アクセル・ワールド~地平線を超えて   作:真ん丸太った骸骨男

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どうも、真ん丸骸骨です。
少しだけ早く書き上がったので投稿します。



第十六話

「僕に心意システムを教えてください」

 

タクム君と連絡を取って事情を聞こうとした所、その台詞が一番最初に出てきた。

 

「……相手は心意の使い手なのかい?」

「はい。……僕はアイツだけは許せない」

 

そこから彼らの身に何が起こったのかを聞いた。一つ下の後輩が実はリンカーであり、卑怯な手でハル君とチユリちゃんを脅した事。ハル君のアビリティが奪われた事。

それに気が付いたタクム君が戦い、そして心意によって惨敗した事。

 

「ハルから聞きました。心意は心意でしか防げないと。だからお願いです!僕に心意を!」

「残念だけど、僕には君に教える事は出来ない」

「どうして!?」

「真意は機密性が高い事案だ。本当はこう言う通信でも控えたい。それに、気密性が高い故に、直結して指導するのが普通だ」

 

僕が彼に教えられないのは、偏に直接会わなければならないと言う問題があるからだ。

 

「……僕は、いや、僕達はまだ、貴方に信用されていないんですね」

「それは違うよ。僕は君たちを信用してるし、信頼もしてる。君たちが会おうと言えば、今なら僕は君たちにリアルを晒す事も気にしない」

 

自分でも驚く心境の変化だ。ブレイン・バーストを知る人間に会っても良いと思えると言うのは、今まで存在しなかった。

 

「だったらお願いです!僕に――――」

「だからこそ、僕は君たち以上に、その敵に対して警戒している」

 

何の躊躇いも無く、卑怯な手を使う相手がいる中で、僕は彼らに会う事が出来ない。万が一にも、その相手に知られた場合、僕は確実に無事では済まない。

その人物ではないにしても、そこから僕のリアルが割れた場合、PKを営むプレイヤーは僕を狩りに来る。

 

「僕は敵を作り過ぎた。だから君に教える事は出来ない」

「そんな!?それじゃ、アイツを、能美を……」

「そんなに悲観する事は無いよ。いるじゃないか、僕じゃなくても、指導者として適任が」

「え?」

「赤の王だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は今、闇色のアバターと対峙していた。少し離れた場所には、かなり純度の高い緑系統のアバターがいる。『ダスク・テイカー』『ライム・ベル』と表記されている名前を見て、二対一と言う変則マッチがちゃんと機能しているのを確認した。

 

二対一の変則マッチはよほど腕に自身のある者でなければ手を出さない特別ルールだ。

戦いを挑む事が出来るのは一人側のみで、合計レベルが自分と同等か、それ以上の相手にしか対戦を仕掛けられない仕様となっている。

さらに仕掛けた側は、ステータスが一段階以上低下すると言うバッドステータスが付き、その対戦に勝てても、得られるポイントはスズメの涙程度、しかもこちらが負ければ失うポイントはそれぞれのアバター毎に計算される所為で、まったく釣り合いが取れていない。

その為か、縛りプレイや、マゾプレイなどと呼ばれ、このシステムを使う者は今の加速世界にはいない。

それも当たり前だ。勝てても僅かなポイントを、負ければ幾つも下のレベルの相手に負けた為に、多大なポイントを失うのだ。

 

(あれがチユリちゃんか……)

 

魔女の様な姿の彼女はただ黙っている。普段の彼女を知る人間からしてみれば、その沈黙が、ひどく寂しさを与える。それと同時に、その沈黙を与えた人物に対して言いようのない怒りを抱かせた。

 

「はははっ!高レベルの奴が釣れちゃったよ!少し派手にやり過ぎたかな?」

 

ダスク・テイカーが笑いながらそう口にする。自分よりも高レベルのリンカーを相手に全く気負った様子が見られない所を見ると、今の戦い方はどれだけのレベルアドバンテージが有ろうと覆せると信じているんだろう。

実際彼らの戦い方は理に適っている。

火炎放射器の様な遠距離火力を持つダスク・テイカーは、飛行アビリティを使い飛翔した所から何も考えずに撃ちつづければ良い。相手に遠距離で攻撃されても、チユリちゃんが覚醒した、希少技能である回復アビリティで即座に回復、ごり押しで危なげなく勝っている。

 

それだけならば、僕も対戦を仕掛けたりはしなかっただろう。タクム君たちからも止められていたから。

 

レインを指導者に押した後、僕からそれ以外の事ならば手を貸す旨をタクム君に言った時、彼とハル君に断られた。

 

『この件は僕たちの問題です。図々しいお願いをした後でこんな事を言うのも変ですが、僕たち自身で解決して見せます』

 

力を付ける為の助力ならば良いが、事件を解決する手助けは借りたくない。それは彼らの意地なのだろう。

ロータスが学校の行事で離れている期間に起きた事を、自分たちで解決できなければ、これから先の戦いには着いて行けない。

つまりはそう言う事だろう。

 

その約束を交わした僕だったが、今こうして戦いを挑んでいる。

初めは単なる好奇心だった。観戦予約を入れ、チユリちゃんの回復アビリティ、ダスク・テイカーの戦い、それを直接見て見たかったのだ。

だが、蓋を開けてみれば僕にとって許せない行動をダスク・テイカーは取り続けた。

 

それは味方であるチユリちゃんの意思を無視して、彼女を盾に、または囮として使った事だ。

チームプレイを長年続けていた僕には、その行為が許せなかった。痛みに声を上げるチユリちゃんの声が耐えられなかった。

 

「感覚的には二段階落ちか。空中ジャンプに、強化外装使用不可。まぁ、それほど大きな問題じゃないか」

 

何時もの癖で爪先で地面を叩く。

そしてゆっくりと姿勢を低くし、慣れ親しんだ戦闘態勢へと移行する。

 

「空を飛んでみろ。それまで待ってあげるよ」

「……気に入りませんね、その余裕。見た所ただの近接バカ。地を這いずる貴方が、空を飛ぶ僕を倒せると?」

「御託は良いよ。空を飛ぶ前に倒して言い訳されたくないからさ」

 

あからさまな挑発。だが、それでもダスク・テイカーは乗ってくる。

自分の優位性に絶対の自信があるからだ。

 

「良いでしょう!あの惨めな方から頂いた、この素晴らしい力を堪能させてあげますよっ!!」

 

あぁ、ダメだ。

 

 

――――――――手加減できそうにない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かッはッ!?」

 

全身をボロボロにしながら、ダスク・テイカーはうつ伏せに倒れる。

僕は腕を組み、その顎を爪先で持ち上げ、体を宙に浮かせた。

 

「……借り物の力じゃ、こんなものかい?」

 

ダメージソースである火炎放射器は蹴り砕き、肩翼を踏み千切った。残された片腕にある触手状の強化外装も、何本も残されていない状態である今、彼には僕を攻撃する術は無い。

 

「ほら、回復するまで待ってやるよ」

 

そう言って、彼を吊るしていた足を勢いよく振り、距離を開ける。

少し経つと、緑色の光に包まれ、彼の強化外装共々、体の破損は完治した。観戦していた時も思ったが、この緑色の光はなんと暖かなんだろう。その光を浴びるべきは、彼らの筈だと思うと、どうしようもない虚しさが湧きあがる。

 

「貴様……!貴様!貴様ッ!!」

 

元通りに戻ったダスク・テイカーは、忌々し気に声を上げ、僕を鋭く睨んでいる。

 

「何なら僕のアビリティも盗んでみるかい?今の僕は君よりも少しステータスが高いだけの凡庸なアバターだけどね」

 

奪われて困るようなアビリティは、今の僕にはない。彼を圧倒して見せた戦いで、僕がやった事なんて通常の攻撃、ただそれだけだ。

 

「化け物めッ!僕は力を手に入れたんだ。こんな事で、奪われて堪るか!奪わせるものか!!」

 

この一方的な状況が、彼のトラウマを刺激したのか、彼は怒りを顕わにして声を張り上げる。

火炎放射器を元の腕に戻し、両腕を胸の前で重ねるようにすると、彼は何かをブツブツと唱え始めた。

すると、徐々に、黒い腕を覆うように、さらに黒い輝きが集まりだす。それは心意の輝きだった。その輝きが、指向性を持って彼の両腕を包み、巨大な腕の形状を取る。

 

「それが君の心意か。暗いな、負の心が詰まってる」

 

心意を習得している者の多くは、彼と同じように暗く鈍い輝きを見せる。トラウマを元にするこのゲームの本質から考えれば、当たり前の事かもしれないが、皆暗い怒りと言った負の感情で力を付けて行く。

 

「だけど僕は、このゲームが、ただトラウマを刺激するだけの悲しい物だとは信じたくないんだ」

「うるさいんだよっ!!この羽虫がッ!!」

 

目の前に迫る黒く大きな腕。僕はそれを見つめながら、小さく息を吐くと両足に力と思いを込める。

 

「僕は、自分の体がどれだけ脆いのかを知っている」

 

装甲強度拡張は僕には使えない。たった一瞬で、自分と言うモノが壊れる事を知ってしまったから。

 

「だけど、僕は何があっても走る事を諦めなかった!【アクセル・ギア】ッ!!」

「なッ!?消え――――」

「そして、僕の足は、人一人を救うだけの力を秘めているッ!!」

 

トラウマと向き合い、それでも諦めず、新しい脚|(車椅子)でも走り続けた僕の信念、人を救う事で得た自信。

それが僕の心意の根幹をなす。

 

「【ソニック・エッジ】!」

 

高速で振るう僕の足は、全てを切断する刃と変わる。

それは圧倒的速度から繰り出されるカマイタチを纏う一撃。容易く彼の心意の腕を斬り飛ばし、風切音が心地よく響く。

 

「僕の心意がッ!?貴様も心意を使えるのか!?」

「当たり前だよ。レベルが上がる毎に、リンカーはさらに高次元の戦いを望むようになる。そして、心意のシステムはその意思をくみ取り、事象を上書きする。レベルが五を超えれば、自力で到達できるものは珍しくない」

 

自分の力を高めようと、力を注げば注ぐだけ、その強い思いが心意への扉を開く。

心意を習得した者と、していない者とでは実力差が同レベルであっても桁そのものが違ってくる。それ故に、各レギオンの心意拾得者は、対戦を監視し、発現の兆候を見せた者に説明と勧誘、応じない場合は脅しをかけ、自衛手段として使う意外に認めていない。

 

「君に心意を教えた人物は、本当に使い方以外教えなかったようだけどね」

 

今まで使う素振りを見せなかった所を見ると、使用を控えるように言われていたのだろうが、それでも使う際に躊躇いの一つも見せなかった。

 

「さぁ、続きだよ。大丈夫、回復手段を断ったりはしないから、気の済むまで足掻くと良い」

「貴、様あああぁぁぁぁ――――ッ!!」

 

対戦と呼ぶのも烏滸がましい程の一方的な展開が再開される。

今度は心意を用いた事により、さらに激しく、より無残に。ギャラリーの観戦は最初から切って有る為、遠慮と言うモノは一切ない。

 

 

 

 

しばらく続いたその展開は、ダスク・テイカーが自ら回復を拒み、苦悶の声を上げて消えていった。

達成感など一切ない。これはただの八つ当たり、心に響く事など何一つ無いのだから。

ただ一言、彼女に伝えられればそれでいい。

 

静かに、彼女の前に降り立つ。僕が目の前にまで迫ると、先程の戦いを思い出したのか、彼女は体を硬くさせ、逃げるように一歩後ずさる。

その行動に、僕は心の中で苦笑いを浮かべる。怖がらせてしまった。僕が誰なのか解らないのだから仕方がないとは思いつつも、慕ってくれていた人から避けられるのは堪えるモノだ。

 

「よく我慢したね。猫さん?」

「え……?」

 

それは僕と彼女のみが解る言葉。

 

「ウサさん?」

「うん、そうだよ。色々言いたい事があるだろうけど、時間が無いから少しだけね」

 

既に対戦時間は終わりを迎えようとしている。

だから僕は、彼女を応援する様に言葉を選ぶ。

 

「君が何を考えているのか、僕は少しだけわかったよ。君は、回復技能者じゃないんだね?」

「……たぶん」

 

先程の戦いで少しだけわかった。彼女の技が、ただの回復ではないと言う事が。

 

「君のトラウマを知っているからこそだけど、君の力が如何言う物なのか、何となく解ったよ。時間の巻き戻しによる疑似回復能力。それが君の能力の正体なんだね」

 

ダスク・テイカーに技を発動させたとき、ライフだけでなく、必殺技のゲージまで増減していた。

さらに、壊したはずの強化外装まで元に戻ると言う異常現象。通常、強化外装が破壊されれば、その対戦では二度と使う事が出来ない。

それは、他の回復能力の検証結果を人伝に聞いて知っていた。だからこそ違和感を覚えたし、正体に辿り着く事が出来た。

 

「大丈夫、君の考えはおそらく正しい」

「え?あの……」

 

その能力を知って、彼女が何をしようとするのか。それもある程度予想できる。

時間逆行能力ならば、クロウの翼が奪われる前の状態に戻せるかもしれないのだ。

 

「だから、心に強く思い続けて。助けたいんだと。それが、君の力になるから」

 

だが、いくら規格外の能力と言えども、一度対戦が終わった後の事、必ず戻ると言う保証はない。だから、足りない分は、心意のシステムに委ねるしかないだろう。

強い思いは、その能力の限界地を引き上げる。

 

「ッと、もう終わりだね。良い知らせを待ってるよ。君たち三人が一緒なら、出来ない事はきっと無い。だから信じて、自分と、あの二人を」

「うん……ッ!」

 

先程までの暗い瞳ではない。これならば、もう大丈夫だろう。

一緒に行動するダスク・テイカーに知られる恐れが有るからか、彼女は二人にもこの事実を隠しているのだろう。一人で抱え込むには重いが、誰かが知っていると言うだけで心は幾分か軽くなる。

彼女の心を僅かでも助けられたのならば、この対戦にも、私怨以外の価値があった。

 

 

 

 

 

当事者が強い意志を持って事に当たるのを見届けた僕は、この事件からすっぱりと手を引いた。

僕は僕で、自分の問題を解決しなければならない。

だが、これには非常に手を焼いている。数か月前から徐々に始まった僕に対してのアクション。

 

「今解るだけで三人か……」

 

同じ時間、同じ場所、同じ人物から対戦を申し込まれている。対戦をしても仕掛けてくる様子は無く、ただ時間ばかり過ごしているかと思っていた。

だが、違った。

彼らは、日に日に、僕との戦闘開始距離を縮めていたのだ。

そこから導き出される答えは。

 

「……僕のリアルを、割りに来てるのか……」

 

知らず、僕の額から冷や汗が流れる……

 




お疲れ様です。

今回の独自設定、二対一と言う変則マッチルールです。サドンデスルールまであるのだからこれくらいあるだろうと勝手に作りました。かなり極端だったかもですが、ダスク・テイカーの心意の話とチユリちゃんを一緒に登場させたかったので、三人だけになる空間を作ろうとやってしまいました。

最近は文章が雑になった気がします。疲れだろうか、今書いている以上の物を書ける気がしません。それではダメだと思いながら、読み返して誤字などは無いように頑張ります

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