我は間違っていたのだろうか。
目の前の攻撃を捌きながら守っている少女の横顔を見てそう思った。
勇者に興味を示し、勇者に肩入れし、それが今の目の前の光景を生んでいるのではないだろうか。
園子が犠牲を払いながら戦い、銀が二丁の斧を振るう。
すると、我の体の中に何かが流れ込んでくる。
わかってはいる。これは供物だ。
勇者が供物を捧げ強くなる【満開】というシステムはどういうわけか我に影響を与えるものであるらしい。
この強くなっていく高揚感。勇者が【満開】をするとバーテックスの我が強くなるなんて皮肉と言っても過言ではない。
そして、我の存在が何なのか考えさせられる。
もしや、知らぬ間に神樹の一部として認識されているのではないだろうか。
『だが、それもまた興味深い』
最初の間違いという思考はとうに廃棄され身体中を満たすのは興味のみ。
其は我がバーテックスなのか、はたまたまた別の存在としての考えなのか。
その答えは未だに掴めない。
結局はあの戦いは園子と銀の勝利で幕を閉じた。
しかし、意気揚々と勝利を宣言できるほどの快勝とまではいかないのも事実。
銀は目立った外相がない、それもそのはず。銀は我が鍛えた、多勢に対する動き方も全て。しかし、園子の方は酷いものだった。
計14回、それが園子が【満開】した数。銀がいなければ計20回にまで及んでいただろう。
だが、それだけの犠牲を払った園子は正に最強と言われる存在になった。最早、人としてではなく神として認識されてもおかしくないほどに。
【満開】の影響で供物を捧げるという【散華】により園子は、右目、右手、右足、心臓などといった体の部位を持っていかれた。
特に心臓。
心臓が止まっても且園子は生きていた。つまり、彼女はこれから老いることもなく、死ぬこともなく、そういう存在になってしまったのだ。
それを知った銀は酷く落ち込んだ。そして、このような悲劇はもう繰り返さないと誓った。
彼女の強い意思を秘めた瞳は我からの離れを意味していた。
あの戦いが終わったあと彼女はポツリと、意識を失っている園子を抱いて我に言った。
「師匠……。短い間だったけどありがとう。須美も守ってくれて。アタシは一度戻るよ。家族にこれ以上心配かけさせたくないし」
『……そうか。わかった、銀の考えを尊重しよう。だが、どうする?今戦える勇者はお前だけ。次もまたバーテックスが来るだろう』
「その点は大丈夫だ。師匠が教えてくれたバーテックスの出現周期から次は大体2年後。そうなったら新しい勇者もいるさ」
『寂しく、なるな……』
目の前の変わり行く光景を見ながらつい口にする。
そして、気付く。
我にとって銀との生活は悪くないものだと。興味とかそういうのを無しにして好きだった時間だと。
見つけた、答え。
その答えに銀はたまに見せる意地悪そうな顔で我に近づいた。
「へへっ……。アタシもさ。けど、次に会うときは敵同士だ。そして、もし一つだけ願いを聞いてくれるんだったらーーーー」
彼女の願いは2年後の今。
目の前の新しい勇者の出現により叶えられる。
■■■
「ハアァァァァァ!!!!」
私の渾身の右ストレートは目の前の敵が間一髪、いや紙一重で避ける。そして、その勢いを利用して回し蹴りが私を襲った。
反射的に両手を重ねてその攻撃をまともに受けるとその重さに驚愕する。
そして、耐えきれずに私の体は宙に舞う。
すると、何処からか伸びてきた糸が私を包んで優しく地面に降ろしてくれた。
「大丈夫ですか!?友奈先輩!!」
「樹ちゃん、ありがとう!!!あのバーテックスすごく強いよ……。私の体術がまったく効かないもん」
私は幼い頃から両親に体術を鍛え上げられていたから接近戦では自信を持っていた。
私ならできると。しかし、あの人型のバーテックスはそれを諸ともしない。
敵が此方に視線を向けると気を伺っていた風先輩が視覚外から攻め混む。
だが、それもまた無意味だった。
片腕しかないのにも関わらず大きな剣を細い白い刀で受けとめ威力を流される。
流された拍子にあのバーテックスが私にしたのと同じように蹴りを食らわせる。
「グハッ!」
「風先輩!!」
「お姉ちゃん!!!」
こちらに物凄いスピードで迫ってくるが私にしてくれたように樹ちゃんが糸で風先輩を迎え入れる。
優しく下ろされた風先輩は口から流れ出る血を袖で吹き敵を睨み付けた。
「さぁ、こんな絶体絶命のピンチ。勇者ならどう切り抜けると思う?」
「それは……」
風先輩の問いに樹ちゃんが戸惑う。
確かにこれは絶体絶命だ。強さは相手が格上。
しかし、それが諦めていい理由には絶対にならない。
大事な人たちがいるんだ。
大事な人たちを守りたいんだ。
「ーーー戦うしかないです。どんなピンチだろうと根性と魂で乗りきれば……そして、成せば大抵なんとかなる、ですよね?風先輩」
「えぇ、そうよ。私たちがここで諦めちゃったら世界が終わっちゃうんだから。踏ん張りどころよ」
「友奈先輩、お姉ちゃん…」
すぅーと息を吐き出し頬を強く叩いて気合いを入れ直す。
何故か律儀に待っているバーテックスはただ上から見下ろすだけ。
なら、その慢心をつくしかーーーないっ!!
私が地面を強く蹴りつけ跳躍し、瞬く間に相手の目前まで迫る。
左手で殴りかかるが相手はそれをまたもや紙一重でかわす。
しかし、それでいい。
体を回転させ右腕で裏拳を放つ。それはバーテックスの顔に直撃しーーー顔を吹き飛ばした。
転がる頭、反応がない体。
「え……?」
思わず惚けた声が口からでる。
まさかあれほどの力を持つものがたかが裏拳程度でやられるはずがないからだ。よくて牽制程度だと考えていた攻撃が相手の命を刈り取った事実に驚きを隠せない。
それは風先輩と樹ちゃんも同じらしく、姉妹らしく似たように大きく目を見開いて驚いていた。
バーテックスは次第に体が薄くなり、その姿を虚構へと葬り去られていく。
そして、【樹海】に神聖な光がどんどん満ち溢れていく。それは、帰りの合図。
移り行く景色の先に友奈は奇妙なものを見た。
それをしっかりと確認する前に友奈たちはいつの間にか学校の屋上にいた。
そこには、風先輩と樹ちゃん、東郷さんと私がいたけど誰も声を発しない。
「なんか変な空気になっちゃったわね……」
「そう、ですね……。あっ、それよりも東郷さん大丈夫だった!?」
「それが、あの後何故か気を失っていて……。けど、大丈夫よ。友奈ちゃん。それよりも風先輩、説明してくれますか?詳しく正確に」
東郷さんの威圧されるような雰囲気に樹ちゃんが涙目になる中、風先輩はジッと足元を見つめていた。
そして、小さく一言。
「私たち上履きだ……!!というか、早く戻らなきゃ授業が始まる!!!!ということで解散!はい、戻った戻った!!」
「ちょ、風先輩!!」
風先輩は慌てて走って屋上からいなくなりました。
そこで、私たちは一斉に口を開く。
「逃げたね……」
「逃げたわね……」
「お姉ちゃん、逃げるのは流石に……」
■■■
ここは、神聖なる場所。そこに二人の少女がいた。
一人は包帯で右下半身を巻かれた女の子。
もう一人は静かに瞑想をしている女の子。
前者の女の子はベッドで横たわり回りには鳥居などの祀るものが置かれており、もう一人の方も例外ではなかった。
そして、入り口の方からコンコンと控え目なノックの音がする。
瞑想をしている女の子はそれには反応せず、ベッドで横たわる少女がその扉の向こうに声をかけた。
「…どうぞ~」
少しのんびりしてマイペースな口調。静かに開けられた扉から大赦の者だと証明する仮面をつけた人間が3人入室してくる。
二人は控えて、一人が代表して動く。
その動きに含まれるのは恐怖と緊張。
下手をしたら一瞬にして命を刈られる。その力がこの二人、特に瞑想している女の子にはある。
だから、可笑しな行動など取ることはできない。
「御忙しいところ申し訳ございません。実は、現勇者たちがバーテックスと交戦し見事勝利したと、犬吠埼のほうから連絡が入りました」
「御託はいいからさっさと本題に入ってくれるかな~?」
「…失礼しました。その時に原初のバーテックスが動き出していると報告が上がっております」
原初のバーテックスという単語に瞑想している女の子の眉がつり上がる。
「つきましては、現勇者たちに指導をお願いしたいと思っております」
そう言うと、静かに瞑想をしている女の子は立ち上がり両目を開ける。
身長は160に届かないぐらい、短い髪にスレンダーな体つき、彼女は凛とした声音で言った。
「そこに、須美は……東郷三森はいるのか?」
「はい。ですが、今回は変身が出来ないほど精神が乱れていたそうです」
「そうか……。その依頼はどうせアタシ宛なんだろ?勇者を剥奪したお前らが頼み事なんてな、すっごいロックじゃないか」
その言葉に大赦の3人は汗をかく。その言葉に隠された感情は憤怒。
彼女の怒りが私たちの恐怖を支配する。
「…申し訳ございません。お二人の力は大変危険なのです。そして、どうかこの依頼を受けてもらえないでしょうか?」
一拍を置いて紡ぐ。
最強の勇者の名を。
「乃木園子様、三ノ輪銀様」
鷲尾須美は勇者であるの4話見ました。
泣きました。劇場でも泣いたのに……。