バーテックスは敵である   作:日々はじめ

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第3話 あなたに会いたくてたまらない

 「で、どうするのさミノさん?私の体はこんなだから一歩も歩けないし」

 「そうだなぁ。須美に会いたいという気持ちはある。そして、神樹様の中に長時間いただけで祀られて少々イネス不足だからな。受けてみてもいいかな、園子には悪いけど」

 「ううん、私のことなんて全然気にしないでいいよ~。それよりもミノさんが楽しんでくれたら私も嬉しいし」

 

 大赦の人間が去った部屋で園子と銀は会話に華を咲かせていた。

 年相応の会話のなかに二人は年に不似合いな表情を浮かべる。

 園子は困惑げに。

 銀は嬉しそうに。

 

 「でも、ゲンさんがちゃんと約束守ってくれるなんてね…。驚きだよ~」

 「まぁ、師匠はそういうのには律儀だしな。というか、ゲンさんってなんだよ……」

 「原初のバーテックスだからゲンさん!!」

 「相変わらず園子の感性は理解できん…」

 「ふっふっふ~、考えるな、感じろってことだよ~」

 「そういうもんなのか?」

 

 園子とのやり取りに笑いを掛ける銀はとても嬉しそうな表情だった。園子もまた同じく笑顔を浮かべていた。

 彼女らが祀られ始めて約2年、この何もない祀られた部屋でただ過ごす毎日に二人はどこかしらの不満を抱いていた。

 出たい、会いたい、抱き締めたい。

 様々な感情が胸のなかで渦巻くが大赦という存在がそれを打ち消した。

 そして、園子はともかく銀が死亡した扱いにされていたのは驚きだった。その事を知った銀は早く家族の元へと行きたかった。

 アタシのせいで悲しませてしまった。園子から聞くに特に弟の鉄男が心配だった。

 けれど、家に帰ることも赦されず、勇者になるにも憚れて、彼女らの拠り所は途方に繰れていた。

 

 「2年前の約束、『勇者が来たらフルボッコにしてくれ』なんだけど、大赦の人たちの文脈から推測されるに普通にやられたな……」

 「それを機に強くなってもらおうと言うミノさんの思惑は失敗しちゃったね~。まぁ、ゆーゆは今までの勇者のなかでもっとも神樹様と相性がよかったからね」

 「よし、落ち着けアタシ。ここであだ名に突っ込んだら敗けだ」

 

 そして、銀は昔3人での出来事を思い返した。

 遠い昔、3人で楽しかった日々を過ごしたあの日のことを。

 また、園子の表情から察するに銀と同じなのだろう。

 大抵、話が一段落するとこうやって昔を思い返すのが二人の習慣となっていた。

 

 『あれ?なんか机のなかに手紙が……』

 『も、もしかしてあれじゃないか、須美!ラから始まる』

 『らかんぞう!?』

 『違う!ラブレターだ!!』

 『あぁ、そう………………ラ、ラブラブラブラブ!』

 

 『こういう服装は……』

 『ありありありありあり!!!!』

 『わぁ~、そうやって鼻血出す人初めてみた~』

 

 『おい、何処か痛いところあるのか!?』

 『はい、これ使って~』

 『ありがとう…そのっち…』

 『おい、私は!?』

 『ぎ…銀』

 

 尊い記憶。忘れない記憶。忘れたくない記憶。

 それは、彼女…須美も同じなはずだ。けど、満開に影響で彼女はソレを奪われた。

 やるせない、悔しい、悲しい、という負の気持ちがあるのは確かだ。

 けど、それに身を任せ大赦を滅ぼしたらもっと酷い目に合う。

 だから、今は抑えるしかない。この気持ちを。

 

 「なぁ、園子。アタシは勇者って何かを守る、何かを討ち果たすそういうものだって考えていた。けど、それは違ったんだ。勇者とは何かを見つけるものだって。そう気付かされた。勇者になって、守りたいと思って、師匠と出会った。そこで、見つけたんだーーー園子?」

 

 先程から反応がないことに気付き、銀は園子のベッドへと近寄る。

 銀は園子の頭を優しく撫でる。

 

 「ったく。アタシが良い話をしている最中寝るなんてな。まぁ、園子らしいけど」

 

 彼女の寝顔は美しかった。

 

 ■■■

 

 讃州中学校、勇者部部室にて一人の女生徒が3人の女生徒に詰め寄られる事案が発生……ではなく、問い詰められていた。

 

 「風先輩、もう逃げられませんよ。あのときは逃がしましたが……もう逃がしません」

 「おぉ、東郷さんの目が野生の熊が獲物を狙う目だ!!」

 「ちょ!私、獲物なの!?樹、助けて~!!!」

 「ごめんね、お姉ちゃん……」

 

 最愛の妹に裏切られた姉は見るからに落ち込む。

 そこは、『任せてお姉ちゃん!』ぐらいには言ってほしかったのだろうか。

 が、しかし、現実は甘くないのである。

 

 「はぁ~……まぁ、こうなるとは思っていたわ。じゃあ、まずは神樹様から認められた人はお役目に就くというのは理解できる?そのお役目が勇者、外敵であるバーテックスという化け物を倒すことよ」

 「でも、風先輩は言ってましたよね?バーテックスは大きいって。私たちが戦ったのは」

 

 友奈の発言は直ぐに遮られた。

 

 「あれはね、原初のバーテックス。先代たち勇者が戦ってきた特例と言えば良いのかしらね、そういう敵よ」

 「特例?どういうこと??」

 「そのバーテックスは何故かバーテックスを作れるのよ。まぁ、それには戦闘力が皆無、というか耐久力が皆無だから。友奈と樹は覚えがあるでしょ?」

 

 そして、説明されていくうちにもしあれが本物の原初のバーテックスだったとしたら勝ち目がない、つまり死を意味していたことがわかる。

 戦闘に出ていない東郷でさえ顔を真っ青にするぐらいだ。

 すると、風の携帯に1着のメールが受信された。

 

 「ごめん、ちょっとメール……」

 

 風はメールの文字を一文字を見逃さないように読む。

 そこに羅列している文字はこの最悪な状況を切り抜けることができる最良の一手。

 つい顔に笑みが溢れてしまう。しかし、それを悟られてしまってはおしまいだ。特に、東郷は本当に怒っている。

 だが、これがあればーーーっ!

 

 「よぉーし!勇者部注目!!なんと大赦の方からメールが来てたった今勇者を育成する合宿が開かれることになったわ!!!」

 「えっ!?本当ですか!やったね、東郷さん!!」

 「えぇ、そうね!!」

 「ははは……友奈先輩はしゃぎすぎですよ~」

 

 掛かった。

 風は心のなかでそう思った。今彼女らの頭のなかにあるのは合宿のことのみ、ならそれを利用し徐々に話題を変えれば風はこの窮地を切り抜けられる。

 

 「って、いう顔をしていますよ。風先輩」

 「なっ、なんのことよ東郷…」

 

 ギクッという効果音が似合いそうな反応をする風は東郷に心を読まれたことに動揺する。

 そして、ゆっくりと東郷はカラカラと車イスの車輪を押して近づく、風も負けじとじりじりと後退していくが背中の冷たい感触を感じ、絶望する。

 

 「さァ、お話、しましょう?」

 「い、イヤァアアアアアア!!」

 

 その残虐足る光景に友奈と樹は顔を反らす。

 

 「風先輩……くっ……!」

 「お姉ちゃん…私は絶対に忘れないよ!」

 「ちょっと!助けてよ!!……東郷、落ち着いてね?ね?」

 

 風の嘆願に東郷は静かに笑顔で答えた。

 

 

 

 

 

 

 「すみません……騙していてごめんなさい……。もう隠し事はしません……」

 

 目にハイライトが無くなった風を見て友奈は口を抑える。

 樹は優しく抱き締める。

 東郷は勝ち誇った顔を浮かべる。

 

 「東郷さん、怖かった…」

 「お姉ちゃん、いい子いい子」

 

 これではまるで樹が姉のように見えるが誰一人としてそれは口をしない。

 もし、してしまったら風の心に追加ダメージを与えることになってしまう。

 後日談として、風は隠し事を絶対にしなくなったとかなんとか。

 

 ■■■

 

 道路を滑走と走る大赦用意したバスに女子中学生が4人座っていた。

 大きいバスに4人というのは些かアレな気がするが他に乗客員がいないということで気兼ねなく話ができるのは利点ではある。

 

 「友奈ちゃん、ぼたもち食べる?」

 「ありがとう!東郷さんのぼたもちほんと大好きだから嬉しいな~」

 「そ、そんなっ!大好きだなんて……」

 「あっちゃ~…友奈ってば天然ジゴロなんだから言葉には気を付けなさいよね?」

 「お姉ちゃん、友奈先輩に言っても多分無駄だよ…」

 「?どういうこと??」

 「ほらね…」

 

 これが世界を守る勇者であると言われても誰も信じないだろう。端から見れば普通の女の子。

 しかし、普通の女の子にしては酷く重たい役目を背負っている。

 東郷はこの合宿でせめて変身ぐらいは出来るようにしたいとは考えていた。これではまるで自分だけ取り残されてしまうようなデジャブを感じーーー。

 

 なぜ、デジャブを感じたのか。

 東郷はその事に一日中首を傾けていたのは誰も知る由がない。

 

 「さて、もう少しで着くわね。場所は海沿いだからってあんまりはしゃぐんじゃないわよ?特に友奈!」

 「はっ!風先輩に誓いはしゃぎません!!」

 「宜しい」

 「ところで、風先輩。合宿と言っても監督とかそういう指導する人はいるんですか?」

 「えぇ、大赦の方から一人派遣されるはずよ。まぁ、名前とかは聞いてないけど」

 「う、上手くお話しできるかなぁ……」

 

 樹はまず初対面の人とのコミュニケーション能力をどうにかしないといけないか、と風は思いつつ窓を眺める。

 友奈は東郷と仲良く喋っていて緊張の「き」の文字すら感じられない。

 さて、この合宿でどうなるか。

 それだけが風にとっての心配事だった。

 

 それから数十分後。

 車の甲高いブレーキの音でうたた寝してしいた友奈が目を覚ます。

 椅子から立ち上がった風が荷物をもち、寝ている樹を起こして紡いだ。

 

 「さぁー!着いたわよ!!!」

 

 バスから出た4人は目の前の光景に圧倒される。

 同じような呆けた声をだし、海色の輝かしさの目を細める。

 すると、バスのとなりに一台のリムジンが停車する。

 不振に思った4人がそちらへ顔を向けると大赦の人が運転席からでて後ろ座席の扉を開ける。

 カツン、と警戒な音をたてて一人の女の子が下車してきた。

 年は勇者部のみんなと変わらず、しかし纏う雰囲気は修羅。圧倒的な力を持っているのが見てわかり風は納得する。

 

 「あの人が私たちにコーチしてくれる人ね」

 「なんか、かっこいい…」

 「うん。なんか歴戦の勇者って感じがする!!ねっ、東郷さん!!!…………東郷さん?」

 

 友奈は東郷の横顔を見ると異変に気づいた。

 また東郷も同じらしく震える手で頬を撫でる。

 少し、しょっぱく冷たい感じ。

 

 「ーーーーあ、れ?」

 

 何故か知らない、意味がわからない涙が蔦っていることに気づいた。東郷は今しがた降りてきた女の子を見る。

 その表情には様々な感情が渦巻いているのが何故かわかった。

 喜び、哀しみ、悔しさ、そういった感情の後何かを決心したような顔付きになり此方へ歩を進める。

 そして、伸びる右手で優しく頭を撫でられた。

 

 懐かしいと、思ってしまった。

 そして、その女の子は自己紹介をする。

 

 「話とかはもろもろ聞いてる。風先輩に友奈、樹、そしてーーー三森。アタシがうーん……所謂指導者って言えば良いのかな…。

 まぁ、三ノ輪銀だ、宜しく!仲良くロックにやっていこうぜ!!」

 

 

 

 

 

 




あれ、この作品の主人公って誰だっけ??
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