四葉の神童   作:司波

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原作を知らないと話についていけないかもです。


入学編①

「A組か……」

 

魔法が御伽噺の産物ではなくなった世界。

高等魔法教育機関で知られる国立魔法大学付属第一高校の入学式の直後、自分のクラスを見た一人の少年、司波流夜(りゅうや)は小さな声で呟いた。

 

「あなたもA組ですか? あっ、私光井ほのかって言います」

 

その声の主は、明るい色の髪を二つに束ねた少女、プロポーションは抜群で、十分可愛いと言えるだろう。

しかし、流夜はその身体には目を向けず、隣に目を移す。

 

「北山雫。よろしく」

 

今度は黒髪をマッシュレイヤーにした少女だった。大人しい印象が見受けられるが、こちらも美少女だ。

 

「司波流夜です。こちらこそよろしく」

 

見惚れるような笑みで、流夜が挨拶を返す。その笑みに、周りの女子生徒の大半が顔を赤く染め、目を背ける。

そして、男子生徒からは嫉妬と諦めの視線が集まった。

 

しかし、この二人は自分も美少女だからだろうか、そのような反応はしていない。

 

「あの、よかったら一緒にホームルームに行きませんか?」

 

ほのかが、期待したような表情を浮かべ、問いかけてくる。隣の雫も、僅かにそのような表情が見受けられた。

 

ホームルームは必ず行かなければならないものではないが、友達を作るという目的で、多くの生徒が参加する。

しかも、二人の美少女と一緒に居れるとなったら、大体の男子高校生はここで断ったりしないであろう。しかし、流夜は直ぐに返事を返す。

 

「すみません。行きたいのは山々ですけど、兄と姉と待ち合わせているので」

 

その返事に、二人は顔を曇らせることなく、むしろ興味津々といった表情を浮かべた。

 

「もしかして、姉って新入生総代の司波深雪さんですか?」

 

彼の双子の姉、司波深雪は入学試験に主席合格し、新入生総代として入学式で新入生代表挨拶を言っていた。

 

「はい、そうですが。どうして分かったんですか? 司波なんて別に珍しい名字ではないと思いますが」

 

如何にも不思議だという表情を浮かべた流夜。それに雫が答える。

 

「どっちも美男美女だし」

 

確かに、明らかに人の目を惹くような「絶世」のとも言える容姿は、深雪にも、流夜にも共通している。

しかし、流夜は曖昧な笑みでそれをスルーした。

 

「では、待ち合わせているので、失礼します」

 

◇ ◇ ◇

 

講堂の中を探し回り、漸く見つけた兄、司波達也と、双子の姉、司波深雪は、二人の見知らぬ女子生徒と親しげに会話をしていた。

その中で、最初に流夜に気付いた達也が声を掛けてきた。

 

「遅かったな」

 

「少し呼び止められていて」

 

さして気にしていないといった表情で声を掛けてきた達也により、周りの視線が一斉にこちらに集まる。

 

「司波流夜です。よろしくお願いします」

 

流夜の自己紹介に一番速く反応したのは栗色の髪をショートカットにした少女だった。

 

「あたし千葉エリカ。よろしく」

 

快活な声で自己紹介をしたエリカにつられ、隣の眼鏡をかけた少女も自己紹介をする。

 

「柴田美月って言います。よろしくお願いします」

 

エリカとは対照的に、気弱そうな印象が感じられるが、流夜は全く違うことを考えていた。

 

(霊子放射光過敏症か……)

 

現在、科学技術の発達により、視力の低下は簡単な治療により回復できる。なので、眼鏡をかけている人はその殆どがおしゃれ目的なのだ。

しかし、美月がおしゃれ目的で眼鏡をかけるような性格には見受けらなかった。なので、流夜は美月が霊子放射光過敏症だと推理した。

 

霊子放射光過敏症とは、霊子(プシオン)想子(サイオン)という物質に、過敏な反応を示してしまう症状のことで、予防には特殊な眼鏡をかけることが最も効果的だと思われている。

つまり、美月は霊子放射光過敏症の予防として眼鏡をかけているのではないかということだ。

 

そこまでで、エリカの声により流夜の思考は停止した。

 

「それにしても美男美女三兄妹だよね」

 

三人の中で達也だけは一般的な容姿をしているのだが、それは深雪、そして流夜と並んでいるからであって、実際はその背の高さと大人びた雰囲気が相まって、格好良いと呼ばれるだけの容姿を持っている。

 

しかし、達也はそれには答えず、深雪の背後に目を向けた。

 

「深雪、生徒会の方々の用事はいいのか? 済んでいないなら適当に時間でも潰しておくが」

 

その問いに答えたのは深雪ではなく、恐らく生徒会の人物なのであろう小柄な美少女だった。

 

「いえ、いいですよ。元々挨拶のつもりだったので。では深雪さん、また後日に」

 

そう言ってその小柄な女性は優雅に一礼をした後、講堂を後にした。

 

(確か生徒会長の七草(さえぐさ)真由美だっけ。あの『七草』なら注意しないと)

 

七草は日本の魔法師の家系で、最も力を持っていると言われている二家のうちの一家だ。

そしてもう一家は……

 

◇ ◇ ◇

 

帰り道、流夜の発言にエリカが驚愕の声を上げた。

 

「えっ?! 流夜くんって達也くんたちと別居してるの?」

 

「ちょっと家の事情で。それにあの二人と暮らしてると砂糖でも吐きたくなっちゃいそうだし」

 

これは暗に達也がシスコン、そして深雪が超絶ブラコンということを言っている。

エリカも美月も、これは短い付き合いで察していたのか、心底納得した表情で首を縦に振っていた。

その時、冷やかな声が背後から聞こえてくる。

 

「それはどういうことかしら流夜。もしかしてお兄様との関係が不純だと言いたいの?」

 

しかし、流夜は少しも物怖じせずに答える。

 

「そんな訳ないじゃん。兄妹愛が強いのは勿論良いことだよ」

 

その白々しさからか、達也は流夜に呆れた目を向けた。

 

◇ ◇ ◇

 

次の日の早朝、司波三兄妹は九重寺という寺に来ていた。

 

「それが第一高校の制服か。いいねぇ……真新しい制服が初々しくて、清楚の中に隠しきれない色香があって、これは萌えだ! 萌えだよ! ムッ?」

 

ソロソロと後退する深雪に詰め寄っていたのは稀代の忍術使い、九重八雲だ。

 

「師匠、深雪が怯えてますんで少し落ち着いて下さい」

 

そう、彼は三兄妹の、特に達也と流夜の師匠なのだ。しかし、

 

(坊主の癖に俗っぽい)

 

というのが三兄妹の共通認識だった。

 

「やるねぇ達也くん。僕の背中をとると、はっ」

 

そこから達也と八雲の組手が始まった。体術なら同程度、しかし……

 

◇ ◇ ◇

 

「もう体術だけなら達也くんには敵わないかもしれないねぇ」

 

それは紛れも無い賞賛。深雪は我が事のように顔を輝かせている。だが、達也にはこの賞賛がどうにも心に響いていなかった。

 

「体術で互角なのにあれだけ一方的にヤられるのは喜べません……」

 

「それは当然だよ。魔法を使っても負けてたらもう君の師匠ではいられないよ」

 

「お兄様はもう少し素直になって下さい。先生が珍しく褒めて下さっているのだから胸を張って高笑いをしておけば良いのです」

 

そんな深雪を、達也は苦笑いを浮かべて見つめる。

 

「それはちょっと嫌な奴じゃないか……?」

 

そんな不毛な会話をしている三人に、流夜は声を挟む。

 

「師匠と兄さんの見てたら俺も体動かしたくなってきた。回復したらで良いし久し振りに組手しよう」

 

流夜はまさにウズウズしているといった雰囲気を滲み出している。そんな流夜に再度達也は苦笑いを浮かべ、組手の約束を取り付けた。

 

◇ ◇ ◇

 

暫くして、組手の用意が完了した二人は向かい合ってた。

 

「じゃあ始めるか」

 

「ああ!」

 

瞬間、達也がCADを構えながら間合いを詰めてくる。

CADとは魔法の発動を高速化する為に開発された機械で、現在は殆どの魔法師がこれを使用している。

通常、魔法の発動には長い詠唱が必要となり、その間は無防備となってしまう。

しかし、CADにより、銃と同程度のスピードで魔法を発動することが出来るようになった。

 

(体術では達也には敵わない。……なら!)

 

流夜は慌てずにブレスレット型のCADから魔法を発動させる。

発動させた魔法は、『流星群(ミーティア・ライン)』。

これは収束系の魔法で、光を介して間接的に物体の構造に干渉し、熱や圧力によらず固体、液体を気化させる魔法だ。

見かけ上は空間を闇にし、その中を流れ星のような光が通り抜けるので、夜空のような光景になる。

このことから、この魔法は「夜」とも言われるのだ。

これは一度発動させたらどんな防御魔法でも撃ち抜く。

 

しかし、達也はいとも簡単にこの「夜」を破って見せた。

達也が発動した魔法は『分解』。これは、構造を認識し、構造を分解する魔法で、達也が先天的に有している魔法の内の一つだ。魔法としては最高難度に数えられる。

 

(それは予想済みだ!)

 

そう、流夜は流星群が分解と相性が悪いことを知っている。その上で、僅かな「夜」を利用するために使ったのだ。

流夜は「夜」の暗闇に乗じて気配を隠し、達也の背後に回る。

 

(これで勝ちだ!)

 

流夜は背後から圧縮空気弾を放つ魔法、『空気弾(エア・ブリット)』を達也に向けて使用した。

 

「なっ」

 

その『空気弾』は突如として想子の嵐に吹き飛ばされる。

更に向かってくる想子の塊。

 

術式解体(グラム・デモリッション)か……)

 

直撃は免れない……かに見えた。

しかし実際には、膨大な想子の全てが流夜の突き出した右手に吸い込まれる。

 

達也の左拳と流夜の右拳が交差する。

 

「そこまで!!」

 

直後、突然横から声が聞こえ、両者の拳が停止した。

 

「引き分け……か」

 

達也が残念そうに呟いたと同時に流夜も口を開く。

そこには、先程の緊迫した空気とは打って変わり、穏やかな空気になっていた。

 

「闇に乗じたのに気付かれてたなんて……」

 

「流夜、お前いつの間に叔母上の流星群なんて盗ってたんだ?」

 

「それは秘密だよ」

 

いたずらが成功した子供のような笑みを浮かべた流夜に、達也は苦笑いを禁じ得なかった。

 

達也の「盗った」という表現に語弊はない。

達也が分解を先天的に有しているように、流夜も先天的に有している魔法があった。

それが『術式支配(グラム・ドミネイション)』だ。これには、大きく分けて三つのことが可能である。

一つ目は「吸収」、これは先程流夜が達也の術式解体を手に吸い込んだように、魔法や衝撃、物体を吸収することができる。

二つ目は「反射」、これは吸収した魔法、衝撃、物体を打ち出すことができる。

そして、最後が「術式複写」、これは一度吸収した魔法を記憶し、繰り返し使うことができる。これは先の二つと違い、魔法以外は当てはまらない。

 

つまり、流夜は人から魔法を「盗る」ことが出来るのだ。

しかし、これにも例外があった。それは達也から吸収した魔法だけは術式複写出来ないということだ。

原因はまだ分かっていない。

流夜は、昔初めてこれを知った時、非常に落胆した。

 

 

 

 

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