アクセル・ワールド~地平線を超えて   作:真ん丸太った骸骨男

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こんにちわ、真ん丸骸骨です。
二話目投稿です。楽しんでいただければ幸いです。



第二話

ブレインバースト、それは人から人へとダウンロードをする事でのみ手に入れる事が出来る一種のゲームアプリケーションである。その時コピー元の人物を親、コピーを貰った方が子と言うように呼ばれるのが一般的だ。

格闘対戦ゲームの形を取っているこのゲームであるが、自由度が非常に高く一昔前に流行したVRMMORPGと酷似していると聞く。

レベルと言う物まで設定されているのだから、その感覚は正しいと僕も思う。

ただ、このアプリケーションには二つの絶対条件が定められていた。一つは幼少期からニューロリンカーを装着している事。僕は共働きだった親が育児の省力化と言う事で幼いころからニューロリンカーを装着していたので条件をクリアしている。

そして二つ目、それは脳の反応速度がある一定値以上の人間であること。この二つ目の条件が超える事が難しく、また目に見えて達成しているかが解らない事とコピーできるのが一回きりである等がこのゲームのハードルを必要以上に高めている。

その結果ある程度コピーする人物の下見をする事が必要になってくるので、このゲームの人口はおそらくこのままある一定数を上回る事は無いだろう。

 

そして僕がそのブレインバーストを手に入れてからはや半年。

その頃になると僕にも可笑しな二つ名らしき物が付けられていた。

『暴走特急』『蒼い流星』『猟犬』ただ走る事のみを追い求め、逃げる敵をも執拗に追っていった結果として速度を象徴とする名前だ。

中には面白おかしく『メロス』等と言う名で呼ぶ者もいた。

しかし、僕はそのメロスと言う呼び方が一番好きだ。それは友情を守る者の名、裏切らない象徴、不屈の男の名前だから。

 

「おい、いつまでそうしてんだ?早く行こうぜ相棒?」

 

そう言って僕に声をかけて来るのは僕の≪親≫『アガット・フィスト』

赤茶色の装甲と全体的に丸みを帯びた細身の体躯だが、その右腕には特徴的な大きな拳が付いていた。

人の数倍は有ろうかと言うその手は彼の名の象徴フィストから来ている初期から装着されている強化外装。彼はポイント殆どをこの拳に費やしていた。

本来遠距離の赤系統でありながら近接を得意とする彼のその拳から放たれる必殺技は文字通り必殺の領域にある。2レベル差までならば、緑系統の装甲が無ければ九割は削ってくるだろう。

そこから転じて二つ名は『巨拳のアガット』と呼ばれる。

その反動か、移動速度は鈍亀レベルで少し動きの速い相手に当たると、文字通りサンドバックとなってしまう。

 

「解ってるよフィスト。でも今日はタッグで戦わない筈だろ?」

 

対する僕はホリゾンと呼ばれる青系統の近接型。

全体的に流線形なデザインを取っており空気抵抗が少なくなるようになっており、足先や後方に流れる頭頂部などは逆に鋭角的に尖っている。

背面にはスラスターがついており、それを利用した連続加速による突撃が必殺技となっている。

 

「俺が付いて行かないとお前は永遠とこのフィールドで走り回ってるか、旧東京タワーのてっぺんで寝そべってるだけだろうが」

「それの何がいけない!」

「キレんなよ!?怒りポイントが解らんわ!」

 

僕らはいつも二人だけ、レギオンには加入していない。

気ままに対戦をして、気ままにフィールドを歩きながら敵を見つけたら戦闘を挑む。

レベルはフィストが6で僕が7。

半年で7までレベルが上がった僕は、フィストとタッグで戦う事が多く、よく『最速ウサギと鈍足カメ』と呼ばれそれなりに有名だったりする。

 

「確か今日は黒のレギオンの幹部さんとやりあうんだろ?『鉄腕』スカイ・レイカー。ヤバい二つ名ばかりついてる奴だぜ?」

「まぁ、何とかなるだろ?この間は青のレギオンに殴り込み言って幹部クラスを何人かやったんだから」

「俺は遠くから観戦させてもらうわ。流石にこれ以上の上級者相手はきついしよ」

 

僕らのタッグの勝率は高い。

僕が敵の攪乱、または敵を捕らえ、フィストの一撃で確実に一人ずつ落としていった。最近はレベルが上がった事によってか、持ち運べる重量が上がったため、フィストを抱き高速で敵にぶち当たると言うのが必勝型だ。

だが、フィスト個人の戦績は負け続けと言う物で、彼自身6以上の敵は難しいと笑って語っていた。

その中で、僕個人の成績はこのところ負けなしで、まともに対戦相手を探す事の方が難しくなっていた。

喜んで良いのか、悲しんだ方が良いのか微妙な所である。

 

とりあえず、今のところ旧東京タワーのてっぺんで世界を見渡すのが趣味である。

変遷を経てステージが変わる瞬間が特に好きで、誰にも邪魔されず、遠くを見渡せるその場所には一回入れば必ず一回は訪れている。

丁度良く脱出用ポータルまで設置されているのでついつい長居をしてしまいがちである。

 

「フィストもアレ覚えればまだまだレベル上げられるって。……なんだっけ?黒の王とかが使ってた……」

「あぁ、柔法な。無理無理、俺にあんな器用な事できねぇもん」

 

確かに、と僕は頷かずにはいられなかった。

現実でもこちらでも、やること全てが荒く、せっかちな彼には、自分で言っておいてなんだが、繊細な動きは無理だろう。

 

「あぁ~、何か失礼なこと考えてそうだが……。まぁ良い、そろそろ目的地だ」

「そうみたいだね。……ねぇスカイ・レイカーって黒系統だっけ?」

「んな訳ないだろ?青の近接型で、お前と同じ足技をメインで使ってるはずだぜ」

 

そう、僕が聞き、知っている特徴もそれと同じものだ。

しかし、約束の場所に立つ一つのシルエットは黒い、そしてそれ以外には人影が見られない。

 

「おいおい……、マジかよ」

「生黒の王だ。あれ?レイカーさんは?」

 

目の前のアバターは混じりっけ無しの黒、目立つ四肢全てが剣と言う出で立ちの有名人。

純色の七王の一角、≪黒き死の睡蓮≫ブラックロータス。

僕が戦ってみたかった人間の一人だ。

 

「ん、来たか。すまない、レイカーは現実の方で電話がかかって来てしまったらしく今日は無理らしい」

「うぇ、マジかぁ。確かに対戦申し入れたのは何日か前だからこうなる可能性はあったけど……」

 

たかが数秒の時間消費だが、一時間もこちらに居れば向こう側では約三秒、電話をしていれば三秒も無言になっていることになるし、その話は聞こえていないのだから相手に失礼だろう。

 

「どうしようか?適当にエネミー狩って十ポイント分稼いで落ちようか」

「そだな。王と戦うのは周りがうるせぇから、またつぎのきかいに――――」

 

「いや、もしその気があるのなら、私がレイカーの代わりに対戦を受けよう」

 

「「え?」」

「いや、正直な話、私自身君に興味がある。出来れば君たちには私のレギオンに入ってほしいくらいだ」

「ん~悪いけど俺たちソロ、っていうかタッグでこれからも行くつもりだし……」

「ああ、勧誘を色々受けて全部蹴っているのは知ってるから、まぁ言って見ただけだ。……それでどうするかね?」

 

王自らからの勧誘に若干驚きながらも、僕らは二人で楽しむのだと決めていた。

それは彼女も解っていたのか、断った事に対してさほど気にせず、その剣の腕をこちらに突き付け、この後の事を聞いてきた。

そんなこと決まっている。

 

「んじゃ俺あっちいるから頑張ってくれ。開始は俺が必殺技を発動した時からな」

 

フィストはそう言うと遠く離れたビルに登って行った。

そして僕は屈伸で体を解し、そっと体をしゃがませ、所謂クラッチングスタートの態勢に入った。

ロータスは直立のままだが、片腕を胸の前に持っていく。

 

「それが君の構えか。聞いていた通り陸上選手みたいだな」

「僕の出来るのは速く走る事だけだからね」

 

静かに二人の間に緊張感が高まっていく。

そしてがフィストが登ったビルから赤い発光現象が見えた。あれは彼の必殺技の発動予備動作に入った証だ。

極限まで強まった光の後、大きな音と共に僕らは動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いってぇ……、あれとはもうやりたくないな」

「おう、ナイスファイト!両腕飛んだ時はどうなるかと思ったわ」

 

戦闘終了後、三人で脱出ポータルまで移動し、そこで別れ現実に戻って来た。

目の前には人懐っこい顔でにこやかにほほ笑みかけてくる少年がいた。

赤い服を着た短髪のこの少年は僕の親、佐橋隆弘。

転校して最初に話しかけてきた友達で、親友と言えるまで仲が良くなるのにはそう時間はかからなかった。

 

「ありがと。でも楽しかったよ、心臓に悪い攻撃ばっかだったけど、思いっきり走れたしね」

 

先程の戦闘で斬り飛ばされた腕の幻痛がいまだ残っている。それを擦りながら、空が茜色に染まる中を、二人で歩いて帰路についていた。

ゆっくりと車輪を回しながら、隣を歩くフィストこと隆弘と先程の戦闘に話す。

 

「流石は王って所か。お前が翻弄できないのは久しぶりに見たわ」

「んな訳ないだろ?この間戦った赤ネコさんも、きっちり俺について来てたじゃん」

「ありゃ違うって。シェイプチェンジした走るの専門の動物体が、何とか喰らい付いてるって状況が既に可笑しいんだよ。その証拠に必殺使ったら追う事すら出来なかったじゃねぇかよ。翻弄とは違うかもだけど、キッチリ圧勝しとった癖に」

 

隆弘の言葉に、その時の対戦も思い出す。

あれはあれで、ロータスとは違った楽しみがあった。まさか加速世界の中で競走する事になるとは思わなかった。

人間が動物に勝てると言う貴重な体験をさせてもらった。

 

「大体、今日の戦いだって―――――」

 

そこで急に言葉を詰まらせる隆弘。それを不審に思い、彼の顔を見てその表情が非常に硬い事を確認した。何があるのかと、彼の視線の先を見ると、そこには自分達よりも一つ年上の男子生徒がいた。

名前は知らないが、確か同じ小学校のサッカーチームでキーパーとして活躍していた人の筈。

 

「わりぃ、俺急ぎの用事があったんだ、ここで先に帰るわ」

「ん、大丈夫だよ。あの人と何かあるの?」

「あぁ、俺の兄ちゃんだ。家の用事があったのすっかり忘れてたんだわ。あ、そうだ」

「え、何か――――」

「バーストリンク!」

 

話の途中で隆弘がいきなり加速した。

そして、気が付くと、僕との対戦が組まれており、僕は何か言い忘れた事でもあったのだろうかと首を傾げて彼の行動を待った。

少しして、両者のアバターが完全に作り上げられると、頭上にファイトと表示されタイマーが動き出した。

 

「わりぃわりぃ、帰る前にどうしても渡したいもんと言っておきたい事があったんだわ」

「だと思った。で?渡したい物って何?」

「あぁ、俺の強化外装『マキシマム・フィスト』をいったん譲渡しておこうと思ってな」

「はぁ~?」

 

まるで意味が解らない。

僕の戦い方と、彼の戦い方は正反対だ。

僕が攻撃を積み重ねていく事に対し、彼は一撃に全てを託すタイプだ。

 

「前々から思ってたんだ。お前の速さに俺の攻撃力が加わったらどうなるかって。今日だってお前、最後の方火力不足で困ってただろう?」

 

確かに僕の攻撃はどれも攻撃力が無く、こちらが数十発当てても、あちらが一発入れれば五分になってしまうと言う悲惨な状態である。それでも攻撃が当たらない為、今までの異常な速度でのレベル上げが可能だったのだがここに来て、王だけに限らず攻撃が度々当たる様になってきた。

その為、最近は短期決戦で圧倒してきたのだが、長期戦でちまちまライフを削る戦い方を強いられていた。それでも負け無しを貫いている僕に、隆弘は若干呆れているのだが。

 

「確かにそうだけど、それじゃ隆弘が戦えない」

「いやいや、何もずっとって訳じゃない。合わなきゃ直ぐに帰して貰っても良いしな。レベルも抜かれた俺が言うのもなんだが、それでも、お前にはもっと強くなって貰いたいんだ。お前の弱点である火力を俺が補えるんだったらこれほど嬉しい事は無い!」

 

僕は彼のその勢いに断わる事が出来なかった。

先程の固まった声色では無く、本当にそう思ってくれていると感じたからだ。

彼の代名詞であるその拳を受け取った僕は未だ納得のいかない面持ちで、それが顔に出ていたと思うのだが、隆弘は全てを遣り切った様に安堵のため息を付いていた。

 

「お。おい!僕、すぐに。一戦やったら直ぐに返すからな!!」

「あぁ、当たり前だ!それにな、これはゲームだ。楽しめなくなるのはダメだ、だから、怒って戦うとかなしな?」

「話がかみ合ってないぞ?ただのゲームで何で怒んだよ」

「アハハッ!そりゃそうだ!……でも、約束だぜ?」

「当たり前だろ。このゲームを始める時も、力を知った時も言っただろ?僕たちは何処まで行ってもこのゲームを楽しむんだ」

 

話が一段落ついた時、丁度対戦時間が終了。

そのまま現実時間に引き戻された。

その場で直結を行い、直ぐに譲渡を終えた。

 

「……」

「俺、思ったよ……」

 

現実時間に戻った僕らだが、隆弘は一歩前に出て、何故か悲しそうな表情を浮かべて、僕に別れの言葉を口にした。

 

「お前が王と互角以上に打ち合ってるのを見て。……このゲームをやってて良かったって。ただ悲しいだけじゃないんだって思えたから」

 

それは遊んで別れる友達同士の言葉では無かった。

それはまるで、今生の別れのような響きを持っていた。

 

「お、おい!?」

「お前は俺の誇りだ!その拳を、俺を頂点まで連れてってくれッ!!」

 

おかしい。そう感じながら、僕は彼にその真意を聞けなかった。

また明日がある、家族が待っている。そう自分に言い聞かせ、僕は呼び止める事をしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが、彼の決死の覚悟だったことに等気が付かず…… 




読んでいただきありがとうございます。
一応過去話を書いて暫くしてから原作にぶっこもうと考えてます。

だが、書いていた自分でも思うがこれは酷いww
しかし、自分にはこれ以上の内容が出てこないので、これからも妄想爆発させていこうと思います。

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