今回は会話回です。それとも説明回でしょうかね?
中々戦闘や華々しい展開にならないです。
「こんにちわ!また連絡してみました!」
「やぁ、チユリちゃん。どうしたんだい?」
あれから僕のリンカーには、度々彼女から連絡が届くようになった。
簡単な愚痴やちょっとした相談、果ては解らない勉強の事まで聞いてくることがある。
勉強については頭のいい友達がいるのでそれ程でもないが、その友達が剣道をやっているらしく、大会などの前後では必ず僕の所に連絡が来る。
今はメールではなく、ダイブコールと言う仮想空間でアバターを用いて会話をしている。
「そうそう聞いてよウサさん!タッ君とハルがね――――」
このタッ君と言うのが彼女の言う頭の言い剣道初年の事である。彼女の話では彼と付き合っているらしい。
小学生である僕としては、付き合うと言う事がどのような事なのかまるで分らないのだが……。
まぁ、それは彼女も同感らしく、未だ仲の良い友達の延長線としてしか考えていないらしい。
それはそれでそのタッ君が可哀想に思えてしまう。
ハルと言うのも彼女の親友で、どうも彼の言葉で付き合う事を決めたのだとか。
「ちょっと?聞いてるウサさん?」
「うん、大丈夫。タッ君から言われた事にカチンときたチユリちゃんがどのように報復してやろうかと言う話だったよね」
「違うよ!?まったく、一個も合ってないよ!?」
ちなみに彼女は僕の名前を知っているが、実名で呼ばないし、顔も知らない。
最初に会ったのがこの状態であったから、と言う理由から連絡方法がメールかダイブコールかのどちらかと暗黙の内に決まったのだ。彼女曰く、その方がシックリ来るのだとか。
「まぁ正直な話、僕にもどうするべきか、なんて答えは出せないよ」
「そんな……。私、また三人で遊びたいだけなのに……」
今日の悩みと言うか、相談事は大変答え辛い内容だった。
いつも遊んでいた三人が最近疎遠になって悲しい、とだいぶ苦しそうな苦笑いを浮かべていた。
タッ君の告白から始まり、ハル君がそれを受ければいつも通りだと言った。
しかし、結果はハル君が自分から距離を取り始め、タッ君はそれに気がついても無理に近づこうとしないらしい。
今までは同年代であっても精神年齢的に彼女らよりも上であると言う自覚が有った為、割と的確に悩みを聞いていたつもりだが、事恋愛やその他友人関係の複雑化などは経験が無ければ、知識としてそう言った問題は本人たちでしか解決できないと知っている。
何と言えばいいのか、まるで見えてこないのである。
「ただ僕が言えるのはチユリちゃんが本当に大切に思ってる友達なら、いつかちゃんとまた一緒に居られるよ。……一緒に過ごした時間をちゃんと三人で共有してるんだから」
だから、今の僕にはこんな気休めの言葉しか掛けられない。
だが、その中で僕も信じている。同じ時間を過ごした記憶があるならば、いつかはちゃんと笑いあえると。
二度と共有できない思い出は取り返しがつかないが、彼女たちはまだ繋がっているのだから。
「……うん、私、頑張ってみるよ。タッ君にもハルにも、もっとガッツリ食いついてやるんだから!待ってなさいよぉぉ!!」
僕の言葉をどう受け取ったか解らないが、彼女は立ち上がり、おもむろにガッツポーズを取って吠えだした。
結果はどうなろうと、やはりこの銀色の猫さんには、挑戦的な笑顔をが良く似合う。
「あれ?珍しいな。こんな所に先客がいるなんて」
「あなたは……。まぁ、メロスさんですね」
「……嫌いじゃなかったけど、今はその名前で呼ばないでほしいな」
(そうだよ。僕はメロスになれなかったんだから……)
久しぶりに旧東京タワーの頂上に僕は足を踏み入れた。
その平らに整地されている場所に今日は僕以外の客がいた。
しかもそのアバターカラーはスカイブルー、スカイ・レイカーだ。
色が重複する事は無くは無いので、彼女が僕が知る人物と同一であると言う保証は無かったが、このタワーの頂上に居ると言う事実から、疑似飛行が可能な彼女で間違いないと言う結論に辿り着いた。
しかし、その姿は、物騒な二つ名付きで噂される古参の高レベルリンカーの姿は何処にも無くて、大切な何かを失ってしまったかのようなそんな姿。
「そうか、確かネガ・ネビュランスは……」
「はい……、解散してしまいました」
それは加速世界に居る人間ならば誰もが知っている話だ。
事の始まりは7人いるレギオンを率いる王と呼称される人たちのその全てが同時期にレベル9に到達した事に端を発する。
レベル10に到達する為にはレベル9同士が戦い、5人討ち取らねばならない。
そしてこの場合一番重要な問題はレベル9同士の戦いは問答無用でデスマッチとなる事だ。
たった一回の戦いで全てが失われる。
それを是としない王たちが話し合いの場を持ち、休戦協定を結ぼうとしたのだ。
だが、その休戦協定は結ばれる事はなかった。
「まったく無茶な事をしたものだね」
「私はそうは思いません。確かにロータスのした事は褒められる事ではなかったかもしれませんが……」
その会談の場で黒の王ブラック・ロータスが赤の王レッド・ライダーを不意を突き討ち取ったのだ。
バトルロイヤルモード状態であった為、ライダーはあっさりと加速世界から退場し、しかしそれ以上は残りの王たちに阻まれ、ロータスは王を討ち取る事が出来なかった。
「いや、僕が言う無茶は、会談の場での事じゃないんだけど。むしろ僕の様に無所属組は割と肯定派も多いんだよ?」
「……理由を聞いても良いですか?」
「簡単だよ。僕たちはゲームの停滞なんか望んでないんですよ」
自分で言った事だが、何と心に響かない文句だろう。
自分は戦う事を放棄しているくせに、どの口でそんな事を言うのだろうか。
だが、僕が言ったのも、肯定派の事実でもある。彼らはレギオンと言う庇護を受けない代わりに、レギオン所属の者たちよりも自由だ。
彼らの多くは、何よりも楽しんでこの世界に降り立っている。
「僕が言う無茶っていうのは、君たちレギオンが帝城に挑んだ事ですよ」
ネガ・ネビュランス解体の原因。
帝城攻略戦である。
帝城の奥に行けばゲームクリアが出来る、多くの人間が噂をするその情報は、大衆心理故に真実味を帯び、後が無くなった黒のレギオンを動かすに至った。
「無茶、ですか。私達には勝算があったからこその行動だったんですけどね」
「無茶ですよ、どう考えても。仮に神獣級四体だったとしてもギリギリでしょう。それ以上の個体を相手にどうにかできる筈が無い」
巨獣級と神獣級に十倍ほどの強さの幅があるのなら、同じ様に神獣級から超級にもそれと同等か、それ以上のステータス幅が用意されてしかるべきだと僕は思う。
そうしなければならないほど追いつめられた状態だったのだろうが、参謀がいるならば、確実にそこまで考えて行動をするべきだった様にも感じてしまう。
むしろ、そうなるように仕向けた人間が居るのではと勘ぐってしまうほどに。
「……すみません。少し言い過ぎたかもしれません。時には感情で動く事だって大切な時もある。当事者ではないので詳しい事情は知りませんが、今回がそれだったのでしょう」
合理的に動けば全てが上手く行くと言う訳ではない。感情を優先させるか、効率を優先させるか、その配分を上手く出来る者が上に立つ人間だと僕は思う。
今回の事件は、その配分が奇跡的に最悪の結果を招いたに過ぎないのだろう。
一度しか話をした事は無いが、僕の知るロータスは短い会話の中でも知性を見せ、ただの考え無しの人物ではないと強く感じさせたのだから。
「気になさらないでください。……もう、終わってしまった事ですから」
「そうですか……。あれ?そう言えば、その車椅子はなんですか?」
自分で話を振っておいてなんだが、暗くなりすぎた為、少し気まずくなり、僕は話を強引に変える事にした。
強引と言っても、ずっと気になっていた事なので、それほど違和感は与えないと思う。
「これですか?これはこれからの私の足ですよ。ほら、ご覧の通り……」
「足が……ない?」
「空を飛ぶために、私は歩く事を放棄し、重量を減らす事でもっと高く飛ぶことを試みました。しかし、ここまで飛ぶのが私の限界みたいです。……でも、ここからの景色はとても素晴らしいので、ここにしばらく住もうかな、って考えてたんですよ」
おどけながら彼女は言うが、それは自身の夢が破れた事を忘れようとするような、痛々しいモノを覗かせているようだった。
彼女の疑似飛行する強化外装ゲイルスラスターは彼女の初期装備の筈だ。
と、言う事はあれは彼女のトラウマと密接に関係する夢の欠片に違いは無く、それを持ってして限界高度僅か、333メートルで止まってしまった。
それでも飛ぶことのできない者たちにとっては十分すぎるほどの脅威だが、彼女にとっていかほどの絶望だったのか想像もできない。
「そう言うあなたこそ、どうやってここに?」
「あ、えと、僕は壁面走行のアビリティがあるから。下から駆けあがって来たんですよ」
「……あなたも大概規格外な人ですね?」
「いや、普通に走れば三十秒程度ですし、そこまで言うほど来ること自体難しくないと思うんですけどね?」
壁面走行はそれほど珍しい物ではない。
乗り物を主体にする者や、忍者みたいなトリッキーな戦法を好む者たちに現れる事が多い。
そう言えば、ブラッド・レパードと言ったか、確か彼女も壁面走行を持っていた。何が言いたいかと言うと、走り関係のアビリティはメジャーの部類に入ると言う事だ。
扱う者が単純に多いとは言わないが、二次元的な戦いではなく三次元的な戦いになる事が多いため、ギャラリーを大いに湧かす事が特徴と言えるかもしれない。
「そう言えば、先ほど珍しい客と言ってましたが、ここは貴方の拠点だったんですか?」
「ううん、違うよ。ただここからの景色が好きでね?たまに息抜きに眺めに来るんだよ」
以前此処に来たのは現実時間で一月前だったと思う。
その間も無制限フィールドに潜った時もあるので、主観時間で二月近い間来ていないと思う。
「そうですか、良かった。人の拠点を奪ってしまったのかと心配してしまいました」
「まぁ、僕の拠点だったとしても……。家を既に建ててるみたいなんで返せなんて言えないですよ」
「あ、あはは……」
彼女の少し後ろに、質素な作りの一軒家が鎮座していた。
元々何もない場所だったので、その存在感は凄まじく、居座るつもりがひしひしと伝わってきた。
この家も、彼女が乗る車椅子もショップで買う事が出来るアイテムだ。
持ち運びには苦は無いだろうが、家具一つ一つをアイテム化していくと、やはり結構な手間だろう。
「ただ、僕もたまにここに来させてもらうけど構わないかな?」
「ええ、それは私から是非お願いします。ここに一人でいるのは良いのですが、たまには誰かとゆっくりとお話をできれば良いな、と思ってましたから」
そう言って彼女は微笑んだ。
それから僕たちは無言のまま、そこから見える景色を眺め、時折何かに気が付いたように話題を出して過ごして、そして別れた。
僕が下に飛び降りる時、彼女は小さく「また」と言って手を小さく振った。
レイカーと別れ、全身に風を感じながら下まで高速で落下していく。
流石にこのまま行くと落下ダメージで一度死んでしまうので、地面に激突する前に、タワーの壁面を力の限り蹴り自分の体勢を空中で整えた。
蹴った事により、落下スピードは一時的に低下し、地面に足を着いた時には、僕のライフにダメージは1ドット程度で済んだ。
このタイミングが意外とシビアで、早すぎてもその後の高さ次第では死ぬ事もあるし大ダメージにもなる。
逆に遅すぎると可笑しな体勢で地面に激突し、そのまま死ぬ。
「来る度に練習したもんなぁ。何回死んだか数えてないけど……」
昔を思って独り言。
この練習も、戦いをする上で大切な特訓と言う事でもあるのだ。
壁面走行中に、赤系統の強引な火力に曝され、足場を無くし地面に叩き付けられて大きなダメージを受けた事がある。その時はまだレベルが2か3辺りだった為、経験も少なくそのまま押し切られ負けてしまったのは苦い思い出である。
その時から高い所から落下した時のリカバリー法を習得に執心していた。今でも建物の高さは違うがタイミングを忘れない為に、潜ったら必ずやっている習慣だ。
「さてと。離脱ポイントまでタイムを測るかな。前に来た時は確か10分もかかったから……。ん?あっちは確か……」
屈伸をしながら走るための準備をしていると、遠くの方で激しい土煙が上がっていた。
しかし、その場所は余程の命知らずでもなければ近寄らない危険地帯である。なぜならそこにいるのは、神獣級と呼ばれるエネミーの縄張りであるからだ。
「戦ってる?まさか王の誰かか?」
一人で神獣級を倒したと言う王の話を聞いた事がある。
幸い縄張りに入らなければエネミーには狙われない。僕は王の戦いが見れるかもしれないと言う、軽い気持ちでそちらに足を向ける事にした。
お疲れ様です。
今回は主人公のアビリティ関係の話とかを少しだけ書けるように多少強引だったかと思いますがレイカーさんに登場願いました。
なんだか思うように物語が書けていない気がします。
早く原作時間に行きたいのですが、なぜだか話が広がっていく……
ダイジェストにしてあっさり行くつもりだったはずが、何故か次回神獣級と邂逅しそうな流れになってます。