鍵
Side空
「……どういうこと?」
今現在自分が置かれている状況に首を傾げる。
ついさっきまで士織とヴァーリ、それから今日仲良くなったなのはと一緒に遊んでいたはずだ。
なのに、その三人が突然目の前から居なくなってしまった。
一瞬たりとも目を離すことはなかったはずだから余計に困惑してしまう。
「んー?」
友人達がいないことの他に、周りの様子も可笑しいことに気が付いた。
―――“世界”から色が無くなった。
そう表現するのが無難だろう。
「時計が動いてない……」
視界の端に映った時計の針が動いていなかった。
時計だけならもしかすると故障の可能性もあるが、時計のすぐそばを飛んでいる鳥が空中で静止していたのだ。
そうなると最早時が止まっているとしか言いようがない。
「こういうの“魔法”とか“魔術”って言うのかな?」
そういったものが出てくるおとぎ話や本を読んだことがある。
でも、それらは空想でしか存在しないものだと思っていた。今この瞬間までは。
「で、結局どういうこと?」
俺の今ある状況は俺の知らない“何か”によってなってる、ということだけしかわかっていない。
しばらく公園内を動き回り調査したが何もわからずじまいだ。
「どうしたら出られ―――!?」
休憩がてらベンチに座った瞬間、俺の目の前にどこからともなく光が溢れ、集まりだした。
集まった光は人型を形成してゆき、光が弾けると全身黒ずくめの人がいた。
フードで頭全体を覆っているので素顔すらわからない。
『……あー、テステス。俺のことが見えるか?』
「?」
急にしゃべりだしたかと思えばこちらに確認するような言い方だ。
『まあ、見えてなかったらそれまでなんだけどな』
「いや、だからどういう―――」
『先に言っておくけどこれは記録映像みたいなもんだから質問は無しだ。もちろん今のお前の状況なんかはきちんと伝えるからそこんところは安心してくれ』
記録映像。つまり会話は不可能。一方的に向こうが話し続けるということか。
『まずは……お前の今の状況についてだな。この空間はお前の“心の世界”だ』
俺の心の世界?
周りを見回す。
木や遊具、自分と同じ名前の空すらも、その何もかもが色を持っていない。
『もしかしたら色がない世界かもしれないけど、そこは気にすんな。この先いくらでも何色にも変わる』
ちょっとだけ自分が寂しい人間なのかなと思ったけどこれから次第なら頑張ってみよう。
『風景がさっきまでいた場所なのは、そのままそこを心の世界に映してるからだな。それから俺の話が終われば元居た場所にはきちんと戻れる。時間も動いてない。……と、まあ、大体こんな感じか? さっさと次に行くか』
自分の置かれた状況は理解した。
普通なら話を聞く以前にいきなり現れた人物に驚愕してるか警戒してるところかもしれないが、この声を聞いていると不思議とそんなことをする気にはなれず、落ち着いて聞いていた。
『次は戦い方だ』
「……は?」
いきなりぶっとんだ方向に話が始まったではないか。
『お前はこの先戦うことになる。お前が望まなくとも。戦う相手はわからない。だが、必ずだ。抗いようのない運命だ。だから生き抜くために、大切な人を守るために戦い方を教えておく。嫌なら聞き流せ』
大切な人と言われて頭をよぎったのは、士織、シオンさん、ヴァーリになのは。それから旅に出てるじいちゃん。
その人達が俺の目の前からいなくなることを想像したら胸が押しつぶされそうになった。
そうならない為にも―――
「……やる。俺、戦う! 大切な人達、みーんな守る! だから戦い方教えて!」
目の前の人物から返事は来ないと分かっていても声に出さずにはいられなかった。
『今から俺の真似をしろ』
彼の右手に光が集まると、それが何かの形を成す。
現れたのは鍵。それも剣ぐらいの大きさのだ。
『さあ、出せ』
と言われてどうしろと?
『つって出来たら苦労しねぇよな』
「そりゃそうだろうね!」
『頭の中にイメージしろ。それくらいしかアドバイスはない』
イメージ……。
目を閉じて頭の中に黒ずくめの人の持つ鍵をイメージする。
「鍵、鍵……鍵……」
掌を握っては開き、握っては開きを繰り返す。
「―――!」
すると、何か硬い物を握る感触が手に伝わった。
恐る恐る目を開けてみれば、そこには同じ鍵があった。
『今ので出来たかどうかはわからないけど、先行くからな』
俺に喜ぶ暇を与えずに次へと進める。
『とりあえずその鍵を自然に出せるようになれ。実戦をしてやりたいのはやまやまなんだが、記録映像なんかじゃな……。悪いけどお前の頭の中に送る』
黒ずくめの人が俺の頭に手を翳すと俺の知らない情報が頭に流れ込む。
鍵―――キーブレードの使い方。
あらゆる鍵の開閉。離れてても手元に召喚。不屈の強度。
他にも能力はあるようだが、受け取った情報はあることを示すのみで詳しいことはわからない。
『今日はここまでだ』
「あっ、―――消えちゃった」
別れを告げるなり光の粒子となって黒ずくめの人物は消えてしまった。
それと同時に目眩と頭痛が襲い、立っていられず倒れた。
「…………んっ」
目が覚めるといつもの見慣れた自室の天井だった。
「そ、空!? 起きた!?」
声のする方に顔を向ければ士織が扉付近に立っていた。
「あ、士織」
「『あ、士織』じゃない! 心配したんだからね!?」
「う、うん、心配してくれるのは嬉しいんだけど首絞めないでくれるかな? また寝ることになるんだけど」
「わわっ、ごめん!」
士織が手を放して慌てて離れた。
騒ぎを聞きつけてシオンさんも俺の部屋に入って来た。
「体調はどうですか?」
「大丈夫そう。それよりも聞きたいことがあるんだけどいい?」
「なんでしょう」
「俺、どうして家にいるの?」
「公園で遊んでいたら急に倒れたと士織様から聞いて、私が駆け付けて家に運びました」
なるほど。心の世界で倒れたことが現実にも及ぼしたわけだ。
「そっか。まあ、そうだよね」
一人納得する俺に二人は不思議そうに首を傾げていた。
「なんでもない! それよりもお腹減っちゃった!」
俺の説明に納得はしてないようだが二人共クスリと微笑んでくれたのだった。
次回から一気にハイスクールD×D編に入ります!