後ろに向けると、そこにいたのは長いU字の腕を持つアバターだった。

腕の形と必殺技のマグネトロンと言う響き、最も引かれる力が強いのが腕の杭の部分だった事から、それが磁力で敵を吸い上げる効果を持つ物だと言うのは直ぐに理解できた。

 

「邪魔を……するなぁぁ――――ッ!!」

 

引かれる磁力に抗う事をせず、杭をその敵に向けて技を発声する。

 

「≪ライトニング・シアン・スパイク≫ッ!!」

 

引っ張る力と合わさる事で、そのスピードはいつも以上の速度で進み、敵のU字の腕を貫き、真ん中からへし折れた。あのU 字の腕が磁石の役割を果たしているなら、これであの束縛能力は発動できない筈だ。

 

「これで……ッ!?」

「せりゃッ!」

 

敵の武装の破壊を確認し、前に視線を戻すと目の前に迫っていた拳。僅かな時間拘束されていたのが、ここまで戻る時間を与えてしまった。

重い一撃、それによって顔面のスリットが一部砕け、視点がぐるぐると回転する。

 

「へっへっ!いらっしゃいッ!」

「ぐあっ!?」

 

吹き飛ばされた先で姿勢を整えようとした所で、背中に熱い痛み。

 

「さっきはよくもやってくれたな?こいつは礼だッ!!」

「グフッ!?」

 

先程吹き飛ばした三本爪のアバターがその腕の爪を僕の背中に突き立てていた。持ち上げた状態から、僕の背中に蹴りを何度も浴びせ、その後偶然ではあるが、向かっていた方角に向かって投げられた。

だが、既に体は痛みによって動く事を拒否しているかのように重く、腕の杭も酷く傷付き、あと一回必殺技を発動すればそこで砕け散ってしまいかねない程だ。

もう、僕はいらないんじゃないのか。これだけ時間を稼げれば、名の知れた彼らならば、打開策を講じられるのでは、そんなふうに頭の中で諦める為の免罪符が流れていく。

 

だが――――

 

「テメェの後はあの鴉野郎をやんだから、余計な手間増やすんじゃねぇよ」

 

――――今、目の前の奴はなんと言った?

 

頭の中が沸騰していくのが解る。

 

――――ハルだけはヤラセナイ。

 

痛む体を気持ちで強引に抑え込み立ち上がる。

 

――――まだ、僕は返せていない!!

 

先程の言葉を言った敵が何かを言っているのが見えるが、今はその言葉すら聞こえない。

 

――――僕は彼に報いなければならないッ!!だからッ!!

 

「まだ終われないんだぁぁ――――っ!!【スパイラル・グラビティ・ドライバー】アァァァ――――ッ!!」

「なッ!?ちょ!?」

 

必殺技の発声と共に、杭の先は平らな棒状に変化し、巨大な壁の如く敵を押し流していく。その進行は敵を捕えたまま止まらず、速度を上げて尚進んで行く。

 

「もう、一人ッ!!」

 

引きちぎれそうな腕を強引に動かして、さらにもう一人の敵を狙う。狙うのは、超近接タイプの先程の柔道着姿のアバター、僕を吹き飛ばした後は、僕にも目もくれず、赤の王に張り付こうといた彼を巻き込む。

僕の方への警戒を解いていた彼は、その攻撃への対応が間に合わず、二人纏めて打ち上げる。

 

「グアッ!?赤の、王ッ!」

 

敵を打ち上げた僕の強化外装は、耐久地が限界を迎えたように砕け散り、それに付いて行くように片腕が捥げてしまった。

だが、僕は足を走るために止める事は無く、そのまま赤の王に声をかける。

 

「はっ!ナイスシュートだ、シアン・パイルッ!!零距離なら流石に外すさねぇ!!」

 

僕が空に打ち上げた敵は、赤の王の主砲の目の前に曝されていた。ジャミングに有っていても、当たるように投げたが、流石に主砲の目の前に投げ飛ばせるとは思っていなかった。

まったくの偶然だが、運は僕に味方しているように感じる。今なら、何をやっても成功させられる、そんなふうに思えるほどに。

 

走る。爆風に曝されても、残っていた片腕までもが吹き飛ばされようと、体が、足が残っている限り、敵を蹴散らすと言う強い意志を持ちながら前に進んで行く。

 

そして辿り着く、目的地であるジャミング能力者の目の前に。

 

「この死にぞこないがッ!!」

 

そう言って後ろから片足を切り飛ばされる。

だが、ここまでくれば、片足なんてくれてやる!そう言葉を口にしようとしても、もう、声が出てこない。

代わりに後ろに倒れないように、最後の力を振り絞り、前倒れになって崩れて行く。

 

「うお!?ど、退きやがれ木偶の坊!!」

 

まるでダルマの様になりながら、ターゲットであるアバターの上に圧し掛かる。

そして、これが本当に最後の力――――

 

「【スプラッシュ・スティンガー】……」

「なっ!?道ず――――」

 

背後に背負っていた機械が壊れた事を確認し、意識が途切れるその刹那、圧倒的な熱量が体を覆う。

 

「最高だったぜ、シアン・パイル。アンタは頭だけじゃねぇ、黒の王が抱える立派な戦力だ」

 

聞こえるはずの無い距離。だが届いたその言葉。

 

ハカセ何かと比喩されながら、どこか人を下に見ていた彼女からのその言葉に、何とはなく笑みが零れる。

 

(ハル……、後は君に任せるよ……。頑張れ、親友ッ!)

 

「タクゥゥ――――……ッ!!」

 

ハルの絶叫を最後に、今度こそ、本当に僕の意識は消えて行った……。




お疲れ様です。

パイルの技を至る所で使いました。違和感なく読んで頂けたのであれば嬉しいです。

それでは、良い御年を御過ごし下さい。

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