アクセル・ワールド~地平線を超えて   作:真ん丸太った骸骨男

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どうも、真ん丸骸骨です。
少し早めに書けたので投稿です。
前から書いていたと思いますが、今回でボッチ卒業します。賛否別れると思いますが、加入時期はずっと決めてたのでご容赦を。


第十七話

「……そろそろ限界か」

 

対戦を終えた僕は、誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。

限界、言葉の通り、具体的な解決策を講じなければならない状況に追い詰められていた。リアルを割ろうとしている者は把握しているだけで四名。

彼らを調べた結果、一つのレギオンネームが浮上した。

『スーパーノヴァ・レムナント』PKを主に活動する悪質なチームである。彼らが行おうとしたPKを何度か止めた記憶がある。

その報復か、邪魔な僕を排除しようとしているのだろう

 

彼らのリアルを割る手法は二通り。一つは、彼らの親、または子から派生した人脈を調べ上げる事で、リアルを割る方法。もう一つは今現在、僕が曝されている方法である。

複数人で同じ人物に対戦を仕掛け、対戦が始まった最初のカーソルの向きを記録しておく。バラバラに散って対戦を仕掛け、徐々にその範囲を狭めながら、その人物を特定していくのだ。

この方法は、確実性が無いように思われがちだが、年齢層が学生で固定であるブレイン・バーストの特徴故に、毎回同じ時間帯、学校の登下校時に仕掛ける事で、成功率は跳ね上がる。

 

この方法はポイントの消費が多く、複数人で行わなければならないが、高レベルのリンカーに絞れば、採算はプラスになる。

 

「一人じゃもう、どうしようもない……」

 

僕のリアル割もそろそろ佳境に差し掛かっている。対戦開始地点から、敵の姿が視認できる所まで来ていたのだ。対戦で敵を撃破しても、僕の方がレベルが高く、敵から奪えるポイントは少ない。人数もおり、このまま対戦してポイントを枯渇させるよりも早く、僕のリアルが割られる方が先だろう。もう、一刻の猶予も無いだろう。

 

現実空間に戻った僕は、下校の途中の道で、ある人物に通話をする。

 

『久しぶりだな、ソニック。君から連絡があるのは初めてだな』

「あぁ、久しぶりだね。今日はちょっと君に。いや、君のレギオンにお願いしたい事があってね」

『ほう、君からの依頼と言うのは珍しいな。しかもレギオンまで持ち出すとは。相当不味い事情があるのか?』

 

聞こえて来る声は、黒の王、ブラック・ロータス。僕が頼れるのは彼女らだけだ。

共に戦い、教え、大事な思いを思い出させてくれた。彼ら以上に信頼できるものは、加速世界では存在しない。

 

「そうだよ。交渉と言い換えても良い。……話を聞いてくれないか?」

『そう畏まらないでくれ。君には借りがある。出来る事ならば協力させてもらうさ。だが、事がレギオンにまで及ぶと、私だけでは決めかねる』

「解ってるよ。だからこの話は、レギオンのメンバー全員に聞いてもらいたい。……リアルで話そう」

『――――ッ!直ぐに準備をしよう。不都合な日はあるか?』

「いや、とにかく早い方が良いかな」

『解った。決まったらまた連絡する』

 

僕がリアルでの対話を求めたのが意外だったのだろう。一瞬言葉を詰まらせたが、直ぐに平静を取り戻し、日程を決める為に連絡を切った。

彼女の驚きも尤もだ。僕自身、リアルで誰かと会おうとは思わなかったのだから仕方がない。だが、今回は事情が事情だ。

それに、これも良い機会なのかもしれない。ゲームとして楽しむために、僕は彼らと一緒にいたい。強く、本当に強く思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ……緊張してきた」

 

あれから数日、彼女らとの会談の場が設けられた。

場所はハル君の家。何時も彼らが拠点としている場所だ。僕はそのマンションの前で、強く鳴る心臓を抑えながら膝の上に置いてあるお菓子が入った紙袋を握りしめる。

 

「何度も話してるとは言っても、リアルで会うのは初めてだし、所謂オフ会と言う奴だよなぁ」

 

会う目的である話が楽しい物ではないが、少なからず期待感が胸にある。

つい最近、レギオンに復帰したレイカーさんも来るとの事なので、彼女とリアルで会えると言うのも楽しみだ。

 

「よしッ!それじゃ早速――――」

「あの……人違いだったらごめんなさい。駆君、ですか?」

 

勢い込んでマンションのロビーに入ろうとした所で背後から声がかかる。

 

「あ、貴女は……楓子、さん?」

「やっぱり!久しぶりですね」

 

そこにいたのは、白いワンピースに鍔広の帽子を被った美しい女性がいた。色々と成長していて最初は誰か解らなかったが、直ぐに昔の面影からその人物の名前を口にした。

僕が自分の知る人物とわかると、その戸惑いを含んでいた顔が花開く様に笑みに変わる。

懐かしい声、そして人を安心させるような柔らかな笑みはそのままであるが、僕が知る彼女とは幾分大人びて綺麗になっており、僕は思わず見惚れてしまった。

 

「えぇ、本当に久しぶりです。買い物か何かですか?」

「いいえ、今日はこれからお友達と会う約束があるの。駆君こそ今日はどうして?」

 

この近くには、最近出来たばかりのショッピングモールがある。そこに買い物に来たのかと思ったがどうやら違うようだ。

彼女の家は此処から大分遠い筈だが、高校生にもなると、行動範囲が広がるのだろう。友達がいても可笑しくは無い。

ふと、その相手が男か女なのかと、頭に過ったが、頭を振ってその考えを消し、僕がここに来た目的を差し障りの無いように答える。

 

「そうなんですか。実は僕もこれから友達と大切な話があるんです」

「あら、そうなの。因みにそれは女の子ですか?」

 

ギクリ、と一瞬身が固くなる。

 

「は、はい、女の子も、います」

「そうなんだ。友達グループなのね」

 

何だろうか、この居心地の悪さは。悪い事をしている訳でもないのに、彼女の言葉一つ一つに大きな反応を出してしまう。楓子さんは特に変わっている所は無いのだから、ただ単に僕の交友関係を冗談めかしく聞いているだけだ。それにこれほど大きな挙動を見せるなんて、これではまるで思春期の少年のようではないか。

いや、年齢的には真っ只中ではあるのだが、そのような経験が全くなかったので、自分でも大きく戸惑っている。

 

「駆君もこのマンションですよね?私もですから、途中まで送ってあげますね」

「いいですよ、そんな」

「気にしないでください。久しぶりに会って、押してあげたくなっちゃいましたから」

 

そう言うと、彼女は僕の背後に回り、車椅子を押し始めた。

彼女は楽しそうに、僕は戸惑いながらも、やはりどこか嬉しい気持ちで心が満たされる。マンションの中で別れる短い間だが、僕はそれでも十分なほど、幸せな時間だ。

 

エレベーターに乗ると、楓子さんは自分の目指す階のボタンを押し、僕を見下ろしながら僕の目指す階を聞いてきた。

 

「駆君は何階ですか?」

「あ、僕も同じ階みたいです」

 

楓子さんと同じ階だと分かると、もう少しだけ一緒にいられる時間が増えた事に心の中でガッツポーズを取る。それと同時に、ある疑問が僕の頭の中で浮上した。

こんな偶然があるのだろうか、と。

それなりに大きなマンションで、偶然に出会った知り合いが、自分と全く同じ階である事。

その考えに至ったのは僕だけではなかったようで、戸惑った表情を浮かべた楓子さんは、やがて真剣な顔をしてある言葉を投げかけてきた。

 

「駆君は……ブレイン・バーストと言うゲームを知ってますか?」

 

それは直接的な問いかけ。ある程度確信がを持って聞いて来ているのだろう。間違っていても、たかがゲームの話。知らなければ適当に話を濁せば良いだけだ。

 

僕のリアルでの姿と、アバター状態の僕の姿。走る事に執念を燃やす加速世界での僕と、現実の走る事が出来ない僕。アバターの作られた原因が見て直ぐに解るのだ。確信を以て今の問いかけが出て来ても可笑しくは無い。

 

そして僕も今の言葉で、これから会うネガ・ネビュラスのメンバーの中で、顔を知らない人物が目の前の彼女だと、容易に辿り着ける。

 

「偶然って怖いですね、スカイ・レイカーさん」

「そう……駆君が、ソニックさんなんですね」

 

答え合わせが終わると、お互いに顔を見合わせ、笑いあった。

 

「本当に。偶然って怖いですね」

「えぇ、まさかリアルと向こうでの立場が逆になっているなんて思いませんでしたよ」

 

立場と言うのはもちろん車椅子の事である。リアルでは僕が押され、加速世界では僕が押す。それはただの偶然だが、その偶然がお互いのツボに入り、エレベーターが目的の階層に届くまで、しばらく笑い続けた。

 

ずっとあった緊張感は、楓子さんとあった事で完全に解れた。現実で知っている人間が居ると言うのは、心に大分余裕をもたせてくれる。

ハル君の家の前に着くと、楓子さんは躊躇いなくインターフォンを押す。暫くすると、バタバタと言う音を出しながら、扉に走り寄ってくる足音が聞こえて来て、そのまま扉が開かれる。

 

「こんにちは、もう先輩たちは集まってますよ!……と、どなた、ですか?」

 

出て来たのはぽっちゃりとした体形の少年、ハル君だ。

何度も言葉を交わしていたが、こうして肉声を聞くと、また違った印象を受ける。

 

「こんにちは、鴉さん。それと、こちらは――――」

「一応、初めましてになるかな?僕の名前は駆。アバター名、ホリゾン・ソニックだよ。よろしく、クロウ」

「え……、えぇぇえ――――……ッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めましてだね、ネガ・ネビュラスのメンバーさん。僕は駆、ホリゾン・ソニックのリアルだよ」

「あぁ、知っているとは思うが、私はロータスだ。リアルでは、黒雪姫と呼んでくれ」

「えと、初めまして?なのかな。うさぎさん、何だよね?」

「そうだよ、チユリちゃん。数年来の付き合いになるけど、こうして直接会うのは初めてだね。よろしく」

「なるほど、その姿だから誰よりもリアルを避けていたんですね」

「車椅子……。確かにそれなら、リアルアタックは後ろから押せばいいだけだ。小学生にも簡単に出来ちゃいそうですね」

「その姿を見るとなるほど、何故アバターがあそこまで走りに特化したのかが良く解る」

 

お互いの自己紹介をはさみ、話は直ぐに本題へと移る。

 

「このまま世間話でも良いですが、本題から早く片付けてしまいましょう。リアルでの対話を求めて来たと言う事は、事はリアル面での問題と言う認識で良いですか?ソニックさん」

「あぁ、その考えで間違いないよ。それと、僕の事は駆で良いから。同い年だし、ここは加速世界じゃない」

「そうです……、いやそうだね。何より戦友に他人行儀と言うのも可笑しいかな」

 

タクム君は、そう言うと口調を改め、戦友と言う部分を強調するように口にした。

 

「脇道に逸れたけど、本題に入ろう。みんなは、僕が個人的にやってる事を知ってるよね?」

「PKハンターですか?」

 

皆が頷いている中、チユリちゃんだけが解らないと言った風に首を傾げる。それをハル君が補足するようにチユリちゃんに説明をしてくれた。

 

「すごい!ヒーローじゃん」

「実際はそんな華やかな物じゃないけどね。話を戻そう。僕は今、過去そのPKを邪魔したレギオンにリアルを狙われている」

「なに……?」

 

ここ数か月で行われているリアル割に方法を説明する。その話は、彼らからすれば気持ちの良い物ではなかったようで、皆顔を顰めて聞いていた。

 

「それじゃぁ、僕らはそのPK集団と戦えばいいんですか?」

「いやハル。それは現実的じゃないよ。直結をしなければ、同じ人間は、同じ相手に一日一回までしか対戦を請なえない。ポイントの総量が解らない相手に、それも複数名いる中で意味があまりないと思う。それに、相手は僕らよりも高レベルだ。何度かは勝を拾えるかもしれないけど、負ける可能性の方が大きい」

「その通りだ。それ以外で僕が助かる事が出来る方法は二つだけ。その内の一つを今日、ここにお願いしに来た。僕を……」

 

僅かに逡巡しながら、僕は言葉を紡ぐ。その一言を言うだけで、かなり体力が削られる思いだ。

 

「僕を君たちのレギオンに入れてくれ」

「そうか!レギオン領内での対戦拒否機能。確かにそれなら彼らの方法じゃ、手が出せない!」

「でも、駆君の活動エリアって……」

「グレート・ウォールが進出を始めたエリア、か……。君はまた、大きな天秤を持って来てくれたな」

 

幸い僕が住んで活動している場所は、まだ無所属の領土だが、隣の戦区は、既にグレート・ウォールが制圧しており、その隣の戦区を制圧しようものなら、宣戦布告と捉えられかねない。

それが黒の王だと言うのだから尚更だ。

 

「あぁ、だから決めて欲しい。僕と言う戦力を取って巨大なレギオンと戦う覚悟を決めてくれるのかを……。無茶なお願いだと言うのは承知しているし、幸いまだ助かる方法がある。気負わずに考えて欲しい」

 

助かる方法と言うのは確かにある。それはネットワークの接続を完全に遮断すると言う、ロータスが身を隠していた時の方法と同じ物。だが、これは正直使いたくはない方法だ。

ネットワークが使えないと言う事は、生活の殆どをネットワークに依存している僕にとって、かなり辛い生活が待っていると予想できる。

 

目を瞑り、考え込んでいる黒雪姫を、ただ静かに周りは見詰めていた。

 

「ふむ、もっと無理難題かと思ったが、案外と簡単な依頼だったな。良いだろう、ネガ・ネビュラスは君を歓迎する」

「マスター、良いんですか?」

「グレート・ウォールなら問題ないだろう。あそこは大規模な人数が所属するため領土を拡大させている節があるし、グリーン・グランデも放任主義で、積極的に領土支配に動く奴ではないからな。それに、リアルを晒してまで仲間になりたいと言う人間を突き放せるほど、私は冷酷ではないさ」

 

澄ましたような小さな笑みを浮かべながら、黒雪姫はかつての戦友の性格を読み取って問題ないと判断した。

 

「僕から言い出した事だけど、そんなに簡単に決めて良いのかい?」

「なに、私たちのレギオンには、今決定力が無い。ハルユキ君とタクム君は良くやってくれているが、まだまだ成長途上、君みたいな王と正面から戦える即戦力は喉から手が出るほど欲しいのさ。何より……」

 

ため息を漏らし、僕の隣にいる楓子さんに視線を向けた。僕はそれに倣うように、隣へと目を向ける。

そこにはいつもと変わらないような笑みを浮かべる楓子さんがいるだけ。彼女がどうかしたのだろうか。

 

「君の隣で百面相をしている楓子を見ていると、断るに断れない」

「私、そんなに顔に出てましたか?」

「出てた!姐さんがそんなにコロコロ表情を変えるところ初めて見た!そんなに心配だったんだぁ」

「知り合いが困っているからですよ。特に私は――――」

 

チユリちゃんがにんまりと笑いながら、からかうような口調で楓子さんに話しかけ、それに反論するかのように言葉を続ける楓子さんに、黒雪姫が追い打ちをかけるように会話が展開していく。

これは完全に女子会の流れである。

 

「あちらはあちらで盛り上がっちゃったみたいだし、僕らは僕らで話そうか」

「そうだな。正直オレとタクだけで女子率高かったから、ソニックさんが来てくれて助かりましたよ」

「駆で良いって。話し方も敬語はいらないよ。僕もハル君って呼ぶし、これから仲間なんだ」

「そうだよハル。もっと自然に。駆君とはもう何度も話してるだろ?」

「うぅ~ん。オレにとっては、ソニックさんはレイカー師匠と同じような感じだから、仲間って言うよりも、先輩って感じなんだよなぁ」

「うん、今はそれでいいよ。徐々に慣れていって欲しいけどね」

「ハル、まず駆君に言わなきゃいけない事があるだろう?」

「あぁ、そうだったな」

 

「「ようこそ、ネガ・ネビュラスへ!」」

 

取り残される形になった男三人で固まり、苦笑いを浮かべながら僕の参入を祝ってくれた。

 

初めて出来た親子以外でのリアルな絆。信頼できる仲間。

僕は、この絆を必ず守り通す。どんなに険しく困難な出来事が立ちはだかろうと、必ず僕は乗り越えて踏破して見せる。

誰よりも、走る事に魅了されたこの足に誓って……




後はヘルメスコードで完結です。
そろそろ次の作品を考えたいと思います。時間が進むほど書きたい作品が増えますね。

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