『メア。さっき話していた男の人は、誰なんだい?』
お兄さんと手を繋いで歩いていると突然そんなことを聞かれました
『わかんない。でも座り込んでたら大丈夫?って声かけれくたよ』
『へぇ、優しい人なんだね。』
『うん!きっと優しい人なんだと思う!』
お兄さんが私の手をぎゅっと強く握りました。
『メア...いいかい?』
『なぁに?お兄さん』
『あまり簡単に、人を信用してはいけないよ』
私はきょとんとしながらお兄さんを見つめました。
『どうして?』
『優しいふりをして、騙そうとしてくる人がいるからだよ。』
お兄さんの声は無機質でした。
『どんなに優しい人でも、簡単に信用してはいけない。優しい仮面を被っているだけで、実はメアを騙そうしている悪い奴かもしれないからね。』
『人を信じちゃいけないの?』
『そうとは言ってないよ。信用する人は、ちゃんと見極めようねってことだよ。』
『分かった!私、ちゃんとみきわめる!』
『うん。メアは聞き分けの良い、いい子だね。』
私は足を止めました。
『私が...いい子?』
『いい子って子供扱いされるのは、嫌だった?』
私はぶんぶんと首を振ります。
『違うの...。私、今までお母さんとかお父さんには「生まれてくる価値のない子」とか「死んでほしい、要らない子」とかしか言われなかったから...「いい子」なんて言われて...う、嬉しく...て...』
『メア...』
『ご、ごめんね...なんか......涙が......い、今外にいるのに...ほら、お家もうすぐだしは、はやく...いこ?』
『ちょっとごめんね。』
不意にふわっと体が浮き上がる感覚がしました。
『メア。じっとしてて。』
『え?お、お兄さん?』
そのままお兄さんは私を抱えたまま、走り出して家の中へと連れてってくれました。
そして私をソファに降ろして、抱きしめました。
『ほら。もうここならどれだけ声を上げても大丈夫だから...泣きたいなら、泣いていいんだよ...我慢しなくていいんだよ。メア。』
『お、おに...さ......うっ...あ...あ......ああああああああああああ』
私は大きな声を上げて泣きました。
生まれて初めて、泣きました。
お兄さんは私の頭を撫でながらずっと抱きしめてくれました。
『私...お兄さんと幸せになりたい...』
しばらく泣いたあと、私は鼻をすすりながらお兄さんに話しかけました。
『メア...?』
『私...お兄さんの為なら...お兄さんとの幸せを邪魔する人がいるのなら......』
私はお兄さんを見つめ、告げました。
『どんな人だって、裁いてみせるよ。』
お兄さんは目をみはりました。
そして泣きそうな顔で微笑んで、私を抱きしめる力を強くしました。
『メア...ありがとう...』
お兄さんの声は震えていて
『お兄さん...二人で、世界で一番の幸せ者になろう?』
『あぁ...メア...約束だよ』
『うん...約束。』
人を殺そうだなんて。
そんなことをいうお兄さんは狂っているのは知ってる。
分かってる。
けど、真っ暗だった私の人生に、光をくれたお兄さんと...幸せをくれたお兄さんと......私は生きていきたい。
その為なら、なんだってする。
今まで人を殺した時、手が震えて、怖くて怖くて...
でも。お兄さんの為になら私は......
お兄さんだけでなくて私ももうとっくに狂っていることも、私は自覚していました。
次の日から私は、嘘のように人を殺すことについて、何も思わなくなりました。