浮遊感を感じ、目を開けると彼女は何もない空間、その3歩先に立っていた。
自分よりも背が小さく、顔の幼さが残り愛らしい雰囲気を醸し出している。
誰?と言う必要はない。
彼女は私。私は彼女。
そうだとわからなくても、そうだと理解する。
「こんにちわ。未来の私」
彼女の言葉が私を少し動揺させた。彼女は私。そうは理解している。
けれど、何か抜けたような、たりない気持ちが私を焦燥とさせた。
「貴方は、過去の私…?」
「えぇ、そうですよ。東郷三森さん。私の名前は……いえ、すみません。何でもありません」
彼女は過去の私だと言った。そして、私の名前を言った。
けれど、彼女は自己紹介をしようとした行為に首を傾ける他ない。
私が貴方なら貴方は東郷三森。そうではないの?
そう言おうとしても何故か口には出ない。なので状況を整理することにした。
「それで、ここは……?」
「ここは、言わば神樹様の一部。私が神樹様に働きかけて呼び寄せてもらいました。伝えたいことがどうしてもあるのです」
「伝えたいこと……。それは勇者に関係することかしら?」
「一概にはそうでしょう。単刀直入に言います。真実は時に残酷だと。彼、いえ、彼女……?どっちでもいいですか。そう言いました。貴方はそれを重々に承知するべきだと。それをお伝えしにきました」
彼女の声音は次第に萎んでいく。
そして、私は一歩彼女に近づいた。
「貴方は、その真実とやらを知っているの?」
「えぇ」
短く答えられたその言葉に様々な感情が乗せられていた。
寂しさ、悲しみ、哀愁。
それがわかり、もう一歩近づいた。
そして、足が動くことに気付くがそれは胸の奥にしまう。
「けれど、それは言えない。そうなるように神樹様が働きかけているのね……
。有り難う、覚えておくわ」
「そうしてくれると嬉しいです」
次第に顔を俯かせる彼女に、私は言い難い気持ちに襲われ再度、一歩進む。
目の前にくると余計にその体が小さく感じる。
「ーーー辛かったでしょう、苦しかったでしょう」
何故そのような言葉が出たのか私にはわからない。
けど、
ふわりと、彼女の震える体を包み込む。
全てはわからないが、彼女は神樹様に働きかける存在だと言うのはわかった。
そして、とても悲しい存在だと言うこともわかった。
そして、これは私の記憶だ。目の前のは無い2年間の記憶だ。
「ーーー」
彼女は何も発しない。
発してしまったら、それが自分を弱いと断言するようなものだと考えているからだ。
「貴方は、私の記憶。それが何故神樹様と関係をもつか今はわからない。けれど、これだけはわかったわ。
置いてほしくない、一人にしないで。
貴方の思いが伝わってくる」
「そう、ですか……」
「一ついいかしら?」
先ほどから一つ気になっていたことがあった。
彼女は真実は時に残酷だと教えてもらったと言った。
なら、それを教えた人物とは誰なのか。
「貴方に、真実を教えた人って一体……」
「ーーー。わかりました。教えます。但し、これは誰にも教えてはなりません。誰かに教えたとしても神樹様が抑止力を行使してその記憶を消すでしょう。
そして、その者の名はーーー」
ガバッと勢いよく畳の上に敷かれた布団から身をあげる。
窓から風が流れ込み髪をひらりとはためかせた。
一室に、4人。
風先輩と樹ちゃん、それと友奈ちゃんと私がその部屋で寝ている。
銀は別室で寝ている。
私が勢いよく起きたことで隣に寝ている友奈ちゃんが目を覚ました。
「んぅ~……。東郷さん、どうしたの……?」
目を擦りながら聞いてくる。
普段ならいつも通りに返事をして終わりになるが今回ばかりはそうではなかった。
そうせざるを得ない状況だったからだ。
何故、その名が出てきたのか。
口許から小さく漏れでた言葉は、か細く雲に隠れる月のように消えていった。
「原初の……バーテックス……?」
あの後、友奈ちゃんに謝罪した後私は再度眠りについた。
そして、不思議なことにあっさりと眠りに落ちる。
朝、陽射しの強さを感じ目を覚ました。
ほかの3人はまだ気持ちよく寝息を立てている。時計を見るとまだ短針が5を指している時間帯だった。
「流石に早く起きすぎたかしら……。二度寝……はしたくないしどうしましょう」
と、考えていると扉が勢いよく開かれた。
昨日出会った先代の勇者、三ノ輪銀が高らかに叫ぶ。
「おっきろ~!さぁ、修行だ、鍛練だ、根性だぁ!!って、す、三森は起きてるか、ロックだな」
「銀は朝から元気ね」
苦笑いを漏らし、銀の爽やかな笑顔を目に入れる。
先代と聞いて今も勇者をやっているかと聞いたら事情で今はやっていないらしい。
すると、ほかの3人がモゾモゾと動き出した。
「こんな朝早くから鍛練って……銀の師匠がかなりスパルタなのがわかるわ。会ったらぶん殴りたくなることぐらいに」
「お姉ちゃん、そんなことを言わないでよ。会えるかもわからないし……ふわぁ……」
小さく欠伸を漏らした樹ちゃんが風先輩を宥める。
どうやら風先輩は昨日人一倍しごかれた疲れがいまだに抜けきってないらしい。
「勇者やってたら絶対に会えますよ。あと、会ったら私の分まで殴っておいてください、部長」
悪ノリをする銀が風先輩と樹ちゃんの布団を剥がす。
私は未だにモゾモゾ動いている友奈ちゃんの体を擦った。
「ほら、友奈ちゃん。起きて、鍛練ですって」
「ふわぁ……ん~……?あれぇ、東郷さん?なんで?」
「もう、寝惚けないで友奈ちゃん。昨日から合宿だったでしょ?」
「……あっ、そうだった!」
こういう天然紛いなところも可愛いわね。
朝の鍛練のあと私だけ銀に旅館から少し離れた所に連れてこられた。
ちなみに、友奈ちゃん、樹ちゃん、風先輩たちは今ごろ海辺で倒れていることでしょう。銀ってば容赦ないんだから……。
「いいか、三森。勇者に変身するには強い意思と安定した精神が必要だ。けど、前者は切っ掛けが無ければ見つけられない」
「だから、まずは精神の修行?」
私の答に銀は笑ってうなずいた。
そして、連れてこられた場所は滝があり回りが緑に囲まれた秘境と呼んでも差し支えないがないところだった。
「ここで兎に角瞑想してもらう。滝の音、茂みの音、それら全てが耳に入らないぐらい集中できるようになったらこれを鳴らして、すぐに迎えに来るから」
そういって渡されたのがよく運動会とかで使う競技用のピストルだった。
「あら、私が嘘ついて鳴らすかもしれないじゃない」
「いや、三森はそんなことしないよ」
真顔で答えられたことに少しばかり嬉しく思う。
それと同時に一つ聞きたいことができた。
「ねぇ、銀。少しいいかしら?」
「ん、何?」
「先代の勇者だった貴方は、原初のバーテックスと戦ったことはあるの?」
私の言葉に銀は目を見開き驚きの表情を浮かべる。
そして、少しばつが悪そうに言った。
「あぁ、あるよ」
そして、その答えは銀の強さをもってしてもかのバーテックスを討ち果たすことが出来ないことを意味していた。
「そして、戦績は99戦0勝99敗。ぼろ負けだよ」
肩を竦めて笑う彼女に今度は私が目を見開いて驚きの表情を浮かべた。
「そう驚くなよ。これでも結構悔しいんだよ?」
「それは、誰だって驚くでしょう。というか、99回も襲われるなんてもしかして銀って不幸体質とかじゃないのかしら?」
「おっ、いい推理だ。生まれてこのかたいつも何かに巻き込まれてるよ」
そして、その日は1日瞑想で終わり、明日の最終日に持ち越されることになった。
■■■
最終日の終わり間近。銀が言った境地にようやくと言った感じにたどり着くことができた。
滝の音、茂みの音、全てが耳に入らずまるでこの世界に私だけ取り残されてしまうような、そんな感覚だった。
競技用のピストルを持ち、鳴らそうとした途端、ふいに肩を叩かれた。
突然のことで驚き小さく声をだし振り替えるとそこにはしてやったりといった表情の銀が立っていた。
「もう、びっくりさせないでよ」
「ははは、ごめん。けど、そろそろ頃合いだなと思って」
「ねぇ、銀」
銀は私の言葉に首を傾ける。
私は、瞑想しているなか戦う理由を探していた。
そして、いろんな考えが頭を過った。
バーテックスを滅ぼすため?
違う、そんな野蛮ではない。
お役目だから。
ううん、しょうがなくやるような言葉じゃ納得できない。
だからか、私は悟った。
頭を掠めた皆の笑顔。楽しそうに笑ったり、悔しそうに笑ったり。
私はいつの間にかそれを大好きになっていたんだ。
この答えが偽善だと言われようともそれは私が見つけた答えだ。
「あのね、銀。私、皆の居場所を守れるように戦いたい。本心からそう思うの」
「いいじゃないか、それで」
意を決した言葉に銀は即座に肯定した。
理由など人それぞれ、どれだけ大きい理由でもどれだけ小さい理由でも、本質は変わらない。
「誰かのため、それが勇者なんだから。大丈夫、もう三森は前へ進めるよ」
「そう……そうよね。ありがとう銀」
すると、突如携帯から警報音が鳴り響いた。
画面を見ると【樹海化警報】の文字、そしてバーテックスの襲来を意味している。
「まぁ、そろそろだなとは思っていたな。じゃあ、行ってこい三森。その戦いが終わったらいつもの場所に戻されると思う。だから、荷物とかはあとで大赦の方から送り返すよ」
「えぇ、わかったわ。任せて、銀。もう迷わない」
私は力強く返事をした。
銀はそれに満足するかのように微笑み片手をあげる。
銀は勇者ではないため、このあと帰るらしい。
だから、これは別れの挨拶。
そして、再会の約束。
銀は学校で友達に別れを告げるように言った。
私は、いつも通り学校で話すようにそれに答えた。
「じゃあ、またね」
「えぇ、また」
樹海化が起こり景色が変わる。
スマートフォンを取りだし、皆は1体なのに何故か3体いた精霊を見つめる。
すぅーはー……と深呼吸をする。
大丈夫、私はやれる。
力強く押されたボタンは花弁を散らし私の姿を変わらせた。
同時に、3体の大きな敵が目の前の壁からやって来る。
銃を構え、屈む。
スコープの先にいる敵は悠々とこちらへ進める。そして、3人の勇者がそこへ駆けていくのが目にはいった。
もう恐れない、絶対に守るんだ帰るんだ。
そう思いながら……
東郷三森/鷲尾須美は引き金を引いた。
次話、タグにもあるように「乃木若葉は勇者である」のキャラが本格的に登場します。
原作小説を読むため少々遅れるかもしれません。