アクセル・ワールド~地平線を超えて   作:真ん丸太った骸骨男

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どうも真ん丸骸骨です。
今大変驚いています。まさかこんなに評価とお気に入りに入れてくださる人がいるとは……
心意気ばかりで稚拙な文ばかりお見せすると思われますが、これからもがんばっていきます!


第三話

事件はその日の翌日に起こった。

いや、事件が起こったんじゃないのか。無くなったんだ。

僕と相棒の、今まで培っていた戦いの記憶も、二人でバカ騒ぎを向こうの世界でやった記憶も、ブレインバーストを通じて得た物すべてが、隆弘の記憶からきれいさっぱり消えていた……

 

「な、何を言ってるんだ?もう飽きたって……」

「ん?俺そんな可笑しな事言ったか?お前と一緒にやってたゲームに飽きちまっただけだ。次は違うゲームをお前とやろうって言ってるだけだぞ?」

 

どんなゲームか忘れちまったけどな!と笑う彼に僕は一つの都市伝説を思い出していた。

『ポイントを全損したプレイヤーはブレインバーストに関する記憶を失う』と言う、眉唾物の三流ホラーのような現象。たかがゲームが、人の記憶を消す筈が無いと言う思いが今までその話を信じずにいた。

だが、いくらブレインバーストの話をしてもなんだっけ?と首を傾げる隆弘を見ていると、それが現実なんだと思い知らされる。

だが、

 

(何でだ!?昨日まで全損するような程ポイントは減っていなかったはずなのに!!)

 

そう、彼はレベル6に相応しく膨大なポイントを保有していた。

それが一晩経ったらきれいさっぱりゼロとなるなどと言う事が本当にあるのだろうか?

そこまで考えて、昨日の彼の異常に思い至った。

自分の兄だと言うのにその顔を硬くさせ、別れ際に強化外装を渡し、極め付けにはあの表情だ。

 

そして気が付いた。

あの男だ。隆弘の兄だと言うあの上級生。

あれが隆弘の親で、そしてポイントを全部持っていった敵だ!

確証は無い、だがそうとしか考えられないのもまた事実だ。

 

「ちょっといいかな?」

「ん~兄貴?どうしたんだ?学年違うのに」

 

と、そこまで考えていた時、教室の外で男が隆弘を呼んだ。

それは隆弘の兄、その彼は隆弘に二三言葉を交わすと僕の方に近寄ってくる。

隆弘と話している時の表情とは違う、こちらを完全に見下したかのような表情。その表情は一瞬で潜められたが、僕はその表情に怒りが沸々と滾って来た。

 

「やぁ、初めましてかな?駆君。いや、ホリゾン・ソニック?」

「あなたが隆弘の親だったんですね。そして、隆弘のポイントを……」

 

お互いに小声で会話をする。

だが、これ以上は周りが聞いていると言って場所を変える事になった。

 

「さて早速だが……」

 

誰にも見られない場所に行くと、彼は先程も見せた完全に見下した表情を浮かべて、偉そうにこちらに命令を下した。

 

「貴様のポイントを全部寄越せ」

「僕がそれをするいわれは無いけど?」

 

あちらが本性を出したと同時に、僕も苛立ちを隠す事無く語気を強くして言葉を放つ。

その言葉を聞いてもなお態度を変えず、解っているとばかりに小さく鼻で笑う。

 

「お前のリアルの情報を流す」

「バカかアンタ?そんな事をすれば僕もやるって事解ってる?」

「お前はしないさ。いや、出来ないが正しいのか?」

「なに?」

 

そう言って彼は、空中に手を翳し、何やら動かし始めた。どうやらニューロリンカーで何かを準備しているようだ。

次いで僕に一つの映像ファイルが送られてきた。

これが如何したのかと彼を見ると、軽く首を動かした。見ろと言う事だろう。

 

「なっ!?」

「如何だ?綺麗に取れてんだろ」

 

 

その映像ファイルに入っていたのは、相棒であり親であるフィストが、ただ棒立ちになり複数のアバターに一方的に嬲られている動画だった。

その映像に作成日時は昨日の深夜。

つまりこれは、フィストがポイントを全損した時の映像と言う事になる。

 

「あんた……自分の弟だろうがッ!!」

「だから?別に死んでしまった訳じゃないだろ。お前も今日も楽しく話をしていた。あいつは加速の力が要らないと言った、だから俺が貰った。それだけだ」

 

僕が歯ぎしりしながら睨みつけていると、さも面白いものを見たかのように歪んだ表情がさらに歪んだ。

 

「いやいや、意外と簡単に諦めてくれたよ。あいつには手を出すなってさ。ハハハッ!」

 

僕はその言葉で息を詰まらせる。

こいつはもっと早く僕のリアルを割っていたのだ。自分の弟と長時間一緒に居れば、いやでもあちらでもつるんでいる僕と重なると言う物か。先程の言葉からするに、彼はそんな僕にリアルアタックをしようとしていたのかもしれない。

そしてその事を気が付いた隆弘は自分のポイントと引き換えに手を引かせようとした。

親として、そして親友として僕を何としてでも守りたかったのだろう。隆弘のその気持ちに、胸が締め付けられる気分だった。

 

「簡単に言うと、この映像通りの事が現実でも起こるかもって事だよ。さぁ、答えを聞かせて貰えるかな?」

 

それは脅迫。穴だらけの計画だが、小学生に向けるには十分以上の威力を持っているだろう。

だが、彼は解っていない。

いや、信じて疑わないのだろう。自分が圧倒的に有利にいると言う事を。

 

「……解った。今日の午後五時、場所は学校の無制限フィールドで僕を無限PKすればいい」

 

脅しをかけ諦めたと考えたんだろう。

彼は高笑いを浮かべながらその場を後にしていった。

人数で上回っているから、人質を取っているからと安心して今日フィールドに全ての仲間を連れて来るだろう。

 

だから解らせてやろう。

 

「どちらが獲物か……」

 

その時の僕はどんな顔をしていただろう。

ただこの時、僕は加速世界で対戦をするのは最後になるだろうと勝手に決めた。

友達を守れず、約束を破り、怒りのままにその場に来た人間すべてを全損に追い込むつもりだからだ。

 

「だから、許さないでくれ……」

 

誰にともなく、僕は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たか。それじゃ、お前はそこで立ってろ。一人ずつお前のポイントを削っていく」

 

 

目の前にいるリンカーは十数名、色取り取りでどうも目がチカチカする。

言われた通りに、その場に棒立ちとなる。

勿論やられてやる訳は無く反撃の気を待っているだけだ。人数が多い敵をやるならば一気に殲滅するのが効率的なのだが、僕には広範囲の殲滅攻撃は無い。

なので奇襲で混乱を誘い、そこを糸口に一気に数を減らす。

真正面からやっても負けはしないと思うが、流石に被害を受けてしまう。それに逃げられてしまえばリアルの自分もそうだが、自分を思ってポイントを無くした彼にも被害が飛ぶ、それだけはどうしても避けなければならない。

 

「んじゃ、俺からいっただきまっすよっ!!」

 

手に持つ棍棒を振り上げる青系統のアバター。

純色からは遠いが、その巨躯から落とされる威力は計り知れない。

僕はその攻撃が振り下ろされると同時に懐に飛び込んだ。

 

「はっ?」

「シッ!」

 

大振りで振り下ろされる棍棒を持つ手には大きく輪の様な隙間がある、僕はその隙間に足を思い切り打ち上げ顎を打ち抜いた。

頭の攻撃は他の部位に比べて高い攻撃判定がある。レベル差もあったのか、その一撃でそのアバターのHPバーの三割削り、そこから間髪入れずに踵落としを繰り出した。

 

「がッ!?」

「来いッ!『マキシマム・フィスト』ッ!!」

 

よろめき堪らず後退したアバターに、隆弘から譲り受けた強化外装『マキシマム・フィスト』を大振りで殴りつけた。

その攻撃で残っていた五割のHPは一気にゼロまで持って行かれ、そのアバターはその場に一瞬にして霧散させた。これであと一時間は彼の出現は無い。

 

「な、な!?お前、リアルの自分がどうなっても良いのかよ!!隆弘がどうなっても良いのかよッ!?」

「やっぱあんたバカだ。ここでアンタら全員をポイント全損にすれば、リアルの僕も無事だし、ましてやポイントの無い隆弘は狙われる事さえない」

 

現実の方に仲間が待機していれば話は別だが、そうであってもポイントが無い隆弘を態々狙う必要はない。

 

「クッ!怯むことはねぇ!相手は一人だ、囲んじまえばどうにでもなるっ!!」

「それは大抵やられ役の台詞だよ」

 

首謀者である緑系統のアバター、隆弘の兄に向かって、一瞬で距離を詰めると、フィストの腕で彼の頭を掴み、全力で駆け擦り廻った。

 

「あ、がっ!?ごおっ!!」

 

赤系統の遠距離攻撃は僕が彼を掴んでいる為に撃てず、近接型はそもそも速度に着いて来れず、ただ彼のHPが減るのを見ている事しかできなかった。

やがて、手に持っていた彼が体力が尽きて霧散すると、僕はそれまでに溜まっていた必殺技ゲージを使い、さらなる高速移動を始めた。

こうなってしまえば永久機関だ。

走った時の衝撃波にまで当たり判定があり、ゲージは絶えず溜まっていき、減る速度と堪る速度が拮抗した。

フィストからはゲームバランスのぶち壊しと言われていたが、今この時においては感謝すらしている。

 

「さぁ、狩りを始めよう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……クッ!」

「ひッ!?も、もう止め――――」

 

どれぐらいの時間、戦い続けていただろうか、既に意識は朦朧としている。

だが、一緒にいたPK仲間らしき人間は逃がす事無く一人、また一人とその数を減らして行き、ついには目の前の男一人となった。

残ったのは緑系統の装甲を持ったアバターで、運命か、または天罰か、どちらにせよ隆弘の兄が残された。

皆一応に復活した端から消して行っているので彼が一番ポイントを持っていた事になる。

こいつが隆弘からポイントを一番吸っていたのかと思うとタダで消すには勿体無くも感じてしまう。

だが、こいつの最後の消し方は決まっている。

 

「消えろ。これでお前も一般人に戻る」

「や、止めろッ!?俺はまだ大会が!この力が――――」

「ヒー……ト」

 

頭を掴み持ち上げる。

彼の両腕両足は既に破壊している。彼は何も成す術もなくこの技を受ける事となる。

光と共に感じる熱量の増大、これがフィスト最大の必殺技。

 

「やっ――――――!?」

「エクステンドォォォォッ……!!」

 

溜まっていた必殺技ゲージをすべて吐き出し、圧倒的な爆発力が彼らを中心に発生した。

それは赤系統に相応しい程の火力で、中心地から十メートルの範囲を根こそぎ吹き飛ばした。

 




後何話かで過去話は終了になります。たぶん……
こうなったらいいなぁ、と言う骨組みにもならない物は頭にあるんですが、それを文章に出来ていない現状。
とてもお恥ずかしい(-_-;)
それでは以上で終了となります。
お付き合いいただきありがとうございます!

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