お祭りから次の日。
お兄さんに呼び出された私は、リビングで本を読んで待っていました。
『メア、呼び出したのにまたせてすまないね』
『お兄さん!大丈夫だよ。話ってどうしたの?』
お兄さんはとても真剣な顔でした。
『メア。これを受け取ってほしい。』
そういって渡されたのは、銀製の綺麗な...ナイフでした。
『お兄さん?こんなものをどうするの?お料理でもするの?』
『メア。これは僕達が世界で一番の幸せ者になる為の【道具】だよ。』
そしてお兄さんはとんでもないことを言うのです。
『メア、これで人を裁くんだよ。』
『さ、裁く?』
『そう。裁くんだ。その為にこの【道具】は必要不可欠なんだよ。』
『さ、裁くって...どうするの?』
お兄さんは淡々と告げます。
『その【道具】で、刺すんだよ。僕らの幸せを邪魔するものを。』
私は頭が真っ白になりました。
だって...これで...ナイフで刺すってことは...つまり...
『おにい...さん?なにを...いってるの?』
『メア。いいかい?これは殺人ではない。裁きだよ。僕らが幸せになるためなんだ。』
お兄さんがなにを話しているのか、わかんなかった。
『自分の幸せを阻むものを、裁くんだ。』
『お兄さん...む、無理だよ...人を、そんな...刺すなんて.....』
『心配しなくても大丈夫だよ。メア』
お兄さんは私に言い聞かせるように言います。
『これは、僕達が幸せになるために必要なことなんだ。...メアは、幸せになりたくないのかい?また前のような...苦しい生活に戻りたいのかい?お父さんからは殴られ、お母さんからは罵倒を浴びる、愛とは無縁の日々に。』
私はお父さんとお母さんにされたことを思い出して、ぞわっと震えました。
『い、いや...いや...私...も、もう...やだよ...あんな生活には...戻りたくないよ...』
『そうだろう?そんな恐怖を取り除くために、この【道具】が必要不可欠なんだ......できるかい?メア。』
『僕達の幸せのために。』
その言葉が、私を頷かせてしまいました。
『うん。いい子だね、メア。』
お兄さんは私に優しく笑いかけました。
私はそんな風に笑顔のお兄さんが、怖かったです。
だって、これから私たちは人を...殺そうとしている。
殺人鬼になろうとしているんだから...。
ほんとは人殺しなんてしたくない...。
けれど。
『前の生活に戻るのは...もう...いやなの...』
私はナイフを抱きしめて呟きました。
私は、殺人鬼になってしまうことよりも、今ここにあるお兄さんとの生活が、幸せが崩れてしまうのがなによりも怖かった。
ーー幸せになろうねーー
お兄さんのその言葉をしんじて。
その日私は、お兄さんのために人を裁くことを決意してしまったのでした。