転入生
Side空
堕天使の一件から数日後。
いつもと変わらないはずの朝のホームルームは今日だけは少し違った。
それは先生の隣に立つ少女が原因と言っていいだろう。
長い金髪と緑色の双眸を持つ少女。
その人物が男女問わずクラス中の視線を釘付けにしていた。
ああ、なるほど。リアスはそうしたのか。
彼女がここにいる理由を考えたらそれはすぐにわかった。
「それでは自己紹介を」
「は、はいっ」
先生が自己紹介を促すと緊張気味に返事をした。
「アーシア・アルジェントと申します! つい最近外国からやってきて日本には不慣れですが、どうかよろしくお願いします!」
最後に一礼する。
『うおおおおおおおおおおおッ!!』
それと同時にクラス中が沸いた。
うるさ……。
さっきまで静かにしていたのは夢のように思える光景が広がる。
隣のクラスに迷惑を掛けそうだなと危惧した先生が一生懸命に全員を宥めた。
「アルジェントさんの席は兵藤の隣だ。今日の伝達事項は特にない。授業が始まるまでは質問タイムとするか。あまり五月蝿くするなよ?」
そう言って教室を出ていった途端にクラスメイト達がアーシアの下へと一気に押し寄せた。
「アルジェントさんはいつごろ来たの!?」
「日本語上手だね! 勉強たくさんしたの!?」
「彼氏はいるの!?」
「好きな食べ物は!?」
「どこに住んでるの!?」
等々。様々な質問がアーシア目掛けて投げられた。
勿論一気に聞かれては全部が全部反応出来るわけもなく、あちこち目まぐるしく見てはどうすればいいのか途方に暮れていた。
そんな最中―――。
「おい、お前ら! そんないっぺんに質問されてもアーシアが答えられないだろうが!」
誰かが声を張り上げた。
声のする方に目線を向ければ、イッセーが人混みをかき分けてアーシアを連れだした。
「一列に並べ! 質問は一人一つまで! 変な質問した奴は俺がぶっ飛ばすからな!」
普段はスケベ野郎のイッセーだが、今日に限ってはアーシアの騎士を立派に努めている。
クラスメイトもそんなイッセーの迫力に圧されたのかきちんと一列に並びだしたのだった。
その日の放課後、イッセー、アーシア、俺の三人で旧校舎に向けて歩いていた。
「初めての学校どうだった?」
イッセーの質問にアーシアは笑って答えた。
「皆さん優しくしてくれて嬉しかったです! 不安なことはたくさんありましたけどイッセーさんがいてくれたので大丈夫でした!」
「そっか! そいつは良かった!」
他にも今日あったことを話している内に部室の前に辿り着いた。
「俺はこっちだけど、すぐにそっちに行くから」
「何でオカ研に来るんだ?」
「ちょうどいい機会だから俺の入ってる部活の部員の自己紹介でもしようかなって」
イッセーが入った時にでも良かったのだが、生憎先日の一件で暇がなかったのだ。
「全員いる?」
「兄さん!」「お兄ちゃん!」
部室を覗いてみれば真っ先にエリオとキャロが寄って来た。
初等部に通う二人だが、校舎が初等部の生徒が一人でも行ける距離だし、高等部に入ってきても問題にはならない。
二人を抱っこして近くのソファに座った。
「これからオカ研に挨拶に行こうと思うんだけど依頼はある?」
「今日はないわ」
「オッケー。じゃあ、オカ研に行くよ」
部室の扉に『お休み中』と書かれた看板を立て掛けてオカ研の部室にお邪魔した。
「リアス、今大丈夫?」
「まだ仕事までは時間があるから大丈夫よ。それと話はイッセーから聞いてるわ」
それなら話は早い。
すぐに自己紹介を始めた。
「今日この学園にやって来たアーシア以外は知ってると思うけど、俺達は学園生活相談部っていう部活やってる。活動内容は名前の通りと思ってくれて構わないから、困ったことがあればいつでもどうぞ。そんで、一応部長は俺ね」
中学校時代に士織達とこの部活を作って意外と周りからは好評だったのでこの学園でも作って活動してる。
積極的に勧誘をしているわけではないし、美少女ばかりがいるせいか、部員はオカ研と同じくらいの人数だ。
「エリオ、キャロ。自分で挨拶してごらん」
『うん!』
「龍神エリオです! 初等部の二年生です!」
「龍神キャロです! 私もエリオ君と同じ二年生です!」
良くできました。頭を撫でるとくすぐったそうに身をよじらせていた。
「お前兄弟いたんだな……」
「まあ、血は繋がってないんだけどね」
色々事情があって引き取ったのだ。
二人との出会いはいま語るべきことではないので、次の人に自己紹介を促した。
「五河士織だよ。部活では副部長やってるんだ。木場君と同じクラスの二年生。よろしくね」
背中辺りまで伸びた長い青い髪と四つ葉のクローバーのヘアピンが特徴。
スタイルはリアスや朱乃と比べると劣っているように見えるが、平均よりは胸は大きめで着やせするタイプ。
……って俺はなにバカなことを説明してるんだか!
士織には俺と違って両親がいる。ただ、二人共多忙で世界中を飛び回っているため龍神家で一緒に暮らしているのだ。
「リシアンサスっす。長いからシアって呼んでくださいっす。私もクラスは士織ちゃんと同じっすよ」
「キキョウよ。シアとは双子の姉妹」
神王ユーストマの愛娘たち。
語尾に「っす」と付けているのがシア、勝気そうな口調がキキョウ。
小豆色の長髪とスリーサイズは全くの一緒。容姿はキキョウの目がやや吊り上がっているくらいしか見分けが付かない。
元教会側の人間だったアーシアからすれば有名人に遭遇したようなものだろう。
「私はネリネと申します。シアちゃんとキキョウちゃんとは従姉妹です。クラスは私も同じです」
「リコリスだよ! リン……えーっとネリネとは姉妹なんだ。私も同じクラスなんだ」
魔王フォーベシイの愛娘たち。
丁寧な言葉遣いなのはネリネ、明るく活発なのがリコリス。
シアとキキョウ同様に蒼色の長髪とスリーサイズが全くの一緒。違いは瞳の色が赤い方がネリネ、紫の方がリコリスだ。
「二組ともぱっと見で区別がつかねぇ!」
頭を抱えるイッセーにその場にいたほとんどが頷いていた。
「姉妹だから仕方ないとは言え、結構間違われるのよ。私も長い付き合いだけどたまに間違えることあるくらいだし」
「でも、空君は間違えたことないような気がしますわ。少なくとも私の知る限りでは、ですけど」
「……私も前から思ってました。何か見分ける方法でもあるんですか?」
「え? 普通わかるでしょ?」
『それが出来たら苦労しない!』
解せぬ。
まさかの全員からのツッコミが入る。
「こればっかりは直感としか言いようがないかな。シアはシア。キキョウはキキョウ。ネリネはネリネ。リコリスはリコリス。ホントになんとなくでわかるんだよね」
どうしてと聞かれてもなんとも答え辛い。
計算問題を出されて公式をテキトウに当てはめて解くようなものかもしれない。
「それだけ私達のことを愛してるってことね」
「流石は未来の旦那様っす!」
「すごく嬉しいです」
「ふふふ。益々好きになっちゃいそう!」
頬を薄っすらと朱に染めた四人からの爆弾発言。あ、バカ!とそう思ったときにはすでに手遅れ。
次の瞬間にはイッセーとアーシアが驚愕する姿が用意に想像できた。
『ええええええええええええええええッ!?』
やっちまった……。
裏の事情を知り始めたイッセーとアーシアだから話したのかもしれないが、いい迷惑だ。
暴露した四人を恨めしそうに睨むが揃ってニコニコ笑顔を返された。
「お、お前ッ! この前会った明日奈って子と付き合ってるんじゃなかったのか!? というか前から仲良いなとは思ってたけどやっぱりそういう関係だったんだな!」
「複数の女性とだなんて……そんなの不純です! 不潔です!」
来るだろうと予想していた質問がイッセーから飛んできた。アーシアに至ってはふしだらな関係性に怒っていた。
なんて答えたものか。そう悩んでいたらリアスと小猫が助け舟を出してくれた。
「イッセー、前に一夫多妻制のことは教えたでしょ? 天使も悪魔も種の存続を考えてそうしているのよ。ちなみに空は魔王様と神王様公認の許婚よ」
「……イッセー先輩もハーレムを目指しているんですから人のこと言えないと思います」
「確かにそうだけど! 龍神が何食わぬ顔でハーレムを作っていたなんて! ……ま、まさか他にもいたりするのか?」
「…………黙秘権を使います」
「明日奈ちゃんの他にもいるっすよ」
「ちょ、シア!?」
「隠すことないじゃないですか」
「そもそも空君がモテ過ぎなのがいけないよねー」
『うんうん』
これには四人だけでなく、長い付き合いのリアスたちも頷いていた。
「俺は……別にモテようとしてモテたわけじゃ……」
「贅沢な言い訳だなおい! 世界中のモテない野郎共に謝りやがれ!」
「めんご」
「めんご!?」
「まあ、アレだよ。ほら、何というか……あー、うん。シア達が俺を好きになってくれたのは素直に嬉しいし、今更他の誰かに取られるのも……嫌かな」
恥ずかしい言葉を口にしたせいか顔が熱く感じる。周りの生温かい視線に耐えられなくてそっぽを向いた。
「要するに、俺の女に手を出す奴はたとえ神だろうが魔王だろうがぶっ飛ばすってわけだね」
他人事だからって愉しそうな笑顔しやがって!
「勝手な解釈するな木場! と、ともかく! 俺は自分のやってきたことに後悔はない!」
反省は大分してるけど……。
「どうせ空のことだから私達の知らないところで他の女作ってるんでしょ? いい機会だから今度皆を集めて洗いざらい吐いてもらおっか」
「それいいっすね! 空君は絶対参加っすから!」
士織の突然の提案にシア達が賛同し始めた。
これではまるで俺の浮気調査をするようではないか。
結婚なんてしていないのにどうしてこうなった。いや、士織たちとの関係を考えればそれに近しいのかもしれないが。
「その集まりがとても魅力的なのはわかりますが、それは一旦置いといてイッセー君とアーシアちゃんの紹介をしましょうか」
朱乃がようやく本題に戻してくれた。でも魅力的と言ったあたり、朱乃が内心で面白がっているのがわかる。
「イッセー、アーシア。自己紹介なさい」
「はい! 俺は兵藤一誠。リアス・グレモリー様の眷属でクラスは『
「アーシア・アルジェントです。つい先日悪魔に転生しました。クラスは『
あの一件以来会っていなかったため、彼女が悪魔に転生したと知ったのは今日のホームルームだ。
教会から追放され、身を寄せていた堕天使も
最終的に信用できるのはイッセーがいる悪魔側になったというわけだ。
孤児から聖女。聖女から魔女。魔女から悪魔。
凄まじい勢いで環境が変わる人生だが、それもこれで終わりだと思う。
今の彼女は一人じゃない。助けてくれる友達がいる。優しい主がいる。同じ眷属の仲間がいるのだから。
「イッセー、アーシアのこと幸せにしてあげなよ?」
「おう! 言われなくともわかってるって!」
「イッセーさん……!」
決意を固めるイッセーに感極まったのか涙目になって喜ぶアーシア。
「さて、自己紹介も終わったことだし、今日も一日お仕事頑張るわよ」
アーシアを加えたオカルト研究部が始動したのだった。
「えーッ!? リアスのところに新しい眷属!? どうして僕を呼んでくれなかったの!?」
帰宅後、夕食の席で家族の一人が今日の出来事を聞いて不満を漏らした少女―――龍神
背中まで届く夜色の髪と人懐っこい顔。お気に入りの赤いヘアバンドを付けている。
エリオとキャロ同様血は繋がってない義妹だ。
旧姓は紺野だが、爺ちゃんがこの家に連れてきてからは龍神家の一員となり、苗字が変わった。
「今度機会があれば紹介するさ」
「それなら我もついでに顔を出そう。赤龍帝に興味がある」
箸を動かす手を止めて話に割り込んできた人物を見る。
ショートカットの銀色の髪の先が黒くなっていて、襟足を一つに結んでいる。
名を龍神
「お主らも来るのだぞ、星奈、美雷、夕里」
「はい」「はーい!」「わかりました」
返事を返したのは焦げ茶色の髪の少女―――龍神星奈と水色の髪の少女―――龍神美雷。そして踝まで届くほどに長い金髪を三つ編みにした少女―――龍神夕里。
三人にも旧名があり、星奈は
四人とも誰かに呼んでもらう名前とはとても言い難く、他にまともな呼び名が無かった。戦いが終わって何故か俺が名付けることになって今の名前になったのだ。
出会った当初は殺意を抱かれるほど目の敵にされていたが、今ではすっかりこの家の一員として馴染んでいる。そのことが嬉しくて笑っていたら夜空に怪訝そうな目で見られた。
「……何をニヤニヤしておるのだ?」
「ちょっとね。四人と出会った頃思い出してただけ」
「懐かしいねー。あの時は本気で空を殺すつもりだったけど返り討ちにあったの憶えてるよ」
「そんなことあったの!?」
ユウキと出会う前の出来事。知らないのも無理はない。
エリオとキャロも聞きたいそうにしていたので食事後に話したのだった。
過去話は今は割愛します。
次回からフェニックス編です。