アクセル・ワールド~地平線を超えて   作:真ん丸太った骸骨男

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どうも真ん丸骸骨です。
二か月も放置してしまい申し訳ありません。恐らく今後もこのくらいの期間が空いてしまうでしょうがお許しください。




第十四話

タクムがその身を文字通りボロボロにしながら戦っている戦場とは別の所で、さらに激しい破壊痕を残しながら戦っている薄い青色と黄色の閃光があった。

たった二人ながら、それはさながら暴風の如く被害を広げていく。

 

「「ウオオォォォォ―――――ッ!!」」

 

冷静に見えながら、内に激情を抱えるソニックは良いだろうが、冷静沈着、策によって敵を討ち、搦め手で敵を苦しめる黄の王、イエローレディオまでもが、激しい雄叫びを上げながら攻撃を交えて行く。

 

「最初に出会った時から気に食わなかったのですよッ!馬鹿正直に正面から。華やかさの欠片もない!」

「対戦の華は、激しい打ち合いだ。アンタこそギャラリーの心を動かす戦い方には見えないなッ!」

 

攻撃の応酬、言葉の応酬。お互いそれに全力を注いで戦っていた。

その自分とは相反する戦い方は認められず、さながら子供の喧嘩の様に心の赴くまま戦場を拡大していく。

 

(皆は無事だろうか……?)

 

彼らを信じ、敵の最大戦力である黄の王を釘づけにしていたソニックだったが、いくら赤の王が居ようと多勢に無勢、焦燥感がソニックの心を苛んでいく。

 

「戦いの最中に余所見とは、甞められたものですねッ!」

「しまっ!?」

 

ここに来て僅かな隙を見せてしまったソニックに、黄の王は容赦なく自身の技を発動する。ソニックの視界は陽気な音楽と共にぐるぐると廻り始め、彼から平衡感覚を奪う。

スピードを信条とする彼にとって、平衡感覚を奪われる事は最大の戦闘手段を奪われたに等しい。真直ぐに走れず、敵を捕えられない彼にはその場で攻撃に備える事しか出来なかった。

 

「ぐっ!?」

 

だが、防御能力が低い彼にとって、その備えもそれほど役に立つ筈が無く、体の彼方此方を滅多打ちにされていく。

 

「くくくっ、良い様ですね、ソニック。貴方はそうやって這いつくばっているのがお似合いですよ」

「言いたい放題ッ!……来いっ!強化外装ッ!!」

「いまさら何をやった所でッ!!」

 

攻撃手段を封じられたソニックが、新たに何か行動を起こそうとしたのを見たレディオはそれをさせまいと再度接近しそのバトンを振るう。

 

「あんたの場所が解らなくても、攻撃する瞬間位ッ。弾けろッ!!」

「なっ!?」

 

レディオの攻撃が当たる数瞬前に、ソニックは呼び出した巨大な腕部武装の必殺技を発動する。それは彼の親友だった者から譲り受けた品。逃げるしか無かった戦いでは使わなかった物であり、彼にとっての切り札。

この武装の情報を持っているのは今現在誰も居ない。

故に、レディオの反応を遅れ、その膨大な爆発の前に体を晒した。

 

大きな土煙を上げその場周辺を焦土と化した爆発の中から、二つの影が姿を現す。

 

「……クッ、やはり……貴方は美しくありませんね。まさか自爆するとは……」

「一方的に攻撃するのは好きだけど、されるのは嫌いなんだ……」

「しかし、その代償は高くついたようですね。……半身が消し炭じゃないですか、よくライフが削り切らない物です」

 

出てきた影は、どちらも元々あったシルエットを保っていなかった。

レディオは片腕が吹き飛び、頭の巻角状の飾りの片方が折れていた。だが、最も大きな被害を被ったのは爆心地の中心にいたソニックだ。

片腕どころか両腕が無くなり、顔も半分が吹き飛んでいた。辛うじて自身の自慢の両足が残っていたが、誰が見ても戦える状態では無かった。

 

「持ち主だしね、幾らか被害を抑えるように調整したよ」

 

ソニックは爆発の瞬間、体をうつ伏せにし、顔を腕から出来るだけ遠ざける事で被害を抑えた。彼にとって、それは一種の賭けだったが、ライフが残ったので、彼は賭けに勝ったことになる。

 

「そんな体でまだやりますか?痛みで気が狂いそうなんじゃありませんか?」

「当然。向こうの片が付くまで、あんたには最後まで僕と戦って貰うよ」

 

決着は近いとお互いに確信している。

それはこの場の決着では無く、今回の戦端全ての決着と言う意味でだ。

少し離れた戦場では火柱が上がり、赤の王が猛威を振るっているのを二人は見ている。レディオは自分の配下が消えていくのを頭の片隅で認識しながら舌打ちを漏らす。

 

(不味いですね。技の効力が切れた今、このまま戦い続ければ、確実に赤の王が……)

 

赤の王も衰弱しているだろうが、レディオと彼女の射程に違いがあり過ぎ、このまま赤の王が向こうを殲滅を終えれば、敗退するのは黄の王だ。それが解ってしまうだけに、この場での戦闘をどうにか切る抜ける為に頭を回転させ始める。

これは既に、赤の王討伐では無く、逃亡戦へと切り替わっているのだ。

 

「仕方がありません。ここは――――」

『GAAAAAAA――――――……ッ!!』

「「この声はッ!?」」

 

二人は同時に驚愕に声を上げる。

遠くからでも感じ取れるドス黒い咆哮。それは紛れもなく、今回の事件の引き金となったアバターだった。

 

「チっ!ソニック、この戦いは預けます!」

「レディオ、君はあそこに向かうのか?」

「当たり前です。私は黄の王イエローレディオ、これでも王を名乗っているのです。自分が連れてきた配下は逃がします」

 

普段は何事にも本心を現さない彼だが、それでも組織の上に立つ人物。策を練り、被害があっても作戦の為に被害を厭わない姿勢だが、策の外側の被害に関しては下の人間を守ろうとする。

だからこそ、衝突する事があっても、ソニックは彼を本格的に嫌う事が出来ないでいた。

もっとも、災禍の鎧を再度この世に出現させた大元と言う事はすでに周知であるため、結局のところ、嫌いである事は変わりは無いのだが。

 

「僕も行くから掴まれ。こんな姿でも、まだあんたよりは速い」

「……良いでしょう、利害は一致しています。一先ず休戦といきましょうか」

 

背中にレディオが乗るのを確認すると、ソニックは全力で走り始める。

全速のソニックの背で、レディオは残っていた片腕で懸命にしがみ付いていた。

 

「人を乗せると言うのに、乗り心地の悪いタクシーですね」

「両腕が無いんだ、バランスなんて取れないよっ!」

 

そんな軽口を叩きあいながら、離れていた距離は一瞬で縮まる。レディオはその速度に、忌々し気に鼻を鳴らしながら、どこかその部分だけは認めている風だった。

 

「レディオ、クロム・ディザスターに掴まってる奴は任せるぞ」

「言われるまでもありませんね。あなたの方こそ、少しくらい粘ってくださいよ?」

 

目の前には災禍の鎧によって変貌したアバターが、レディオが連れてきた一人のアバターを喰らおうとしていた。二人はこの速度なら間に合うと確信すると、短い言葉だけを交わし、戦闘へと意識を切り替える。

ソニックの肩に両足を乗せたレディオは、そのまま肩を射出台に見立てて飛び出した。

 

「GAっ!?」

 

捕まっていたアバターがその牙に貫かれる一瞬、レディオはバトンでその腕を下から掬い上げる様に渾身の一撃を見舞った。突然の事に反応しきれなかった災禍の鎧はその腕のアバターを取りこぼし、その僅かに生じた隙目掛けてソニックも飛び蹴りを放つ。

十分に加速を付けられた飛び蹴りは、災禍の鎧を大きく吹き飛ばし、近くの岩に叩き付けた。

 

「ソニックさんっ!!」

「やぁ、お互い無事だったようだね」

「無事には見えませんけど。それにタクは……」

 

さっと辺りを見回したソニックは、パイルが居ない事を確認し、赤の王が付けた物ではない激しい破壊痕を見て小さくうなづいた。

赤の王は負傷しているが致命的ではない、黒の王も≪ゼロフィル≫から復帰し健在、クロウも大きな損害を受けているようには見られない。これだけの情報があれば、パイルがどんな戦いを繰り広げたのか、自ずと導けた。

 

「彼は、格好良かったかい?」

「っ!?はい……、アイツは僕の親友ですから」

 

それにどんな思いが込められているのか。

友の為に、どんな痛みにも耐え、戦い抜いたその姿に自分を重ねているのかもしれない。ただ一つ違いがあるとすれば、彼が見事守り切り、ソニックが成し遂げられなかった事を成したと言う事だ。

 

「おやおや、ロータス。どうやらお目覚めになられたようですね?こんな短期間で目が覚めるとは、やはり貴女にとってあの事件はそれほどでしかなかったと言う事ですか?その血塗られた手で、私も彼同様此処で切ってみますか?」

「私が立ち直れたのは得難い大切な『子』がいる、ただそれだけさ。それにな、レディオ。私にとってお前とライダーの命では同じじゃないんだよ、私はお前が嫌いだからな」

 

短い舌戦。それ以降、二人はただ視線を交えるのみ。

 

「レディオ、時間が無い、アイツが立ち上がった」

「解っています。みなさんッ!撤退です!起き上がれない者は立てる者がフォローに回りなさいッ!!」

 

レディオの号令で、迅速に動き出す十名ほどにまで減った配下達。

 

「さてと、僕は時間を稼ぐかな」

「あなたの搾りかすの様なライフならドレインもそれほど脅威じゃありませんからね。精々死なない様に立ちまわりなさい」

「まったく、こんな時くらいもっとマシな言い回しは出来ないの?」

「……礼は言いませんよ」

「早く行きなよ……」

 

配下全てが去ったのを確認すると、レディオは技を発動させたのか、その姿をくらませた。

ソニックは軽い屈伸を行って、また前傾姿勢を取った。両腕が無いが、それはクラッチングスタートであり、彼の戦闘態勢。だが、その息は荒く、体も疲労の為か僅かに震えている。

 

「ま、待ってくださいっ!?そんなボロボロの状態でまだ戦うんですか!?」

「ロータスだけじゃ流石に厳しいだろうし、君とレインは彼を止める重要な役目がある。無理でもやるしかないんだ」

「そう言う事だ、クロウ。なに、その男は逃げ足だけなら加速世界一だ、簡単にやられたりしないさ」

「王って名の付く人たちはどこか棘がある言い方が好きだなぁ。まぁ、彼女が言ったとおり僕を捉えられる人間はそういない。信じてよ」

「でもっ!?」

 

クロウは隣に聳える赤い要塞を見上げる。レインは動かない。今の今まで言葉も発しない所を見ると、災禍の鎧の事でなにかしらショックを受けているのかもしれない。

 

「大丈夫だよ。仲間なんだろ?信じなきゃ、僕の事も、彼女の事も……」

「来るぞ、ソニックっ!構えろ」

 

ソニックとロータスは、雄叫びを上げて向ってくる災禍の鎧を迎え撃つ。

王たちが纏まりようやく討ち取ったと言うだけあり、傷の深いソニックでは荷が重い。ロータスが庇うように前面に出ていなければ既にソニックは倒れているだろう。

 

ソニックはその中でも自分のできる事を全うする。決してロータスだけに集中させないように攪乱をし、敵の動きを少しでも阻害しようとする。

だが、そこで思わぬ妨害が飛んできた。

 

「ッ!ロータスッ!!」

 

赤い閃光。それはロータスと、災禍の鎧を狙った一撃だった。

撃った方向を見れば、今まで行動を起こさずにいた、赤い要塞の砲身から熱が放たれていた。間違いなく、赤の王の主砲による攻撃だった。

 

「レイン、君は――――ッ!?」

 

抗議の言葉を放とうとしたソニックだが、体は自然と沈んでいく。当然だ、今まで動けていた方が可笑しいほど、彼は心身ともにボロボロなのだから。

 

ソニックのぼやける視界の奥では、災禍の鎧は逃げ出し、クロウとレインが口論している姿が映っていた。ここで気を緩めればそのまま意識が落ちていきそうなのを気合で踏みとどまるソニックをよそに、レインはその巨体を動かし始め、災禍の鎧の追走を始めた。

 

クロウは直ぐにロータスに駆け寄り、何かしら言葉を交わしていたようだが、それも直ぐに終え、彼もまた銀翼を広げ二人を追いかけ始めた。

 

「ロータス、クロウは?」

「手間のかかる子供をあやしに行ったさ。ところでソニック、君はまだ走れるのか?」

 

覚束無い足取りだが、ソニックはしっかりと両の足で立ち上がり、横たわるロータスに話しかけていた。

 

「走る事だけが、僕の存在理由だからね」

「とんだ化け物だな、君は。大したタフさだ。……どうやら私は動けそうにない、だから私の代わりにクロウを。ハルユキ君を助けてやってくれ。……頼む」

「勿論。僕は守るよ、今度こそ、仲間を」

「そうか……」

 

ソニックの言葉回しにロータスは疑問を抱かない。

彼、ソニックがEKなどを狩るようになった頃と、何時も共にいたアバターの姿が消えた頃と一致する故に、ロータスはその中に強い思いを感じ取っていた。

 

「行ってくるよ」

「ああ、頼んだ。私たちの仲間を救ってやってくれ」

 

ソニックは走りだす。その足に僅かに輝く心意の色を帯びながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あと、あと少しなのにッ!!」

 

クロウは銀色の翼を懸命に動かしながら、黒い影を追っていた。

だが、ビル群を活用し、小刻みに揺れ動く敵になかなか距離が詰められずに、焦りのみがその胸中に積もっていく。

 

(皆の気持ちを無駄にする訳には行かないのにっ!!)

 

パイルの決死の特攻、レインの洩らした弱音、ロータスが沈んだ昔の記憶。今日の戦いは多くの思いが入り混じる忘れる事が出来ないモノになるだろう。だからこそ、クロウは失敗と言う暗い二文字を与える訳には行かなかった。

 

「クロウッ!!」

「っ!?ソニックさん!」

「僕の肩に掴まれ!絶対に捉えて見せるッ!」

 

クロウのすぐ下には、力尽きた筈のソニックが追いつき、今にも崩れ落ちてしまいそうなほどボロボロな姿で、尚諦めずに走り抜けていた。

 

 

「でもッ」

「うるさいッ!救うんだろう!僕を信じろッ!」

「っ、解りました、お願いしますッ!」

 

一気に降下し、ソニックの肩に捕まったクロウは、傷だらけのソニックの体を見下ろした。

近くで見るとその傷の深さを実感する。体の半分は消し炭になり、負担が大きかったのか、その自慢の足も所々欠けてとても弱弱しく映った。

 

(こんなになってもまだ走り続けるだなんて。いったいこの人は……)

 

「行くよ、加速するッ。振り落とされないでよっ!?」

「まっ!?」

 

(足が光ってる?必殺技?いや、これはそれとは少し違うような……。いや、今はそれよりも)

 

距離が縮まる。

障害物が多い地上は、空を飛ぶ以上に距離が離されてもおかしくないのに、それでも距離が僅かづつ縮まっていく。

 

「もっと速くッ!」

 

さらに加速する。

 

「もっとッ!」

 

クロウは実感する。これが最速のアバターの世界だと。

 

「「もっと速くッ!!」」

 

だから願った。

 

(僕もこの人と同じ速さをッ!)

 

互いの距離は既に目と鼻の先、ここで二人は言葉を交わす事無く、次の行動を起こした。

クロウはその肩から手を離し、僅かにソニックの前に出て、ソニックはその場で跳び上がり、自らの蹴り足をクロウの足に向かって放った。

 

「行って来いッ!」

「はいっ!」

 

二人の速度が合わさり、銀色の残光を残してクロウは飛んだ。

距離が一からゼロへ。それは本当に一瞬で縮まった。

 

「終わった……」

 

緊張の糸が途切れたソニックは、最後に大きな何かに衝突する音を最後に、その意識を眠りの世界へと落として行った。




お疲れ様です。

今回の話で一応災禍の鎧編は終了です。
色々と書き足りない部分があるかもしれませんが、お許しください。

次は合間に一話から二話ほど書いてから三巻四巻の話なのですが、違う学校なので恐らく飛ばし、ヘルメスコードに移るかと思います。
そして主人公の今後は、ネガ・ネビュラスに加入させようかとも考えてます。
批判が出て来るかと思いますが、変更は無しで行くのでよろしくお願いします。

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