聖女
Side空
イッセーが裏事情の説明を終えて、これからのことをイッセーに伝えていた。
生まれや育ちがも関係するが、転生悪魔でも認められれば爵位を貰えるということ。さらには自分の眷属を持てばスケベなイッセーにとっては夢のようなハーレム生活を満喫出来ること。
それを聞いたイッセーは悪魔になったことを喜んでやる気を出しまくっていた。リアスが魔力を使って何かした所為でもあるが。
「イッセー、一つ言っとくけど、ハーレムは……おすすめしない」
「なんでだ?」
「これは俺……の知り合いから聞いた話なんだけど、女の子と普通に接してるつもりだったのに気付いたら外堀を完全に埋められてて、無知なのをいいことに既成事実を作らされていたんだよ! あいつらッ、ホントに…………あ、俺の話じゃないから。念のため言っておくけど俺の話じゃないからな!」
「お、おう……」
俺に気圧されたイッセーはただ頷くだけだった。
「ともかくだ。美女美少女のハーレムを作るのはイッセーの自由だ。ただ、作るなら色々覚悟したほうがいい」
「ハーレムってそんな大変なのか!?」
悲しいかな、最終的には俺の忠告むなしく、「ハーレム王に俺はなるッ!」と声高らかに宣言していた。
もしもイッセーがスケベ根性だけで成り上がったら他の悪魔たちがどんな顔するのかそれはそれで見ものではある。
イッセーが下僕としての仕事を始めてから一週間が経過した。
事情を知ったあの日からすでに働いている。
夜な夜な自転車で爆走して、チラシ配りをしてると本人から聞かされた。下積み時代と言っていい仕事だ。
そして、いつまでも同じ作業に退屈していそうな頃、ついに悪魔らしく契約を取ることになった。今日は小猫の予約が重なってしまったので、その代理としてイッセーを行かせる。
魔法陣の上に立って契約者の下に瞬間移動―――のはずが、イッセーの魔力があまりにも低すぎてそれが出来ないという問題が発生した。
これにはその場にいた全員が困惑。
「前代未聞だけれど、足で直接現場へ行ってちょうだい」
リアスが判断を下した。
「う、うわぁぁぁぁぁん! がんばりますぅぅぅ!」
涙を流しながら部室を飛び出していった。
帰ってきたら契約はどうだったか聞こうと思っていたが、これではしばらく待つことになりそうだ。
「木場、イッセーが戻るまで暇だから相手して」
「わかったよ」
俺の誘いに嬉々として乗ってくれた木場と共に、旧校舎近くにある開けた場所で時間を潰すことにした。
「行くよ!」
刃の潰された剣を構えた木場が迫って来る。
それを俺は人差し指に魔力を込めて攻撃を次々捌く。
「まだまだ!」
何も持っていない方の手にもう一本の剣を出して攻撃する回数を増やしてきた。
捌き切れなかった一振りが頬にかすった。
流石に指一本ではでは防ぎきれないとわかったので、もう反対の人差し指も使って捌く。
「反撃、しないのかい?」
「するさ」
握りしめた拳で一気に二本の剣を砕いた。
新たな剣を創らせる暇を与えずに、がら空きになった木場の首に手刀を突き付ける。
「……降参。君のいる場所は僕には遠いね」
「年季が違うから当たり前。せめて
「禁手でマシ、か……。一体どれだけ修行すればいいのやら」
苦笑いを浮かべる木場。
俺の場合、生まれも修行も異常だったからと今までのことを振り返って内心で呆れた。
「兵藤君が戻って来るまで相手してもらってもいいかい?」
「いいよ。元々誘ったのは俺だからな。木場が済むまで相手してあげる」
それからイッセーが戻ってくるまでの小一時間程木場とただひたすらに組み手をしていた。
尚、イッセーの初契約は失敗に終わったそうだ。だが、相手からの評判はすごく良かったらしい。
契約は取れないけど、相手は満足させられる。
またしても前代未聞な結果を出すイッセーに、リアスはさらに頭を悩ます羽目になったのだった。
「空君、デートしよっ♪」
休日の朝。
目が覚めて一番最初に視界に映ったのは、見慣れた自室の天井ではなく茶髪の少女の顔だった。
少女の名前は
彼女とは小学校からの付き合いがある。シアやリアス達より早く出会ってる。
「……今日はアレがアレだから無理」
「良かった。何もないんだね」
今無理って言ったよね? なのにガン無視ですかそうですか。……いや、断ったところで無理だってわかってましたよコンチクショウ!
「はぁ……着替えるからどいて」
「うん。あ、でもその前に―――」
「っ!?」
両手で俺の顔を包んで自分の唇を俺の唇へと押し付けてきた。
「な、何すんのさ……」
「何って朝のチュウだよ? さっきも眠ってる間に何回かしてたけどね」
「人が寝てる間に何してんだよ……!」
あまりの恥ずかしさに顔が火傷しそうなくらいに熱くなる。
それなのにキスをしてきた明日奈は恥ずかしさなんて微塵も感じていない。それどころか喜んでいるようだ。
「ねえ、このまま続きしちゃう?」
「しない! 絶対に!」
「……もう、冗談だってば。本気にしないでよ」
一見、断れたことを気にしてないような表情をしてるが、あわよくば襲う気満々の眼をしていた。
「着替えるから先にリビングで待ってて」
「はーい」
明日奈は子供っぽく返事して部屋を出ていった。
彼女の気配が遠のいたのを確認して着替えることなく枕に顔を埋める。
「…………」
明日奈のことが嫌いならデートの誘いを断るのも、キスに対して二度としないように怒る事も簡単だ。どこぞの上条さんのように男女平等パンチだってやってのけよう。
だけど、そうじゃないから困ってる。
……この感情はどうにも慣れない……。
ノロノロ起き上がって着替え始めたのだった。
お昼頃に明日奈とのデートを始めた。
あたかもそれが当然と言わんばかりに恋人繋ぎしてくる。最初から疑問に思わない俺も俺でマヌケだ。
慣れって恐ろしい……。
しかもだ、明日奈の左手の薬指には指輪が嵌められていた。
「その指輪何?」
「私が空君の女だよって周りに教えるためだよ」
「……そっか」
一々反応に困る言い方だな! わざと? わざとだよね!
知り合いに見られたら誤解されること間違いなしだ。
もしもの時に備えて―――
「お? 龍神じゃねぇか!」
何とも間の悪い時に知り合いに遭遇してしまった。
これが噂に聞くフラグ回収か!
明日奈と面識のあるリアスや木場辺りならまだしも、見つかったのはイッセーだ。なんて誤魔化したのものか。
考えている内に俺達の傍に寄って来たイッセーは明日奈の存在に気付いた。
「って誰だよ隣にいる美少女!」
今にも殴りかかってきそうな雰囲気を醸し出すイッセー。
お前もお前で隣に金髪の美少女シスターいるけどツッコんだらダメなのだろうか。
「空君のお嫁さんです♪」
俺が何か言うより先に明日奈が答えてしまった。
「へ? お、おおおお嫁さん!? 龍神の!?」
「違う。困ってたから助けてた人。赤の他人。お嫁さんっていうのは……俺じゃない空君って人のだから」
明日奈に黙ってろと目で伝える。
笑顔を返されたので絶対に俺の意思は伝わってない。仮に伝わっていたとしても無視するだろう。
「恋人繋ぎしてるのは?」
「こうしてくれって頼まれたから」
「そ、そうだったのか……。やっぱり俺の勘違い…………なわけあるか!」
ですよねー。
小学生相手でも誤魔化せないレベルの嘘じゃないだろうか。
「もう、空君、人前だからって照れなくていいんだよ? それで、こちらの人は誰?」
照れてねーよ。誤解されたくないからなんだよ。休日明けの学校で何か言われるのが嫌だからなんだよ。
「兵藤一誠。俺と同じ学園に通ってる友人。明日奈と同い年だから敬語じゃなくて大丈夫だから」
「そうなんだね。……あ、まだ自己紹介してなかったね。龍神明日奈です。いつもうちの夫がお世話になってます」
もうツッコむのも疲れた……。
「あ、これはご丁寧にどうも……。え? マジでお前結婚してんの!?」
「してない。苗字は龍神じゃなくて結城だから」
この状況に困惑してるのはわかるが、冷静になって考えればすぐにわかることだ。
「アハハ、本当はまだしてないよ。でもね、私は空君の
両手を合わせて軽く謝ったことでようやく明日奈のおふざけが止まった。
婚約者と言ってもじいちゃんとシエラさん、明日奈の両親が勝手に決めたことだ。
ともあれ今なら話題を変えることが出来そうだ。
「イッセーの隣にいる子は?」
俺達の会話についていけない少女は終始オロオロしていた。
「いっけね、名前聞いてないや。シスターさん、お名前は?」
「アーシア・アルジェントと言います! アーシアと呼んでください!」
「俺は兵藤一誠。周りからはイッセーって呼ばれてるから、イッセーでいいよ」
悪魔と教会の人間が出会う、か。運命って残酷なことこの上ないな。
ちなみにイッセーが他の国から来たであろうアーシアと話せているのは、アーシアが日本語を話せるからではなく、悪魔に転生したことでどこでも通じる言語を手に入れたからだ。
ドラゴンである俺もそれと同じような力がある。明日奈は魔法で言語変換してるからだ。
「教会へ行きたいらしいんだけど、道がわからないってことで案内中なんだ」
教会か……。
悪魔であるイッセーが行くにはちょっと危険な場所だ。
正直、案内を変わりたいところだけど今は明日奈とデート中。別の女の子と一緒に行動すればあとが怖い。
「そっか。ちゃんとエスコートしてあげなよ」
「おう!」
イッセーとアーシアがいなくなってすぐに明日奈が口を開いた。
「彼、悪魔なんだね。しかも神器を持ってる」
「うん、最近なったばかり」
「彼のこと心配なんでしょ? 教会関係者と一緒だから」
「……なんでもお見通しってわけか」
俺の思ってることすべて的中させていた。
「お嫁さんだからね!」
「それはもういいから」
昔はもっとまともな性格をしていたはずの明日奈が、今ではこんなになってしまった。一体何が原因だったのだろうか。
答えの出ない問題に頭を悩ませるのだった。