友人
友人
あれから―――黒ずくめの人物と出会ってから―――十二年が経った。
その十二年間色々あった。うん、本当に色々あり過ぎた。
小学生三年生の頃に
―――世界はいつだって、こんなはずじゃないことばっかりだよ!
どうにかしたいと思ってもどうしようもできない現実に嘆く少年。
―――簡単だよ、友達になるの、すごく簡単。名前を呼んで!
魔法と不屈の心を持った少女。
―――止まれん……我ら守護騎士、主の笑顔のためならば、騎士の誇りさえ捨てると決めた! ……もう、止まれんのだ!
たとえどんな結末になろうとも、主のために闘い抜くと決めた騎士。
―――大丈夫です。私はもう、世界で一番……幸福な魔導書ですから。
名前を付けてもらった魔導書の騎士。
―――闇統べる王に、我はなる!
復活を果たすべく現れた王とその臣下。
―――闇の書が抱える本当の闇。それが……私です。
誰にも止められない闇。
五年生になった頃には英霊の力が封じられたカードの回収もしたし、いつの間にか並行世界で戦ってた。
―――どんな経緯だったとしても、自分が関わったことを、関わった人を、なかったことになんかできない
日常が非日常に変わって、何度も挫折して、泣いて、だけど立ち上がって前を向き続けた少女。
―――家族が欲しい。友達が欲しい。なんの変哲もない普通の暮らしが欲しい……。でも、それより何より、消えたくない……! ただ、生きていたい……!
本音を頑なに隠していたが、本当は誰よりも幸せを願っていた少女。
―――あなたが否定しても、たとえイリヤが拒絶したとしても構わない。理由なんて……わたしを友達と呼んでくれた、それだけでいい。
完璧超人、だけど友達を知らなかった少女。
―――君は僕の
二度と会いたくない金ぴかのあいつ。
―――俺は、お前のライバルだ。そして親友だ。これから先もそうであり続けたい。
高校に入学前に別々の道を進みだした親友。
よくよく考えると幼馴染のほとんどが魔法少女に変身してるんですけど!
しかものほほんとしたのじゃなくて割とシリアスばっかなんだけど!
他には、依頼されて神隠しにあった高校生達を救い出したり、異世界に迷い込んだりなんかした。
……よくよく考えると俺、あの戦いばっかな世界で良く生きてたな。
何度もピンチになって、死にかけて、その度に黒ずくめの人物が戦う方法を教えてくれたり、仲間達と協力したり、なんかご都合主義的な覚醒があったりしてどうにかここまでやってきた。
あの黒ずくめの人物が言っていた通り、俺は戦うことからは逃げられない運命だった。
その理由も何回目かに現れた時に本人の口からきちんと説明された。
―――あ、お前、人間じゃないから。
余りに軽く衝撃の事実を言うものだから、ショックよりもポカーンとしてしまった。
まあ、薄々そんな感じはしていたからそこまで衝撃的でもなかったけれど。
「そろそろ学校行こうか」
朝食を摂って寛いでいたら士織が声をかけてきた。
主に俺が原因で増えた家族の内の何人かが立ち上がって通学鞄を手に持って玄関に行く。
「シオンさん、行ってきます」
「はい、いってらっしゃい」
十年経っても皺一つ増えないシオンさんに見送られながら学校に向かった。
「龍神! 俺、ついに彼女が出来たんだ!」
朝のホームルームが始まる五分前、俺こと龍神空の下にやってきた少年―――兵藤一誠。
龍を模ったような髪型の茶髪でそこそこ容姿が整っている。
学校指定のブレザーとワイシャツを全開にして赤いTシャツがトレードマーク。
性格は自他共に認めるほどにスケベだが熱血で友達思いだ。でも、スケベ。
俺達が通う学校―――私立駒王学園でも「変態三人組」と言われるほどに悪い意味で有名だ。
高校に入ってからの付き合いで、イッセーの猥談には付いて行けないが男子の少ないこの学校で気楽に話せる友人だ。
ちなみに初めて会ったときは血涙を流しながら殴られかけ、反射的にカウンターで一発KOしてしまった。
それでもどっかのイケメン王子よりはホント気楽でいいよ……。
「おお、そうか。ついに彼女ができる夢まで見るようになったんだ」
「ちげぇよッ! 現実だよ!」
「悪い悪い。
「ちゃんとZ軸ついとるわ!」
「え? メスの犬? イッセー、そこまでして彼女欲しかったの?」
「なぜ選択肢に人間がない!? そんなに俺に彼女が出来たことが現実味ねぇのかよ!」
「うん」
「即答か!」
さらにからかってやろうかと思ったが、丁度ホームルーム開始の鐘が鳴った。
イッセーは俺に何か言いたそうにしながら自分の席に戻っていった。
休み時間に来たらなんてからかおうか、なんて考えながら先生の話を聞くのだった。
俺の予想通り、授業と授業の合間の休み時間にイッセーはやって来た。
残りの「変態三人組」松田と元浜も連れてだ。
「龍神もやはり信じられないよな!? イッセーに彼女なんてものが出来るなんて!」
「まあね」
「だからなんで即答なんだよ!?」
「それは日頃の行いを振り返ってみればわかるから」
「「「ぐっ」」」
イッセーだけじゃなく覗きの常習犯であるお仲間も心当たりが在り過ぎるようで苦しそうに胸元を押さえた。
「って、そんなことは今どうでもいいんだよ!」
イッセーが話題を無理矢理変える。
そんなことっていうけどやめた方がモテると思うんだけどなぁ。
「龍神、お前にお願いしたいことがある! デートプランを一緒に考えてくれ……いや、ください!」
律義に90度にお辞儀をしてまでお願いすることじゃないと思うんだが、友人にそうまでして頼まれたのでは断れない。
それに、折角のデートをイッセーに頑張ってもらいたい。
「うん、わかった。良いデートプラン作ろうか」
「おう!」
放課後に屋上に集合という形でその場は解散となった。
「で、イッセーなりにデートは考えてはあるの?」
「おう、一応な」
スマホのメモ帳機能でプランを見せてもらった。
『駅前で集合。
ショッピングモールに入って洋服見たり、小物やアクセサリーを見る。
余裕があればプレゼントを購入。
お昼はファミレス。
昼食後、他の洋服店などを見る。
解散直前にプレゼントを渡す』
思っていたよりもまともなプランに目を見開く。
「ど、どうだ?」
「へ? あ、ああ。ちょっと意外だったからビックリした」
「意外?」
「てっきり出会って即ホテルとか書いてあるのかなって思ってたから」
「自分でも認めるくらいにスケベだけど、流石に出会ってすぐホテルはねぇわ!」
スケベではあるけど、女性の扱いには真面目なんだなと感心した。
それと同時に、最初からスケベ心丸出しじゃなければもっと前に彼女が出来たんじゃないかと残念に思ってしまった。
ひとまずこのデートプランで問題なさそうだから、この場で解散。
何か困ったことがあれば連絡するように、と言い残して屋上を後にした。
「ん?」
屋上からの階段を下りている途中でスマホに電話がかかってきた。相手は士織だ。
「何?」
『何、って今日部活なんだけど。今どこにいるの?』
「あ」
士織に言われて気づいた。
イッセーの相談に乗っていてすっかり忘れていた。
「ごめん、今から行く」
『部員の皆にも伝えてとくね』
そこで通話を切って部室のある旧校舎に向かった。
旧校舎のある場所は木々で囲まれている。
昔使われていた校舎なのだが、人気がなく、学園七不思議があるぐらいの不気味な佇まいだった。
それでも木造の外観は多少古いが、窓ガラスは割れていないし、壊れた部分も目立つようなものはない。
中に入って清掃の行き届いた二階建ての建物の中を進む。
二階奥の部屋の一歩手前の部屋に到着。
そこが俺の所属する部活―――学園生活相談部。部活内容は名前の通り。詳細は後程。
「ごめん、部活のことすっかり忘れてた」
扉を開け、一言謝ってから部室に入る。
「あ、空君やっと来たっす!」
「遅刻よ」
小豆色の髪の少女二人―――
「お待ちしてました、空様」
「何かあったの?」
続いて青色の髪の少女二人―――ネリネとリコリスも出迎えてくれた。
四人共小学生の頃からの付き合いだ。正確に言うとキキョウは中学からだが、小学生からの付き合いと言ってもあながち間違いでもない。
関係は……幼馴染。うん、幼馴染と言って問題ないよね。
「イッセーの相談に乗ってた」
「それならここを使えばいいのに」
お茶を淹れてくれた士織がそう呟いた。
それもそうだろう。
先程も言ったが俺の所属する部活は学園生活相談部だ。
名称通り、学生達の悩みを聞いてアドバイスをすることを目的としてる。
相談方法は部室に直接来るか、生徒会室前に置いてある箱に手紙を入れること。
今回イッセーを連れてこなかったのは、本人から俺と二人きりで相談したいと頼まれたからだ。
今のところ依頼は来ていないので、依頼者がここに来るか、部活動終了時刻まで雑談タイム。
「エリオとキャロは?」
「あの二人なら今日は友達と遊ぶって」
エリオとキャロは俺の弟と妹だ。
駒王学園の初等部の二年生。
血は繋がっていないが色々あって俺の家族となった。
「ね、ねぇ、座る場所近くない?」
友達と仲良くしてるかなー? なんてソファーに座って考えていたら、いつの間にかシアとネリネに両サイドから挟まれていた。しかもお互いの肩が触れ合うくらいに近い。
「気のせいっす」
「はい、気のせいです」
だが、二人は笑顔で答えるだけで決して動こうとしない。それどころかさらに距離を詰めて手を握ったり、腕を組ませたりしてきた。
うぅ……こういうの昔と違って苦手になって来たんだよな……。
小学生の頃の俺なら女の子が隣に座ったくらいでは平然としていただろう。しかし、時が経つにつれ中学の最後で色々あったせいで幼馴染の彼女達とこういうことをするのがちょっと苦手だったりする。
かと言って強引に突っぱねるわけにもいかず、早く依頼者が来ないかと内心で願っていたら扉がノックされた。
「お邪魔するわね」
少しだけ期待して入室を促すと入って来たのは紅髪の少女―――リアス・グレモリーだ。
この学園の三年生で先輩。
シア達同様に小学生からの付き合いがある。
そんな彼女に対して―――
「お前かよッ!」
たとえやって来たのが先輩だろうが魔王の妹だろうが、この状況ではそう叫ばずにはいられなかった。
「いきなり酷いわね! 私が来ちゃダメだって言うの!?」
「ダメじゃないけど、今の状況だったら来てもあんま嬉しくない」
依頼者であれば人前じゃすることのない二人は離れるはずだったのに!
「今の状況……? ああ、そういうこと。ごめんなさい。お邪魔だったわね」
「あ、ちょい待ち!」
踵を返して部屋を出ようとするリアスを引き留めた。
「何か用事があったんじゃないの?」
「ええ、さっき伝えられた情報があるわ。この町の教会に堕天使がいるみたいなの。……どうにかしたいとは思ってるけど、大きな動きがない限りは何もできないわ」
この町の領主であるリアスがどうにかしたいと思っていても相手は堕天使。
始末するのは簡単かもしれないが、何も考えずに教会に踏み込めば勢力間の問題になりかねないと考えているからだろう。
「わかった」
「伝えることは伝えたわ。失礼するわ」
……何もないといいけど。
退室するリアスの背中を見送りながら家族が巻き込まれないことを願う。
俺? 俺は無理。だって―――
――――――ドラゴンだもの。