イナズマイレブン 〜サッカーやりたくないのか?〜 作:S・G・E
「マスターランク『プロミネンス』キャプテン、バーン。お呼びですか父さん?」
「同じく『ダイヤモンドダスト』キャプテン、ガゼル。ここに」
「よろしい、これで全員揃いましたね」
エイリア学園最強戦力の三大チーム、そのキャプテンが一堂に会することは珍しいことではない。だが、その内容が選手個人の評論会となれば初めてのことだ。
「こいつが葦川とか言う奴か。結構派手に暴れるじゃねえか」
「確かに、我らに及ばないにしても十分マスターランクに値する実力を持っている」
「彼は2年ほどサッカーから離れていたようですがね」
その言葉に先に評価を口にしたバーン、ガゼルの二人は驚きを隠せなかった。
「グラン、お前の感想はどうですか?」
最後に未だに一言も発さない赤毛の少年に吉良はといかけた。
「実力は見た通りです。でも、オレのチームには必要ありませんよ」
〜〜〜
一方その話題の人物はと言えば、用意された個室でダラけきった顔をしながらソファーにもたれていた。
「退屈だ……と言うかちゃんと運動したい」
用意された個室は生活に十分な設備が整っている。ベッドや空調の快適さは言わずもがな、ボタン一つでレストランのメニューに載っていそうなそうな料理が出て来たことには流石に創良も舌を巻いた。
(なーにが『君の練習できる時間はしばらく夜中しか取れない。すまないねぇ』だ。サッカー選手に夜行性になれとかエイリア学園闇深過ぎ……)
だが、気付いた。監視カメラで見られている。規定時間以外には当然のように部屋から出ることは許可されず。質の高い独房のようなものだ。
だからといってただ惰性で時間が過ぎるのを待つほど創良も呑気ではない。部屋の中でさっさと着替え、ウォーミングアップも兼ねてトレーニングを始めては休憩し、本番に備えている。
「やっとか、19時からしか使えないとか落ち目の草サッカーかよって」
そして夜の7時を回った瞬間に創良は駆け出した。
「さて、やりますか……ん?」
たどり着いたのは昨日と同じコート。そしてまたしても出会ってしまった。
「え、うわっ!あなた昨日の!」
オレンジ色のミドルを後ろで軽く止め、前髪の一束を強くカールさせた特徴的な髪型をした少女。
「ああ、昨日の誰か分からない女子。なんでまたここに?」
「誰だかって、私はレアン!自主練習中!分かったら邪魔しないで!」
どうにも直情的で気の強い性格らしい。だが創良からしても一日中待ちわびた瞬間だ。引き下がろうとはしなかった。
「悪いけど、俺も練習したいんだ。せめてコート半分は譲ってもらうぞ」
「え?あなたプロミネンスの追加メンバーなの?」
「プロミネンス?」
聞きなれない言葉につい素で反応してしまった。
「ハァ、あのね?マスターランクチームはそれぞれ決められたフィールドしか使えないの、そんなことも知らないわけ?」
「…………初耳だ」
何が初耳かと言われれば全てだが、プロミネンスとマスターランク。創良の知らないキーワードが続々と出てくる。
「分かったらさっさと帰って、ここのキャプテンは気が短くて余所者厳禁だから」
「そう言わずに少しぐらい使わせてくれよ。お互いこんな時間にここにいるんだから何かの縁と言うことで……駄目か?」
完全に初対面というわけではないが互いに心象が良いというわけでもなく悪いというわけでもなかった。
「もし見つかったら脅されたって言うから」
「よし決まり、見つかるまでは誰も悪くないということで。俺は『グクリ』だ、よろしく」
最終的な折り合いを付けて二人は同じフィールドで練習を始めた。
(マスターランクと言うからにはやっぱりイプシロンよりも格上なわけか……雷門はどこまで踏ん張るかな?)
「くそッ!また失敗した!」
試験の時に使われていたロボットを相手にそれぞれの特訓が繰り広げられる。
創良改めグクリは三体を相手にボールをキープし続ける。一方でレアンは一体のロボットを相手に効果的なドリブルの練習。だがレアンは上手くいかないのか仕掛けてはボールを奪われている。
「そりゃあそんなドリブルは取られるよ」
「は?いきなり何?」
横槍を入れられレアンは露骨に不機嫌になる。
「フェイントかけてるつもりだろうけど直前の目線でバレバレ。対策されるに決まってるよ」
「え、嘘……」
DFとしての感覚で見つけた欠点。それを克服出来なければ一生そのままだ。どうすればいいのか考え込むレアンにグクリが手本の一例を見せる。
「どうしてもまだ見る癖が抜けないなら相手の視線を自分から外らせばいい。こういう風に、なっ!」
ドリブルで交差する直前にボールを浮かせて視界を遮り一気に斜めに駆け抜けた。その様子を見てレアンは……
「私とタイマンで勝負して」
「……素直過ぎないか君?」
直情的であることは必ずしも悪いことではない。かの円堂守のように精神的な面では大きな美点となる。レアンにしても苦手としているドリブルの練習を怠っていないことからそれは証明できている。
そしてそれから3時間丸々使い、500回を超えるほどのドリブル勝負を繰り返していた。もちろん機械はお払い箱、生身の人間同士での鍛錬での経験値は比べ物にならないほど大きい。
「ッ!そこっ!」
「あっ」
通算521回目にしてついにレアンがグクリを抜き去った。
「プハーっ……出来たぁー!」
「よ、よかったね。ふはっ、もう無理限界……」
二人とも体力の限界で床に寝転がって休息を取る。
「あ、ありがと。何とか掴めた気がする。あ、あはは」
「き、気がするじゃないよ、さっさとモノにしてくれ。本当に疲れた。あー本当にははは」
二人とも汗が止まることなく滝のように噴き出している。だがその顔は笑っていた。
「それじゃあラストに……ん?」
『おーい杏ー!そろそろ戻らないと見つかるですよー!』
クールダウンに軽く走るように促そうとしたがどうやらレアンのチームメイトが呼びに来たようだ。
「仕方ないか、それじゃあ」
「ちょっと待て、『あん』が君の名前か?」
グクリ、いや創良がふと気になったフレーズに突っ込む。容姿はもちろんのことだったが明らかに日本人の名前だ。最早創良の中ではエイリア学園は宇宙人のコスプレをした集団という認識になった。
「蓮池杏。さようなら」
「葦川創良。またいつか」
それはそれ、しっかりと本名で自己紹介を交わすとそれぞれの部屋に戻っていった。
〜〜〜
「あー疲れた」
口ではやつれたように言いながらも杏の顔は達成感のような物で溢れていた。それを傍目から見ていた華が聞き出そうとする。
「杏、なんか機嫌がいいですね」
「え?そう見える?」
「露骨です。昨日私の愛読書を投げつけた暴力女とはまるで別人です」
「う、それはごめん」
一日経って振り返れば非は明らかに杏の方にあった。落ち着いた杏は謝るしかなかった。
「そういえばマシンは使ってなかったみたいだけどどうやって練習を?」
「へ?ああいやあれは最後のクールダウンだから!ね!?それ以外の何物でもないから!」
創良と練習していた事実を何とか隠そうと必死になる。もしも見慣れない男と二人で練習など知れ渡ればどんな噂が流れるか分かったものではない。
「わわ分かったですからぶんぶん揺らさないでください」
バレそうになったら創良一人に罪を被せると言った杏だったが結局は色々な思惑が重なって庇う形になった。
〜〜〜
「あー疲れた」
どこかの誰かと異口同音の言葉を吐き出しながら杏、というよりは女子のサッカー選手というものについて考えていた。
(リカといいあの財前総理の子供といい、女子サッカーってブーム来てるんだな)
しかしそこから深く考えないあたり創良もかなり疲れているようだ。そんな時に狙いすましたかのように部屋の電話がなる。
「もしもし?」
「やあ葦川くん。いや、これからはグクリと呼ぶべきかな?」
エイリアと創良の唯一のコネクションである研崎だった。無碍にすればどうなるか。しかし普段からの胡散臭さと自身の疲労もあってまともに会話をする気にならなかった。
「用件だけ教えてもらえますかね?」
「喜んでくれ、君が雷門と戦うまでの数日間君が練習できる環境が整った。君にはマスターランクと呼ばれる最強クラスのチームに所属してもらう」
今日だけで創良は多くの情報を知った。イプシロンの後に待ち構えるマスターランクチームが存在しそれも複数あるらしいこと。その中に入り込めれば更に多くを知ることができるかもしれないと創良は考えた。
「チームの名は『プロミネンス』楽しみにしていたまえ」
そこで研崎は通話を切ったが創良は受話器を握り続けていた。
「はぁ〜」
どんどんと状況が面倒な方向に進んでいることを悟り創良は非常に大きなため息をついた。
「『いつか』が明日じゃなくてもいいじゃないか……」
レアンちゃんの髪の表現が難し過ぎる……誰かいい表現教えて下さい丸コピします←