転生
Side空
「龍神! お前は夕麻ちゃんを覚えてるか!?」
休日明けの月曜日、学校に登校してすぐに血相変えてイッセーが俺の下へとやってきた。
その際、あることに気付いてしまった。
ちなみにイッセーの言う『夕麻ちゃん』とは、イッセーに告白したという頭が大変お気の毒―――おっと、失礼。ともかく、天野夕麻という人物がイッセーの彼女になった少女だ。
聞かされた予定では昨日デートしたはずだ。
「……イッセー、質問の意味がわからない」
なんて言いつつも、イッセーの身に何があったのか察してしまった。
……今度あいつに会ったら一発殴るの確定だな。
「天野はイッセーの彼女でしょ? 昨日デートもしたんじゃないの?」
「ッ! あ、ああ! そうだよ! そうなんだよ! それなのに元浜と松田の奴―――」
「あー、わかったわかった。わかったから一旦落ち着こうな」
あの二人に話しても覚えていないのは当たり前だ。
その理由を伝えるのは簡単だが、この場で言っても頭のおかしい奴と俺が思われるのがオチだ。機会をうかがうとしよう。
「わ、わりぃ……」
「いいさ。ま、何か困ったことがあればうちの部活に来なよ」
「おう! マジでありがとな、龍神!」
イッセーが自分の席に戻ったタイミングで朝のホームルームの鐘が鳴った。
その日の授業が全部終わって、今日は部活がないので帰宅。
エリオとキャロと遊んで過ごしていると時刻は夜十時前。そろそろ二人を寝かさないといけない時間だ。
「エリオ、キャロ、もう寝よっか。フリードもね」
「「うん!」」「キュ!」
赤に近い茶髪の少年―――エリオと桜色の髪の少女―――キャロ、キャロの使い魔のドラゴン―――フリードが揃って返事をする。
「お兄ちゃん、今日も一緒に寝てくれる?」
「ごめん、お兄ちゃんは学校の宿題をやらないといけないんだ。だから先に寝て待ってて」
「わかった! エリオ君、行こっ」
「うん!」
俺を疑うこともせずに部屋へと向かう二人の姿に罪悪感を覚える。
「シオンさん、ちょっと出かけてくる」
「はい、気を付けてくださいね」
シオンさんに見送られながら靴を履き替えて、駆け出した。
無事でいてくれよ、イッセー!
反応を追って辿り着いた場所に探していたイッセーがいた。
そして、その傍には黒い翼を生やしたスーツの男がイッセーを睨んでいた。
「逃がすと思うか? 下級な存在はこれだから困る」
お前も下級堕天使だろうが! と突っ込んでやりたいのを我慢しながら二人のやり取りを聞き続ける。
「主の気配も仲間の気配もなし。消える素振りも見せない。魔法陣も展開しない。状況分析からすると、お前は『はぐれ』か。ならば、殺しても問題あるまい」
イッセーに向けて手を翳したのを見て、俺は動き出した。
この状況についていけず困惑するイッセーの前に現れて、投擲された光の槍を蹴り上げた。
「……貴様、何者だ?」
「通りすがりのこいつの友人ですけどなにか?」
「お、お前……龍神……なのか? どうして、ここに……?」
「散歩してたらたまたま」
「なあ、龍神。これって俺の夢……なわけないよな……」
「うん、夢じゃない。悪いけど事情はあとで全部話す。だから今は眠っといて」
出来ないわけじゃないがこんな状況で説明などしてる場合じゃないのは明らかだ。
イッセーの頭に手を翳して魔法陣を展開。魔法を発動して眠らせた。
前のめりに倒れるイッセーを抱きとめてゆっくり公園のベンチに寝かせる。
「……ねえ、堕天使さん。さっきイッセーを殺すって言ったよな?」
「そうだが? それが―――ガッ!?」
何かを言いおえる前に堕天使の男を殴って吹き飛ばした。
「とりあえずそれでさっきの発言は流してやる」
「き、貴様……!」
立ち上がった堕天使が忌々しそうに俺を睨みつける。
すぐに反撃してこないのは俺との実力差が分かったからだろう。
怒りに任せて攻撃するかと思っていたが、意外に慎重な性格なようだ。
睨み合いで数秒が経ったときに紅い魔法陣が展開され、紅髪の少女が俺の隣に現れた。
「……紅い髪……グレモリー家の者か……」
今度は現れた少女―――リアスを睨みつける。
「リアス・グレモリーよ。ごきげんよう、堕ちた天使さん。これ以上ちょっかいを出すのなら、容赦はしないわ」
「……ふふっ。これはこれは。その者達はそちらの眷属か。この町もそちらの縄張りと言うわけだな。まあいい。今日のところは詫びよう。だが下僕を放し飼いにしないことだ私のようなものが散歩がてらに狩ってしまうかもしれんぞ?」
なんか勝手にリアスの眷属にされてるんですけど……。というか、イッセーはリアスの眷属になったのか?
「ご忠告痛み入るわ。この町は私の管轄なの。私の邪魔をするのなら、その時は容赦なくやらせてもらうわ」
「その台詞、そっくりそちらへ返そう、グレモリー家の次期当主よ。我が名はドーナシーク。再び見えないことを願う」
ドーナシークと名乗った堕天使は黒い翼を羽ばたかせ、空へと飛翔していく。やがて男の姿は夜空に消えていった。
「それで、どうしてあなたがここにいるの? おかげで私の眷属が助かったからありがたいけど」
「学校で会ったらイッセーが悪魔になってたことに気付いたんだけど、イッセーは自分自身でそのことに気付いてないみたいだから、何かあったんじゃないかなって思ったんだ」
堕天使の情報をリアスから貰ってなかったらここに来ることもなかっただろう。
「それから俺は今、少しだけ怒ってます」
「え、どうして?」
「今日の内にイッセーに説明すること、できたんじゃないの?」
「それは……」
「まあ、イッセーの眷属になる方法が変わってたから仕方のない事なのかもしれないけど。それでもさ、友人が襲われたことに頭に来てる」
「……ごめんなさい」
年上の威厳を微塵も感じられない程にシュンと縮こまってしまった。
……あー、もうっ!
昔から怒ることが苦手なせいで、そんなリアスにそれ以上は説教せず、「明日、イッセーを部室に連れてく」ことだけ伝えた。
「じゃあ、また明日」
ぐっすり眠ってるイッセーの体を持ち上げて、イッセーの自宅に送り届けることにした。
翌日の学校、放課後になるとすぐにイッセーに話しかけた。
「イッセー、今から時間ある?」
「……ああ、大丈夫だ」
その顔には「昨日のことだな?」と書かれていた。
「そっか。じゃあ、行こう」
二人で廊下に出るととある人物が待ち構えていた。
「や。どうも」
その人物にイッセーは半眼になって見ていた。
俺達の目の前にいるのは、同学年でこの学校一のイケメン王子、
爽やかなスマイルで学園女子のハートを射抜いてる、と木場と同じクラスの士織やシア達から聞いてる。
イッセーなんかは妬みに妬んでる人物ともいえる。
廊下や教室から聞こえる木場に対しての黄色い歓声に余計イッセーが不機嫌そうになる。
「で、何の用?」
「これから部室に行くんだよね? 僕も一緒に行こうと思って」
「勝手にすれば」
「ははっ、相変わらず素っ気無いね。まあ、君のそんなところも嫌いじゃないんだけど」
ゾワリ、と全身に鳥肌が立つ。
こいつの狙ってるのか狙ってないのかよくわからない発言が苦手で仕方がない。
今すぐこいつから離れたい気持ちを抑えながらリアスのいる部室へと歩を進める。
旧校舎の二階奥のオカルト研究部と書かれたプレートの前で木場と俺が立ち止まる。
「オカルト研究部!?」
あのイケメン王子と言われてる木場が所属しているのだからイッセーが驚くのも無理はない。
「部長、兵藤君を連れてきました。空君も一緒です」
引き戸の前から木場が中に確認を取ると、「ええ、入ってちょうだい」とリアスの声が聞こえてくる。
木場が戸を開け、後に続いて俺とイッセーも入る。
いつ見ても不気味な部屋だな。
至る所に書き込まれている魔法陣を見て、学生が過ごす部屋じゃないと思ってしまう。
「小猫、こいつは兵藤一誠」
「あ、どうも」
近くにいた
一年生で、ロリ顔、小柄な体格。
この学校ではマスコット的存在なんだそうだ。
そして、超がつくほどの無表情で、見た目に反してかなりの大食い。
イッセーに会釈だけ返すと途中まで食べていた羊羹を再び食べ始めた。
「奥でお茶を入れてるのが姫島朱乃……先輩」
黒髪のポニーテール。いつも笑顔を絶やさないニコニコ笑顔。大和撫子を体現しているような少女。男女憧れの存在だ。
「あらあら。はじめまして、私、姫島朱乃と申します。どうそ、以後、お見知りおきを」
ニコニコ笑顔でイッセーに挨拶をする。
そこそこ付き合いのある俺からすれば裏があるようにしか見えない。
「で、最後に大きな椅子でふんぞり返ってるのがリアス・グレモリー……先輩。この部活の部長」
「誰がふんぞり返ってるですって!?」
心外だと言わんばかりに抗議してくるリアスを無視して続ける。
「姫島先輩と合わせて「二大お姉様」なんて言われてるけど、話してみると年相応だから変に固くならなくていいよ」
「お、おう……。それにしてもお前、スゲー人達と知り合いだったんだな。いや、木場と並ぶイケメン王子のお前なら当然か」
「色々あって知り合った。……ちょっと待って。今ものすごく聞き捨てならないこと聞いたんだけど。木場と並ぶイケメン王子ってなに?」
「はぁ? お前知らないのか? 木場と龍神を二人合わせて「二大王子さま」って女子の間では有名なんだぞ!」
「……私のクラスでもほぼ毎日話題に上がってます」
「そう言えば、私もかなりあなたの名前聞くわね」
俺って先輩や後輩にも名前が知れわたるほどに有名だったのか……。
「その話は置いといて、本題に入ろう」
「そうね。兵藤一誠君。いえ、イッセーと呼ばせてもらってもいいかしら?」
「は、はい」
「私達オカルト研究部はあなたを歓迎するわ」
「え、ああ、はい」
「悪魔としてね」
全員がテーブルを囲むようにして座って話が始まった。
「昨日、イッセーが出会ったのは堕天使と呼ばれる存在よ」
堕天使とは、元々神に仕えていた天使だったが、邪な感情を持ったために、地獄に堕ちた存在。リアス達悪魔の敵でもある。
悪魔と堕天使は大昔から争っている関係。
冥界という人間界で言うところの『地獄』の覇権を巡っているのだ。
今現在は悪魔と堕天使で二分化してる。
そこに神の命を受けて悪魔と堕天使を倒す天使を含めると三すくみとなるわけだ。
「いやいや、先輩。いくらなんでもそれはちょっと普通の男子高校生である俺には難易度の高いお話ですよ」
説明が一段落したところですでにイッセーは混乱していた。
一般人だったイッセーからすれば説明されたことはぶっ飛んだ話でしかない。
「イッセー、実はこのオカルト研究部はな、中二病を患った者達の集まりなんだ」
「や、やっぱりか!」
「というのは仮の姿で、本当の姿は正真正銘の悪魔」
隣に座っていたリアスに脇腹を抓られて痛い。言い直したらようやく収まった。
「え、ええー……?」
「嘘だと思う気持ちはわからないわけじゃないけど、本当にこいつら悪魔なんだ」
「で、でも、そんなのあ―――」
「ありえない、なんてことはない。現に昨日のことがあったでしょ?」
「そう……だな」
まだどこか否定したいようだが、昨日のことを鮮明に覚えてるイッセーは納得したようだ。
「それから―――天野夕麻」
その一言でイッセーの目が見開かれる。
「天野夕麻はちゃんと存在する。お前の周囲から記憶を消したから誰も覚えてないんだ」
「彼女は何者なんだ?」
「堕天使よ」
質問に答えたのはリアスだ。制服の内ポケットから一枚の写真を取り出し、イッセーに見せた。
その背中には昨日会ったドーナシークと同じ黒い翼が生えていた。
「この堕天使はとある目的があってあなたと接触した。そして、その目的を果たしたから、さっき空が言っていたけどあなたの周囲から姿を自分の記憶と記録を消したの」
「目的?」
「そう、あなたを殺すため。現にあなたは一度殺されているわ」
「で、でも! 俺はこうして生きてる! だいたいなんで俺が狙われるんだよッ!」
「彼女があなたに近づいた理由はあなたの身に物騒なものが付いているかいないか調査するためだったの。そして、確定した。あなたが
神器とは、特定の人間の身に宿る、規格外の力。歴史で出てくる有名な人物達の多くがその力を持っていたと言われている。現在でも世界的に活躍する人も神器を持っていたりする。
大半は人間社会規模でしか機能しないものばかり。だが、中には悪魔や堕天使を脅かす程強力な神器が存在する。
「イッセー、手を上に翳してちょうだい」
未だに困惑しながらもリアスの言う通りに腕を上げる。
「目を閉じて、あなたの中で一番強いと感じる何かを心の中に想像してみてちょうだい」
「い、一番強い存在……。ドラグ・ソボールの空孫悟かな……」
そう言えば、その漫画が好きだっていってたっけ。今度読んでみよっかな。
「ドラゴン波!」
リアスがつらつら説明しているのを聞き流していると構えを取っていたイッセーが突然叫んだ。
俺の知り合いに似たような技を使う人がいたからかなり驚いた。
イッセーの左腕が光を放つ。
放たれた光が次第に形を成していき、左腕を覆っていく。
光が止んだ時には、赤色の籠手がイッセーの左腕に装着されていた。
お? あの神器は……。
「な、なんじゃ、こりゃぁぁぁぁぁ!」
そりゃ、あんなのが腕に現れたら驚くか。俺も色んな意味で驚いてるし。
「それがイッセーの持つ神器。これからは自分の意思で出せるようになるから。……話を戻すけどお前はそれを持ってるから殺された。生きてるのはリアスがお前を転生させたから」
「転生……?」
「あなたは私、リアス・グレモリーの眷属として生まれ変わったわ。私の下僕の悪魔として」
瞬間、リアス達の背中からコウモリのよな黒い翼が生える。イッセーにもだ。
「改めて紹介するわね。祐斗」
「僕は木場祐斗。兵藤一誠くんと同じ二年生ってことはわかってるよね。えーと、僕も悪魔です。よろしく」
「……一年生。……塔城小猫です。よろしくお願いします。……悪魔です」
「三年生、姫島朱乃ですわ。一応、研究部の副部長も兼任しております。今後ともよろしくお願いします。これでも悪魔ですわ。うふふ」
「そして、私が彼らの主であり、悪魔でもあるグレモリー家のリアス・グレモリーよ。家の爵位は公爵。よろしくね、イッセー」
「よ、よろしくお願いします。あの……龍神は?」
俺だけ自己紹介していないことに気が付いたイッセーが目を向ける。
「俺は悪魔じゃないよ。人間でもないけど」
「じゃあ、なんなんだよ?」
「ただのドラゴンさ」
俺の紹介にイッセーはただ呆然とするだけだった。
没ネタ
質問に答えたのはリアスだ。制服の内ポケットから一枚の写真を取り出し、イッセーに見せた。
その背中には昨日会ったドーナシークと同じ黒い翼が生えていた。
「なんかさ、この天野夕麻って桂言葉に似てない? あ、だからイッセー殺されたんじゃないかな? ほら、イッセーの誠の字って―――」
「おいバカ止めろ! それ以上はシャレにならねえから!」