バーテックスは敵である   作:日々はじめ

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第3話 わしおすみとのぎそのこ

 「そのっち、おはよう」

 「あっ、わっしー!おはよう~!」

 

 おっとりしていて、少しドジで、変わっていて、そんなことを自分で思ってる私はあの時何もできなかった。

 もっと力があって、もっと強ければミノさんは死なずに済んだかもしれない。

 この新しい勇者システム【満開】があればあの時……って悔いてたらミノさんに怒られちゃうかな。

 

 「ねぇ、わっしー」

 「ん、どうしたの。そのっち」

 「ううん、呼んだだけ~」

 

 エヘヘと笑う私に変なのと言って笑うわっしーがとても美しく、それと同時に儚いと感じてしまった。

 

 「そういえば~、今日からまた訓練するって~」

 「ええ、そうね。お役目はまだ終わっていない……。銀が守りたかった世界を私たちが守らなきゃね」

 

 あの大橋の戦いから数日、身と心に大きくつけられた傷は癒える様子はなかった。

 辛い、逃げたいと叫びたいけどそれは赦されない。

 私たちは勇者なのだから。

 だから、私はこの時思いもしなかった。●●●を信じた●●●がまさか●●●だったなんて……。

 

 「ねぇ、そのっち。そのっちはあのバーテックスのことで何か不思議に思ったことはない?先生は、勇者システムが確立した時の初代勇者の時に交戦したって言ってるけど……。それはおかしいわよね」

 「あぁ~……。確かにバーテックスはそれよりも前に出現したって習った記憶が……」

 「そうなのよ。昨日家で調べてみたら300年以上前、それこそそのっちのご先祖様《乃木若葉》さん達がバーテックスとの戦いを機に勇者システムが実用化、そして完成したときの勇者の名前が先生が言ってた通りなら鷲尾、乃木、三ノ輪のはず……。でも、あのバーテックスは原初と呼ばれている」

 「確かにわっしーの言う通りだよ~。原初は始まりって意味だから……。そもそも何故人型なんだぜ?」

 「……もしかしたら大赦は何か私たちに隠しているかもしれない。つい先日の勇者システムのアップデートもタイミングが良すぎているわ……。そのっち聞いて、【満開】はほんとのほんとに切り札として使用するのよ、いい絶対よ?」

 「わかったよ、わっし~。……zzz」

 「寝ないの!!」

 「ハッ!?」

 

 危ない危ない。わっしーに怒れちゃうところだったよ~……。

 けど、わっしーはほんと強いね。ミノさんが居なくなって本当に苦しいはずなのにそうやって考えて行動して……。

 まぁ、通学途中で寝れば誰だって怒るか。

 

 ■■■

 

 「うおぉぉぉぉぉ!!!!」

 『もっと脇を閉めろ!!』

 

 力強く吠えるのはいいが大振りはやめろとあれほど言ったのだが……。

 黒い刀でいなし、投擲する。それに気付いた三ノ輪は一瞬だけ我を視界から逃す。

 だが、それで充分だ。

 

 「ッ!!」

 『勝負あり、だな』

 

 白い刀を後ろから首に当てる。

 三ノ輪は負けたとわかると戦闘体制を崩し、それに習い我も刀を納める。

 すると、三ノ輪が仰向けになり悔しそうに叫ぶ。

 

 「くっそぉー!!これで34連敗目だ!!」

 『36連敗目だぞ、銀。何度も言ったろう、バーテックスとて知能がある。故に、戦闘は騙し騙されの応酬だと』

 「わかってるけど、銀さん的にそういう細かいのは蛇足なんスよ。へへっ、難しい言葉知ってるだろ」

 『ふむ……。いいか、剣を降るときは脇を閉めコンパクトに振れ。そうすればいざって言うときに対応できる。あとは視線を誘導……これはまぁ及第点か。戦闘中によく取り入れたな、なかなかに上手かったぞ』

 「おぉ……!師匠が人を褒めた!!なんだなんだ、バーテックスの雨でも降るのか!?」

 

 コイツはほんとお気楽な性格だ……。だが、やはり成長率は急激だな。予定では数週間かけるようなものをわずか数日で習得してきたのだからな。

 これは、次のステップに進んだ方いいか。

 

 『銀、よく聞け。次は複数対1の状況を想定しての訓練だ。あの時のようなのな』

 

 あの時という言葉で若干銀の顔色が悪くなる。

 やはり、あの時ばかりは流石に死を覚悟したらしい。

 

 「なぁ、師匠。ほんとに須美と園子は大丈夫なんだよな?私がーーー」

 『何、気にするな。強くなるように発破は掛けておいた。何も心配することはない』

 

 言葉を最後まで待たずに答える。

 銀には悪いがあいつらのなかでお前はすでに死んでいるんだ……。

 

 「わかった。じゃあ、どうやって複数用意するんだ?ここにいるのは師匠だけだろ?」 

 『あぁ、見ていろ』

 

 そういって指をパチンと鳴らす。

 すると何処からともなく白いバーテックスが数体姿を表し、次第に我と同じ姿になる。

 その光景をみて案の定銀は大きく驚いてる。

 余談だが、こうやって銀を驚かせることは楽しいと気付いたためいろんないたずらをしている。

 

 「なっ……なっ……。師匠、それは……」

 『我の能力みたいなものだな。バーテックスを作る、故に、大赦からは原初と呼ばれておったぞ』

 「いや、もう驚かないぞ。アタシは成長するんだ、これぐらいで……うん……」

 『珍しく言葉に覇気がないではないか

、銀』

 「そりゃ、そうだよ。こんなの見せられたら須美だったら失神するね、確実に」

 

 若干苦笑いながらも強がる銀の表情は些か疲れがたまっているように見える。

 稽古をはじめて数時間は経過したし、丁度良いか。

 パチンともう一度指を鳴らし、バーテックスを消す。

 

 『一度、休憩にシヨう。腹ハ減っていルか?』

 「おぉ!背中とお腹がくっつくぐらいに!!」

 

 なんだその表現はと突っ込みを入れ、我にとって第2の戦場へと赴く。

 厨房だ。

 料理とはいい文化だ。昔、鷲尾と一緒に料理したのが懐かしく思える。最初は、真っ黒な物体で三ノ輪をノックアウトさせたな。

 冷蔵庫から卵を数個とご飯を山盛り、調味料や具材を用意する。

 そうしていると横から銀が覗き込んできた。

 

 「何を作るんだ?師匠ってバーテックスの割りに料理がうまいからなぁ……」

 『一言余計ダゾ、銀。マぁ、そうダな。炒飯デも作るカ』

 

 手を洗うように促し、フライパンを見つめる。

 最適の温度、最適の量の油をしきいい感じに火が通るのを待ったあと卵を入れかき混ぜる。

 いい感じにほぐれたら具材を卵と混ぜ、しっかりと火に通す。

 そのあとにご飯を入れ、調味料を入れて完成だ。

 そんなことしてると銀が帰ってきたな。

 

 「おぉ……。いつ見ても美味しそうだな。なぁ、師匠聞きたいことがあるんだけどアタシがこっちに来てからどれくらいの時間がたってるんだ?昼夜がないから感覚が狂っちゃって……」

 『前にモ話シタと思うが、コッちでは時間感覚がズレテいる。ココの生活は大体2週間グらイだがアッチだと数日だナ』

 「そっか、もうそんなに時間がたってるのか……。ここに来てからアタシがほんとに強くなれているのか不安だよ」

 『何、心配するナ。確実に強くなっテル。最初とは比べ物にナラないほどニナ』

 

 本当に強くなった。 

 たった2週間で我の予想を大きく上回るほどにな。

 銀の戦闘技術は正に天賦と呼べるだろう。あとは、如何に自分の剣筋を作れるか……。

 

 「でも、不思議だよなぁ……。今まで戦ってきたバーテックスが師匠になるなんて」

 『其れホドまデに未来とはワカラナイというコトだ』

 

 炒飯を思いっきり口に流し込んだ銀は後味を楽しんでいるのか蕩けた顔になる。

 そこでやはり再実感する。銀の強さを。 

 この世界の真実を知ってもなお揺るがない信念。

 敵に師事されてでも守ろうとする決意。

 それらが銀の強さを作っているのか、と。

 だから、我は興味を抱く。ここから何を成し、何のために生きて、何をもって死ぬのか。

 我は、黒い刀にソッと触れてあの時の三ノ輪の言葉を思い出す。

 

 『僕は、ーーーなんだ』

 

 鷲尾、乃木、三ノ輪。お前らの意思は途絶えることなく今も尚生き続けているぞ。

 

 ■■■

 

 空に打ち上げられた花火を見て、私は物足りなさを感じた。

 いや、その原因はわかっている。右手の温もりと左手の寂しさ。

 花火を見て目を輝かせているそのっちを見てこの光景を3人で見れたらよかったなと思ってしまう。

 射的でとった景品は私とそのっち、銀の分だ。

 あとで銀が眠るところに渡してこよう。

 その事を伝えようとそのっちの名前を呼んで私は気付いた。

 

 「そのっち……」

 「うん、ごめんね……。泣き虫で……。ーーーでも、やっぱり3人で来たかったなぁ……」

 

 頬をつたる涙が私の心を動揺させた。自然と手を握る力が強くなるよう。

 行き交う人混みのなかつい銀を探してしまう。

 いないはずの、人を。

 居て欲しかった、人を。

 

 「そのっちが夏祭りに誘ってくれたことは嬉しかった。けど、銀のためにも立ち止まっては要られない……。辛いけど頑張ろう、ね?」

 

 まるで子供に言い聞かせるように言う。けど、それは違う。これは自分に言い聞かせているのだ。そうでもしなきゃ、耐えられない。

 

 「うん……。わっしーの言う通りだよ~、私はリーダーなんだからしっかりしなきゃ!」

 「えぇ、その調子よ。我らのリーダー」

 

 我らと言う部分を強調して言う。

 私は決めたよ、銀。だから、止まらないし止まっては要られない。

 私はこの国が大好きだ。家族が好きだ。皆が大好きだ。

 銀が好きだ。

 そのっちが好きだ。

 偽りではない、本当の気持ち。

 花火の色鮮やかなような未来を掴むため、進むよ。

 

 「じゃあ、そのっち!早速、修行よ!!打倒、原初のバーテックス!!!」

 「今からじゃ遅いよ~。それに~、その目標は私のだから!」

 

 二人は顔を見合わせて大きく笑った。

 どんな困難が訪れても、それを根性で、魂で乗りきって見せると。

 

 それから、数日後のことだった。

 鳴り響く警報。

 変わる景色。

 

 それが、私の最後のお役目だった。

 

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