メア   作:漆黒のマカロン

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2話

私はしばらく泣いたあと、泣き腫れた目をこすりながらお兄さんに聞きました。

 

『お兄さんの名前は、なんていうの?』

 

その瞬間、お兄さんが固まりました。

お兄さんの顔は真っ青でとても苦しそうで。

息も出来ないほど苦しそうでした。

お兄さんは呼吸を落ち着かせながら教えてくれました。

 

『僕は...自分の名前が大嫌いなんだ...。呼ばれると、こんな風になってしまうから...だから、お兄さん、のままで呼んでもらいたいな』

 

『わ、分かった!お兄さん。だから、そんな苦しそう顔しないで?』

 

私は慌ててお兄さんの頬に手を当てながら答えました。

 

お兄さんは私の手を握りながらありがとう。メア。と言ってくれました。

 

『メアは、優しい子だね。』

『私は...ただお兄さんに笑ってほしかっただけだよ』

 

お兄さんは目を見開き、私に笑いかけてくれた。

 

『ありがとうメア。』

 

それからのお兄さんとの生活はまるで幸せな夢のようでした。

 

毎日美味しい食事にふかふかベッド。

殴られることもなく、好きなことを好きなだけできる。

そしてなにより私のことを『大切だ』と言ってくれたお兄さんと生活していることが、一番幸せだった。

 

『この夢が、覚めなきゃいいのに。』

『夢?』

 

私が無意識に呟いた言葉を、お兄さんは聞いていたみたいです。

 

『今こんなに幸せなのが夢みたいだから...これがもしも夢なら永遠に覚めなければいいのにな、って思ったの。』

 

お兄さんはとても真剣な顔で私の方へと向きました。

 

『メアは、自分がここにいて、僕と生活してるのが現実じゃなくて、すべて夢だと思っているのかい?...ほんとはまだ自分は、両親に囚われていると...思っているのかい?』

『ううん!例えばの話!...ほんとに幸せで夢みたいだけど、夢とは思ってないよ!』

 

お兄さんはほっとしたように笑いました。

 

『そっか。僕も、メアとの生活は幸せで、夢みたいだよ。』

『ほんと?迷惑じゃないの?』

『迷惑だなんてとんでもないよ。メアとの生活は楽しくて...僕はずっと一人暮らしだったから、家に誰かがいる温かみが...こんな幸せだなんて知らなかったな...』

 

そういってお兄さんは私を撫でてくれました。

お兄さんに撫でられるのは大好き。

優しくて、気持ちいい。

ふいに私の目は壁にかけてあるカレンダーに目がいきました。

 

『お兄さん。』

『ん?メア、どうしたの?』

『あのカレンダー、12月19日にだけ赤い丸が付いてるけど、なにかあるの?』

 

お兄さんはカレンダーを見ると、ひどく慌てた様子でした。

そして私の頭を撫でながら、上ずった声で言います。

 

『き、近所の...お祭りがあるんだ...メアと行こうと思って...印を付けておいたんだよ。』

 

私はそんなお兄さんの見え透いた嘘に、気づくことが出来ませんでした。

だって、優しいお兄さんは私に嘘なんてつかない。

私は心の底からそう信じていたからです。

 

『お祭り!!行きたい!お兄さんと行きたい!』

『そ、そうだね...2人で行こうか...メア。』

私の頭を撫でながらお兄さんは約束してくれました。

 

『お祭り...初めて行くお祭り...どんなものなんだろう...』

 

私の頭はそればかりでした。

その時のお兄さんの顔が真っ青だったことに、私は気づきませんでした。

 

 

この時私は考えてなどいなかったのです。

このお祭りが私とお兄さんとの関係を、変えていってしまうことをーーー。

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