許婚
Side空
「んっ……!」
今日、学校で出された課題をやり終えて、軽く体を伸ばした。
あとは就寝するのみ。
部屋の明かりを消してベッドに潜り込んだ。
「?」
そのとき、部屋の中に赤い魔方陣が展開された。
この紋様はグレモリー眷属の……。
グレモリー眷属の誰かが俺に用でもあるのかと気楽待ち構えていたら、転移してきたのはリアスだった。
これには少なからず驚いた。
リアスが俺の家に来ることは珍しいことじゃないが、自室に態々来るのは今までになかったことだ。
「どうしたの?」
「空、お願いがあるの」
何やら思いつめた表情で、
「大至急私の処女を貰って」
とんでもないことを口にしてきた。
………………………………………………………………。
「病院行く?」
フリーズした思考回路が直ってそんな言葉が出てきた。
付き合いはそれなりにあるからリアスがどんな性格なのかも知っている。普段のリアスならこんな可笑しなこと言わないはずだ。
「私は正常よ」
「うん、正常なヒトならいきなり押しかけて処女貰えって言わないから。ってか服脱ぐな!」
ベッドに近寄るごとにリアスは服をどんどん脱いでいく。
俺が止める間もなく、到着する頃には既に下着姿。リアスの身体を覆う布面積の少ない薄紫色の下着だ。
ガン見してる場合じゃない!
「ま、まだ間に合うから早く服を着てくれ!」
「無理よ! 私はもう覚悟を決めたの! 気合入れて勝負下着だって着けてきたんだから!」
そんな情報知りたくなかった!
ベッドに乗り上がったリアスがブラを取る気だと察知した俺は素早くその手を封じた。
「離して!」
「嫌だ! こうでもいないと襲ってくる気だろ!?」
「抱いてくれたっていいじゃない! ケチ!」
「ケチで結構!」
よくよく考えれば俺の命も危機的状況だということに気が付いた。
シアやネリネという許婚がいるにも関わらず、他の女にも手を出す。それが魔王様や神王様にバレたら一巻の終わりだ。
いや、魔王様や神王様
アイツらにバレた時を想像すると……ヤバい、吐き気がする。
ここは何としてもリアスを止めなくてはならない。
「一生のお願いよ!」
「お前のそれは中学時代にも聞いた!」
内容は眷属集めに同行しろだった。海外を回れたの良いが碌な目に合わなかったのは今でも少しだけ恨んでたりする。
「先っちょ、先っちょだけでもいいから!」
「どう考えてもダメなやつだよ!」
「据え膳食わぬは男の恥でしょ!」
「恥よりも命の方が大事! 食った瞬間色々終わるから! そもそも俺よりも木場に頼めよ!」
「祐斗ではダメよ。あの子は根っからのナイトだから絶対に拒否するわ」
おかしいなー、俺も今現在拒否してるんだけど!
「じゃあ、イッセーは!?」
「それは考えたけどあの子にはアーシアがいるから、頼むわけにはいかないわ」
「俺にも士織達がいるんだけど!」
「あなたなら今更一人増えてもいいじゃない! どうせ毎晩ズッコンバッコンやってるんでしょ!? このヤリチン男!」
「人聞きの悪いこと言うんじゃねぇ!」
毎晩なんてやってるわけねぇだろ! ってか女の子がはしたない言葉を使うんじゃありません!
手を抑えるのに気が回っていた所為か、いつの間にかリアスの足は俺の腰をガッチリホールドしていた。
「私、美少女よ!」
「知ってるよ!」
「胸やお尻も大きいわ!」
「だから何だよ!?」
「そんな私を抱けるあなたは幸せ者よ!」
「抱いたら俺は不幸者になるってさっきから言ってんじゃん!」
リアスが諦めない限り、いつまでもこの下らない言い争いは終わらない。
誰か助けて。心の奥でそう叫ぶと奇跡が起きた。
部屋の中が再び輝き、グレモリー眷属の魔方陣が展開したのだ。
朱乃!? 木場!? この際誰でもいいから助けて!
魔方陣から現れた人物は俺の予想だにしなかったメイド服を着た銀髪の女性であった。しかし、俺からすれば嬉しい誤算だ。
「こんなことをして破談にするおつもりですか?」
淡々とした口調で銀髪の女性―――グレイフィアさんが言った。
「そうよ。こうでもしないとお父様やお兄様は私の意見なんて聞いてくれないでしょう?」
「……あなたが今襲おうとしてる相手の立場を理解しているのですか?」
「そ、それは……」
いいぞ、グレイフィアさん。もっと言ってやって!
「そもそも魔王様や神王様の許婚である以前にその方は―――」
「それ以上言わなくてもわかってるわ。……ごめんなさい、空。少し、冷静じゃなかったみたい。今日のことはお互いに忘れましょう」
少しどころの騒ぎじゃなかったですけどね。
まあ、何はともあれ襲われずに済んでよかった。
「グレイフィア、私の根城へ行きましょう」
「はい」
「空、おやすみなさい」
額に軽く唇を押し付けて、リアスとグレイフィアさんは転移した。
ようやく嵐が過ぎ去ったことに安堵の息を吐く。
「あー、早く寝よ……」
枕に頭を乗っけて目を瞑る。
たった数分のやり取りだというのに精神的に相当疲れていたようで、すんなり眠りに落ちることが出来たのだった。
翌日。
朝の修行をリアス達抜きでやってから学校に登校した。
教室で松田と元浜がイッセーにダブルブレーンバスターを食らわせてるのを見て、今日も平和だなぁ、なんて現実逃避して過ごした。
「なぁ、最近部長変じゃね?」
「そうですね。話しかけてもどこか上の空という感じでした」
「恐らくだけど、グレモリー家に関わることじゃないかな?」
旧校舎にイッセー達と向かう途中で木場やシア達と合流。
うわぁ、なんであの人来てんの? ……帰りたくなってきた……。
オカ研部員の話題になっていたのはリアスのことだ。
部員達から見てもここ何日かのリアスは明らかに様子がおかしいみたいだ。
「……僕がここまで来て初めて気が付くだなんて……」
オカ研の部室の前に到着すると木場が何かに気が付いたようだ。
よし、俺は知らない。何も見てない。何も気付いてない。
顔を険しくする木場と困惑するイッセーとアーシア達をよそに、オカ研の部室の中の様子に完全に無視を決め込んで自分の所属する部室に入る。
「空君、オカ研に来てくれないかな?」
が、数秒して木場に呼ばれた。
「……うん、わかった」
心の底では拒否をしたいが、断った後のあの人が怖いので大人しくオカ研の部室に入った。
中にいたのは俺を呼んだ木場、不機嫌そうなリアス、いつも通りニコニコ笑顔だが心なしか冷たいオーラを放つ朱乃、部屋の隅に座る小猫、場の空気に置いてけぼりにされて困惑しているイッセーとアーシア、昨日リアスを迎えに来たグレイフィアさんが扉近くで立っていた。
「空様、ごきげんよう」
長い黒髪でメイド服を着た小柄な女性が俺を見つけるなり名前を呼ぶ。
「お、お久しぶりです、セージさん……」
彼女の名前はセージ。
魔王フォーベシイに仕えるメイドだ。
「どうしてすぐに来なかったんでしょうか?」
「へ?」
「私が来ていたことに気が付いていましたよね?」
「い、いやー、俺にはさっぱりでしたよー。木場に呼ばれて初めて―――」
「
「ごめんなさい、知ってました」
なんなら転移してきた時から気づいてたけど。
俺に様を付けて呼ばなくなったということは、今のセージさんはメイドではなく完全に母親モードだ。
実は彼女、ただのメイドではない。
魔王フォーベシイの最愛の妻であり、ネリネとリコリスの母親でもある。
つまり、このまま何もなくあの二人と結婚することになる場合、彼女は将来俺の
「なあ、なんで龍神の奴、あの小さいメイドさんに怯えてんだ?」
「僕も人伝に聞いただけだから何とも言えないけど、昔色々あって頭が上がらないそうだよ。ちなみにあのお方は魔王様の奥方でもあるから、口の利き方には気を付けてね」
「マジ……!?」
セージさんから受けたサンダーキック、思い出すだけでも体中の震えが止まらなくなるな。
「で、何故黙ってたのかしら?」
「リアスの方に用があるのかと思いまして、そちらが終わり次第お伺いするつもりでした」
我ながら中々まともな言い訳じゃないだろうか。
「……そう言うことにしておいてあげる」
絶対にバレてるな。でも、そこまで怒ってないみたいだから話題を変えて、今日ここにいる理由を聞いてみた。
「今日はどうしてこっちに?」
「本日、私がここにいるのはグレイフィアの付き添いです。自分の娘と将来息子になる子の様子を見に来た、というのが大半の理由ではありますが」
再び丁寧な口調に戻って今日来た目的を話し始めた。
「つまりリアス関係ってことですよね?」
「その通りでございます」
肯定したのはセージさんではなくグレイフィアさんだった。
昨日のリアスの行動について考えていたが、やはりそう言うことか。
「お嬢様、私がお話しましょうか?」
「……自分で話すわ。実はね―――」
リアスが話し始めようとしたとき、部室の中に描かれていた魔方陣が輝きだした。
グレモリーの紋様が形を変え、鳥のような紋様が魔方陣の中心に描かれた。
これは……フェニックスだったけ。書物で見たことあるけど実物は初めてだ。
魔方陣が眩い光を放つと中から人影が現れる。
そして、魔方陣の中で発生した炎の熱気が部室の温度を上昇させた。
現れた人物が腕を横に薙ぐと炎がかき消された。
「ふぅ、人間界は久々だ」
炎がなくなって転移してきた人物の姿がようやく見ることが出来た。
赤いスーツを着て、シャツをネクタイを付けずに胸元まで開けている二十代前半くらい男性だ。
イケメンではあるが、格好が格好なだけにホストみたいな印象がある。
木場が爽やかイケメンなら、この男はちょい悪イケメンと言ったところだろうか。
「愛しのリアス、会いに来たぜ」
なるほど。この男がリアスの……。
声を掛けられたリアスが不機嫌そうに男を睨みつけるも、男は気にせずに近づいていく。
「リアス、早速だが、式の会場を見に行こう。日取りも決まっているんだ、早めがいい」
男が馴れ馴れしくリアスの腕を掴む。
「……放してちょうだい、ライザー」
いつものリアスからは考えられないような声音で言い放ち、ライザーと呼ばれた男の手を強引に引き剥がした。
ライザーの方は大して気にしてもいないのか、苦笑していた。
二人の関係性を見るに良好とはとても言い難い。
リアスが人前では恥ずかしくてイチャつけないというのなら話は別だが、それを抜きにしても昨日の出来事があった手前、有り得ない話だ。
…………。
セージさんが俺達の様子を見に来るなら俺達のいる部室に来ればいいだけ。
それなのにオカ研の部室に呼んだということは……。
セージさんに視線を移すが、ニコニコ笑顔で何も言わない。
あとのことはその時の俺に任せよう。
「あの、ちょっといいですか?」
「あ? 誰だ?」
ライザーに声をかけるとリアスとは180度態度が違った声音が返って来た。
俺は気にすることなくつかつかと歩み寄り、リアスを抱き寄せる。
「どなたか存じ上げませんが、俺のリアスに触らないで貰えませんか」
『ッ!?』
その場にいたセージさんとグレイフィアさん以外の全員が目を見開いた。
「俺のリアス、だと……? フッ、フハハハハハッ! なんだ、リアス。俺のことをそこのガキに言っていなかったのか? 可哀そうなガキだ」
ホントにね、自分でもなんでこんなバカなことしてるんだかって思うよ。
「話す必要がないから話していないだけよ」
「相変わらず手厳しいねぇ……」
目元を引きつらせながら苦笑いしていた。そこへグレイフィアさんが介入してきた。
「龍神様、この方はライザー・フェニックス様。純血の上級悪魔であり、フェニックス家のご三男であらせられます」
彼女がこれから言うであろうセリフがなんとなく予想が付く。
「そして、グレモリー家次期当主の婿殿でもあらせられます」
要するに―――
「リアスお嬢様とご婚約されておられるのです」
「えええええええええええッ!!」
あまりのことに俺じゃなくてイッセーが絶叫したのだった。
リアスはオリ主のヒロインに確定します!