アクセル・ワールド~地平線を超えて   作:真ん丸太った骸骨男

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どうも、真ん丸骸骨です。
連休だったので上手い事続きが書けました。
良かったです。

今回は少し長いです。七千ちょいと言った程度ですが。



第八話

『私……どうすれば良いのか、もう……解んなくて』

 

目の前の猫型アバターは涙を流していた。

親友の一人が虐めを受けているのを黙ってみている事しかできない事をとても悔やんで泣いている。

最初は彼女がそこに乗り込んでしまいかねない勢いだったが、それを僕が止めた。彼女は女の子だ。中学生にもなれば男と女の差は大きく出始める。

それも不良と呼ばれる中に入ってどうにかなる訳がない。もしかしたら取り返しのつかない事態だって考えられる。

ならばタッ君に相談すればどうかと言ってみたが、それはハル君がするなと口を酸っぱくして言っているのだとか。

元より他校である為、それほど期待できないが、僕よりも身近なために良い案を出してくれるのではと期待したが、それを彼女は言えばハル君との間に戻せない傷が出来るのではと心の底で恐怖しているのだ。

今まで彼らの仲を戻すと言う相談を受けて来たので彼女の苦労はよく知っている。それ故にこの案は却下せざる負えなかった。

それに、まだ彼らの間には溝がある。幾ら良好な関係を築こうと奔走しても、当の本人たちにそれをする気持ちがないからだ。

 

『難しいね。今まで気付かれていないって事は、映像からの証拠がないって事だから先生に言ってもどれ程の効果があるか……、下手に言ってもハル君に対しての当りが強くなるだけになったら目も当てられない』

 

残った手段としては、証拠がなければ証拠を作ればいいのだが、それにはハル君かチユリちゃんのどちらかが怪我をするリスクを負わなければならないだろう。

大勢の前で暴行を受ける。それも第三者を巻き込み、今までの虐め事件を先生に告げる事が出来れば確実に退学処分に持っていけるだろう。

だが、こんな手段を彼女に実行させるわけにはいかないし、ハル君への連絡手段なんてそもそも持ち合わせていない。

 

(そもそも、この状況を改善しようとする意志がハル君からは感じられないのが一番の問題かな?)

 

おそらくは諦めてしまっているのだろう。彼女の話と写真をたまに見せてもらうのだが、それを見て何となくだが、自分に劣等感を持っているように感じる。

チユリちゃんからは『俺にはゲームしかできないし』や『タクがいるじゃないか』などと言っていたと愚痴を聞いているし、言っては何だが、少し彼はふくよか過ぎるきらいがあり、いつも一緒にいる幼馴染が二人そろって美形とくれば、劣等感も持つのも不思議じゃない。

これらはあくまで憶測であるが、見せてもらった写真の彼は年を重ねるごとに笑顔が抜けていた。確率としては高いと思う。

話の又聞きではあるが、彼はそれを補うだけの良い所があると僕は感じている。本人でなければどれ程の苦悩なのか解らないが、少なくとも現実で会えば僕は友達になれるだろう。

 

(僕が乗り込むという訳にもいかないしな……)

 

他校の生徒がいきなりやって来て、口論の末に殴られるとなれば、校内だけの問題ではなく学校間のトラブルとなりかねないし、学校側から見れば他校まで乗り込んだ僕も悪者だ。

やる価値は無くはないが、あまりいい手とは言えない。最悪停学止まりで、ハル君への当りが強くなるだけかもしれない。

現状では手詰まり、と言うほかない。ここに何かしら一石を投じてくれる者がいれば大きく変わるのだが。

 

『直ぐ……は無理だけど、近いうちに一度学校を見に行くよ。現物の学校を見ればいい案が出るかもしれない』

 

チユリから最後にありがとうと言う言葉の後、通信を切った。

 

「ふぅ……」

 

既に時間は遅い。

学校に入るためにも色々と手順を踏まないと問題があるので、明日梅郷中に見学の申請を出して受理されたらすぐに見に行こう。

理由は、こちらに引っ越すかもしれないから下見に、と言うことにしよう。

 

「兄弟が居たらこんな感じなのかな……」

 

心配し奔走する。友達でもある事だが、まさかここまで首を突っ込むとは思わなかった。

だが、これもRKやEKと同じような理不尽な暴力、それを見過ごす事が出来ないのは長いこと続けてきた僕の信念と言い換えてもいいかもしれない。

 

「自己満足だけど、それで誰かが笑えるならね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

梅郷中にやってきた。

が、何処か校内が騒がしい。学校を終えた後、放課後にやってきた僕だが、周りは一人の噂で持切りだ。

『有田と黒雪姫はどう言う関係だ』『黒雪姫が怪我をした、荒谷は退学だ』

断片的に拾っただけだとこれ位か。

話題の中心は黒雪姫と言う愛称だと思うが、その人物に纏わる物ばかりだった。その人物が不良に怪我を負わされたと言う部分が、何とも言えない違和感を僕に抱かせた。

 

(まさか、ね?)

 

不良と虐め、このワードが僕の中でここに来た目的と合致し始めていた。

徒労に終わろうと、事件が無事に収束したのならいいが、一応見て回るだけでもしておこう。

もし別の人間の場合を考え、いつでも助けになれるように。

 

職員室で着た事を伝え、一人で回った。

一通り見て回り再び教師に帰る事を伝え帰宅する。短い時間しかなかったため、一般的にカメラが届きづらい所を探し案の定いくつかの死角を発見していくつかの対応策も思いついた。

それを伝えるかどうかは、今日連絡してみて今日あった事件についての確認を取ってからにすることにした。

あまり黒い話を彼女に聞かせるのも気が引ける。

 

 

 

 

 

 

「解決、した?」

「うん、ハルを虐めてた奴ら問題起こして退学だって。ごめんね、色々気を使わせちゃって」

 

詳しい話を聞くと、やはりあの噂になっていた事が該当するようだった。

しかし、今までのハル君からすると、ものすごく大胆な行動だった様だ。学校1有名な先輩と昼食を共にして、果ては直結を行ったと言う。

終始ハル君は戸惑っていたらしいので、黒雪姫と言うのが、押しが強い人なのだろう。

 

「今までもハル君と面識があったのかな?その黒雪姫って言うのは」

「先輩?ううん、いつも一緒じゃないから解らないけど、有名な人だからハルと一緒にいれば噂くらい出たと思うよ?」

 

虐めが無くなると言うのは良い事だ。だが、今僕はこの事が一番気掛かりだった。

直結を行うと言う事は、お互いにお互いの情報を閲覧、弄れると言う事を意味し、そこにプライバシーの制限はない。

ともすれば親子、または恋人関係でもない限り、友達であっても気安く繋いだりはしない。初めて会ったのなら尚更である。

だが、バースト・リンカーはその機密性の高さから直結で会話をする事が多く、一般と違い直結に対して抵抗がない。

 

(考え過ぎか?直結が必要なのはアプリケーションのコピーとかだけど、一目惚れと言う線も……)

 

割合長時間直結していたと言うのだから、単純に会話を楽しんでいただけかもしれない。

どうも、ブレイン・バースト関連だと過剰反応してしまいがちだ。プレイ人数が千人を超えないのだから偶々知り合いの友達が、と言う偶然の可能性は低いか。

さらに言えば、杉並の梅郷中あたりの戦区は、昔ちょうど黒のレギオンが拠点を置いていたところで、今もあまり人が寄り付かない傾向がある。

 

(まぁ、もし万が一リアルを割った所で必要のない情報か)

 

「それでね?――――」

 

難しい考えを止めて、彼女との話に集中する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――っと、何だ朝っぱらから。対戦?アッシュか」

 

学校に登校しようとした所、突然の加速と場所が移動した。

僕が予約を入れておいたアッシュが対戦を行ったのだ。

 

(何もこんな朝っぱらからじゃなくたって……)

 

朝はとても弱い。頭がクリアにならないので、半ば呆けながら対戦を眺める。

対戦相手はシルバー・クロウ。初めて見る名前だ。やはりこのゲームの性質上、入れ替わりがそれなりに激しいのだろう。

クロウは何が起きているのか解らず、あちこちに視線をやっている。完全な新人だ。

 

「メタルカラーか。ニッケル以来だな、見るのは」

 

初めて見るカラータイプだから特性が解らないが、昔見たチャートの分布では銀は確か特殊性に優れ、物理打撃系に弱かった記憶がある。

 

「あ、轢かれた……」

 

逃げるクロウを追い回すだけと言う特筆する物のない戦いだった。

一日を過ごさなければアバターは作成されないので、おそらくクロウは昨日インストールを行ったのだろう。

少なくとも、戦い方を全く知らないアバターと言うのは親からまだレクチャーを受けていない出来立てという証明だ。

 

「メタルカラーは特殊なのが多いから次の対戦に期待だな」

 

観戦するのは悪くない。自分ならどう戦うか自然と考えてしまうので少し難があるが、周りと一緒に歓声をあげて応援をする事だってある。

今対戦した子も、これから面白くなるだろうと予想し、自分の予約リストに入れておく。

アッシュのように見てすぐに解る物ではない彼にどんなポテンシャルが詰まっているのか、少し楽しみになってきた。

 

予約リストに登録を終えると現実に引き戻された。

三十分もない時間だったが、意識を覚醒させるには十分で、その日は珍しく朝から普通のテンションで登校出来た。

 

「こんな日もあるか……」

 

通常授業を終えて、帰宅する途中また加速。

観戦予約を入れている人間は少ないので、今日は珍しく多いと思ったら、またしても同じカードだった。

アッシュ・ローラーとシルバー・クロウ。

初対戦の仕返しでもするつもりなのか、歩道橋の上で屈んでアッシュの出方を待っていた。

アッシュの弱点、敵に居場所を喧伝して回ってしまうと言うあのバイクの騒音で距離を測っているのだろう。

そして、初撃を奇襲攻撃で上空から蹴りを放った。

 

「へぇ……、結構戦いなれた親なのかな?」

 

手練れのバースト・リンカーは少ない情報から相手を倒す為に、小さな情報も見逃さない。

相当頭が回る人間でもなければ、対戦二回目で音に気が付くとは考えづらい。何せこれは格闘ゲーム、正面から戦いたがる者が多いのだ。

今朝一つも助言を飛ばしている人間がいなかった事を考えると、あの場には彼の親はいなかったのだろう。彼から聞いた情報のみで作戦を立て、彼に伝えたと言う事は少なくとも無制限フィールドに足を踏み入れた事があると思われる。

何せあそこは、エネミーが闊歩し、人すら狩りしようとする者がいる危険地帯だ。目視確認だけでなく、音、匂いまで鋭敏に感じ取らねば足元を掬われかねない。

 

初撃を入れアッシュが起き上がる前に、クロウはビルを登り始めた。

タイムアップ狙いの作戦だろう、面白味はないが実に堅実。追いかけるにはバイクを降りなければならないので、そうなってはアッシュでは勝ち目はないだろう。

 

だが、そこはハイテンションライダー。周りのギャラリーを引き込む術を既に持っていた。

壁面走行。

今朝の対戦でレベルを上げる安全圏までのポイントを得て、そのままレベルアップし、ボーナスとして壁面走行のアビリティを手に入れていた。

 

(あの時、僕のアビリティを熱心に聞いてたのは、レベルアップが近かったからか)

 

既に相当数の対戦をしている僕の情報はかなり公に知られている。

壁面走行は例に漏れず、水上走行などと言う忍者プレイする人間にとって垂涎の変わったアビリティまで所持している。知られてもあまり痛くない情報だったので教えたのが、まさか早々に習得してくるとは予想外だ。

動揺を隠せないクロウとは対照的に、ギャラリーは新技披露に大盛り上がりである。

狭いビルの屋上でエンジンを嘶かせ、クロウはそれを必死に避けていた。これ以上は今朝の焼き直しになると思われたが、さらに予想を超える芸当をクロウがして見せた。

一瞬の隙を付き後輪を持ち上げ、アッシュのバイクを封じて見せた。

その後はただの肉弾戦。

力の全てがバイクに向いているアッシュでは真面に打ち合う事が出来ず、クロウの勝利で終わりを迎えた。

 

「珍しいカラーであるだけじゃなく、結構機転も利くみたいだ。成長株かな?まだポテンシャルの全てを引き出してないのに」

 

今日のクロウの試合。良い戦いであったが、頑丈なのはカラー特有だし、近接格闘も専門に比べると威力などで見劣りする。

もっと彼特有の何かがある気がして仕方がない。

アバター毎、人毎に全てが違うこのゲーム、全て自分で発見しなければならない。

最悪自分の事が何も解らずに退場する、なんて言う事もあり得る。まずは彼が自分の唯一無二の力を得られることを期待しよう。

 

 

 

 

アッシュとクロウの対戦を見終えた僕は、いつも通り帰宅する。

両親は共働きのため不在であるので、自分で出来るだけの家事を済ませておく。

昨日の今日なのでチユリちゃんからの連絡もない。勉強も終え、久しぶりにのんびりと過ごす事にした。

最近は僕と言う抑止力が上手く働いているのか、EKを行う人間は目に見えて減り、頻繁に無制限フィールドにはいる事も少なくなった。毎回十ポイントも消費し、その都度エネミー狩りで大変だったのでこう言う知らせは有難い。

さすがにPKは場所を特定する事も出来ないので対処できないが、上々の成果と言える。

中には自警団的な組織、レギオンを作ってくれないかと言う人まで現れたが、生憎と僕は誰かの上に立つ事が出来るタイプじゃない。

誰かの生殺与奪件を持つなんてどうにも胃が痛くなる話だ。

僕はただ只管に速く、気に入らないモノがあれば正面からぶつかる、あまりにも利己的な人間だ。

二年前、あの神獣と相対した時にその事を痛感し、受け入れ、トラウマを再認識して一生付き合っていくと決めたのだ。

 

「……ん、もうこんな時間か……」

 

一人で思考に耽っていたら、時間は既に八時を回っている。

そろそろ二人が帰ってくる時間だ。作っておいた料理を温めなおし、風呂も沸かしておく。

寝る前に自分の車いすを整備して眠りにつく。

 

 

 

シルバー・クロウの初対戦から二日目の今日、僕は真の意味で彼を心に刻み込むことになる。

また早朝から観戦予約対戦が起動し、僕は見知らぬ場所に投げ出された。

ステージは煉獄、このステージは個人的に好きではないが、逆に目を瞬時に覚まさせてくれる。

対戦カードはシルバー・クロウとシアン・パイル。

シアン・パイルと言う名前には聞き覚えがある。レオニーズの期待の新人、幹部候補とまで目されていた人物だ。

対戦しているシアン・パイルはクロウのおよそ一回りほど大きく、一番目を引くのはその腕に装備された杭打機だろう。それは初見の時から付けられており、おそらく初期装備だと思われる。

その装備の特徴は、彼がシアンと言う濃い青の近接型にも拘らず、装備の必殺技が中距離であることがあげられる。さらに彼が持つもう一つの必殺技も、胸部からの射撃武器だと言うのだから彼は突起物に並々ならぬトラウマを抱えている事が窺える。

あまり詮索するような行為はマナー違反であるが、あそこまで露骨な現れ方をしているので、気になってしまうのもまた事実である。

 

最近は勝率が芳しくなく、だんだんとその評価を落としているが、一年でレベルを4に上げた彼の戦闘センスは悪くない。むしろ素晴らしいと称賛を送っても良いと僕は思う。純粋な近接武器を手にしたら化けるであろうと確信させるほどに。

自身のカラーとは半ば外れた装備で幹部候補まで一度は登ったのだから、その考えは僕だけが持っている物ではないと思う。

 

遠目では何を言っているのか解らないが、知り合いなのか激しい口論をしている。

速度重視のクロウと頑丈な体で耐え一撃を狙うパイル。相性はそれほど悪くないが、やはりレベル差は如何ともしがたい。

最初に目に見える位置にクロウが現れた時、既にその片腕は消失していた。戦闘は屋内から始まったのだろう。

その身軽な動きで翻弄していたかのように見えたクロウだが、その固いボディにダメージは薄く、逆にゲージを与える羽目になってしまった。

 

大きな音を立てて天井の一部が壊れる。

煉獄ステージはオブジェクト破壊などは極めて難しいのだが、彼の杭はそれを粉砕して見せた。

その杭の先端にいたクロウは、それに押し込まれながら建物の奥深くまで沈んで行った。既に体力ゲージは残り僅かだが、これで終わってしまうのか。

残り時間も五分前後しか残っておらず、今から駆け上がっても体力差を覆すのは難しいだろう。

 

(僕はまだ君に期待しているんだけどね……)

 

建物の上から飛び降りて、誰にも気が付かれる事なくクロウが沈んで行った建物の中に入っていく。

上からパイルの声が聞こえてくる。ポイントを使いすぎて焦っている事が、彼の声から拾う事が出来る。

ポイントを回復させるのにはクロウと戦っても旨味はない。焦っているならば尚の事同レベル以上を狙わねばおかしい。

 

「位置情報的にはここは病院、しかも戦闘の開始場所がこことくれば……」

 

この建物の中のどこかに、彼と同レベル、または各上の存在がいるはずだ。しかも怪我か病気か、とにかく病院に居なければならないほど体を病んでいるはずなのだ。

クロウが必死になっている所を見ると彼の親だろう。

手練れで、杉並に拠点を置いているバースト・リンカー、かつての黒の王が頭を過ぎる。

彼女には子がいたと言う話は聞かない。

 

「今は関係ないか」

 

そう、今は関係ない。僕が見たいのは彼の親ではなく、彼がこの後どうするかだ。

ゲームを初めて長いが、彼のように特徴のないタイプは初めてだ。それ故に期待してしまう、彼が開花した時に何を見せてくれるのかを。

 

最下層まで到達し、僕はシルバーの輝きを発見した。

それは心意の輝きに似ていた強烈な発光。彼の背中から漏れ出る光は止まらず、それに導かれるようにして鋭利な剣のようなものが生えてきた。

それは幾重にも重なり、今まで誰もが望んで掴む事のなかった偉業が誕生した。

 

「……翼。綺麗な銀翼だ」

 

体に駆け巡る感動、鳥肌が立つほどの光景、ワクワクする気持ちが抑えきれない。

 

「飛ぶのか?空を!」

 

生えた銀翼が振動を始める。

それが空間をも振動させるのを肌で感じ取り、それが一つの目的の為だけに生まれた事を理解した。

彼の気合の籠った掛け声と共に、急加速して空を翔る。

 

「は、はは、ハッハッハッハッ!!飛んだ!飛んだぞ!期待以上だ!」

 

柄にもなく燥いでしまった。だが、それもしょうがないと自分でも思う。

完全飛行型、疑似飛行が可能な物なら幾人かいるが、長時間飛べるものは存在しない。

この加速世界の歴史に新たに生まれた伝説の目撃者となった。これを見て興奮を覚えない人間はいないのではないだろうか。

 

「あぁ、本当にな。私の予想も超えて、シルバー・クロウはこの加速世界を震撼させた」

「君は……?」

 

そこに居たのは可愛らしいと言うよりも綺麗と言う形容詞がよく似合う女の子。

黒で統一されたドレスなどが、さらに彼女を引き立てている。それだけの美しさを持っていながら、作り物めいた違和感も感じられない。彼女のリアルの姿を模して造られているのかもしれない。

 

「ふむ、ソニックか、久しいな。偽装アバターを見られたが、まぁ、お前ならば構わんだろう」

「この声……、ロータス、なのか?」

「ああ、私は紛れもなくブラック・ロータス本人さ。ん、悪いなソニック、私はクロウを追いたい。機会があればまた話そう」

 

そう言って所作までもどこかお嬢様めいた美しさを感じさせ、エレベーターに乗り込んだ。

 

「ソニック、お前も聞いていろ。私と、私の子がこれからこの加速世界を変えていく。その第一歩、ネガ・ネビュラスの復活を」

 

不敵な笑みをたたえて階上へと登っていく。

顔など見た事ないはずだが、そのいかにも自信にあふれた笑みは、ロータス本人だと確信させるほど好戦的な物だった。

 

上空から聞こえる何処までも澄んだ声が、今復活の産声を上げた。

停滞していた世界が動き出す。少しずつだが前に進む。

そして、それは僕の時間も……




お疲れ様です。
かなり駆け足の展開となってます。
原作一巻はどうしてもシアン・パイルとの戦い、翼誕生と言う悪い言い方をすれば規模の小さな戦いですので絡ませ辛いです。
次回からもう少し原作組と絡んで展開を予想しております。

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