驚愕!誰にも知られることがなかった本当の童話集 作:筆先文十郎
通貨が円ですがそこはスルーしていただけると幸いです。
あとタイトルから分かるように悲しい結末ではないです。
年の瀬も押し迫った大晦日の夜のことでした。
小さな少女が一人、寒空の下でマッチを売っていました。
「マッチ、マッチはいかがでしょうか!」
少女は道行く人に声を掛けますが、年の瀬の慌ただしさから少女には目もくれず、目の前を通り過ぎていくばかりです。マッチは一本も売れません。
そうする内に夜も更け、ちらほらと降っていた雪が勢いを増して降ってきます。
「寒い、寒いわ……このままじゃ凍え死ぬわ。せめてマッチの炎で手を温めましょう」
そう言って少女は風を避けるため家と家の間に入ってマッチに火をつけようとします。その時でした。
「貴様!連続放火魔だな、逮捕する!!」
「え?」
振り返るとそこには数名の自警団が目を大きく見開き少女を見ていました。
(あの目、尋常じゃない!下手したら殺される!!)
今すぐ逃げろと訴えかける本能に従って、少女は一目散に逃げ出しました。
「待て!」、「逃がすな!」、「この連続放火魔!」
(捕まったら殺される!)
少女は
「あぁ、ただでさえお腹が空いているのに走ったからますますお腹がすいたわ」
少女は空を見ます。雪はまだ止みそうにありません。
「このままじゃあ体温が下がって凍傷などの危険性が高まるわ。とりあえずここでビバーク(野営)をしましょう」
少女は急いで雪をかき集めると、時々水をかけて雪が固める、ということを繰り返しました。ある程度の高さに達すると少女は平べったい石で表面をたたき、より一層固くすることに専念します。そしてそれなりに固まったことを確認して雪のかたまりを掘り出して空間を作りました。
「幸い火は確保しているし。それに雪穴の中は案外あったかいし」
そうして少女は即席のかまくらの中でマッチを灯しました。
「わぁ」
少女は驚きの声を漏らしました。
マッチの炎と共に、暖かいストーブや七面鳥などのごちそう、飾られたクリスマスツリーなどが現れたのです。しかしそれらも炎が消えると同時に消えてしまいました。
「そうだ。外はどうなってるかしら?」
天気が気になりかまくらから顔を出して天を向くと、ちょうど一つの流れ星が流れていました。
「そういえば」
少女はあることを思い出します。
可愛がってくれた祖母が「流れ星は誰かの命が消えようとしている象徴なのよ」と言ったことを。
「その『誰かの命が消えようとしている象徴』って案外私だったりして……まさかね!」
あははは!と笑うと、少女は空腹と疲れで糸が切れたかのようにかまくらの中で眠ってしまいました。
次の日。
「何だ、この雪の山は!?」
そして。道行く人たちはかまくらの中にいた少女に気づきます。
少女は薔薇のように頬を赤くし、口もとには微笑みを浮かべ目を閉じていました。
「あぁ!あの時マッチを買ってあげていれば!!」
少女の声を無視してしまった人々が涙を浮かべ口々にそんなことを呟きます。
そしてある男が呟きます。
「あぁ、こんなことになるんだったらマッチ一束一万円で全部買ってあげるのに!」
「マッチ一束一万円ッ!!」
男の言葉に、先ほどまで死んでいたと思われた少女がピョーンッ!と飛び上がるように身体を起こしました。
「貴方さっき言いましたよね!『マッチ一束一万円で全部買ってあげる』って!!私は聞き逃しませんでしたよ、じゃあ10万円になりま~す!!!」
そう言って少女は男の財布から10万円を抜き取り男にマッチの束を渡すと、鼻歌を歌いながら家へと帰って行きました。
「「「…………」」」
そんな勇ましい少女の後姿を、町の人々は呆然と見つめていました。