バーテックスは敵である   作:日々はじめ

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第9話 感情のあたたかさ

 西暦の時代、長野県の諏訪という地域に一人の勇者と一人の巫女がいた。

 名を、白鳥歌野と藤森水都。

バーテックス襲撃から一年後の今、絶望の渦に巻き込まれていた諏訪の人々を導いてきた二人のお陰でその影は見るまでもなく、笑顔が戻っていた。

 そして、これはそんな暑い日の時だった。

 日差しが強く差し込む中、歌野は麦わら帽子と軍手をはめ、一生懸命鍬を振っていた。畑には年寄りが目立ち、そんな中鍬を振っている歌野は浮いて見えた。

そんな歌野を差し込む日差しと同じくらい強い眼差しを送っている人物がいた。

 藤森水都だった。

 ふぅーと歌野は息を吐き、首にかけていたタオルで汗を拭き言った。

 「今日はこれぐらいで終わりにしましょうか!皆さん、お疲れ様でした!!」

 「なんもだよ。歌野ちゃんのお陰でこうやって生きていられるんだ、少しぐらい私たちも頑張ってみようと思っただけだよ」

 「んだ。そげんなこといっとらんで早く水都ちゃんのところへいっておやり」

 「あはは、そうしますね!」

 老婆たちはそう言って片付けを始め、皆家へと歩を進めた。

 歌野は鍬を持ちながら、水都の所へと向かう。

 「みーちゃん。こんな暑い日は私のことを見に来なくてもいいんじゃないかしら?」

 「ううん、私がしたいからそうしてるの。それに、うたのんが鍬を振っている姿はかっこよくて好きだから。はい、麦茶」

 「センキュー!みーちゃんって絶対将来いいお嫁さんになるわ!」

 「お、お嫁さん!?うたのんは…その…こういうお節介焼きの人が好き…かな?」

 「オフコース!みーちゃんがお嫁さんならそのお相手さんはすごい幸せ者だと思うもの!!」

 「…そっか」

 水都は頬を赤らめながら麦茶のお代わりを注いでいく。

 すると、歌野が何かに気付いたのかある方向を凝視する。

 「うたのん、どうしたの?」

 「ねえ、みーちゃん。あの白いのってうさぎじゃないかしら?」

 「ん~…。木の陰に隠れてよく見えないけどあれぐらいの大きさだったら多分うさぎなんじゃないかな?」

 「ちょっと見てくるわ」

 そう言って、歌野は腰を上げて木の陰に隠れている白い何かのところまで近づいた。

 ひょこっと木の陰から覗き込むように見ると、歌野は思考が停止した。

 水都は動かない歌野を見て不審に思い、立ち上がり尻についてた汚れを掃って小走りで近づいた。

 「ねえ、うたのん。どうしたの?」

 「ッ!みーちゃんこっち来ちゃダメ!!」

 大声で制止させられたことにびっくりして水都は肩を跳ね上がらせた。

 そして、その理由はすぐに明らかになった。歌野の後ろ、そこに居たのだ。

 人間を蹂躙し、友達を、家族を殺し、『日常』を奪った化け物。

 バーテックスがいたのだ。

 咄嗟に水都は叫んだ。

「うたのんっ!」

その声に反応した歌野はすぐさま行動に出る―――ことは叶わず、バーテックスの歪な牙の餌食となった。

水都は顔を背けた。大事な大事な友達を目の前で失う光景はもう見たくないと、心から思っているから。

そして、その閉ざされた瞳はその大事な友達の歌野の一言によって開けられる。

「…痛くない」

「っ!うたのん!大丈夫!?」

「ノープロブレム!全然痛くないわ。このうさぎより一回り小さいこれって本当にバーテックスかしら?」

「確かに小さいけどバーテックス、だね。けど、ここは結界の中のはず…。もしかして小さすぎて認知されなかったとかかな。待ってて、うたのん。すぐに勇者服を持ってくるから」

「まって、みーちゃん。これを見てどう思う?」

「とても、懐いているようにみえる…かな」

水都は率直な感想を述べた。

うさぎより一回り小さいバーテックスは歌野の頬を齧り、その後は頭をこすりつけてきたのだ。例えるならば、子犬のようだと二人は感じた。

そして、本来勇者というのはスマートフォンで変身するのが仕様なのだが歌野だけは別でわざわざ着替えなければいけないということが難点として挙げられる。

すぐに変身できないため歌野はバーテックスを見て、焦りで動きが止まってしまったのだ。

そのバーテックスは水都の足元まで近づき頭をこすりつけた。

「えっと…これはどうすればいいのかな?」

「難しいところね…。敵意は感じられない、それどころか懐いてくるから観察日記でも付ければバーテックスについて何かわかるかもしれないわね」

「う~ん。四国の乃木さんに助言求めればいいんじゃないかな?」

水都の提案に歌野は首を横に振る。

四国の勇者である乃木若葉とは通信で何度も声を聴いており、そのたびに蕎麦とうどん、どちらが優れているのか討論になるぐらいには仲が良い(?)のだがその案はお気に召さないらしい。

 「確かに、乃木さんに相談するのは真っ先に思い付いたわ。けど、今はダメなの」

 「どういうこと?」

 「乃木さんはね、初めてできた友達をその日のうちにバーテックスに殺されたと言っていたわ。その時、彼女は憎いとかそういうことばっかり言っていたの」

 「そう、なんだ…。乃木さんってそういう面もあるんだね」

 「だから、多分このことを伝えてもすぐに殺せと、絶対にそう言うわ。冷静に事を判断できないと思うの。私は乃木さんに相談するのは反対」

 「うたのんがそう言うなら…。なら、どうするの」

 「みーちゃん。私、飼ってみて少しでもバーテックスを知ろうと思うの。協力してくれる?」

 「うたのん、それは危険すぎじゃないかな?小さくてもバーテックスはバーテックス。ここでやっておいたほうが…」

 「ノンノン。みーちゃん、これはチャンスなの!それに、一体ぐらいなら私がすぐ対処できるようにするから」

 

 歌野の表情に押されて水都は渋々頷いた。

 そして、二人はあることを一つ約束した。

 このことは必ず諏訪の人々に黙っているということ。

 勇者という存在が敵を飼うというのは言語道断、混乱の種をまくことになってしまう。わざわざ混乱の種を芽吹かせる必要など何処にもない。バーテックスは食事をいらないというのは四国にある大社から教えてもらっている。なら、あとは飼う場所だが二人は首をひねる。

 

 「やっぱり対処するにはうたのんの家で飼うしかないけど大丈夫?」

 「それが問題よね。何かあった拍子にバレたくはないから…みーちゃん、悪いんだけど一緒に住んでくれる?」

 「…………ふぇ!?」

 

 歌野の提案に水都は顔を盛大に赤らめた。

 

 「みーちゃんは私が守る。絶対に、どんなことがあっても一緒にいるから。だからお願い!」

 「そ、そんなことをいきなり言われても…」

 

 水都は足に顔を擦り付けていたバーテックスを抱え、それで顔を隠す。

 そのバーテックスはというと状況が理解できるはずもなくただ逃れようとも必死になるが所詮は子犬程度の力しかないので抜け出せるはずもなくただ成すがままになっていた。

 

 「けど、わかった。うたのんが守ってくれるなら安心だもんね。今日中に荷物を纏めていくよ」

 「ありがとうみーちゃん!愛してるわ!!」

 「私もだよ、うたのん」

 「ワンダフル!これが相思相愛ってやつね!…って何かしら。みーちゃん何か聞こえない?」

 「え?……本当だ。何か聞こえる」

 

 二人は耳を澄ますと確かに聞こえた。まるで機械音みたいな、独特な音が。

 バーテックスが口を開いた。

 

 『………………ァ』

 

 確かに喋った。

 歌野と水都は顔を見合わして叫んだ。

 

 「「喋ったあああああああああっ!?」」

 

 二人の叫び声が山中に響き渡り、山彦として返ってきた。

 それが何故か可笑しく思い、そのあと大きな笑い声が聞こえてきたという。

 バーテックは意味はわからずただ首を捻るだけだった。

 ひとしきり笑ったあと貯まった涙を拭き取ると、二人は帰る準備を始めた。

 歌野の後ろをバーテックはついていき、たまに水都の後ろにもついていった。

 その姿はまるで子犬ーーーではなく。

 

 「なんか子供見てる気分ね」

 「うたのんもそう思う?けど、まさか敵の中にこういうのがいるなんて驚きだね」

 「人生が何があるかわからないってことね!じゃあ、みーちゃん、あとで私の家でね!!」

 「うん、わかった」

 

 歌野は大きめな鞄にバーテックをしまい、暴れないように言うと理解したのか大人しくなった。

 水都もまた準備を終え、別々の方向へ歩き出す。

 歌野は歩いて半刻ほどのところにある一軒家に辿り着いた。そこは歌野の家。勇者だからと言って諏訪の人々が使われていない家を貸し与えてくれたのだ。水都もそうなのだが、何分人口が少ないため家が少し離れている。

 

 「ほらっ、今日からここが貴女の家よ!」

 

 バックから出てきたバーテックは家具など全てに興味を示すかのようにいろんなものを物色し始めた。

 歌野はこれからくる水都のためいろいろ準備しようとし、空室に布団を敷こうとした矢先バーテックが押し入れから出そうとした布団をかじり出した。

 

 「もしかして手伝おうとしてくれているのかしら?」

 

 歌野の言葉を理解したのか首を縦に降る。すると、今日何度目かわからない驚愕が歌野を襲った。

 (このバーテック…。私が何をするのか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そこそこの知能があることがわかったのは今後に大きな影響を与えるかもしれないわね)

 

 「じゃあ、この布団を床に敷いてくれる?」

 

 バーテックは歌野の言われた通り布団を敷き始める。器用に口だけで敷く姿はとても可愛いげがあり自然と歌野に笑みがこぼれた。

 敷き終わるとバーテックが歌野のところまで向かってきて頭を突きだしてきた。

 

 「撫でろってことかしら?よくやったわ、お疲れ様」

 

 そう言って頭を撫でてやると嬉しそうに鳴く。

 その声はやはり独特なもので慣れるまで時間がかかるかなと苦笑した。

 すると、ピンポーンという音が家内に響き渡った。

 ガチャっとドアを開けるとそこには水都が大きな荷物をもってそこにいた。室内に促し、歌野は水都の荷物を代わりに持つ。

 

 「うたのん、お待たせ」

 「いらっしゃい、みーちゃん!これから宜しく頼むわね!!」

 「此方こそだよ、うたのん。それで何か進展とかあった?」

 「そうね、一つ挙げるならそこそこの知能を持っていることがわかったわね。これなら駆け引きとかそういうのが大事になるかも…」

 「う、うたのんが駆け引きっ!?すごい頭良さそうなことを言うんだね」

 「あら、それはどう意味かしら?」

 「あっ」

 「そんな酷いことをいう口はこれか!これね!!?」

 「うたゃにょん、ひょめん!」(うたのん、ごめん!)

 

 頬を弄られながら水都はこんな『日常』がずっと続けば良いなと思ってしまった。

 バーテックは来ず、歌野が畑を耕し、水都がそれを眺めて、麦茶を差し出して、歌野が感謝して、「おはよう」や「じゃあね」と言い合える日常を。

 すると、歌野のお腹が盛大になった。水都の口から笑いが漏れる。

 

 「あはは、うたのん朝から動きっぱなしだったからね。私が料理しようか?」

 「レイリー!?なら、お願いするわ。みーちゃんのご飯は本当に美味しいから好きよ、毎日みーちゃんの作る味噌汁を飲みたいぐらい」

 「う、うたのん!そういう恥ずかしいことを平然と言わないで!!」

 「ホワイ?私は本心を言ったまでよ。本当に恥ずかしいことは今しかない時間で、今しか言えないことを言わないこと。それは、一年前のバーテックの襲撃で身を染みて感じたもの」

 

 遠い目になる歌野をただ水都は見つめることしか出来なかった。

 すると、歌野の顔にバーテックが噛みつく。

 

 「ちょ、くすぐったい!一体どうしたの!?」

 「ふふっ。多分、『そんな辛気臭い顔をするではない、笑え』って言いたいんだよ」

 「何かしらそのしゃべり方、とてもクールね……」

 「じゃあ、うたのんはそのバーテックを観察しておいてね、私は料理してくるから」

 

 水都は早足で台所へ向かった。

 歌野は未だに顔に噛みついているバーテックを引き剥がし全体を眺める。

 手触りはなかなか、ぷにっとした感じがある。

 そして、ふと歌野はあることを思い付いた。

 それを言い出したのは食事中の事、水都が作ったカレーを口にして肥えた舌を満足させていたときだった。

 

 「名前?」

 「イエス!名前、ネーム!!この子の名前を考えましょう」

 『…………?』

 

 当のバーテックは訳がわからず水都のカレーを口にする。本来、バーテックというのは食事が必要ではないらしいが、食べれない訳ではないらしい。

 

 「う~ん……名前かぁ……。白いからシロでいいんじゃないかな」

 『…!』

 

 バーテックは首を横に勢いよく降る。

 どうやら何が起こっているか理解したが、その名前は気に入らないらしい。

 

 「私ね、この子にちゃんとした意味を持つ名前を付けてあげたいの。この子は今後私が、私たち勇者がバーテックに対する認識が変わる存在になると確信しているわ」

 「なにか良い案でもあるの?」

 「この子は私たちが踏み出した最初の一歩。だったらそれに纏わる名前が良いわねーーービックバンとかいいわ!」

 「うたのん……」

 

 水都は歌野のネーミングセンスに苦笑する。無論、バーテックは再度首を横に降って水都の横へと移動した。

 

 「もしかして私がさっき考えた名前にするの?」

 

 そう問うと、今度は打って変わって首を縦に取れるんではないかと思わせるほど激しく降る。

 その仕草に歌野は納得のいかない表情を浮かべるが、次第に納得のいった顔つきになる。

 

 「白は始まりのカラー!いいかもしれないわね!!」

 「じゃあ、貴女の名前は『シロ』、よろしくね」

 

 そして、そのバーテックは『シロ』という名を貰った。

 夜、シロは歌野の部屋にいてベッドの横で横たわっていた。まるで寝ているようだと感じさせられるが……、いや実際寝ているのだ。

 水都はすでに隣室で眠っており、部屋内を暗くして歌野は机の電気を付けて椅子に腰掛けた。

 一冊のノートを開き、ペンを握って書き出す。

 

 2016年 8月12日

 

 始めまして、いえこの日記を見つけたということは勇者の乃木若葉さんかも知れないわね。

 すみません、どんな書き出しにすれば良いかわからなくて。

 けれど、この記録が将来誰かの役に立つと信じ残します。

 8月12日、私は結界内でバーテックと遭遇。

 大きさはうさぎより一回り小さい感じ、今後大きくなるのでしょうか?

 最初は噛みついてきたりしてきましたが全くもって痛くありませんでした。その後は懐く仕草を見せ始めこうやって観察日記を付けることに決めました。

 敵対心というのは未だ感じません。けれど、用心することには越したことがないので今日から眠りが浅くなりそうです。

 私たちが見つけたバーテック。名前を『シロ』と名付けましたがシロは布団を引くのを手伝ったり食器の片付けも手伝うほどとてもアクティブでまるで家事を手伝う子供のように感じます。

 多分、実際に子供並みの知能を持っているのでしょう。

 初日ですのでこれで終わります。

 

 8/12 23:47 白鳥歌野

 

 

 歌野はパタンと書いていたノートを閉じて大きく伸びをして寝ているシロの方へ振り替えり微笑んだ。

 その微笑みはまさしく『愛情』が少しだけ見てとれた。

 (この子が裏切らない限り私も裏切らない……。頑張りなさい、勇者白鳥歌野!ここからが人類の反撃よ!!)

 歌野はそう強く自分に言い聞かせた。

 そして、シロを起こさないよう気を配り布団に入る。真夏の中、布団に入ると暑苦しいが何故かそれを心地好いと感じてしまう。

 次第に歌野の意識は闇へと引き込まれた。

 

 「んぅ~……」

 

 数時間後、鳥の囀ずりで歌野は目を覚ました。

 カーテンの隙間から差し込む日光を眩しそうにし、目を細める。

 すると、昨日の出来事を一気に思い出した。それに伴い時計に目をやる。

 時刻は7時32分、いつも6時に起きている歌野にとって大遅刻だった。

 (しまったわ……。昨日の日記に眠りが浅くなると書いてしまったけど逆に深くなるなんて……)

 ベッドから足を下ろす。すると、昨日そこにいたはずのものが居ないことに気付いた。

 歌野は焦った。

 シロという存在はバーテック、友好的に見えるが本質は変わらない。故に、人を襲う理由は十二分にある。

 そして、脳裏に浮かぶ水都の顔。

 歌野は駆け出した、階段を転げ落ちそうな勢いで下りリビングの扉を開けて叫ぶ。

 

 「みーちゃん!?」

 「ふぇ!?ど、どうしたのうたのん!!?」

 

 水都は可愛らしいエプロンを付けて食事の準備をしていた。その傍らには皿をもったシロがいた。器用に食べ物を運んでいるではないか。

 歌野はその光景を見て額に手をあてた。

 

 「……おはよう」

 「おはよう、うたのん。どうしたの、なにか嫌な夢でも見たの?」

 「いえ、ただちょっと目の前の光景がすごくてね」

 「そうだ、聞いてうたのん!シロってば料理に興味を示したの!!」

 「? どういうことかしら」

 「私が料理してたらシロが寄ってきて、なんと口で包丁をもって野菜を切り始めたの。なんか本当にバーテックなのか疑いたくなるね」

 

 水都の表情は困惑といったところだろうか。歌野はその言葉を聞いて昨日のことを思い出す。

 (昨日、家を物色したり、片付けなどする……。そして、今日は()()()()()()()()()()()。つまり、シロは()()()()()()()()()()()()()()()())

 歌野の考えは合っていると答えるものは誰もいない。

 シロの考えていることは人間たちに対してのことばかりだった。神に作られたバーテックは本来人類を蹂躙するのだが、シロはというとその神々がバーテックを作る上で偶然出来た謂わば不良品みたいな存在なのだ。

 だから、人類を蹂躙という意識をインプットはされているがそれはとても薄いものであり今は歌野と水都についてのことしか考えていないというのが現状だ。

 無論、そんなことを二人は知る由はない。

 

 「まぁ、いいわ。ブレックファーストの時間だもの、心身ともにリラックスよ!!」

 「召し上がれ」

 

 席について歌野は食事を始める。今日の朝食は洋食。パンを中心とし、全体の緑の多さからとても健康的と言えるだろう。

 料理を口にして唸る。

 

 「んぅ~!おいしいわ、このスクランブルエッグ!!」

 「あっ、それはシロが作ったやつ」

 「わお!それは凄いわね。あとで撫でてあげましょう。じゃあ、このパンは……。うん、いい焼き加減!外はサクッと、中はフワッとしててとても食べやすいわ!!」

 「それもシロが焼いたやつだよ」

 「……ねえ、みーちゃん」

 「ん?どうしたの、うたのん」

 「もしかしてこのビューティフルでエレガントに盛り付けられた野菜たちって」

 「それもシロが盛り付けたやつだね。ほんとにすごかったんだよ、口で器用に道具を扱って盛り付けるんだもん。しかもすごく手際がいいから私はサポートに徹したかな」

 

 水都の衝撃発言に歌野は勢いよくシロの方へと振り替える。当のシロはご飯を勢いよく食べていて、こちらの視線に気づくと顔をあげた。何やら表情がとても誇っているように見える。

 

 「どや顔……してるんだと思う」

 「私もそう思うわ。けど、シロに料理で負けた気がしてこのふつふつと沸き上がるやるせない気持ちをどうすればいいの!?」

 「畑にぶつければいいんじゃないかな?」

 「はっ!ナイスアイデア、みーちゃん!ならば急がないとね!!」

 「ゆっくり食べなきゃ駄目だよ、うたのん」

 

 水都が注意したとき、水都は何かに聞き入るように目を閉じた。

 そして、開かれた目には強い意志が乗っていた。

 

 「……来たのね」

 「うん、バーテックの進行がもうすぐはじまるみたい。けど、バーテックについての信託が降りるんだったらシロはやっぱり恐れる必要がないほどなのかな……?」

 「今はそれを考えている必要はないわ!いい、シロ。家で大人しくしてるのよ?」

 

 歌野はシロに優しく問いかけた。

 シロもまたそれに頷く。部屋で待機するよう命じて、歌野と水都は駆け出した。

 それから間も無く、二人は諏訪大社上社本社(すわたいしゃかみしゃほんみや)に辿り着いた。

 そこの神楽殿には勇者専用の武器と装束が保管されている。

 歌野が着替え終わると同時にバーテックスの襲撃を意味するサイレンが鳴り響いた。

 

 「みーちゃん!場所は!?」

 「ここから東南方向!狙いは多分、上社本社!!」

 「なるほど、いきなり大物狙いって訳ね!ふふん、なら私の力を見せつける時ということで!ショーの始まり!!」

 

 歌野はそう言って神楽殿から駆け出した。

 水都はそれを見てため息をつく。

 勇者の走る速度だと普通の人間である水都は到底追い付けない。

 だから、水都は歌野を追いかける。

 最後になるかもしれない勇姿を見届けるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんかこのまま行けば2万文字いきかねないので前編と後編に分けようと思います。

ということで、過去話ですが実は原初のバーテックことシロは歌野と水都に出会っていました。
これを省みると、鷲尾須美は勇者であるで書かれていた畑仕事、料理もかなり感慨深いものがあります。
料理の才覚は星屑時代から発揮されていますね。

次話も早めに投稿できるようにがんばるぞい!

追記(12/3)
辛い。
予めこうしようと考えていたけどいざ文字にするとかなり辛い。
なんだろう。
これが愛か。
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