翌日、俺は目を覚まして朝食を作り始めた。今日はもう一人、妹みたいな人がいる。年齢的には歳上だけど、妹みたいなものだろう。まぁ、1人増えるくらいどうってことはない。
とりあえず、二人分の弁当を作ってから俺は朝飯を作り始めた。うーん……何にしようかな。鷺沢さんが喜びそうなものが良いよなぁ。朝だから余り重いものではなくて………うん、フレンチトーストとかどうだろうか。
「よし、決めた」
……俺は卵食えないんだけどね。まぁ、二人にはちょうど良いだろうし、別に良いだろう。
材料は………食パン、卵、バニラエッセンス、牛乳、砂糖、バター、うん。全部ある。早速作り始めた。
さっさとフレンチトーストを完成させると、サラダと味噌汁も作って食卓に並べた。俺の分の朝飯は……お茶漬けで良いかな。楽だし。お湯を沸かしてお茶漬けを完成させた。時間が経つとふやけちゃうから、早く二人を起こさないと。
その前に、昨日のうちに乾燥機にかけといた鷺沢さんの服も持って行かないと。
服を持って、奏の部屋をノックした。
「奏、起きてるか?」
「………あ、潤さん。奏さん、まだ起きなくて……」
やはりか。
「入りますよ?」
「………へっ?で、でも……まだ、私……寝癖とか全然直してなくて………!」
「………あー、じゃあ鷺沢さんの私服、俺今持ってるんで、部屋の前置いておきますね」
「………すみません、わざわざ」
「着替え終わったら、奏の事は放っておいて良いので下に降りて来て下さい」
「………へっ?でも、奏さんも今日は……」
「俺が起こした方が早いと思いますから」
「………わかりました」
それだけ言って、一階に降りた。しばらく待ってると、鷺沢さんが降りて来て、チラッと扉の隙間から覗くように見て来た。
「おはようございます。朝食出来てるので、先に食べてても良いですから」
「へっ?い、いやっ……そんな、先に食べてるなんて………」
まぁ、そう言うと思った。その辺は本人の自由だから俺が言う事は何もない。ただ、奏を起こすのは少し時間がかかるから、先に食べてて良いという許可を出すことに意味があった。
で、とりあえず奏の部屋に向かう。一応、ノックをするけど返事はない。予想通り。部屋に入ると、奏はやっぱり寝ていた。
「奏、起きな。仕事でしょ?」
「んっ………やー」
「やー、じゃないよ。鷺沢さん、もう下で待ってるよ」
「うん……ん?ふみ、か………?」
「そうだよ。昨日、泊まりに来たじゃん」
「……………」
直後、ガバッと起き上がった。どうやら、アイドル達には朝弱い事を隠してるようだ。
「はっ、早く起こしてよ!」
「いや、どちらにせよ鷺沢さんにはバレるでしょ。ほら、それより起きて」
「き、着替えるから出て行って!」
「分かったよ」
まぁ、少しだらしない部分を隠してるならさっさと終わらせてくれるだろう。
リビングに戻ると、やはり鷺沢さんは律儀にも待っていた。
「すみません、今来るので」
「………いえ、私は泊めてもらっている身ですので……。でも、奏さんも家だと、あんな感じなのですね……」
「まぁ、完璧な人間なんていませんから」
「……………」
「………な、なんですか?」
「……いえ、なんでも」
まるで「お前のことだよ」みたいな視線が来たが……まぁ良いか。しばらく待ってると、奏が降りて来たのか、階段を下りるの足音が聞こえて来た。
「おっ、お待たせ文香」
「……おはようございます、奏さん」
挨拶だけ済ませて飯を食べ始めた。ふやふやになったお茶漬けを食べてると、鷺沢さんがじっと俺を見ていた。
「………なんですか?」
気になったので聞くと、言おうか言うまいか躊躇った後に控えめに聞いて来た。
「……その、潤さんはお茶漬け、なのですか?」
「? はい」
「………私達は、フレンチトーストなのに……?」
「俺、卵食べれないんですよ。二種類も作る時間ないので、毎朝自分の分はこんな感じになっちゃってますね」
「兄さん……。兄さんが卵食べられないのなら、別に無理して使うことないのに………」
「いやいや、卵は栄養あるし、朝飯には持って来いなんだよ。俺の事は気にしなくていいから、さっさと食べなよ」
「気になるのに………」
「奏、いつもより起きるの5分遅かったから、いつもより5分推してるよ」
「嘘………⁉︎」
嘘だけど、あまり気にして欲しくないのでそういうことにしておこう。朝、家を出る前の時刻は奏は把握してないから、いくらでも誤魔化せる。
俺は一足先に食べ終えて、食器を流しに戻した。歯磨きをしてから財布とスマホとWAL○MANをポケットに入れて出掛ける準備を済ませた。
二人の準備が終わるまでソファーで待機。15分ほど待ってると、準備が終わったようで、二人が忙しなく家を出ようとした。
「奏、待って弁当!」
「あ、そうね。ありがとう」
「それと、鷺沢さんも」
「ふえっ?わ、私の分も、ですか………?」
「はい。奏の分だけ作るのはなんか気が引けてしまいまして」
「あっ、ありがとうございます……!」
「は、はい……?」
そんな感動するほどの事だったのかな………。
「それと二人とも、送って行くよ」
「「へっ?」」
そう言うと、俺も玄関に向かってキーボックスの中の車の鍵を手に取った。
「鷺沢さん、昨日と同じ服ですよね?周りの目とか気になるなら着替えて行ったほうが良いと思いまして」
「い、いえそんな大丈夫ですよ。せっかく洗濯していただきましたし」
「いえ、どちらにせよ奏が5分遅れたので車で送らないと間に合わないんです」
「私の5分ってそんなに貴重だったの⁉︎」
「で、でも……流石に、そこまでしてもらうのは………」
………ふむ、そこまで引かれたらこちらも引くしかないか。
「分かりました。では、そのまま事務所までお送りしましょう」
「………申し訳ありません。お手数をおかけして」
「いえいえ。俺もたまには運転しないと運転の仕方忘れちゃいますから」
三人で家を出て、車の鍵を開けた。鷺沢さんと奏は後ろに座り、俺はもちろん運転席。車を発進させて事務所に向かった。
「………潤さんは、免許証も持っているんですね」
「はい。奏を送るのには車が最適ですから。誕生日から通い始めました」
「……かっ、奏さんが羨ましいです……。潤さんのような、お兄さんがいて………」
「そんな事ないですよ、当たり前の事です。ていうか、俺は鷺沢さんより年下ですよ?」
「…………わっ、私も……潤さんの家族に………」
「文香?何言ってるの?」
「………いえ、なんでも」
よく分かんないけど、まぁ歳上の女性に評価されてるのは悪くない。あとなんで奏は不機嫌なの?
事務所に到着し、二人を降ろした。
「じゃあ、頑張って」
「うん、じゃあね」
「はい。……お世話に、なりました………」
「いえいえ」
二人が降りて事務所に入って行ったのを確認すると、車を走らせた。よし、帰ろう。
車を発進させ、音楽を聴きながら自宅に向かう。家の掃除でもしようかな。………あ、でもその前に今日の晩飯の材料買って帰ろう。そう決めて、大型のスーパーに向かった。日曜の市とか何とかで野菜が安いんだ。
交差点を曲がってスーパーの駐車場に入って車を止めた。何にしようかなー晩飯。鍋……いや、奏は確かドラマの撮影だから疲れて帰って来るはずだ。少し気合い入れよう。
奏は基本的に嫌いなもの無いし、何でも良いはずだ。なら、俺の気合いによって全てが決まる。………よし、とりあえずイタリア料理にでもトライしてみるか。
思い付くのはピザとパスタ……というかサイゼにあるようなものしか思い付かない。
「ビュッフェスタイルみたいな感じにしよう」
考えてみれば、昨日の中華料理だって少しずつ作ってみんなで摘む感じにしたし、それでも平気でしょ。
そういえば、前にも食材買い溜めしたし、あれで案外作れそうな気もする。パスタとかだけ買っていけば良いかな。
買ったものを思い出し、必要なものを頭の中で整理しながら食材をカゴに入れて購入し、スーパーを出た。流石に記憶だけを頼りに買い物してたから少し時間かかったが、まぁ仕方ないだろう。
………午前中からお金をだいぶ使ってしまったなぁ。まぁ、奏のためだし仕方ないか。
家に帰って、車を止めて部屋を掃除した。一通り掃除を終えて、洗い物も終えてすることが無くなった所で、昼飯の時間になった。
「……………」
たまにはラーメンでも食べに行こうかな。
家を出て、近くの駅に向かった。この辺はラーメン屋が多いから、昼飯に何処の店を使うのかよく悩む。けど、今日はもう決まってる。最近オープンした醤油ラーメンの店だ。
そこに向かう途中、近道の公園を通った。すると、何か揉み合いをしてるのが見えた。片方はニット帽にサングラス、もう片方はスーツだ。いや、揉み合いというより喧嘩……いや、もっと上だな。プロの格闘術……どこか演技臭いが、一般人の喧嘩ではないのは確かだ。
「…………」
その直後だ。スーツの方が倒された。蹴り飛ばされ、ジャングルジムに背中をぶつけた。そして、帽子の方が懐からナイフを抜いてスーツに向けた。
直後、俺の身体は動き出した。地面を蹴って帽子の方に走ると、気付いた男はギョッとしてこっちにナイフを向けた。それに合わせて、俺は右手を高速で動かし、男の前で手を止めた。ゆっくりと手を開くと、カランとナイフの刀身が落ちた。
「…………嘘」
そう男が声を漏らした時には、俺の右脚のハイキックが男の顔面に直撃していた。後ろに吹っ飛び、鼻血を出して倒れる男。気絶したのを確認しようと男に近付いた時だった。
「カット、カーット!なんだお前は⁉︎」
何処かから声が聞こえた。というか、今の台詞で俺が何をしたのか察してしまった。多分、ドラマの収録だったんだろうなぁ。だから、普通に拳銃なんてあったんだ。
だが、察した頃にはもう遅い。いかにも監督っぽい男がこっちに走って来ていた。
「……申し訳ありませんでした。まさか、撮影中だとは知りませんでした」
「申し訳ないで済むか!………あーあー、大栗くん気絶してんじゃねぇか……!」
そりゃ、本気で蹴ったからな………。やばい、警察沙汰じゃ済まないかも………。最悪、退学に………。大学入学するには高校卒業は必須だし………。いや、まだお先真っ暗と決めるのは早いか。学歴関係ない職について頑張れば何とか………。
「…………あれ?兄さん?」
そんな時、聞き覚えのある声が聞こえた。振り向くと、奏がポカンとした様子で俺を見ていた。
………あ、察した。これ、奏の出てるドラマだ。
「………なんで、兄さんがここにいるの?」
「あー……ごめん。ラーメン食べに行こうとしたら、スーツの人が殺されそうになってたからつい……」
やばい、最悪……。自分だけどころか、奏の足まで引っ張っちまったか………。
自分の早とちりに全力で後悔してると、監督が口を挟んで来た。
「………んっ?奏ちゃんのお兄さんなのかい?」
「はい。妹がお世話になっています。速水奏の兄、速水潤といいます」
少しでも相手の印象を悪くしないように頭を下げて挨拶した。すると、監督っぽい人はスタッフを数人集めた。
「………どう思う?」
「イケメンですね」
「体力もあるな」
「ナイフの刀身を素手で折って成人男性を一撃で気絶させてました」
「リアル兄妹っていうのも?」
「中々、評判悪くないかも」
「………………」
「………………」
なんか勝手な審査された後、監督は俺を見て言った。
「採用」
「え、何がですか?」
唖然とする中、監督に俺は連行された。