朝、俺は焼いたパンの上に焼いたハムと目玉焼きを乗せ、レタスを敷いてある皿に乗せた。妹の朝飯はこんなもんで良いかな。
さて、次は俺の朝飯だ。俺のは………時間ないしパンだけで良いや。続いて奏を起こしに行かないと。
朝飯のパンと味噌汁と牛乳を食卓に運ぶと、階段を上がって奏の部屋をノックした。
「奏、起きてる?」
「……………」
わけないか。奏の部屋に入った。
まずはクローゼットから制服を取り出して椅子に掛けると、ベッドの中の奏の肩を揺さぶった。
「奏ー。朝だよー」
「んみゅっ……」
「ほら、奏。遅刻するぞー」
「………あと5分……」
なんてベタなことを………。とりあえず、そのまま体を揺すり続けた。
「奏ー。起きろー」
「………んー……ふわあぁああ………」
しつこく揺すったり布団を捲ったりしてると、ようやく起き上がった。
欠伸をしてから小さく伸びをして、寝癖だらけの頭のままこしこしと目を擦るとぼーっとした目で俺を見上げた。
「……兄さん?」
「うん。おはよ。制服、そこに掛かってるから。着替え終わったら下に来てね」
「っ!な、なんで勝手に部屋に入って来てるのよ⁉︎しかもクローゼット開けたの⁉︎」
「別に良いでしょ。じゃ、俺は下にいるから」
「あっ……!……まったく、デリカシーってものが無いんだから」
そんな奏の呟きを背に、俺は下に降りた。
テレビをつけて、食卓で待機すること数分、ようやく奏が降りてきた。
「あ、来た。飯冷めるぞ」
「ふわあ……うん、いただきます……」
女の子が人前で欠伸するなよ……。いや、まぁ家の中だし良いけどさ。
お寝坊さんはようやく席に着くと「いただきます」と言ってパンを食べ始めた。しばらく咀嚼してると、俺の飯を見て怪訝な表情を浮かべた。
「……兄さんのそれだけなの?」
「そうだけど?」
「もっと食べなくて良いの?」
「良いの。作るの面倒だし」
俺は卵が食えない。だから、いつもは肉をテキトーに焼いたりとかで二人分作るのだが、今日はほんの気まぐれで奏の好きなものを作ったわけだが、朝は2種類もおかずを作る時間はない。弁当も作らなきゃだし。
で、なんかもう面倒だし奏を起こさなきゃいけないとか色々立て込んでたのでやめた。
「……兄さんがそう言うなら良いけど」
「ならいいの。気にせず食べなさい」
食パンをさっさと食べ終え、味噌汁と牛乳も飲み終えた。
食器を片付けて歯磨きをしてる間に、奏も食べ終えて歯磨きを始めた。
歯磨きを終えようとすると、同じタイミングで奏も終えようとした。それはおかしい、俺の方が先に歯磨きを始めたのに、同じタイミングで終わるということは足りないということだ。
「奏、まだ早いよ」
「平気よ。私の電動だし」
「良いから少し待ってて」
口をゆすいで、奏の歯ブラシを持った。
「ち、ちょっと……何を⁉︎」
「口開けて」
「な、何よ⁉︎わ、分かった!自分でやるから……!」
「ダメ。誤魔化しそうだし。虫歯になったら痛いし金も掛かるんだから」
「っ……!」
「ほら、あー」
「…………あ、あー……」
よし、開けたな。奏の口の中を覗き込み、電動歯ブラシで磨き始めた。
綺麗な歯並びだなーとか思いながら歯ブラシを擦る。
「ふぁっ、ふあっ……ふぁあっ、あ……!」
「ほらぁ、奥歯にカスが残ってんじゃん」
「っ………!」
「今日からまた毎日、俺が歯磨きしてあげるよ」
「ひ、ひらふぁふぁいふぁよ!」
「え?なんだって?」
「ふぃらふぁいっふぇ!」
「歯磨きしてるんだから後にしなさい」
「ふぁ、ふぁへがひぃふぁふぉ……!」
まったく、まともに歯磨きも出来ないんじゃ、俺が電動歯ブラシを買ってやった意味もない。
ようやく歯磨きを終えて、奏は口をゆすいだ。なんか知らないけど顔を赤く染めていた。
「どした?熱?」
「だ、誰の所為だと思ってるのよ!」
うおっ、怒ってる。腰に手を当てて、人差し指で俺の胸を突きながら文句を言ってきた。
「子供じゃないんだから歯磨きなんてしてくれなくて良いわよ!兄さんが聞いてきたから『いらない』って答えたのよ!大体、高校生にもなって歯磨きしてもらったら誰だって恥ずかしいに決まってるじゃない!」
え、何?急にまくし立てて来て………。
「ご、ごめん……?」
「まったくもう……学校行くわよ」
「……あ、奏待って。弁当」
「ありがと」
俺から受け取った弁当箱を鞄の中にしまい、玄関を出た。
ー
時早くして放課後。学校を出ようとすると、後ろから肩を叩かれた。多分奏かな?と思ったら奏だった。
「兄さん、一緒に帰りましょう?」
「良いけど……今日は事務所は?」
「今日はオフよ」
「そっか。スーパーで買い物して行くけどいい?」
「いいわよ」
まぁ、ダメだったら一緒に帰れないからね。
しかし、うちの妹がアイドルになったとはどうも実感湧かないんだよなぁ。テレビでも奏が出てるのはよく見るけど、でも今まで通り家で普通に暮らしてるから、あまり変化を感じない。
まぁ、アイドルを始めてから少し明るくなった感じはするけど。良い傾向だ。
スーパーに到着し、カゴを持った。
「奏、何食べたい?」
大体、一緒に買い物する時は奏の希望を聞くようにしている。俺は食べたいものとかあんま無いし、せっかく作るなら奏に喜んでもらいたいから。
普段ならすぐに要望を言うのに、今回はそうならなかった。奏は頬を染めながら呟くように言った。
「……ねぇ、兄さん?」
「何?」
「今日は、その……たまには、私が兄さんに料理作ってあげたいんだけど………」
「え、なんで?」
「なんでって……そういう気分なだけよ」
明確な理由がない……。そういう時って大抵の場合、気を使ってる時だ。まぁ、確かに毎日家事をしてるのは俺だから気を使うのも分からなくはないんだけど、でも学校もアイドルも両立して頑張ってる奏に家事までやらせるわけにはいかない。
「いいよ。料理って大変だし、奏もたまにのオフくらいゆっくりしたいでしょ?」
「えっ、いや……」
「たまにはゆっくりしな」
「うっ……わ、分かったわよ……」
うむ、素直が一番だ。
「で、何食べたい?」
「鍋で良いわ」
「唐揚げが食べたいのね」
「な、なんで分かるの⁉︎」
「少しでも調理が楽な奴を選ぼうとしてる時の奏はすぐに分かるから」
「………なんでそういうのは察せるのにさっきのは分からないのよ」
「? 何?」
「何でもないわ」
よし、じゃあ鶏肉でも見に行くか。この時間だと、物によっては半額になってるだろうし。
何故か肩を落としてる奏と一緒に肉コーナーに向かった。鶏肉……お、安いのあるじゃん。これなら二つくらい買える。
「奏、あとは何食べたい?」
「あとは何でも良いわ」
「ああそう」
なら、後は野菜と味噌汁と白米で良いかな。むしろ十分だろう。
次は野菜売り場に向かった。
ー
帰宅し、洗面所で手を洗うと、ついでにお風呂を沸かした。風呂場の中のボディソープが空になってるのに気が付いて入れ替えると、続いてすぐに着替えてラフな格好になるとワイシャツとハンカチを洗濯機に入れた。
台所に向かうとお米を炊いでから奏と俺の鞄から弁当箱を回収し、流しに出すと調理に取りかかり、ようやく奏が不満そうに俺を見てるのに気付いた。
「? 奏、どうしたの?」
「……兄さん、たまには私にも家事をやらせてよ」
「いや、いいよ。ゆっくりソファーで休んでな。あ、コーヒー飲む?」
「そ、それくらい自分で出来るから!」
「そう?」
奏はコーヒーを淹れにいったので、俺はそのまま調理を続けた。
なんか、最近の奏はやけに家事をやりたがるなぁ。俺、そんなには疲れてないんだけど。
まぁ、今日がオフだからってのもあるかもしれないけど……。
「ま、気にしなくて良いか」
あまり気にせずに料理を始めた。
唐揚げを作り、野菜を炒め、味噌汁は朝の残りを注ぎ、ライスをお茶碗に盛り付け、牛乳を入れて料理完成。
奏がテレビを見てる間に料理を運んだ。
「よし、奏。ご飯にしようか」
「っえ?もう出来たの?」
「まぁね。冷めないうちに食べよう」
二人で飯を食べ始めた。
晩飯の後は、奏が風呂に入ってる間に洗い物を済ませ、机を拭き、奏が出たら洗濯機を回しながら俺も風呂に入り、ようやくのんびり出来る。
ソファーでテレビを見てる奏の隣に座った。
「何見てんの?」
「ん?なんかやってた番組」
「ふーん……」
なんだそれ。ま、少し見てみるか。と、思ったら左上に「どの世にも奇妙な物語」とあった。
今やってるのはよく分からんけど、アイドルの話のようだ。一人、仲良いと思っていた子ともう一人の子の話だが、実力と人気の差によって主人公がもう片方を妬むようになる。
やがて、主人公の方がもう片方を殺そうと決意し始め……おい、なんでそうなる。なんかバカらしくなって見ていられなくなってると、奏がカタカタと震えるのに気づいた。そうだ、そういえばアイドルだった。
その直後、主人公が返り討ちにあった。どうやら、もう片方の方はデビュー当初から主人公を嫌っていたみたいだ。なので、最初に仲良くなり、差を付けて、嫌われた頃に返り討ちにしてやることだけを考えていたらしい。本当に奇妙な物語ですね……。
「………なんやこれ」
思わず目を腐らせてると、いつの間にか俺の手を隣の奏が握っていた。
その握る力は強いが震えている。まぁ、アイドルからしたら怖く感じたのかな………?
「奏、大丈夫?」
「………………」
「奏?」
「っ?な、何っ?」
「いや、大丈夫かなって……」
「へ、平気よ。子供じゃないんだし、テレビに影響されるなんてありないわ」
「そ、そう?」
「私、もう寝るからね」
「あ、歯磨きしなよ」
「分かってるわよ」
ていうか、俺も歯磨きしよう。
二人で洗面所に向かった。奏が歯磨き粉を歯ブラシに乗せようとするが、手が震えて上手くいかない。
ようやく終えると、今度は俺の番だ。二人で並んで歯磨きをした。
「………」
「………」
顔色悪いなー。本当に大丈夫かな………?
歯磨きを終えて部屋に戻るため、階段を登った。
「じゃあ、おやすみ」
「………あー、奏」
部屋に入る直前、少し躊躇ったが奏に声を掛けた。何とか奏の自尊心を傷付けないようにしないとな……。
「さっきのテレビさ……怖かったから、一緒に寝てくれない?」
これがベストかな?
奏は少し驚いたように眉を釣り上げると、控えめに頷いた。
「……………良いわよ」
「良かった」
二人で奏の部屋に入った。お互い、黙り込んだまま布団に入り、大人しく目を瞑る。
さっさと寝ようとすると、奏は俺の手を握ってボソッと呟いた。
「……………ありがと」
そう言うと、奏も目を閉じた。